ワンナイト・ミッドナイト   作:緋色の三日月

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三話目です。次回から色々本格始動です。


『三 一日と三夜のいる部屋』

 カランカラン、と、ドアにぶら下げている鉄や木の棒達が、互いの体を当て、店の主人に客の来店を知らせる。横浜駅から、西に三十分程歩いた通りを一本裏に入った道にあるこの店の名は、『喫茶・威風堂々』。何故この店名になったかは、マスターである深見源次ですらよくわかっていない。若くして亡くした彼の妻がつけたらしいのだが、最期まで理由を言わずに亡くなったらしい。客の間では、略して『IFD』と言われており、今では源次ですらそう呼ぶようになっている。

 外の明るさは変わらないとはいえ、五時半過ぎの喫茶店に来る客は随分と珍しい。そう思いながら、源次はカウンターの向こうから、ドアの方を見た。

「いらっしゃい……って、なんだ、お前か夜陰」

 開いたドアから現れたのは、以前は源次の家、といっても、この喫茶店の奥がそこに繋がっているのだが――そこで居候をしていた久藤夜陰だ。

「今日は遅かったな、買い物でも長引いたか?」

 と、笑いながら夜陰に言う。

「買い物っていうか……その後かな、長引いたのは」

「なんだそりゃ?……ん?」

 夜陰の言葉に疑問をもった源次だが、後ろから現れた銀髪の少女を見ると、疑問は全てそちらにいってしまった。

「夜陰。その嬢ちゃんはだれだ?」

 源次はパンパンに膨らんだレジ袋を両手に持ち、カウンター奥の『関係者以外立入禁止』と書かれた階段を上ろうとしている夜陰にそう質問した。

「あー、店が閉まってから話すよ」

 ひょい、と顔を出して夜陰は答える。それに源次は、少し小声になって言った。

()()()関連か?」

「うん。だからまた後で」

 夜陰がそう答えると、源次はそれ以上何も言わず、コーヒーカップを拭きながら、今度は弥宵に言った。

「狭いトコだが、まぁゆっくりしてきな、嬢ちゃん」

 突然声をかけられ、一瞬ビクッとした弥宵だが、すぐに頭を下げて、

「あ、ありがとうございます」

 と、源次に礼を言った。

「弥宵、こっち」

 階段の上から、夜陰が声をかける。弥宵は階段の下まで行くと、もう一度源次に頭を下げてから、階段を上る。

「あいつらはもう上に行ってるぞ」

「わかった。マスターありがと」

 階段を上がる音が聞こえなくなると、源次は一人、溜め息をついた。

(あいつらも大変だな)

 そう思いながら、源次は洗い済みの食器を拭いていった。

 

 

 

 階段を上がりきると、外と店内を遮る扉がある。それを開けると、マンションやアパートの様な廊下に出る。部屋は全部で四つ。扉に向かって右に一部屋、左に三部屋。右の部屋と一番左端の部屋は、今のところ誰も住んでいない。扉の左横の部屋が夜陰の住む部屋で、その隣が蛍だ。夜陰は右手に持ったレジ袋を一度下に置き、鍵を取り出して、ドアノブの上にある鍵穴へ差し込み、左に半回転させた。鍵が開いたのを確認すると、ドアノブを回して扉を開き、下に置いたレジ袋を持つと、中に入った。玄関に入ると、すぐ左に靴入れがある。夜陰は靴を脱ぐと、弥宵に言った。

「入っていいよ。すぐ出るけどな」

 入室の許可をもらった弥宵は、靴を脱いで、部屋に上がった。玄関を上がると、すぐ左に洗面所とトイレがあり、その奥は風呂場になっていた。そこを素通りする。玄関から見えていたのはリビングだった様で、真ん中には木のテーブルが置いてある。その向こうはベランダに繋がっている様で、全面ガラス張りの引き戸があった。リビングの左には台所がありまな板や包丁などがある。その右、ベランダに面した壁から引き戸に変わる部分には、冷蔵庫があった。夜陰は冷蔵庫を開けると、レジ袋の中身を入れていった。じゃがいもやほうれん草などは、一段下の野菜室に入れ、ふりかけなどは台所の下の扉の中にしまっていく。パンパンだったレジ袋が二つとも空になると、夜陰はレジ袋を三角折りし始めた。

