夏祭り   作:湯乃屋


原作:Apocripha/0
タグ:
二人の王子はみずからの命を賭して王位を争う運命にあった・・・が。
これはギャグです。
ン年前に書いたもの発掘。

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夏祭り

 ち、ち、ち・・・

 

「ううう~・・・終わったぁ!」

 

弾けるように両手をいっぱいに伸ばし、思い切り椅子に上体を反らす。やっと、という思いとこんなにも早く、という思いがこみ上げるがどちらも口にはしない。その前にやらなければいけない事があるのだ。

 

あお向けて、さかさまのままで窺がうような視線をよこすアレクを横目に、サフィルスはたった今終わったばかりの課題に目を通す。信じてはいるものの一応、手を抜いたりしていないか確認する事が仕事なのだから。

 

顔を上げると、上体を戻してきちん、と縮こまっているアレクと目が合う。その姿が何だかおかしくて顔がほころぶと、ようやくほっとした顔に戻る。

 

「頑張りましたね。やっぱり、やれば出来るじゃないですか。」

 

「それじゃぁ」

 

「はい。何とか間に合いましたね」

 

「お祭りだ!ね、ね、サフィ。早く行こうよ、もう始まってるんだろう」

 

もう一度両手を高く上げて、喜びを全身で表している。時刻は夕刻の鐘の時間、年に一度の夏祭りが始まる時間だ。

 

その話題をアレクが持ってきたのはいつだったか?その時も随分嬉しそうにサフィルスに話していたことが思い出される。自分がもう何年も行っていないものだからすっかり忘れていたし、興味を引かれることも無かったが。今年はアレクがいる。こんなにもサフィルスを求めているから・・・許可を出したまでは良かったのに。

 

それからのアレクは勉強も手に付かず、課題もたまる一方。そのしわ寄せが今日に来て、正直間に合わないと思っていたのに。

 

「そんなに急かさないでも、お祭りは逃げたりしませんから。それより、今日は本当に頑張りましたね。この調子ならプラチナ王子なんか目じゃありませんよ。それどころか王の座だって・・・」

 

「あ~もう、そんな事はどうでもいいからさ」

 

「あう・・・どうでもいいって、そんな・・・って、こっちも落ち込んでる場合じゃないんでした。はい、私から王子にプレゼントです」

 

「これって・・・温泉で着る奴?」

 

「ゆかたです。これはですね、私が王子のために一針一針に想い、いえ、しいて言うなれば愛をこめて作ったものです。これを着た王子と二人でお祭り・・・私だってこの日をどんなに心待ちにしていたことか」

 

明後日の方向を見つめたまま恍惚としているサフィルスに気付いていないのか、あえて無視をしているのか。アレクは早速、袖を通してはしゃいでいる。こんなに喜んでもらえるなら・・・そう思ったとき。

 

「お~坊主。終わったようやな」

 

「あ!おうじ、それはもしやゆかたじゃないですか。いいな~です」

 

「安心したまえ、プラム。うちの参謀殿は心の広~いお方じゃないか、もちろん僕たちの分も用意しているよねぇ」

 

ルビィ、プラム、特にベリルの期待のこもった視線にきょとんとしたアレクの瞳が加わって、ようやくサフィルスは現実に戻ってくる。そう、問題はこれなのだ。せっかく上機嫌になっていたのに台無しにされた、と言うよりももっと深い、どんよりと恨みを込めた目で三人をじろりと睨む。

 

「部下たちも一緒にと、王子のたっての希望ですからね、用意させていただきましたよ」

 

「って、ユ○クロの値札付いたままやないか!」

 

「そのくらい、自分で取ってください」

 

「あう~おうじだけ特別ですか~?」

 

「当たり前です、代わりはいませんから」

 

「ま、まぁ、参謀殿が自腹を切ってくれただけでも良しとしようじゃないか」

 

「誰がそんな事を言ったんです?もちろん代金は今月の給金から差し引かせてもらいますから」

 

