ワンナイト・ミッドナイト   作:緋色の三日月

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一応一話目です。


横浜チェイス
『一 時は流れる。日常のままで』


「十年前、地球から昼と夜がなくなったのは知っての通りです。その影響で、当時は眠れなくなる人、逆に寝たきりになった人などが多く発生しました。……皆さんは、太陽風というものを知っていますか?太陽から発せられる……放射能だと思ってくれれば結構です。太陽風は毎秒数百kmで進み、地球にも届いています。これを『地磁気』という、磁気のバリアの様なものが守っているわけです。しかし、十年前の『離別』の後、その磁気圏が弱くなってしまったのです」

 七月上旬。海沿いの学校。食事前の授業は、いつもに増して気怠いのは何故だろうか。

 あの日、地球上から本当に昼と夜が消えた。しかし、月と太陽が消えた訳ではなく、実際は空に常に月と太陽が浮かんでいる。だが、観測によると、太陽系内の惑星間の距離は以前と変わらず、さらにどの国でも月と太陽が同時に見えるというのだから、専門家もお手上げという状態らしい。あの日以降、しばらくの間、太陽風の影響で海外との交信が困難になっていたが、一年半ほどで復旧した。

「原因は未だ不明です。が、それにより太陽風が人体にもたらす影響は、皆さんもご存知でしょう。――『太陽放射能性白血球変質症候群』、体内の白血球が突然変異し、体表組織を攻撃。それにより体表組織が橙色に変色、最悪の場合死に至る病気です。俗に『黄昏病』と言われているものですね」

 教師は続ける。

「皆さんの中にも、ご家族や親戚の方々が黄昏病にかかってしまった人もいるかと思います。だからこそ、生徒の皆さんは黄昏病にかからないよう、しっかりとした知識を――」

 と、そこでチャイムが鳴る。教師は時計を見た後、生徒の方に向く。

「えー、本日はここまで。次回までにレポートを提出しておくように」

 そう言うと、教師はファイルと教科書を持ち、教室から出て行く。扉が閉まるのと同時に、生徒達は親しい人間と、思い思いの会話を始める。

 その中で、教室から出ていく紫の髪の生徒が一人。つまらなさそうな顔をしながら、屋上へと向かう。

 この学校は無駄に広く、屋上に行くにはかなり歩かなければいけない。上から見るとH≡Hの右下に「を足した様な形をしている。左は海で、他の三面は街だ。先程までいた教室は1-A。一年の校舎は、左のHの右側にある。左は職員室や食堂、教材の置いてある物置、コンピュータールームなどが職員棟。真ん中の≡は渡り廊下で、その向こうは右に行くにつれて二年、三年の校舎になっている。下の「は部活棟だ。今向かっているのは、一年の校舎の屋上。部活棟の屋上は入れず、職員棟の屋上は生徒立入禁止。三年の校舎の屋上は鍵がかかっていて、二年の方は屋上が全面花壇になっていて、休み時間には全ての学年から生徒が訪れる。そのため、必然的に一年の校舎の屋上には人がいない。

 余談だが、以前の標準時間がほぼ意味を成さなくなったため、時間別の食事の言い方も変わった。以前『朝食』だったのは『始食』、『昼食』は『中間食』、『夕食』は『終食』だ。今は中間休みで、中間食の時間だ。恐らく、二年校舎の屋上は人で溢れかえっていることだろう。

 渡り廊下横の階段をあがり、屋上に出る扉を開ける。綺麗に整備されていて、中央には小さな花壇があり、その両側にベンチが四つ。右に二つ、左に二つ。

 その右側のベンチに座る生徒が二人。手前が女で、奥が男だ。

 すると、男の方がこちらに気付いたのか、手を振ってくる。

「よぉ夜陰。相変わらず可愛い顔してんなぁ」

 この男、人が気にしていることを、合う度必ず言ってくる。

 真っ赤な短髪をオールバックにした長身のこの男の名は、深見時雨(ふかみしぐれ)。瞳の色は髪と同じで凶暴な赤色。挑発的な目をしており、常に笑みを浮かべている。身長は確か、183cmくらいだったか。制服のシャツのボタンは上三つを開け、右手首には黒い腕輪。見るからにガラの悪い男だ。