「えと……す、捨てないんだ?」

 弥宵が、少し居心地悪そうにキョロキョロしながら夜陰に言った。二つ目のレジ袋の三角折りをし終えると、台所の下の扉を開け、ふりかけが置いてあるカゴの右側にしまった。

「まあ、ゴミとかまとめるのに使えるしな」

 そう言いながら、夜陰は玄関に向かう。

「ど、どこいくの?」

 慌てて夜陰の後を追う弥宵は、靴を履く夜陰に聞いた。

「事務所」

 靴を履き終えた夜陰は、扉を開け、廊下に出た。弥宵も靴を履き、夜陰に続く。

「事務所?……あ、さっきの上って、その事務所のこと?」

 扉に鍵をかける夜陰に、弥宵は聞いた。

「ああ、一回が喫茶店とマスター達の家、二階は部屋四つ、三階が事務所」

 そう言いながら、夜陰は廊下の奥に向かう。左端の部屋の横に、三階に続く階段があった。上がると、二階の様な廊下はなく、上から見るとコの字にスペースが空いていて、左が階段、上が扉で、下は椅子が置いてある。右には、ちょうど頭の高さ辺りに白いプラスチック製の小さな看板があり、『Alice's in wonderland』と書かれている。

「ねぇ夜陰。これ何?」

 弥宵は看板を指差しながら、夜陰に問う。

「ん?ああ、気にしなくていい。自己暗示みたいなもの……かな」

 そう言うと夜陰は、事務所の扉を開けた。

 中はかなり広い。入ってすぐ右には、少し低い木のテーブルがあり、それを挟む形で二人がけのソファがおいてある。そこを区切るように、奥側のソファの後に、一部分だけ壁がある。部屋の中央には少し高めのガラス張りのテーブルがあり、真ん中に花の入った花瓶が置いてある。奥の壁には、扉がガラス出てきた本棚が二つ目置いてある。右奥にはもうひとつ部屋があるらしく、ここからでも扉が見える。この事務所の窓は全て上の方についていて、部屋全体が少し暗いイメージになっている。二階と比べるとこの部屋は異常に広い。三階が事務所、と言っていたが、三階全部が事務所だったとは、弥宵も思いもしなかっただろう。

 夜陰は部屋を見回すと、奥の部屋に行った。

「時雨、蛍、いるか?」

 すると、部屋の扉が開き、中から時雨と蛍が出てきた。

「よ、遅かったな夜陰」

「ああ、色々あってな」

 夜陰は部屋の中に入り、左に置いてあるベッドに座った。入ると、長机が部屋の隅に」の形で置いてあった。その上にパソコンとモニタが3つずつ置いてあり、机の下は配線やらケーブルやらでグチャグチャだ。蛍は机の前で椅子に座っている。