瞬間、三人が凍りつくのが見えた。それでもサフィルスは眉一つ動かさずにアレクの方に向き直り、途端に顔が崩れる。

 

「さ、王子。あちらで着替えましょうか。ここでは野次馬がいて落ち着きませんからね」

 

「う、うん・・・」

 

少しばかり後ろ髪を引かれた顔のアレクと、全く部下たちの存在を視界に入れようともしないサフィルス。三人はがっくりと肩を落としていたが、じろりとベリルが顔を上げる。

 

「誰だい、お祭りに行こうなんて言い出したのは」

 

「その張本人が何を言うてん」

 

「でも、せっかくだからゆかたや~って言ったのはルビィさんです」

 

「そう言えば、お祭りの情報を坊主に流したのはプラムやったなぁ」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「え~い、こうなったらヤケです!思いっきり楽むです~!」

 

「全く!酒でも飲まなきゃやってられないね、それとカキ氷!」

 

「少なくとも、このゆかた代は元を取らんとな」

 

誰からとも無く重ねられたてはがっしりと、誓いと言う程の物でもないけれど。オーと掛け合った声も、サフィルスは聞こえない振りをしておいた。

 

 

 

ち、ち、ち・・・

 

「ふぅ。終わったぞ、ジェイド・・・って、何をしている?」

 

顔を上げて初めて、思いのほかに近くにいた事に気付いて呆れてしまう。だがジェイドは気にするでもなく、聞えているのかいないのか珍しく真剣な顔をしている。

 

「何って、見て解りませんか?・・・っと、またまた枝毛発見。困りますねぇ、ちゃんと手入れしてもらわなくては」

 

「そういう事を聞いているのではない。お前は俺の勉強を見ているのでは無かったのか」

 

「だって、暇ですし」

 

「だからと言って・・・もういい。とにかく、今日の分は終了だ、俺はもう休む」

 

もう何を言っても無駄と、見切りをつけて立ち上がると、ジェイドはするりと手元から逃れた銀色の髪を惜しむように、挑発するようにようやくプラチナの顔に目を向ける。

 

「いいんですか?休んじゃって」

 

「?どういう意味・・・」

 

 ばっとカーテンが大きくめくれる音がして目をやると、部下たち三人がもつれながらやって来るところだった。

 

「プラチナ!」

 

「プラチナ様!」

 

「ロード、カロール、ちょっと待て」

 

肩で息をしているロードは急いでいたのかただ単に不器用なだけなのか。一応ゆかたを着てはいるもののはだけてしまってあられもない。

 

それを軽蔑と呪いのこもった瞳で見つめているカロールは、間違っても見惚れている訳ではないだろうが、ゆかたにいつもの帽子はミスマッチもいい所。

 

その二人を少し離れた所から、本当は関わりたくないという気持ちが丸出し、の割にちゃっかりゆかたに着替えているジルは困った顔をしている・・・のか?表情が読み取りにくい。

 

「何ですか、あなたたちは。騒々しい」

 

「げ!何でジェイドがここにいるんだよ。って、それより。ねえんプラチナ様☆今日は夏祭りよ、どうせ行くならあたしみたいな美少女がいいわよねぇ☆」

 

「はぁ、全く、話になりませんね。こんな女と一緒に行ったりしたらプラチナ様、あなたの品位が窺がわれてしまいます。それだったら僕と」

 

「まぁ待て、二人とも。プラチナの意見も聞いてやったらどうだ」

 

きっと、三人の並々ならぬ視線が集中したものだから思わず言葉に詰まってしまう。そしてそういう隙をジェイドは見逃さない。プラチナが黙ってしまったのをいい事に、この場の主導権を握ってしまおうという事か。

 

「はいはい、そこまで。プラチナ様が困ってるじゃありませんか」

 

「別に、困ってはいないが・・・」

 

