岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
「ちゃんと話し合いましょう。いやホントに」
戻ってきた三人に、とりあえず会議での内容を伝えて全員が一時帰宅した。
黒歌とレイナーレはリビングで夜食を作っている。二人共暇があれば母さんに家事を教わっているから料理も普通に美味いのでエリザのような心配は無い。
そして何故か朱乃先輩も着いてきて、今は自分の部屋で二人で話し合っている。
「それはそうと、ハーレム入りの条件はなんだったんですか?」
個人的にそれが一番気になる。
「とりあえず白野君はみんなで共有すること。白野君との添い寝は一日交代で軽いスキンシップ可。子作りは合意ならOK。白野君の巻き込まれ体質及びフラグ建築体質を覚悟すること。ハーレムの仲間に対しては仲良くすること。白野君とそのご両親の意思と命を何よりも尊重すること。以上ですわ」
……い、意外としっかり作られてる上に自分のその日の夜の行動が決められている……休日をフリーにしてくれているのだから我侭は言えないか?
「え~と、うん。色々言いたい事はあるけど、その話はもういいです。次に本題ですが……なんで自分なんかを好きに?」
「そうですね……強いて言うなら落ち込んでいる時に優しくしてくれたからでしょうか?」
……なぜだろう。生前も、そしてつい最近も、似たようなことを言われた気がする。
「あの、自分は人間ですから朱乃先輩とは長く一緒にはいられませんよ?」
「ええ。承知していますわ。他の二人同様、わたしも白野君との間に子供が得られれば、きっと数百、数千年の時を耐えられると思います。それに……実は憧れていましたの」
「憧れですか?」
「はい。白野君のような優しい男性と、お付き合いできたらいいなって」
「……何かあったんですか?」
憧れていたと言う割りに、彼女の表情はとても寂しげだった。
「……小猫ちゃんから聞いたのですが、白野君はわたしに堕天使の血が流れているのを知っていたんですね」
「ええ。小猫ちゃん同様に隠していると思ったので、必要でもない限りは自分から口にはしないようにしていました」
それに必要だからって小猫ちゃにその事を問い詰めて不快な思いをさせちゃったから、余計に言い辛くなってしまったし。
「そうですね。わたしにとって、堕天使とは嫌悪の対象です。特に自分自身の血と、この翼は」
そう言って朱乃先輩が背中から悪魔と堕天使の左右で異なった翼を生やした。
「……悪魔にとって翼とは一種の力の象徴です。そのせいか意識せずに出すとこうなってしまうんです」
なるほど。だがそれは、それだけ朱乃先輩の堕天使としての力が強いということでもあるんじゃないか?
「どうしてその翼と、力が嫌いなんですか?」
「……父を、わたしと母を見殺しにした父を思い出すからです」
そう言った朱乃先輩の表情には、悲哀と憎しみの色が浮かんだ。
「出来れば詳しく教えて貰えますか?」
「……ええ。白野君には、知って欲しいわ。でもそのあとで、わたしの質問にも答えて貰えるかしら?」
彼女の何かを求めるような悲しい表情に、自分は頷いて答えた。
そして、朱乃先輩の家庭事情が語られた。
◆
わたしの母は有名な神社の娘でした。名前は
怪我をし弱っていた父を、母は父の正体を知りながらも助け匿い、献身的に介抱したそうです。
そして二人は共に過ごす内に恋仲となり、神職に属する母は父とわたしの為に実家を出奔し、人里を離れて暮らすようになりました。
ふふ。意外かもしれませんがわたし、小学校には通った事がないんですよ。
母は家事とわたしの勉強を、父は堕天使としての仕事を続けました。父はたまにしか家に帰ってきませんでしたが……当時は家族が三人揃う事が何よりも嬉しかった。
しかし、そんな些細な幸せは突然終わりを告げました。
母の実家の者が、母は父に騙されているんだと言って術者を差し向けたのです。
あとで知りましたが姫島は退魔の家系でした。それ故に神仏に反する堕天使や悪魔が許せなかったのでしょう。
そしてあの日……わたしは母を失いました。
その日、本来なら父は家に居るはずだった。なのに、あの人は仕事で家を空けた。
分かっています。あの日襲撃があるなんて父は知らなかったし、少なくとも父が急いで戻ってきたからこそ、わたしの命は助かった。
――だからといって、許せるはずなんてない。
