序章ですが、三話目を読み終えたあたりの方が、わかりやすいかもしれません。いや、反省はしてますよ?本当ですよ?
『序章 昼と夜の離別』
深い森。施設。闇夜。
このキーワードから連想させるものはなんだろうか。古い孤児院?病人の収容所?なるほど、間違ってはいない。
では、先の三つのキーワードに、いくつかの言葉を付け足したとしたら、何を連想するだろう?
「いたぞ、こっちだ!」
「くそ…!」
施設から少し離れた、木の生い茂る森の中。
樹海とはよく言ったものだ。深夜というのもあって、前が見えない。
その森の中を走る、二人の子供。紫の髪の子供が金髪の子供の手を取り、細い獣道を走る。
それを追う四つの人影――こちらは全員大人。一人だけ不自然に若い女が一人、他三人は男。
さて、これだけなら、施設から逃げ出した子供――キーワードは『逃亡』か『脱走』、といったところだろう。間違ってはいないが、しかし、それはあくまで『普通』なら、の話だ。
では、『生け捕り』という言葉を付け足したとしたらどうだろう。子供が施設内の人間、特に職員に対して何らかの抵抗――いや、攻撃、と言った方がいいかもしれない。この逃げる子供のどちらか、あるいは二人共が施設の職員に『攻撃』をし、その後施設からの脱走を試み、職員がこの二人の子供を捕まえようとしているとしたら?
普通なら、大人が子供に攻撃され、遅れを取ることなど、まずありえないだろう。しかしそれは、先に言った通り『普通』ならだ。
そこでいくつかの疑問が浮かぶ。まず第一に、『施設』とは何か?そしてなぜその施設は森――近隣に人の住んでいない場所にあるのか?
――実験施設。この言葉が浮かぶのは、ごくごく自然なことだろう。
では、その実験とは何か?
「ようやく捕まえたぞ、クソガキ共!」
「手こずらせやがって」
「こいつらどうします?」
「金髪の方は連れ戻すわ。そっちは…好きにしなさい」
その、子共と大人の圧倒的な力の差を覆す実験とは?
「へへ、だってよ」
「ガキってどれくらいで死ぬんだろうなぁ?」
「とりあえず爪でも剥がして痛ぶろうぜ?」
紫の髪の子供の右手が上がる。紫の髪の子供は、右手を自分の肩の高さにまで上げると、一番手前にいた男に触れる。
―――瞬間。
「……ひ、いぃ、うあ、あ、あああああ!!??」
触れられた男の顔が、突然恐怖に歪む。
「な、なんだ!?」
「クソガキ、てめぇ何を……!?」
紫の髪の子供が、もう一人――今しがた『クソガキ』と発した男に近づくと、先ほどの様に身体に触れる。
「てめぇ、ナメるのも大概……に……い、ひぃ、ああああああ……!?」
「う、うわああ!?ガキ、お前……!?」
二人の男は正気を失い、一人の男は恐怖に呑まれる。その中で一人だけ愉しそうに、しかし不気味に笑う女は、金髪の子供の手を掴み、自分に引き寄せる。
「うわっ……」
「ふふ、その歳でこの効果……すごいじゃない」
「――を返せ」
「あなた達、本当に仲が良いわね……ふふふ」
女は金髪の子供の首を掴む。
「く……か、は……!」
「っ!やめろ!」
紫の髪の子供の右手が、女に触れる。
「ああ……これがあなたの……」
しかし、女の様子は変わらない。
「ふふふ、でも、まだ若いわね。この先の成長が楽しみだけど……仕方ないわね」
女の指が紫の髪の子供の額に触れる。
「がっ……!?」
紫の髪の子供の身体が、後ろに大きく吹き飛ぶ。木に背中を打ち、止まる。一瞬、意識が飛ぶ。
「本当に残念ね……」
女は服の内側から銃を取り出すと、紫の髪の子供に向けた。
(ああ……こんな所で……)
女の指が、引き金な掛かる。女は、それを躊躇いなく引く。鉛の弾が、紫の髪の子供の額に迫る。
パン!という音が、暗い森の中に響き渡る。
「……?あなた、何をしたの?」
しかし、紫の髪の子供に弾があたったわけではなかった。
「……?わざと外したんじゃ……?」
女と紫の髪の子供は、互いに首を傾げる。
「……――を、虐めるなぁ!」
そう叫んだのは、女に捕まっている、金髪の子供の方だった。黄金色の髪が光り、辺りは昼間の様に……いや、
「何……これは……?」
突然の出来事に、女は唖然とした。昼間にするなど、実験が成功したと考えても、明らかに異常だ。
しかし、女は逆に愉快げに言った。
「ははは……そう、あなたが《暁の王》なのね、
天上院日向。そう呼ばれた少女は、女に向けて腕を上げる。すると、光が女の周りに集中する。
「ふふふ、素晴らしいわ……でも」
パチン、と女が指を鳴らす。すると、辺りが夜に戻る。そして再び、女は日向を捕まえる。
「日向……!」
「ふふ、気が変わったわ……」
そう言うと、女は紫の髪の子供に背を向けた。
「見逃してあげるわ、この子に免じて……ね。その力をもう少し使えるようになったら、この子を取り返しに来るといいわ……
女はかろうじて正気を保っている男を連れ、施設に向かって、暗い森の中を歩き出す。
「ま、て……日向……!」
朦朧とする意識の中、夜陰は遠ざかる日向に手を伸ばす。
日向は振り向き、寂しそうに笑って、
「いつか、全部終わったら……」
そこで、夜陰の意識は途切れた。
――この後、目を覚ました久藤夜陰は、三日三晩歩き続け、樹海から一人、脱出した。脱出してから五日目の朝。街に出た時、世界中に『あるニュース』が流れた。
『現時点をもって、地球という星に“昼”と“夜”が存在しなくなります』
――最後のキーワードは…………離別、だ。
名前にルビを振りました。違うんです、忘れてたわけじゃ……いや、ごめんなさい。