「い~え、困ったって顔してますよ。そうですよね、いきなりそんな事を言われても。知らなかったんじゃないんですか、今日が夏祭りだって事」

 

からかうように歪められた笑みに反発するようにぶっきらぼうに肯定すると、部下たちの方から信じられないといった声が聞こえる。

 

「なら聞くが、この中の誰か、俺にその事を言ったのか?」

 

「てっきり知っているものだと・・・」

 

「つーか、何で知らないんだよ」

 

「町はもう何日も前から準備が始まっていましたし」

 

おろおろとフォローしているつもりなのか、傷を広げているのか。ここの所騒がしいとは思ってはいたがどうりで。プラチナは、はぁと息をつくと椅子に深く座りなおして、

 

「そこまで言うなら、行ってやらない事も無い」

 

「とか何とかいって、本当は行きたいんでしょう。子どもですねぇ」

 

「う、うるさい!」

 

「おお、恐い。で、あなたは誰と行きたいんです?」

 

「そんなの決まってるよな、男同士なんてダメダメ。連れて歩くんならやっぱり!この美しいロード様よねん☆」

 

「ロード、あなたはまずその格好から改めなさい」

 

ぐう、とロードが言い負かされて、ここぞとばかりにカロールが、

 

「そういうことなら、僕で決まりですね。安心してください、どんな不埒な輩が出たとしてもこの命に代えてあなたを護って見せます」

 

「カロールさん、ゆかたに帽子はおかしいでしょう?取ってくださいよ」

 

うっ・・・と、続けて言い負かされて、ジルは少し照れたように、

 

「仕方ないな。まあ、一番の年長者の俺が適任だろうし」

 

「それはそうと、ゆかた。プラチナ様も着たいですよねぇ、やっぱり。用意出来てる人はいないんですか」

 

がーん、とジルまでもが言い負かされて、ジェイドは満足そうに口の端を吊り上げる。

 

「どうでしょう。ここは一つ、プラチナ様に一番先にゆかたを用意できたものが勝ち、という事で」

 

「はっ!面白れーじゃねえか。このロード様の人脈を持ってすればそんな事は朝飯前!待っててねん、プラチナ様☆」

 

「って、お待ちなさい。そんな格好でうろつかれては困ります・・・」

 

言うなり、ロードの帯びに手を掛けて、ぐいっと力を入れる。あ~れ~と、回りながらとうとう解けて、なおも構わずジェイドはがばっと前を全開にする。

 

「お、おいジェイド!まずいって、プラチナが見てるってば・・・て、あれれ?」

 

見る見るうちに着付けてしまってぽんぽんと手を叩いている。

 

「はい、こんな物でしょう。せいぜい、頑張ってください」

 

「妙に慣れた手つき・・・結構やるな、お前」

 

それはどうも、とロードの嫌味も柳に風。それからあっけに取られているジルと、さすがに顔を真っ赤にしているカロールに向き直り、にっこりと嘘臭い笑み。

 

「いいんですか、ロードさんは行っちゃいましたけど」

 

「そ、そう。・・・一応知り合いをあたってみるか」

 

「ぇぇ!二人とも当てがあるなんて・・・不公平だ」

 

何だかんだ言って結構乗り気のジルと、ぶつぶつと文句を言いながらもそれでも行かずにはいられないカロールを見送って、ようやく少しだけテントが静かになる。ジェイドは、まだ三人の出て行った方向を見つめたままで動く気配も無い。

 

「お前は、参加しないのか」

 

「おや、誰がそんな事を言ったんです?ちゃんと参加してますよ、ほら」

 

そう言って取り出したのは紛れもなくゆかたで、しれっと微笑んで見せる顔にはもう呆れてため息しか出ない。

 

「初めから出し抜くつもりだったのか」

 

「出し抜くなんて人聞きの悪い。ちゃんと準備していなかった方が悪いんですよ。それじゃ、三人が戻ってくる前にちゃっちゃと出かけましょうか」

 

