岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
「あれほど関わっちゃダメって言ったのに。御主人様はお馬鹿にゃん?」
家に帰り黒歌に事情を説明すると、彼女は自分に正座を強要し、膝を前足でベシベシと叩きながら不機嫌そうな声で説教を始めた。
「仕方ないだろ。一誠が困っていたんだし……あ、話変わるけど、黒歌が悪魔に転生したのは悪魔の駒のせい?」
「……そうにゃ。あまり思い出したくないけど今後の為にも説明しておくにゃん」
説教回避のために話題を変えると、黒歌は大きく溜息を吐いたあとに渋々といった感じに乗っかってくれた。そして黒歌による悪魔の駒の説明会が開始された。
悪魔の駒。
力のある悪魔が己の眷属悪魔を増やす為に作られたアイテム。
他種族は勿論、同族にも使用できるアイテムであり、死んですぐの者にも使用できる。
駒その物はチェスに肖っている為、駒の種類や数、呼称はチェスと同じらしい。それぞれの駒の特徴も教えて貰った。
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駒の説明をする時に黒歌はどの駒を使われたのか尋ねると、彼女は『僧侶』を二個使って悪魔に転生したと少しだけ誇らしげに胸を張って見せた。
悪魔に転生する際に駒を使用するのだが、駒の消費が大きければ大きいほど、その存在の強さを示すと教えられた。因みに僧侶は兵士の駒三つ分の価値があるというのでつまり黒歌はまだ弱かった頃で既に兵士六個分の価値を持っていた事になる。
「じゃあ黒歌の主は今もいるのか?」
駒の説明が一通り終わったので、いままで聞けなかった事を黒歌に尋ねる。黒歌は顔を伏せ、しばらく悩んだあと、人の姿になってから口を開いた。
「もういないわ。私が殺したから」
いつものおちゃめな表情でも、寂しそうな表情もなく。真剣な、覚悟を決めたような眼差しで黒歌がそう答える。
「そっか……じゃあ黒歌が突然呼び戻されるとかはないんだな。良かったぁ」
「そ、それだけ?」
安堵する自分に、更に事情を追及されると思っていたらしい黒歌が戸惑った表情をする。
もちろん気にならないと言えば嘘になる。だがどうしても、自分には黒歌が無意味に誰かを殺す事が想像出来なかった。
「黒歌は確かに気分屋だし悪戯好きだし嫌いな相手に容赦無いのも知ってる」
この前野良がちょっかいかけて来たときなんて大人気無くオーラ纏った爪無し猫パンチで執拗に殴っていたし、無神経に撫でようとする大人には引っ掻く。優しくされたいお年頃なのだろう。
「い、言いたい放題ね」
「でも子供には甘いし、気に入った相手には頼られると断れない優しくい所があるのも知っているよ」
微笑みながら黒歌の良い部分を伝えると、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめて唸る。
「だからかな。自分の意思で誰かを殺すのは想像できても、誰かに命令されて他人の命を奪うのが想像できない。となると、黒歌は自分の意思で主を殺した事になる。でも悪魔の世界でも殺人は罪が重いんじゃない?」
個人的には悪魔の社会はもっとカオスなものを想像していたけど、グレモリー先輩とかを見ると自分達の社会とそう変わらないと思い、そのあたりのことを尋ねる。
「ええ。悪魔に限らず天使も堕天使も、犯罪を犯せば罰が与えられるわ。それが嫌で逃げた者や罰として追放された者は【はぐれ】と呼称される。特に危険な者は討伐対象にされる。まぁ基本『はぐれ』に対してこの世界は残酷よ。なんせ
それはなんというか、酷い。だがその話を聞いてますます黒歌が自分の為に行動する事が想像できなくなった。基本的に自分の事に関しては楽しい事以外はあまり頑張らないのが黒歌だ。
「じゃあやっぱり悪いのは黒歌にその行動を取らせた元主じゃないか?」
