岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
という訳で珍しく怒っている白野です。
正直このギャスパー君のイベントは同じ流れか別の形にするか迷ったけど、原作でも同様の流れで起きたから原作通りにしました。
「さて……月野白野君はオコですよ?」
「「すいませんでした」」
翌日……というか深夜です。時間的には既に次の日だが体感では今日である。
そんな自分は今、夜中に慌てふためいた朱乃に連れられて旧校舎に転移させられ、今はギャスパー君の部屋の前にいる。
扉の前には青い顔で正座するリアス先輩と一誠、そして他のメンバーもどこか申し訳なさそうに俯いている。
なぜかって? それは――。
『うわあああああああん!!』
――扉の向こうから聞こえるギャスパー君の泣き声のせいです。
そんな訳で……ちょっと久しぶりに怒ってます。
「……説明はよう」
無表情のまま告げると、一誠が青い顔でこの事態の説明を始めた。
なんでも放課後の自分とギャスパー君のやり取りを見て、そろそろ悪魔の仕事をさせて他の人と接してみてはどうかと、リアス先輩がギャスパー君に提案したらしい。
ギャスパー君は最初はかなり悩んでいたらしいが一誠と一緒に行動させること、そして無理だと判断したらすぐに帰らせるという条件で一誠のお得意さんの家に一緒に向かったらしい。
「……で、そこで男と知りながら襲われそうになった。と?」
「いや、襲おうとしたかは分からないけど。まぁうん、物凄い興奮して迫ってた姿はかなり怖かった」
それを普通は襲っていると言うんだよ一誠。
で、あまりの相手の行動にギャスパー君は動転して能力を無自覚に使ってしまい、そのお得様と一誠を止めてしまったと言う訳だ。
あれだけ練習したにも関わらず感情のままその場の全員を止めてしまったギャスパー君は自信を喪失。しかも一誠がフォローに失敗した結果が――。
「――ごらんの有様だよ」
「「本当にすいませんでした」」
精一杯の皮肉を込めて言ってやると、リアス先輩と一誠が更に縮こまりながら申し訳無さそうに頭を下げる。一誠なんて土下座までしてしまった。
「……はあ。とりあえず今はギャスパー君の方が優先だな」
にしてもどうするか。とりあえず泣き止んで貰わないと。
扉に手を掛けるが、鍵がかかっていた。
……仕方ない。
「壊します」
収納していたエクスカリバーと取り出して破壊の力を込めて鍵部分を突き破る。
破壊音と共に鍵が壊れ、無事な方の取っ手を掴んで扉を開ける。入室する前に背後に視線で『誰も入らないように』と睨み、全員が頷くのを見届けてから改めて扉を閉める。
「ひええぇ?」
中に入ると音に驚いたのか、涙と鼻水でぐちょぐちょのギャスパー君が驚いてこちらを振り返っていた。
「あ、ああ、ごめんなさい! ごめんなさい!」
入って来たのが自分だと解かると、ギャスパー君は怒られるとでも思ったのか、凄く怯えた表情でその場で頭を抱えてしまい、何度も何度も謝り始める……正直見ていて痛々し過ぎるのですぐに駆け寄って彼を抱きしめた。
意識してそうした訳ではない。ただ、自分が辛い時に母さんがこうしてくれたから自然と身体が動いただけだ。
母さんは自分を優しく撫でてくれた。抱きしめてくれた。誰かの温もりを、優しさを感じられる。それだけで自分は凄く安心できた。だからその暖かさを、優しさを分け与えるように、彼の背中を撫でながら何度も何度も大丈夫だよ。と語り掛け続ける。
どれくらいそうしていただろうか。しばらくして泣いていたギャスパー君が鼻を啜る音と一緒に『もう大丈夫ですぅ』と小さく答えた。
そんな彼を解放して隣に座る。
「……災難だったね。あとで二人は説教しておくから」
「……いいんです。悪いのは僕だから。僕がもっと神器をちゃんと扱えれば、僕がもっとちゃんと他人と向き合えていれば……でも怖いんです」
完全に気落ちしている彼をどうすれば助けてあげられるのかを懸命に考える。
「……ねえギャスパー君。自分が前に転生者だって言った事は覚えてる?」
ギャスパー君には他のグレモリー眷属同様に自分の事情を説明してある。そのことを覚えているかどうか改めて確認すると、彼は頷いて答えた。
「はい。生前の記憶を持って転生した事や、これまでの事件をずっと部長達と一緒に解決したんですよね?」
彼の言葉に苦笑まじりに頷く。
「はは、まぁ解決したのはみんなだし、自分はただ関わっただけだけどね。自分なんて所詮はただ神器を宿しただけの一般人だ。その証拠に色々と力不足を感じさせられてるよ。腕は燃やされるし、そのせいで家族を悲しませるし、前回の事件も下手したらヤバかった。ケルベロスなんて怪獣かと思ったよ。ははは」