「うっせー時雨。で、蛍は何食ってんの?」

 時雨の右横にいる少女、七海蛍(ななみほたる)は、時雨とは逆に非常に小さい。薄い緑色の髪の長さは肩辺りで、瞳の色は深い蒼。一見無表情だが、感情を顔に出さないだけで、結構喋る。時々毒舌だったりもするが。身長は142cm程だろう。高校生でこの身長の奴はなかなかいないと思う。常に冬服で、今もこの学校の女子生徒用の冬服、白い上着に、首元に青いリボンのついたものを着ている。首には小さな銀色の三日月のネックレス。

「ひちいちひゅっろへんへーのはひほははん」

「何言ってるかさっぱりわからん」

 ゴクン、と呑み込んでから、蛍は夜陰に言う。

「一日十個限定の焼きそばパン」

「へぇ。その袋は?」

 見ると、蛍の横には購買のビニール袋が置いてある。その中身は――

「七月限定スペシャルメロンパン、二年校舎限定のクリーミーチョコパン、今月の新商品のシーフードサンドウィッチ、変わらぬ美味しさコッペパン、鮭とイクラのおにぎり、昆布のおにぎり、野沢菜の……」

「うんわかったもういいや」

 その小さな体のどこにそんなに入るのだろう。購買のビニール袋の中には、他にも色々入っているが、そこは無視しよう。

「蛍はホントよく食うよなぁ。胃袋が四次元にでもなってんのかねぇ」

 本当にな、と思いながら、夜陰は橙色の空に向かってため息を吐いた。

 久藤夜陰は、見ただけでは女にしか見えない。紫色の髪の毛先はしだいに桃色に変わり、長さは肩より7cm程下辺り。瞳の色は金で、身長は155cm。常につまらなさそうな顔をしているが、蛍と同じで無口というわけでもない。だが、見た目とは裏腹に、口調はわりと男らしい。

「……あれから、十年も経つんだなぁ」

 時雨が、海を見ながら、そんなことを言う。

「……そうだな」

 夜陰は空を見上げたまま言う。

「二人と出逢ってから、七年か」

「あー、もうそんなになるのかぁ」

 二人と出逢ったのは、『離別』が起きた三年後。夜陰達が十歳になるかならないかくらいの時だ。当時、時雨と蛍は既に知り合いで、横浜に住んでいた。蛍の親は二人共黄昏病で他界しており、時雨の家に居候していた。その時雨も、事故で母親を亡くしていて、残った父親が仕事をしながら時雨、蛍を育てていたらしい。その仕事中に夜陰と出逢い、蛍、時雨と知り合って、深見家の居候になった。因みに、時雨の父親、深見源次の仕事は、喫茶店のマスターだったりする。たまたま夜陰が入ったら気に入られ、気が付いたら居候になっていた、というのが本当のところだが。

 現在、夜陰はビルの二階、喫茶店の真上の部屋で一人暮らしをしている。蛍もその隣に住んでいるので、居候時代とあまり変わらないようにも思えるが。

「ああ、そうだ。今日の放課後、事務所に来てくれよ」

「新しい情報、入った」

 事務所、というのは、夜陰たちの住むビルの三階(最上階)にある部屋のことだ。といっても、三階はまるまる事務所なのだが。

「情報って……暁の方?」

「そう」

「ここで話すのもアレだしなぁ」

 確かに、外で話すようなことではない。恐らく……『離別』と関係のある情報だ。人のいる所では、口に出さないほうがいい。

 ふと時計を見ると、もうじき中間休みが終わる頃だ。そろそろ教室に戻った方がいいかもしれない。

「じゃあ、俺はそろそろ戻るかな」

「あ、あたしも」

「んじゃ、俺も戻るかねぇ」

 中間休み直前の授業も気怠いが、休み後の授業はもっと気怠い。それに、確か次ぎの授業は体育だ。やる気が起きるはずがない。

 屋上から出て、階段を降りると、夜陰は1-Aに、時雨と蛍は1-Cの教室に向かった。




サブタイトルが変?……言わないであげて下さい。
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