「やっぱり、出し抜いてるじゃないか」

 

いたって上機嫌のジェイドに、もう何を言っても無駄だと諦めるしかなかった。

 

 

 

「たこ焼き、わたあめ、かるめ焼き・・・ね、ねサフィ、これ全~部たべていいのか?」

 

「ふふ、そんな事したらお腹壊しちゃいますよ。あぁ、やっぱり来て良かった、こんなに王子が喜んでくれるとは。ただし・・・この三人さえ居なければっ!」

 

とろけるような視線一変、ぎろっと精一杯の険を込めるがどこ吹く風。本当は首尾良く着付けを済ませて出し抜くつもりだったのに、じっとしていられないアレクに思わず手間取ってしまって結局、五人仲良くここまで来てしまったのだ。

 

その道中も今現在も、出来る限り部下たち三人は視界に入れないように勤めてきたのにこの通り、その道中も今現在も尽きる事無く嫌味を言われ続けてはさすがのサフィルスも限界が近いか。

 

「とか何とか。もっともらしい事、言うといて本当は財布の中身を心配してんのばればれやで~」

 

「うは~サフィルスさん、見かけによらずせこいです~」

 

「そうかい?僕には見かけからして貧乏臭いと思っていたけど」

 

「私の見かけなんてあなたたちには関係ないでしょう!何なんですかさっきから、ず~~~・・・・・っと付いてきて。皆さんそれぞれ行きたい所とか無いんですか」

 

「そりゃあ、あるんやけどな~」

 

「君たちを見ている方が面白いし」

 

「ですです~」

 

にやにやと嫌味を込めた視線に思わず頭を抱える。全くこの人たちは、と口を開きかけた時。

 

「サフィ、もしかして楽しくない?・・・俺がいるから?」

 

「な、何をおっしゃいます!そんな筈が無いでしょう、私だって随分前から心待ちにしていたんですから。ただ・・・」

 

「俺はみんなでいる方が楽しいと、サフィもそうだと思ってたんだけど、ちがうの?」

 

「それは・・・」

 

じっと、そんな一点の曇りも無い瞳で見つめられたら・・・

 

「わかりました、王子がそうおっしゃるなら。とほほ・・・」

 

「・・・本当にほんと?」

 

「本当ですとも!このサフィルス、男に二言はありません。そうですよね、部下たちにも王子同様楽しんでもらわなくては」

 

「うわい!ラッキー、です!じゃあじゃあ、ボクはわたあめ買って~です!」

 

「そう言う事なら、僕はカキ氷をお願いしようかな」

 

がびん!と、思わず固まってしまったサフィルスに、さすがのアレクもちょこっとは拙かったかな、と視線をよこすが、それより先にルビィがぽんと、肩をたたく。

 

「か~!これだからガキんちょは。参謀殿が困っとるやろう。ええか、参謀殿の寂し~い懐を慮るにはな、あれや!」

 

と、指差した先には金魚すくい。

 

「よ~う見とれよ、坊主。おれが手本見せたるからな!」

 

と言って腕まくりして。確かにあれなら半永久的に楽しめる類かもしれないが、大丈夫なのか?一抹の不安を抱えながらもあれだけの自信だ、アレクもきらきらした目を寄せて楽しんでいる、ひとまず様子を見るとするか。

 

「ええか、金魚すくいってのはなぁ・・・痛っ!」

 

びりっ

 

「!」

 

声にならない悲鳴で思わず固まってしまう。まだ一匹も掬わないままにバランスを崩したルビィの網は着水し、無残にも破れてしまったのだ。

 

「ルビィさん~!」

 

「じ、事故や、ほんまはめっちゃ得意やって。邪魔さえ入らんかったら・・・つーか、誰やねん!」

 

怒り心頭、後頭部に命中したコルク塊を握りしめて振り返ったそこには。

 

「ち・・・実弾だったら良かったのに」

 

「カロール!って、何を物騒なこと言ってんねん!」

 