母を殺した自分達以外を認めない人間達が憎い。
母を死なせる原因を作ったわたし達堕天使が憎い。
……助けてくれなかった父が憎い。
そう思わなければ、わたしはあの地獄を生きられなかった。
母はわたしを庇って死に、わたしの拒絶によって父は去り、わたしはリアスに出合うまでたった一人で生きてきました。
十になりたてと言ってもいい子供が生きるには、この世界は辛すぎました。
それでも生きようと思ったのは母のためでした。わたしが死んだら母のことを覚えている者がいなくなる。そんな思いを抱きながら、わたしは母から教わった術で人間いついた妖怪や悪霊等を払い、その報酬として僅かばかりの金銭や食べ物を頂きながら生きてきました。
それからリアスと出会い、彼女のお陰で姫島と条件付けですが交渉が行われ、わたしは許されリアスに求められて彼女の『女王』となりました。
それからのわたしの生活は幸せだったと思います。
得たかった友人を得て、可愛い後輩もでき、憧れだった学園生活も送れている。
だからこそ一人で居ると、この翼を見ると、思い出してしまうんです。あの辛い日々と、わたしから大切なモノを奪っていた堕天使の業を――。
「――これがわたしの、姫島朱乃の過去です」
わたしは自身の過去を告げ終え、閉じていた目蓋を開ける。
白野君は真剣な顔で、しかしその瞳にはこちらを憂う悲しみの色が浮かんでいました。
……ああ、この人は本当に、隠し事が下手なんだから。
ついつい嬉しいやら恥ずかしいやらで苦笑してしまう。
「……うまく言えませんが……その、ありがとうございます。話してくれて」
真剣に悩みながら、白野君はそう告げる。謝罪じゃないところが彼らしいです。
「ええ。では、次はわたしから白野君に質問です……どうしてレイナーレを助けたんですか?」
そう。わたしはずっとその事を訊きたかった。
「彼女はあなたの親友を殺し、未遂とは言えアーシアちゃんを殺そうとし、更に言えばあなた自身も彼女の都合で殺されるところだった……そんな相手を、あなたはどうして助けたんです? どうして今もこうして一緒に暮らせるんです? どうして……愛する事ができるんです?」
わたしには、そこだけが理解できない。だから知りたい。憎んでもおかしくない相手を何故許せたのかを……わたしには出来なかったその答えを。
「……そう、ですね。どうして許したのか……たぶん、運が良かっただけです」
「……え?」
白野君は真剣に悩みながらも、そう答えた。その答えに、わたしは意味が解からずに怪訝な表情を返す。
「一誠が死んだままなら、自分は彼女を許しませんでした。アーシアの件から手を引かなければ自分は彼女を見逃しませんでした。そして彼女が再度自分を殺そうとしたなら……殺していたと思います。たぶんどれか一つでも歯車が噛み合わなければ、彼女はこの場にいなかったと思います。いえ、むしろそうなる可能性の方が高かった」
「だから……ただ運が良かったと?」
わたしの言葉に白野君は真剣な表情のまま頷いて答えた。
「ええ。朱乃先輩だって、きっと同じだったと思うんです。お父さんが間に合っていれば……朱乃先輩はお父さんを嫌いになっていなかったはずだから」
それは……その通りだろう。そう言われてしまっては頷くしかない。
レイナーレは運が良かった。わたしは運が悪かった。ただ、それだけの違いなのだと。
納得できない。
「ではもしも。 彼女がここに来たのが『神の子を見張る者』の思惑でグレモリーの誰かが殺されたらあなたは――」
「殺します」
わたしが言い切る前に……白野君は……こちらが萎縮してしまうほどの気迫と共に言い放った。
「正直ギアスロールがあるのでその可能性は低いと思っていますが、もしも彼女が自分達の絆よりも堕天使達の絆を選び、自分の仲間の誰かを手に掛けたのなら、自分はきっと……迷って、悲しむと思いますが、彼女を殺します」
「できるんですか。迷ったり悲しんだりして」
「……できますよ。だって……自分のこの手は既に『大切な人達の血』で、赤く染まっているから」
悲しげに己の手を見詰める白野君。その姿を見て少しだけ頭が冷えて、自分が酷い事を言ってしまったと後悔する。
「……でも、だからこそ――諦めない」
しかし彼はすぐにその表情を引き締め、拳を握り、決意の籠もった表情をさせる。
