岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
「――という事らしいわ」
「そう。想定していたよりも厄介な事件だったって事ね」
ソーナの話を聞き終えたわたしは、目頭を押さえて溜息を吐いた。
まさか堕天使の幹部であるコカビエルだけではなく。聖剣計画、それも祐斗の敵までこの街にいるなんて。いったいこの街になんの因果があるって言うの。
自分を含めたここ最近の事件の連続に正直もう笑うしかない状況だ。
「部長、苦笑いを浮かべている場合では……」
「そうね。あのプライドの高いレイナーレが周りを気にせずに逃げるよう言ってくるって事は、やはり相当の相手って事ね」
敵の幹部クラスとなるとこちらとしては魔王に来て貰うしかない……か。
正直に言えば領主としてのプライドもある。だが、それ以上にこの街には守りたい者が沢山いる。
「……分かったわ。緊急連絡として至急魔王様方に連絡を入れます。来れる方に着て頂きましょう。悪いけどソーナ、そういう訳だからあなたのお姉さまのレヴィアタン様にも報告するわ」
「それは……」
レヴィアタン様の名前を出した瞬間、ソーナが難しい顔をする。まあ気持ちは解かるが、そんな余裕は無いので無視する。
「事態は一刻を争うわ。悪いけど拒否は認めない。彼女の暴走は貴女が抑えて」
「……そう、ね。分かったわ。この街が焦土にならなければいいけど」
レヴィアタン様は重度のシスコン。そのためソーナに何かあれば一目散にやってきてくれるだろうが、その時の彼女は周りを気にしないため、被害が出る可能性が高い。
だから頑張ってねソーナ! 彼女が来たら本気で貴女にこの街の命運がかかる事になるのだから!
心の中で親友を応援しつつ、使い魔を放って他のメンバーに召集をかける。
「足止めが必要になるかもしれませんね。魔王様方も多忙ですから」
「……その場合、攻撃に特化したわたし達グレモリー眷属が請け負うわ。シトリー眷属は結界を担当して。魔王様が間に合えばわたし達も結界維持に回るわ」
「ええ。それで行きましょう。あと問題は聖剣使いの二人ね」
ソーナの言葉にどうしても眉間に皺が寄ってしまう。
「ホント、あの二人が余計な一言を言わなければ協力だって出来たかもしれないのに」
先程までの出来事が脳裏を過ぎって怒りが湧き上がる。
「でも後悔は無いんでしょ?」
「当然よ。わたしの大事な眷属のアーシアを魔女呼ばわりした挙句、信仰を失っていないなら殺してやるだなんて!」
つい先程まで、ここで聖剣使いの二人、ゼノヴィアと紫藤イリナが交渉、いや交渉というよりは一方的な事情説明にやってきていた。
彼女達の要求はただ一つ。『今この街で起きている事件に、悪魔が干渉しないこと』という内容だった。
教会は大昔の大戦で砕け、その後錬金術で新しく造り上げた七本の聖剣エクスカリバーの内、六本を管理していた。一本は三陣営の戦争で紛失したらしい。
そのエクスカリバーを三本。数日前に堕天使に奪われたのが事の始まりだ。
そして主犯であるコカビエルがこの街にいると掴んだ教会は、秘密裏に悪魔祓いを送り込んでいたが殆どを殺され、ついに同じ聖剣エクスカリバーを持つ聖剣使いの二人を送り込んで来た。というのが彼女達から聞かされた経緯だ。
そこまでは良かったのだが、その後のアーシアへの言動でわたし達と彼女達で口論となってしまった。後悔は無いが、価値観の違いを改めて思い知らされた。
白野みたいに、その者の『個』を大切にするようなタイプの方が珍しいって、解かっていた筈なのにねぇ。
「なんにしても、白野の情報でコカビエル程の大物がどうして今まで感知されなかったのか不思議だったけど、協力者がいることで納得できたわね」
「ええ。おそらく実行犯はバルパーとはぐれ悪魔祓いでしょう。そして最悪を想定するなら」
『そのはぐれ悪魔祓い達は聖剣を使っている』
言葉にしなくてもお互いに何を考えているのかは理解できた。
聖剣というのは触れただけでも下級悪魔にはダメージを与える。そしてかすっただけでもかなりのダメージを受けるのは、先の聖剣使い二人との決闘で確認済みだ。
アーシアの一件で怒ったイッセーと聖剣に恨みを持つ祐斗の二人の挑発を聖剣使いの二人が買い、二対二の決闘が行われた。