そこには射的用のライフル銃を構えたカロールと、面白がってはしゃいでいるロード、人に向けて打つのは良くないと説いているジルの三人がいた。

 

「ええ!何であなたたちまで。って事はジェイドも?」

 

「いや、今日は一緒ではないぞ」

 

「つーか、俺たちが探してるんだって。お前ら知らなねえ?」

 

「せっかく当たったのに・・・」

 

まだ毒づいているカロールはひとまず置いといて。

 

「探してるって、どういう事です?」

 

「どうもこうもあの野郎、抜け駆けしやがった!」

 

「誰がプラチナを連れて行くかでちょっと揉めてな」

 

怒りも露わなロードと少し照れたようなジルにはあ、呆れてため息をつくと後ろから、自分の事を棚に上げて、と聞えるがここは無視して。

 

「それで三人仲良くですか」

 

「良くねえよ!」

 

「当たったのに・・・」

 

「つーか、一緒にいたんなら誰かこいつを止めい!」

 

と、びしいっとカロールを指差すと、またしてもルビィに照準を合わせる。

 

「なんや、やる気か?大体なぁ、何やねんその格好は!頭から着物被りよってからに。桃太郎侍かっちゅうの」

 

「む!あなたに言われたくありませんね、半分しか袖を通してないなんて、遠山の金さん気取りですか?」

 

「カッチーン!どたま来たでぇ!今日と言う今日は勝負付けたる!」

 

「返り討ちにして差し上げますよ」

 

「って、辞めないか君たち」

 

一触即発状態の二人に無謀にも割って入ったのはベリル。呆れたと言わんばかりの顔で腰に手を当てて。

 

「一般市民に迷惑を掛けて、王子の品位を下げる行為は部下として控えるべきだとは思わないのかい?せっかくのお祭りじゃないか、ここは正々堂々・・・そうだね、射的なんかはどうだい」

 

「さすがです、マスター」

 

「ふ、おもろいやんけ。ええんか、言っとくけど俺、射的もめっちゃ得意やで」

 

「ああ、言い忘れたけど、直接本人を狙うのはなしね、正々堂々」

 

「えぇ~!」

 

「って、何やそのリアクションは!」

 

かくして、ルビィとカロールは射的屋台に、大勢のギャラリーを背負う事になった。

 

「さーて、落ち着いたところで僕はもう一杯、カキ氷を・・・」

 

「いけません、マスター」

 

「って、何で君にそんな事を言われなきゃいけないんだ」

 

「マスターはカキ氷一杯が限界です、それ以上はお腹を壊して、私は何度それをお世話したか」

 

「うわ~ベリルさん、格好悪いです~」

 

「そ、そんな古い話を持ち込まないでくれたまえ!」

 

「だめったら駄目です!マスターを思えばこそ、今はむしろどて煮!私がご馳走いたしますから」

 

「どて・・・そんな暑苦しい物、僕は食べないよ、ちょ・・・ジル!聞いてるのかい?」

 

そのままずるずると、ベリルまでもがドロップアウト。

 

「ラッキー☆上手い具合にジルもいなくなった事だし。後はプラチナを探して!」

 

「その前に!ボクたちいつの間にか囲まれてるです~」

 

「場に乗じてアレク王子と保護者もいねえじゃねえか!」

 

「うえ~ん、ボクたち迷子です~」

 

「ばか!人聞きの悪い事言うんじゃねぇ!」

 

ぽかっと、なみだ目のプラムの後頭部を小突くと歓声と、大きな拍手に包まれて二人は顔を見合わせる。続いてちりん、と軽い音に投げ込まれる小銭がロードの下駄先にぶつかるにいたって目の色が変わる。

 

何処から出したのか、ばさっとござを広げて空き缶を設置。

 

「はいはい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。美少女とアプラサスの異色漫才!第二部の始まりよ~ん☆」

 

「な・・・何を言いだすですか!ボクはお~じを・・お~う~じ~!」

 