「にゃ~御主人様はどうしても私をイイ者にしたいのねぇ」
黒歌が困ったような顔で苦笑し、頬を軽く指で掻く。
「当然だよ。黒歌は大切な家族なんだから。例え世界が、その他大勢が黒歌の敵に回っても、自分は黒歌の味方だよ」
出来るだけ真剣な表情で彼女に伝える。
「いずれその罪が黒歌の前に立ちはだかる時が来たとしても、自分も一緒に解決する為に手助けする。だから黒歌……君はここに居ていいし、居て欲しい。全部話して出て行くことは許さない」
「っ――で、でも私がいるせいで、もしかしたら悪魔や天使、堕天使にも襲われるかもしれないわよ?」
黒歌の反応と言葉を聞いて、やはり彼女は何かあった時はここを去る気でいたのだと知り、彼女を説得できる今の内にそれを知ることが出来て良かったと、心の中で安堵の溜息を吐く。
「むしろ黒歌の過去が迫るよりも、自分のせいで厄介事に巻き込まれる黒歌しか想像できないんだけど?」
生前からトラブルに巻き込まれやすい性質だった。今思えば犯罪者の黒歌を拾ったり、危険な神器を持つ一誠と幼馴染だったり、悪魔の居る学園に通ってしまったりと、既にトラブルの切っ掛け自体は前々から抱え込んでいたことになる。自分も神器持ち出し。
「――まぁ、確かに今回の一軒も御主人様の行動のせいよねぇ」
黒歌はこちらの言葉を否定せずに真剣な表情で俯いてしまう。ごめんね後先考えない御主人様で。
「だからさ。一緒に守っていこうよ。今の幸せをさ。自分はただの人間だから黒歌が鍛えてくれないと下手したら死んじゃうし」
「自覚があるならもう少し慎重に行動して欲しいにゃ……でもまぁ、仕方ないにゃ」
そう言って黒歌は自分が初めて彼女にプレゼントした首輪代わりの桜の刺繍が施された白いチョーカーに触れながら、にっこりといつもの悪戯っ子の様な笑顔を見せてくれた。
「今の私は『首輪付き』だから、御主人様を守ってやるにゃん!」
そう言って彼女はいきなりこちらにダイブしてくる。慌てて抱き止めるがそのまま押し倒される形になる。因みに正座の体勢のままだったので、太股がすごい突っ張り悲鳴を上げる。っていうか痛い痛い!!
「ちょっ黒歌、まじでこの体勢はダメだって攣る! ていうか攣ってる攣ってる!!」
「にゃははは! 人の事を悪く言った罰にゃ!」
楽しそうに笑う彼女の声を聞きながら、なんとか彼女の抱擁から抜け出そうともがく。が、足が痺れて更に身動きが取れなくなり、結局彼女の抱擁から抜け出せたのは三十分後だった。
◆
――寝たかにゃ?
いつものようにベッドで御主人様である月野白野と共に眠りに付き、腕枕してくれる御主人様の表情をうかがう。
規則正しい寝息を立てるその寝顔が可愛らしくて自然と顔が綻ぶ。
私は愛おしさに突き動かされるように、より体温を感じたくて御主人様の方に身体を寄せて密着する。
にゃぁ御主人様の体温は暖かいにゃん。
あのあと、私は御主人様に抱きついたまま私の全てを御主人様に伝えた。妹の白音の事。元主の悪魔を殺した理由。私のこれまでの過去も。
ご主人様は全てを聞き終えると、いつもの笑顔で『頑張ったね。もう大丈夫だよ』と言って私の頭を撫でてくれた。それが心地よくて、嬉しくて、柄にもなく少し泣いてしまった。
御主人様は気付いているのかしら。さっきの言葉、実は前にも一度言ってくれた事があることに。
私は御主人様の寝顔を見ながら、今でも鮮明に思い出せるあの日の事を思い出す。
元々私と妹の白音は人間界で暮らしていた猫又だ。当時の生活は正直酷いものだった。白音だけが唯一の支えだった。
そんな私達の妖の力に興味があったらしい前の主に生活を保障してやるからと転生を持ちかけられ、私は悪魔に転生した。
悪魔の元での生活は、正直きつかった。あいつは強くなる為ならなんでも試す人格が歪んだ奴だった。
