リリカルなのはCrossBLEACH~魔法少女と死神代行~ 作:颯真
申し訳ありません。
では、どうぞ。
例え呪われた翼であっても
あなたを守れるというのなら
私はこの翼をはばたかせよう
お互いの名前を名乗り終えた一護とリィンフォースは一先ず行動を共にすることにした。このような濃霧の中を一人で動き回るよりは良いだろうというリィンフォースの提案だった。
一護としては断る理由もないのでその提案に賛成したが、自分のような素性の知れない男を簡単に信用してもいいのかとリィンフォースに訊ねたところ、
「私にも何故かはわからないが、あなたは信じられる人間だとそう思えてならないんだ。本当に自分でも不思議なんだが…」
そう言われてしまっては、照れながらも納得するしかない一護だった。そんなわけで二人は人を探しながら一緒に歩いている。その道ながら二人はお互いのことについて会話を交わしていた。
「では、一護の世界では虚という怪物がいて、一護はそれを討伐する戦士ということか?」
「まあ、ニュアンス的にはそんな感じかもしれねぇが、他にも
自分がいた世界のことについて語る一護の説明を簡潔に表現するリィンフォースに苦笑しながらも説目を付け加える一護。出会ってまだ数分であったが、こんなに自然と会話ができるくらいには二人の関係は概ね良好であった。
「それにしても、霊に死神に死後の世界か。そんなものが本当に実在するとは驚きだ」
一護の世界の摩訶不思議ともいえる実情に驚嘆するリィンフォースに一護は苦笑しながらも答える。
「俺としちゃあ、リィンフォースのほうがよっぽど信じられねぇけどな。まさか人間じゃなくて、その夜天の魔導書の…あ~、か、管制人格…だっけか?どっからどう見ても人間にしか見えねぇけどな」
確かに一護の意見も尤もである。どこからどう見ても見た目は人間の女性、それも滅多にお目にかかれないであろう程の美女なのだ。これで人間ではないと言われても簡単には信じられない。
「まあ、それも仕方がいないだろうな。私はそのように作られたのだから」
何気なく言われたその言葉に一護はピタッと立ち止まった。リィンフォースは首を傾げながら一護を見やる。
「一護?どうかしたか?」
「…なあ、リィンフォース」
「…?」
「…そういうの、やめねぇか?」
「そういうのとは…?」
一護の言葉の意味が分からず訊き返すリィンフォース。
「その…作られたとかよ。自分のこと、道具みてぇに言うの、やめねぇか?少なくとも、俺はあんたのこと、道具だなんて思ってねぇ」
そんな言葉を言われて目を見開くリィンフォース。これまでそんな言葉を掛けられたことはなく、どう答えればいいのか分からず、口籠ってしまう。
「だ、だが私は夜天の魔導書の管制人格として……」
「例え生まれはどうでも、あんたにはちゃんと自分の意思があって、自分の考えで動くことが出来んだろ?だったら、あんたにだって心が、魂があるってことなんじゃねぇのか?」
「…魂?私に?」
リィンフォースは一護の言葉を聞き自分の胸に手を当ててみた。魂…そんなものが本当に自分にあるのだろうか?リィンフォースにとって自分という存在は夜天の魔導書を制御するために生まれたプログラムの一つに過ぎない。そんな自分に魂といえるものがあるのか、そんなことこれまで考えたこともなかった。
「リィンフォース、俺はあんたのことをちゃんと人間として見てぇんだ。管制人格とかプログラムだとかそんなこと関係ねぇ。あんたは笑うことも、悲しむこともできる。それはあんたにも人間と同じ心があるって証拠じゃねぇのか?俺の勝手な押し付けかもしれねぇが、俺はあんたのこと俺と何も変わらねぇ同じ人間だって…そう思ってる」
その言葉を聞いてリィンフォースはようやく理解した。何故自分が初めて会ったこの男をこんなにも信用しているのか。
(ああ、そうか。彼は…どこか似ているんだ。あの方に。あの…私に新しい名前をくれた、小さな主に)
リィンフォースの脳裏に一人の少女の姿が浮かんだ。自分の呪いの所為で体の自由を奪われ、挙句命までも失いかけても、それでも自分のことも誰のことも憎むことなく自分に新たな名を送り、守護騎士たちと小さな勇者たちと共に闇の呪いを打ち砕いてくれた優しい最後の夜天の王を。