「最後の決断は躊躇わない。だからって、大人しく『その日が来るのを』待つつもりなんてない。言葉で、態度で、気持ちで、彼女の気持ちを変えてみせる。それが……自分の一生を掛けた戦いであり、覚悟です」
そう言って、白野君は自信に満ちた不敵笑みを浮かべた。その表情は決して折れないと言う強い決意が宿っているように見えた。
そしてわたしは、今の彼の言葉と表情で、この人を好きになった根本的な理由も、なんとなく理解できた。
白野君は……お母様に似ている。
どんな相手でも包み込む優しさがある。そして何よりも自分の信じる想いを貫く強い意思がある。
自分の憧れの女性、その男性版が目の前にいるのだ。惚れない方がおかしい。
「それと、自分はレイナーレが好きになった訳で、堕天使という種その物を好きになった訳じゃありません。正直個人的に堕天使も、天使も、悪魔にも、色々と思うところがありますから」
悪魔にも? 白野君の真剣な表情で放たれた言葉に疑問を感じるが、今は二人の話なので口にせずに心に留めておく。
「だから朱乃先輩が堕天使であろうと、自分はその堕天使である部分の全てを含めて『今の姫島朱乃』という存在が好きです」
ただ『好き』だと言われただけで、胸がきゅんと締め付けられる感覚に襲われた。
照れた表情で笑顔を向ける白野君のその笑顔を前に、動悸が激しくなる。
やっぱり、わたしはこの人が好きだ。
「白野君、改めてお願いしますわ。わたしを、朱乃を、あなたの恋人にして下さい」
わたしは彼に詰め寄りあえて自分の身体を密着させる。
「……大丈夫です。もう、そんな過剰なスキンシップなんてしなくても……自分は朱乃先輩を嫌いになんてなりませんから」
しかし白野君はそんなわたしを優しく抱き止めると、耳元でそう囁き、優しくわたしの頭を撫でてくれた。
見透かされていましたか。
過剰なスキンシップは、まあ半分既に趣味みたいなものですが、嫌われたくないという防衛本能が働いていたからなのだと、今なら自覚できる。
『わたしはあなたにここまでして上げられる。だからわたしを嫌わないで』
そんな、自分でも恥ずかしい弱音を、彼に気付かれた。それがなんだか急に恥ずかしくなって彼の腕の中に顔を埋めて表情を隠す。
「朱乃先輩、もしも恋人になってくれると言うのなら……一つだけ、我儘を聞いて貰えますか?」
「我儘……ですか?」
白野君はわたしを抱きしめたまま、頷き、そしてその我侭を口にする。
「自分の前では……この翼を、隠さないでください」
「それは……」
わたしは言葉に迷った。彼はわたしの過去を知って、それでもこの翼を隠すなと言っているのだ。
「……だって、この翼だって朱乃先輩の一部なんです。それに……こんなにも綺麗な翼なのに隠すなんてもったいないです」
「き、綺麗……ですか? わたしの翼が?」
「はい。だから我儘を聞いて貰う代わりに、約束します。自分は、朱乃先輩がこの翼を見ても悲しくならないくらい……貴女を笑顔にしてみせます」
――っ!?
それはまさに、わたしが求める中で最高のプロポーズだった。
顔が火照るのが分かった。歓喜で涙が溢れるのが分かる。
ああもう駄目だ。わたしはこの人から離れられない。この人無しの人生なんて在り得無い。
……ああ、だから彼女達は子供を欲しがっているのね。今ならわたしも理解できますわ。
彼の居ない人生など有り得無い。しかし彼とは必ず別れが来る。だから、それに耐える為に彼との強い繋がりを欲して止まないのだ。
ふふ。やはりわたし達は悪魔であり堕天使なのでしょうね。
別れを潔く受け入れられない自身の愛欲に、改めて自分は魔の側の存在なのだと自覚する。
でも、構いませんよね白野君?
「白野君……」
「朱乃先輩? あ、だ、大丈夫ですか泣いて――んん!?」
わたしは顔を起こして、泣いているわたしを見て慌てた彼の口を強引に奪う。
「ん……約束、守ってくださいね?」
「……ああ。全力で応えて見せるよ」
彼の頼もしい笑顔にわたしも笑顔で答えながら、わたしもまた一つの決意をする。
わたしからこの人を奪う事は絶対に許さない。それが例え……同じ悪魔や堕天使だとしても。
その日、わたし姫島朱乃は、子供の頃に憧れていた最後の一つ、素敵な旦那様を手に入れ、そしてそれを生涯かけて守り抜くことを固く誓った。
と言うわけで朱乃の依存先が白野に変わりました。やったぜ!
結果、一気にリアス達への依存が減りました。そしてグレモリーと白野が敵対した場合、彼女は白野側に着くことが確定した瞬間である。