自惚れになるかもしれないが、私には才能があった。魔法もすぐに上達し、仙術を覚え、妖術を操り、気付けば主である奴の力量を遥かに超える強さを得ていた。
だが白音は違う。
白音に才能が無いとは思わない。だがそれ以上に白音はまだ色々と幼かった。特に仙術や妖術は扱いが難しい。性急に事を運べば力に耐えられずに暴走――最悪死んでしまう。
その危険を理解しながら、奴は白音に無理矢理修行をさせようとした。
私は悩んだ。もちろん殺す事ではなく、白音を連れて行くかをだ。
悩んだ末に、私は白音を置いて行くことにした。
これから先ずっと逃亡生活を続けなければならない。そんな生活に妹を巻き込みたくはなかった。
幸い近くの領地には悪魔界でも有名な愛情深いグレモリー家が存在している。運が良ければそこに引き取って貰えるか、擁護して貰えるかもしれないという可能性に賭ける事にした。残念ながら当時の私に妹の将来を確実に幸せにしてあげられる力は無かった。
そして私は主である悪魔を殺し、追手に追われながら人間界へと逃れた。人間界に逃げたのは少しでも追っての目から白音を遠ざけたかったのと、人間界は領地によっては悪魔以外の者が納めている所もあるので、追っ手を撒きやすいと思ったからだ。
だが私が思っていたよりも追っ手の攻撃は苛烈であり、その時の怪我と疲労、何よりずっと一緒だった妹が居なくなった事への精神的負担で、私は猫の姿で倒れてしまった。
雨の中、道の端で横たわる生きた私を、通行人達はまるで死体を見るかのような不愉快そうな視線で一瞥し、去って行く。
普段の私だったら怒りを覚え、その怒りを糧に立ち上がり、白音の元へと戻っていただろう。
だが、白音はもう居ない。私にはもう……帰る場所が無い。
その事を自覚した瞬間、何もかもがどうでもよくなってしまった。
ああ、ここで死ぬのか。
そんな考えが過ぎると同時に、身体から力が抜けて行くのが分かった。
ごめんね白音。
ゆっくりと目蓋を閉じて最後の支えの糸が切れかけたその時……私は誰かに抱かかえられた。
『頑張ったね。もう大丈夫だよ』
その透き通った声に目蓋を開けると、そこには男の子が居た。
男の子は傘も差さずに両手で私をしっかりと抱かかえ、心から安堵した表情で私を見詰めてくれていた。それが、私と御主人様の出会いだった。
御主人様はそのまま私を抱えて家へと連れ帰ると、パパさんとママさんに事情を説明し、すぐに暖かいお湯にタオルを用意してくれた。なんでもママさんが猫を飼っていたらしく随分と手際が良かったのを覚えている。
あとで知ったが、この時に出された微温湯の飲み水は、御主人様が神器で生成した物だったらしい。そのお陰で私はすぐに回復したのだろう。
そのあと御主人様が私を普通の猫ではないことを知りながら助けたと知って驚き、ママさん達も私が喋っても『妖怪なんて初めてみたわ』なんて言って優しく笑うだけで受け入れてくれた。
「にゃぁ。自由な野良が性に合っていると思ったのに、すっかり飼い馴らされちゃったわ」
それもこれもこの家族が優しいから、御主人様が私を甘やかすからいけないのよ。
居心地が良いこの場所を、今更手放す事は出来ない。それこそ、飼われた者の証である『首輪』を受け入れたその日から、私はきっと御主人様の物になってしまったのだろう。
「ん……」
「にゃふふ。寝顔は年相応なのに、偶に男らしいんだから……」
静かに眠る御主人様の横顔を見ながら、私は今度こそこの生活を、大切な人を傍で守ると決意する。
「もう二度と……大切な人から離れたりしないわ」
軽く御主人様の頬にキスし、抱きしめて眠りに付く。
おやすみなさい。私の御主人様。
ぶっちゃけこの作品の黒歌のポジションは幽白の蔵馬ポジジョンと同じだったりする(別の世界から追われて人間界に逃げ込んだら、逃げ込んだ先に情が移って離れられなくなった感じ)
それと原作読むと黒歌や小猫の過去は軽くしか語られていないので、色々個人的に補完してます。