バレンタインネタです。
最初の一人目は玄関先だった。
「いってきます・・・!?」
敷居を出た瞬間、かわいいラッピングがされた小さな包みが目に飛び込んできた。
それは本当に突然で、アキラはおもわず半歩後ずさる。
「キ、キミは・・・?」
「・・・っ受け取ってください!」
半ば強引に押し付けられて、顔も見せずに走って行ってしまう。
一体、なんだったのだろう?それに・・・これは何?
と、腕時計のアラームが八時を告げる。
「いけないっ!」
これは走らないといけないかも。
アキラは取り合えずズボンのポケットにさっきの包みをねじ込み、駅へ急ぐことにした。
駅前ビルの碁会所。
市川晴美はそこで受付の仕事をしている。
「~♪」
「あれ、市川さん、今日はいやにご機嫌だね」
「やだ芦原先生、もしかして狙ってきたの?はい、チロルチョコ」
そう、今日はバレンタインデー。
晴美は朝から、この調子でチョコを配っているのだ。
「わぁ、うれしいなぁ!けどいいの?本命の彼氏いるんだろう」
「・・・大きなお世話!いないからこんな所にいるんじゃない」
「でもだって、その大きいやつは?」
芦原の指す先には、いかにも手作りのこったラッピングが、チロルチョコの山に埋もれていた。」
「そりゃぁもっちろん!アキラくんよぉ」
「ってことはオレ、市川さんの中ではアキラより下なわけ?」
「やだ!何落ち込んでるの、アキラくんは特別、って、それじゃフォローになってないか」
「いいよもう・・・けどアイツ、バレンタインデーって知ってるかな?」
一瞬ドキリとする。
まさかとは思うけれど、そういえばアキラの口からそういう話題を聞いたことがない。
「で、でもまさか」
「やだなぁ、冗談だよ!だってアイツ、すっごいモテるらしいし」
丁度その時だった。
いつになく大荷物のアキラが二人に、不思議そうな顔を作る。
「どうかしたの、中にも入らないで?」
「アキラ、オマエこそその袋・・・」
「もしかして全部チョコ!?・・・凄い」
そうなのだ、通学カバンと一緒に持っているビニールバッグからは、収まりきらなかった、かわいらしいラッピングがあふれている。
「え?どうしてチョコだって解るの?ボクだって、まだ開けてもいないのに」
「アキラ~冗談に聞こえないぞ、いくらオマエでもバレンタインデーくらい知ってるだろう」
再び、沈黙。
キョトンと目を大きくして止まってしまったアキラに、晴美は青くなる。
「もしかして、本当に知らないの?」
「知ってるよぉ!でも・・・今日だったんだ」
改めて、朝からの出来事を思い返し、ようやく納得する。
けど、一番の問題は・・・
「困ったな、こんなにたくさん・・・食べ切れるかな」
「ギク!」
「アキラ~そりゃないだろう?せっかく市川さんが用意してくれてるのに!」
「え、そうなの?」
タイミングを逃して、後ろ手に抱えているチョコレートがいやに重い。
アキラの困ったような目が、晴美の心をうかがっている。
本当は晴美だって、受け取って、喜んでもらいたい!でも・・・
「アキラくんを困らせてちゃ、意味がないわよね」
「え!?ボク、そんな顔してた?全然、すごく嬉しい!市川さんのは一番に食べるよ」
まるで、春を待っていたつぼみのように柔らかい笑顔。
晴美は顔が熱くなるのを感じ、芦原はもう自分には廻って来ないことを察し、人知れずうなだれる。
「それじゃあ改めまして、私の気持ち」
「ありがとう」
長かった・・・
晴美は晴れ晴れとした気持ちで役目を終えるのだが、大事なことをひとつ忘れている。
「っこんいちは~。あっ塔矢!おまえ、チョコもらったか?オレはだな、なんと五つ!凄ぇだろう?でもな~おまえ愛想悪ぃし、オレの勝ち・・・!?」
タイミング悪く入ってきたヒカルは、アキラのもらったチョコレートの山を見て絶句する。
だがそれは晴美も同じ。
アキラのことに夢中になっていて、ヒカルの存在をきれいさっぱりに忘れていた!
何かに付けてアキラをライバル視しているヒカルのことだ、アキラにだけ手作りチョコを送ったことを知ったら・・・!
「進藤くん~聞いてよ、市川さんったら、アキラにだけ手作りで、俺らはチロルチョコなんだぜ~」
馬鹿芦原っ!
凄みをきかせて睨んでみせるが、見ちゃいない!
なんて余計なことをっ!
おそるおそる、ヒカルの顔を覗きこむ、さっきにも増してあんぐりと開かれた口が痛々しい。
そうななだ、元はといえば忘れてしまっていたことがいけないのだ。
晴美はおずおずと、チロルチョコの山を差し出す。
「ごめん、進藤くん、手作りじゃないけど」
「えぇっ!?そんなつもりは・・・」
「そうだよ、市川さんが謝ることないよ、進藤が勝手に舞い上がって、勝手に落ち込んでるだけなんだから」
「ムッ!なんだよ、それ!オレが全部悪いみたいじゃないかっ!」
「違うのか?大体、チョコレートの数で張り合おうなんておかしいだろう?」
「うぐっ」
「アキラいい事いうな~、進藤くん、こりゃ完敗だな」
芦原の言うとおりだ。
ヒカルにはかわいそうだけど・・・!?
「っけどオレには本命チョコがある!」
「何っ!?・・・っ数だけなら勝ってるのに」
「はぁ?おまえ、さっきと言ってること違うぞ!?」
「キャラも違ってきてるぞ~」
芦原の痛いツッコミは置いといて、こういう姿を見ていると、どこかホッとしている自分がいる。
おかしな話だけど、ヒカルとの喧嘩なら止めてはいけないような気さえするのだ。
アキラくん、いつもどこか遠慮しているようだったなんて、知らないんじゃない?
キミが変えてくれたんだよ。
これから先も、いっぱいぶつかり合うだろうけど、どうかお願いね。
いつまでも友達でいてあげてね、進藤くん❤