結果は惨敗だ。
イッセーは良い線まで行ったのだが、聖剣の一撃を浅くとは言え受けてしまい、戦闘継続させるのは危険と判断して敗北。
祐斗にいたっては私怨のせいで持ち味を生かせぬままパッワータイプのゼノヴィアにパワーで挑んで刀身の剣脊で叩かれて敗北と言う剣士にとっては屈辱な負け方をした。
そのせいか、そのあと祐斗はこちらが止めるのも聞かずに一人でどこかへ言ってしまった。
一応家に帰ったのは使い魔を尾行させて知っているからいいのだけど……この情報、はたして祐斗に伝えてもいいものか。
祐斗にだけはまだ使い魔を送っていない。
同士の仇がこの街に居る。それを知った祐斗は間違い無く単独行動を取って仇を討とうとするだろう。
「……ねえソーナ、祐斗には伝えてもいいと思う?」
「……貴女の判断に任せるわ。彼の主は貴女なのだから。ただ、私怨を優先されるのは共同作業するこちらとしては、正直キビシイわね」
そうよね。逆の立場ならわたしも同じ事を言うと思う。
「……伝えましょう。少なくとも眼の届く範囲にいてくれた方が対処しやすいわ。それじゃあ準備を始めましょう。わたしが直接冥界に向かうわ。朱乃はソーナと一緒に作戦の内容を詰めながら、戻って来たみんなに事情説明をお願い」
「分かりましたわ」
「ええ。任せて」
果たして間に合うか……お願いだから無茶しないでよね聖剣使いのお二人さん。
わたしは急いで転移の魔方陣を起動させて実家へと向かった。
◆
「ただいま。すまな……レイナーレはどうしてタンコブ作って倒れてるんだ?」
リビングのソファーで大きなタンコブを作ってノびているレイナーレを一瞥し、その傍で元の姿で座っている黒歌に尋ねる。
「完全にパニックになっていたからいったん気絶させたわ。で? あの後どうなったの御主人様?」
「ああ。支取先輩に連絡を入れた。対策を講じると言っていたから、たぶん大丈夫だろう。対策内容が決まったら報告してくれる手はずになっている。母さんは?」
「ママさんはさっき駅に送って、隣街のパパさんの会社に向かわせたわ。パパさんにも連絡を入れて、二人にはそのまま隣街のホテルに泊まって貰うように説得しておいたわ」
さすがは黒歌だ。手際が良い。
「それでわたし達はどうするの? しばらく静観?」
「ああ。とりあえず連絡が来るまでは待機。そのあと場合によっては街を脱出する」
「あら? てっきり御主人様の事だから介入するのかと思ったにゃん」
「……周りから釘も刺されているし、相手が相手だからな。はぐれ悪魔祓いの方なら対処できるが、何所にいるかも分からない奴らを探すくらいならレイナーレと黒歌を守る方を選ぶよ」
「にゃはは、嬉しいけど恥ずかしいわ。でも、そう思ってくれるなら告白した甲斐があるってものね」
顔を赤くさせて耳と尻尾を嬉しそうに揺らす黒歌に、こちらも少し照れて頬が熱くなる。
「とりあえず私服に着替えて部屋に置いてある封魔銃を取って来るよ」
黒歌にレイナーレの看病を頼んで部屋に戻って動き易い私服を選んで着替えてリュックに封魔銃と光剣の柄を仕舞う。
一階に下りるとレイナーレが目を覚ましていた。
「お帰り。で? とりあえず逃げるのは後回しって聞いたけど?」
「ああ。情報が欲しいからな。逆に自分の場合、慌てて行動した結果、訳が分からないまま巻き込まれる可能性もある」
「……ああ、そうね。あなたのその体質を失念していたわ」
自分の若干自虐の篭った説得にレイナーレは納得の表情を浮かべて頷いた。ちょっと悲しくなった。
「とりあえずお茶でも飲もう。少なくとも母さんと父さんの安全が確保されただけでも、かなり精神的に楽になった。二人共、ありがとう」
「わ、わたしにとっても大事な人達だもの当然よ」
「そうよ御主人様。孫を抱いて貰うまで死なせたりしないんだから」
照れ隠しにそっぽを向くレイナーレに、お茶目にウィンクする黒歌。
「そうだな」
もはやお礼を言う事の方が二人に失礼なのだろう。もう家族なのだから、家族を守るのは当たり前だ。
それから『はぐれ悪魔祓い』や敵にもしも『聖剣使い』がいた場合の対処法を話し合いながら、支取先輩からの情報を待つ事になった。
正直原作でもこのくらいの対策はとっても良かったと思う。だって、勝てないって分かってるのに対策立てないとかありえないよね。