ン年前に書いたものを発掘。
バレンタインネタです。

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第1話

最初の一人目は玄関先だった。

 

「いってきます・・・!?」

 

 敷居を出た瞬間、かわいいラッピングがされた小さな包みが目に飛び込んできた。

 

それは本当に突然で、アキラはおもわず半歩後ずさる。

 

 「キ、キミは・・・?」

 

 「・・・っ受け取ってください!」

 

 半ば強引に押し付けられて、顔も見せずに走って行ってしまう。

 

 一体、なんだったのだろう?それに・・・これは何?

 

 と、腕時計のアラームが八時を告げる。

 

 「いけないっ!」

 

 これは走らないといけないかも。

 

 アキラは取り合えずズボンのポケットにさっきの包みをねじ込み、駅へ急ぐことにした。

 

 

 

 駅前ビルの碁会所。

 

 市川晴美はそこで受付の仕事をしている。

 

 「~♪」

 

 「あれ、市川さん、今日はいやにご機嫌だね」

 

 「やだ芦原先生、もしかして狙ってきたの?はい、チロルチョコ」

 

 そう、今日はバレンタインデー。

 

 晴美は朝から、この調子でチョコを配っているのだ。

 

「わぁ、うれしいなぁ!けどいいの?本命の彼氏いるんだろう」

 

 「・・・大きなお世話!いないからこんな所にいるんじゃない」

 

 「でもだって、その大きいやつは?」

 

 芦原の指す先には、いかにも手作りのこったラッピングが、チロルチョコの山に埋もれていた。」

 

 「そりゃぁもっちろん!アキラくんよぉ」

 

 「ってことはオレ、市川さんの中ではアキラより下なわけ?」

 

 「やだ!何落ち込んでるの、アキラくんは特別、って、それじゃフォローになってないか」

 

 「いいよもう・・・けどアイツ、バレンタインデーって知ってるかな?」

 

 一瞬ドキリとする。

 

 まさかとは思うけれど、そういえばアキラの口からそういう話題を聞いたことがない。

 

 「で、でもまさか」

 

 「やだなぁ、冗談だよ!だってアイツ、すっごいモテるらしいし」

 

 丁度その時だった。

 

 いつになく大荷物のアキラが二人に、不思議そうな顔を作る。

 

 「どうかしたの、中にも入らないで?」

 

 「アキラ、オマエこそその袋・・・」

 

 「もしかして全部チョコ!?・・・凄い」

 

 そうなのだ、通学カバンと一緒に持っているビニールバッグからは、収まりきらなかった、かわいらしいラッピングがあふれている。

 

 「え?どうしてチョコだって解るの?ボクだって、まだ開けてもいないのに」

 

 「アキラ~冗談に聞こえないぞ、いくらオマエでもバレンタインデーくらい知ってるだろう」

 

 再び、沈黙。

 

 キョトンと目を大きくして止まってしまったアキラに、晴美は青くなる。

 

 「もしかして、本当に知らないの?」

 

 「知ってるよぉ!でも・・・今日だったんだ」

 

 改めて、朝からの出来事を思い返し、ようやく納得する。

 

 けど、一番の問題は・・・

 

 「困ったな、こんなにたくさん・・・食べ切れるかな」

 

 「ギク!」

 

 「アキラ~そりゃないだろう?せっかく市川さんが用意してくれてるのに!」

 

 「え、そうなの?」

 

 タイミングを逃して、後ろ手に抱えているチョコレートがいやに重い。

 

 アキラの困ったような目が、晴美の心をうかがっている。

 

 本当は晴美だって、受け取って、喜んでもらいたい!でも・・・

 

 「アキラくんを困らせてちゃ、意味がないわよね」

 

 「え!?ボク、そんな顔してた?全然、すごく嬉しい!市川さんのは一番に食べるよ」

 

 まるで、春を待っていたつぼみのように柔らかい笑顔。

 

 晴美は顔が熱くなるのを感じ、芦原はもう自分には廻って来ないことを察し、人知れずうなだれる。

 

「それじゃあ改めまして、私の気持ち」

 

 「ありがとう」

 

 長かった・・・

 

 晴美は晴れ晴れとした気持ちで役目を終えるのだが、大事なことをひとつ忘れている。

 

 「っこんいちは~。あっ塔矢!おまえ、チョコもらったか?オレはだな、なんと五つ!凄ぇだろう?でもな~おまえ愛想悪ぃし、オレの勝ち・・・!?」

 

 タイミング悪く入ってきたヒカルは、アキラのもらったチョコレートの山を見て絶句する。

 

 だがそれは晴美も同じ。

 

 アキラのことに夢中になっていて、ヒカルの存在をきれいさっぱりに忘れていた!

 

 何かに付けてアキラをライバル視しているヒカルのことだ、アキラにだけ手作りチョコを送ったことを知ったら・・・!

 

 「進藤くん~聞いてよ、市川さんったら、アキラにだけ手作りで、俺らはチロルチョコなんだぜ~」

 

 馬鹿芦原っ!

 

 凄みをきかせて睨んでみせるが、見ちゃいない!

 

 なんて余計なことをっ!

 

 おそるおそる、ヒカルの顔を覗きこむ、さっきにも増してあんぐりと開かれた口が痛々しい。

 

 そうななだ、元はといえば忘れてしまっていたことがいけないのだ。

 

 晴美はおずおずと、チロルチョコの山を差し出す。

 

 「ごめん、進藤くん、手作りじゃないけど」

 

 「えぇっ!?そんなつもりは・・・」

 

 「そうだよ、市川さんが謝ることないよ、進藤が勝手に舞い上がって、勝手に落ち込んでるだけなんだから」

 

 「ムッ!なんだよ、それ!オレが全部悪いみたいじゃないかっ!」

 

 「違うのか?大体、チョコレートの数で張り合おうなんておかしいだろう?」

 

 「うぐっ」

 

 「アキラいい事いうな~、進藤くん、こりゃ完敗だな」

 

 芦原の言うとおりだ。

 

 ヒカルにはかわいそうだけど・・・!?

 

 「っけどオレには本命チョコがある!」

 

 「何っ!?・・・っ数だけなら勝ってるのに」

 

 「はぁ?おまえ、さっきと言ってること違うぞ!?」

 

 「キャラも違ってきてるぞ~」

 

 芦原の痛いツッコミは置いといて、こういう姿を見ていると、どこかホッとしている自分がいる。

 

 おかしな話だけど、ヒカルとの喧嘩なら止めてはいけないような気さえするのだ。

 

 アキラくん、いつもどこか遠慮しているようだったなんて、知らないんじゃない?

 

 キミが変えてくれたんだよ。

 

 これから先も、いっぱいぶつかり合うだろうけど、どうかお願いね。

 

 いつまでも友達でいてあげてね、進藤くん❤  


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