「んで夜陰〜。この子だれよ?」

 時雨が壁にもたれかかりながら、弥宵を指さして言う。蛍もようやく弥宵に気付いたらしく、不思議そうな顔をしている。弥宵が姿勢を正し、少し頭を下げながら、

「えと、天河弥宵です。よろしく」

 と、自己紹介をした。

「ハイハーイ、弥宵ちゃんは彼氏はいますかぁ?」

 巫山戯半分に時雨が聞く。

「好きな料理は?」

 こちらは大真面目、と言った顔で尋ねている。

「え?た、玉子焼き?」

「いや答えなくていいから。弥宵、あっちの小さいのが七海蛍」

「小さくないよ」

「で、こっちのアホ丸出しのヤンキー君が深見時雨」

「はは、ひっでえ紹介」

 蛍は少しブスッとして、時雨は笑いながら弥宵の方を向いく。

「えっと、皆はどういう……?」

 弥宵は頭にクエスチョンマークを出しながら、全員の顔を見て聞いた。

「弥宵は、『導き手(リード)』で間違いないか?」

 夜陰が弥宵に質問する。すると、時雨と蛍が少し警戒するのがわかる。弥宵は体を強ばらせながら、夜陰に答える。

「う、うん。『宵』、だけど。でも、あの……」

「俺と蛍は『宵』で、時雨は一応『暁』だ」

 暁、と聞いた瞬間、弥宵が少し怯える。

「あぁ、平気平気。俺、力が暁なだけだから」

 そう聞くと、弥宵はホッとした様で、ふと思ったことを聞いた。

「でも、なんで」

導き手(リード)がこんなところにいるか?」

 夜陰が遮って言った。弥宵はコクリ、と頷いた。

「俺達は……『暁の王』を探してる」

 弥宵は、一瞬何を言っているかわからない、という顔をしていたが、我に返ると、最もな疑問を投げかけた。

「な……なんで?」

 しかし、弥宵が聞いたのは、『なんのために』ではなく、『何故そんなことをする』か、というものだった。

 ――――『暁』と『宵』のことは、夜陰達も全て知っているわけではない。しかし、この言葉を知るのは、ごく一部の……ある実験施設の関係者だけだ。今わかっているのは、『暁』や『宵』と呼ばれる人間は、簡単に言えば異能をもっている者だ。そしてそれらの者は『導き手(リード)』と呼ばれる。誰がつけたかは不明だ。そして、導き手(リード)は二種類に分類される。『昼の能力』を持つ者と、『夜の能力』を持つ者だ。そして、『昼の能力』を持つ者を『暁』、『夜の能力』を持つ者を『宵』と呼ぶ。そして、昼や夜の能力ではなく、『昼そのものを操る能力』を持つ者を『暁の王』、『夜そのものを操る能力』を持つ者を『宵の王』と呼ぶ。そして、あの実験施設で実験体にされ、生き残ったものが、力を手に入れる。これは施設で聞いたものだ。

 あの実験施設は、両方の王を作るための場所だったと夜陰達は考えている。施設自体は、夜陰が脱出した一年後に閉鎖されたらしいが、そこから出てきた導き手(リード)は一人もいない。そして、弥宵と会った時のことを考えると、あの施設にはまだ導き手(リード)がいて、実験も続いているのかもしれない。

 ちなみに、時雨と蛍ももとはあの施設にいたらしい。夜陰は力を隠していたため、一度も会ったことがなかったのだが。

 弥宵の質問に、最初に口を開いたのは蛍だった。

「離別が王の力によるものだったら、捕まえて元に戻す」

 それに弥宵が質問で返す。

「それって『宵の王』でもいいんじゃ」

「『宵の王』の情報がないんだよ、弥宵ちゃん」

「だったら暁の王もわからないんじゃ……?」

 暫く聞いていた夜陰が、静かに口を開く。

「……俺は、暁の王と会ったことがある」

 弥宵の目が点になる。きっちり十三秒考えてから、ようやく言葉の意味を理解し、

「は……えええええ!?」

 と、一階の喫茶店まで聞こえる声で叫んだ。

「あ、会ったことあるって!?暁の王と!?」

「いや、多分だけど……」

「多分会ったことあるの!?」

「弥宵、落ち着いて」

「どうどう……」

 蛍と時雨が弥宵を落ち着かせる。水を飲んで落ち着いた弥宵は、改めて夜陰に聞いた。

「ほ、ホントに会ったことあるの?」

 ずい、と夜陰に近付く。

「あ、ああ。十年前だから確証はないけど……」

 へー、と弥宵は驚いたように言った。

「あー、なんだ。とりあえず飯にしねぇか?」

 時計を見ると既に七時を過ぎていた。外が明るいままなので、やはり時間感覚がおかしくなっている。普段ならもう終食を食べている時間だ。

「そうだな。明日から週末だし……あいつのところにでも行ってみるかな」

 そう言うと、夜陰はベッドから立ち上がった。

「今日のご飯のメニューはなんでしょう?」

 蛍がパソコンの電源を落とし、夜陰に聞く。

「うーん、中華かな。時雨もくるか?」

「あー、そうだなぁ。久々に夜陰の飯食うかなぁ」

 時雨が部屋の扉を開け、事務所の入り口へ向かう。

「って訳だから。この話は明日の朝にでもして、終食にしようか」

 夜陰が弥宵に言って、部屋から出る。

「あ、弥宵の服とかどうしよう。蛍……のは小さいよな」

 小さくないけどね、と言いながら、蛍も部屋を出る。時雨は入り口の扉を開けた外で待っており、夜陰に言った。

「弥宵ちゃんの寝るとこどうすんだ?」

「え?あ、そうだな……今日のところは蛍の部屋でいいんじゃないか?明日になったらマスターに言って弥宵の部屋用意してもらわないとな」

 事務所の鍵をかけながら、夜陰がそう言った。

「確かに、お前の部屋じゃなぁ」

「流石に夜陰の部屋は色々まずい」

 三人がそういうので、弥宵は不思議そうに言った。

「なんで?私は夜陰の部屋でもいいけど……?」

 弥宵の言葉に、三人は顔を見合わせる。

「弥宵ちゃん。夜陰(こいつ)、こんな顔だけと男だぜ?」

 この後、再び喫茶店に弥宵の声が届いたのは言うまでもない。

 




これは……面白いんですかね(今更)?
現実でボッチだとネットでもボッチなんですね。
あ、ネットでボッチ略してネッチ、現実(リアル)でボッチ略してリッチ!二つ合わせてネリッチです。
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