できる限り明るく話すがギャスパー君の表情は晴れない。
「……どうして、先輩はここまで僕に、僕達に関わるんですか? そんな沢山怖い思いをしてまで。大切な人を悲しませてまで関わるんですか? 今度こそ本当に死んじゃうかもしれないんですよ? 僕が……先輩をずっと止めてしまうかもしれないんですよ……」
質問して行くうちに膝を抱えて蹲ってしまったギャスパー君。自分は彼の頭に手を置いて優しく撫で、彼がこちらをもう一度見上げてからその質問に答えた。
「簡単な理由だよ。自分がそうしたいと思ったからだ」
「……え? それだけ、ですか?」
驚いたようにこちらを見上げる彼に、自分は苦笑しながら頷いた。
「うん、それだけ。自分は正直あれこれ考えて行動できるほど器用じゃない。だから損得や価値観より先に感情で行動してしまう。助けたいと思ったら助ける。その為に頭を働かせる。な? 単純だろ?」
そう笑って答えると、ギャスパー君はどこか少し呆けた顔をしたあとに下を向いてしまう。
「じゃあ先輩が僕を助けてくれるのは……僕を助けたいから、ですか?」
「ああ。誰かの為に君を救いたいんじゃない。自分のために君を助けたいと思った。もちろんギャスパー君の境遇への同情とか色々思う事はあるけど、結局根底の動機はそれだけだな。それに、実は少しだけ……君が羨ましいと思った」
「羨ましい?」
意味が分からずに困惑する彼に、自分は頷いて答えた。
「ああ。君の時を止める力を羨ましいと思った。だってその力を使えばあと一歩で届く手を……届かせる事ができるのだから」
そう言って手を前に伸ばす。そこに、かつてこの手が届かずに救えなかった大切な人達の姿が重なる。
「君の力は『誰かを助けられる可能性を創る』力だ。つぎの瞬間には殺される者も、君ならその凶刃から助けられるかもしれない。数十分後に死んでしまう者も、君が治療できる場所まで連れて行けば助けれるかもしれない」
そこで一度言葉を切って、もう一度しっかりとギャスパー君の瞳を見据えてから口を開く。
「君の力は、君が望めば誰かを助けられる力になるんだよ」
「僕の神器で誰かを助けられる……そんなこと考えたこともありませんでした……」
そう言ってギャスパー君が自分の掌を見詰める。
「そっか。じゃあ今度からは考えよう。悪魔の力も、吸血鬼の力も、そして神器も、君の力なんだから。なんなら自分の血を飲むか? アザゼルさんの話が正しいなら吸血鬼としての力が上がれば案外神器も扱えるかもしれない」
「……実は生きた者から血を吸うのが怖いんです。神器も扱えないのに吸血鬼の力も強くなって、それでもし神器が暴走したらって思うと怖くて」
なるほど。確かにその可能性も否定できない。しかし……。
「そうなったら自分達がきっちり正気に戻してやる。助けてやるさ。ギャスパー君はもっと周りに頼れ。そうじゃないから君を心配する連中が今回みたいにおせっかいをして失敗するのさ」
そう言って背後の扉を振り向きながら指差す。
「あ……」
そこには申し訳程度に扉を開けてこちらの様子を伺っているリアス先輩と一誠がいた。どうやらあの二人は鶴の恩返しで鶴を逃がすタイプだな。
そんなどうでもいい事を考えながら、ギャスパー君の背中を軽く叩いて向こうに行くように促す。彼は少しだけ迷ったあと、立ち上がってこちらへと振り返る。
「あの、ありがとうございました先輩。その……嬉しかったです。僕の力が誰かを助ける為の力だって言って貰えて、僕をその……助けたいと言ってくれて」
「自分だけじゃない。オカ研のみんなだってずっとそう思っているよ」
笑って答える自分に、ギャスパー君もぎこちなくだが微笑み、しっかりと自分の足で扉の方へと向かった。
……ふむ。年の離れた兄弟がいたらあんな感じなのかなぁ。
実際には一歳しか違わないが、こっちは転生者で向こうは引きこもりだ。精神年齢的には結構な差があるような気がした。
され、説教すると言ったが……今日はもう寝よう。
心配事が解消された瞬間に眠気が襲ってきたので説教は後日に回す事にした。
という訳で原作でもあったギャスパー君の大事な立ち直りイベントでした。
原作だと一誠がエロ方面で説得していたけど、こっちはまじめに説得。
実際、目の前で色々亡くしている白野にとっては時止めの能力はかなり魅力的に映っていると思う。まぁ白野の性格だとそこまでで終わりでしょうけど(無理矢理奪う等の発想に行かない)それが彼の良い所だと思う。