 

 

「あ!今呼ばれたような気がする。やっぱり黙っていなくなって心配してるんじゃないのか」

 

ようやく局地的人ごみからアレクを救出した所で心配そうに顔を上げている。要領の悪いサフィルスにしてみれば奇跡的に手に入れることの出来た二人きりなのに、がっくりと肩を落とす。

 

「アレク様ぁ・・・せっかく二人っきりになれたのに。それとも何ですか、王子は私なんかよりも部下たちとの方が良かった~なんて言うつもりです?こんなに粉骨砕身尽くしてるのに?」

 

「それが押し付けがましいんだよな・・・」

 

「何です?」

 

「いやいや、こっちの事。いや~楽しいな、サフィがいてくれて嬉しいな、と。・・・疲れる」

 

「それでこそ、私の王子です。ささ、今日だけはおやつは一日一回なんて言いませんから、何でもおっしゃってくださいね」

 

「え!いいの?それじゃぁね・・・」

 

「ビール!」

 

「そうですね、美味しい季節ですものね。私はやっぱり恵比寿が・・・って!」

 

ええぇっと、目を疑ってアレクの顔を見ると、きょとんとびっくりした目が返ってくる。それから眉根を寄せて視線を上に、恐れ多くも頭の上にもたれかかって腕を組んでいるのインケン片眼鏡は!

 

「恵比寿もいいが麒麟もいいぜ。ただ発泡酒はごめんだね」

 

「ジェイド!」

 

「プラチナ!」

 

全身で歓迎して駆け寄るアレクに戸惑い顔のプラチナは少し照れたように身を引くが、もう一歩を踏み出したアレクにあっさり捕まって、サフィルスはただただ恨めしく、二人の時間をぶち壊したジェイドを睨む。

 

「何であなたたちがこんな所にいるんですか」

 

「お前らと同じ目的だと思うがね」

 

「何でわざわざ私たちの前に現れるかと聞いているんです」

 

「何でもおごってくれるって聞えたから」

 

「誰があなたにおごると言いました?」

 

「お前と一緒にいると安上がりかと思って探してたんだけど。どうやらお邪魔だった見たいだし、ビール一杯で退散してやろうか」

 

あくまで優しげな顔のまま手のひらを出している。一瞬、最大級の魔法の詠唱が頭をよぎったが、あいにく今日は媒介を持ってこなかった。やっと邪魔者はいなくなったと思ったのに・・・

 

「・・・今日だけですよ」

 

「お前のそういう所、好きだぜ。・・・プラチナ様、サフィルスが何でもおごってくれるそうですよ、どうせだからうんと高いものを要求しちゃいなさい」

 

さっと顔を青くして財布の中身を確認している背中が痛々しい。

 

「あ、あんまり高価なものはちょと・・・」

 

「と言うか、そんなものはこの近辺にはないだろう」

 

「あ、おれ宇治金時、上に生クリームの乗ってる奴ね」

 

「でもって私はビールの大ジョッキ。プラチナ様はどうします」

 

「そうだな・・・トリがいいな、あそこの黄色い奴」

 

と言って視線を送った先にはピヨピヨとあいくるしいひよこが箱一杯にひしめいている。

 

「く・・・喰うのか?」

 

「捌くときになって泣き付いても、手伝ってあげませんよ」

 

「・・・誰が食用にすると言った?育ててみたいと思っただけだ。あんなに綺麗な金色がいつか大空を飛び回るなんて、見てみたいと思わないか?」

 

うっとりと、一人彼方に思いを馳せるプラチナ、アレクは辛うじて知っているようで少し嬉しそう。だが、笑いをこらえているジェイドに素直に教える気はかけらも見られないなら仕方ない。

 

「・・・プラチナ様、あれは鶏の雛です」

 

「プラチナ、頭悪い~!」

 

「なに?・・・う、うるさい!っジェイド!お前もいつまで笑ってる」

 