そして今、自分の目の前にいるオレンジ色の髪の青年はその少女と似ている。性格も雰囲気もまるで違うが、自分を一人の人間として見てくれる。その優しさは間違いなく彼女と同じものだった。故にこそリィンフォースはこの不器用ながらも優しい死神の青年にこの言葉を送りたかった。
「ありがとう、一護。そう言ってくれて本当に嬉しい。…だが、すまない。私はあなたにそんな言葉をかけてもらえるような資格はないんだ」
悲しげな笑みを浮かべながら、顔を俯かせるリィンフォース。そんな彼女の様子に一護は只ならぬものを感じた。
「…どういう意味だ?」
一護の問いにリィンフォースは顔を上げる。
「そうだな。あなたになら、言っても良いかもしれない。いや、聞いて欲しいんだ。私のことを……闇の書のことを」
二人はしばらく歩き湖を見つけてそのほとりに腰を下ろし並んで座った。そして銀髪の妖精は語りだす。自分の過去を、己の半身たる魔導書のことを。
その魔導書は元々は主と共に旅をしあらゆる魔導の技術を収集し、研究をするために作られたものであった。しかし歴代の持ち主の何人かの悪意ある改変によって強大な力を与える代償として、持ち主と辺り一面に巨大な災厄を齎す呪われた魔本となってしまった。多くの主へと転生し暴走と破壊を繰り返すうちに、いつしか本来の名を忘れられ、忌み名といえる別名で呼ばれるようになった。
――――『闇の書』と。
しかし永く魔導書を浸食していた呪いは打ち砕かれた。彼女の主である最後の夜天の王たる少女と彼女の守護騎士たち。そして二人の小さな勇者とその仲間たちによって。だが呪いの残滓は残り、それがいつまた主を蝕むか分からない。故に彼女は自分ごとその闇の残滓を消滅させるよう二人の勇者に頼んだ。そして二人の勇者と守護騎士、そして主である少女に看取られ、雪の空へと消えていった。
「それが、私の過去。私は多くの人の命を奪い、多くの人の人生を狂わせた」
自嘲するように笑うリィンフォース。そんな彼女の姿があまりにも痛々しく一護は見ていられなかった。
「…けど、けどそれは…お前の所為じゃねぇだろ?悪いのは、その魔導書をそんなもんに変えやがった連中じゃ…」
こんな陳腐な言葉しか掛けられない自分に腹が立つ。それでも目の前の彼女に何か言葉を出さずにはいられなかった。
「それでも、私が引き起こしたモノであることには変わりない。全てを歴代の持ち主の所為にすることはできない。全てを諦め、ただ救いを求めることしかしなかった私にも非はあるんだ」
その言葉に一護は口を閉ざしてしまう。代わりにリィンフォースの姿を目に映す。この銀髪の女性はその小さな背中にどれだけの罪を背負ってきたのだろう。望まぬ破壊を強いられ、それを止められなかった己の無力さに何度涙を流したのだろう。そんな彼女の境遇を思うともう軽々しく口を開けず歯を食いしばるしかなかった。
そんな一護をリィンフォースは慈愛に満ちた瞳で見つめ、そっと彼の肩に手を置いた。
「一護、そんな顔をしないでくれ。少なくとも私は満足している。多くの命を奪ってきた私だが、皆のお陰で私はあの優しい小さな主の命を奪わずに済んだのだから」
「…けど、けどそれじゃあお前が…」
二の句は継げなかった。この心優しい妖精を哀れだということは、彼女の覚悟にに対する侮辱のような気がしたから。
「本当にあなたはよく似ている。あの方に。あの方も本当に優しい人だった」
あの少女も最後まで自分を救おうとしてくれた。最後まで自分を幸せにしようとしてくれた。そして今、この青年は自分の境遇を知って悲しんでくれている。不謹慎ではあるが、リィンフォースにはそれがとても嬉しかった。
「…………」
「…一護?どうかしたのか?」
唐突に黙り込んでしまった一護をリィンフォースは心配そうに見やる。すると一護は顔を上げリィンフォースを見つめ口を開いた。
「リィンフォース、お前は自分の過去を俺に話してくれた。きっと誰にも言いたくなかったと思う過去を。……だから、俺も聞いて欲しいんだ、お前に。俺の過去を。俺の……お袋のことを」
そして死神の少年は語り出す。自分の過去を。命を投げ打ってまで自分を守ってくれた強く優しい母のことを。
いかがでしたでしょうか?
次回は一護がリィンフォースに自分の過去を話します。
お楽しみに。
感想お待ちしております。