「だって・・・いや、失礼。で、どうするんですか、別のものを所望しますか、やっぱりひよこが欲しいですか」

 

「何もいらん!」

 

「はいはい、ひよこですね。じゃ、私たちが戻ってくるまでいい子にしてるんですよ」

 

とか何とか言いながら後ろ手にひらひらと振っていたがそれもすぐに見えなくなる。明るいと言えばそうなのだが夜には代わりなく、熱くなった顔をアレクに見られた事が少し気恥ずかしくて顔を背ける。

 

「プラチナでも知らない事あるんだね、何か嬉しいな」

 

「それでも兄上より勝っている事の方が多い」

 

「そういう事じゃなくて。あ、やっぱりおれたち兄弟なんだなって、なんて言うんだっけ?しんき・・・」

 

「親近感?」

 

「そう、それ!」

 

「そういうものか」

 

「そういうもの」

 

アレクの脳天気ともいえる思考に息を付くと、なんだか急にどうでも良くなって柵に体を預けてみる。と、アレクもそれに倣ってプラチナの顔を見ては、子どものように笑顔を向ける。

 

身長も、顔も、性格だってまるで違うのに、どうしてアレクはそんなふうに思えるのだろう、プラチナはあんなに自然に笑えないし、何が欲しいと聞かれても好きなものもないし、知りたい事などない。

 

「もしかして・・・兄上は、おれのことが知りたいのか?」

 

「え?プラチナは違うの」

 

少し目を大きくして見上げる顔にどぎまぎして、けれどすぐに遠くを見つめるように詠うように言葉を捜している。

 

「おれはいつも考えてるよ。今は何してるかな、どんな事考えてるかな、おれの事考えてくれてたら嬉しいなって」

 

そのどれもがプラチナには考えも及ばない事で、だけどとても暖かくて、羨ましくて。

 

「・・・今、少し解った気がする。だけど前々から兄上の事少しは気にしていたぞ、兄上は何処まで力をつけたのだろう、兄上なら、こんな時はどうするだろうって」

 

それから・・・それから先は辞めておこう。そう思った時こつんと、肩の辺りに重みがかかり目を向けるとアレクの肩がゆっくり上下しているのが伝わって来る。

 

「・・・眠ってしまったならいいか。本当は・・・本当の事を言うとおれは兄上が羨ましい。素直に笑うことが出来る気持ち、欲しいものを欲しいと言える心、仕様が無いとすぐに諦めてしまわない強さ、おれにも変わりなくくれる優しさ。どれもおれには無いものばかり。本当はおれも兄上の事が知りたいし、もっと話がしたい。今はそう思っている。・・・こんな話、とてもジェイドには聞かせられないな」

 

「どんな話ですか」

 

「うわぁ!」

 

心臓が口から出る思いをしたのは初めてだった。すぐ耳元で割り込んできた声にびっくりして飛び退いて、支えにしていたがバランスを崩したアレクをサフィルスが支えなおしてようやく目を覚まし、とんでもなくみっともない顔になってしまっているプラチナは行き場にない怒りをジェイドにぶつける他ない。

 

「いつから聞いていた?戻っているなら声くらい掛けろ」

 

「だって~、何か真剣な感じだったし。おれは兄上が羨ましい~って」

 

聞かれたくないところは全部ではないか。今度こそ耳まで真っ赤になったプラチナはきっと、へらへらと調子のいいジェイドの顔を睨みつけて、

 

「あぁ~私のビール!ちょ・・・あ~あ全部飲んじゃった、まだ全然飲んでなかったのに」

 

ふん、と空になったジョッキを付き返してやるともう、恥ずかしさで赤くなっているのか、アルコールに反応しているのか解らなくなって、だけど少しだけ気分は晴れた。

 

「王子、眠っちゃったんですか。仕様がないですね、今日はもう帰りますか」

 

「え、サフィ・・・やだよ、まだプラチナと全然話してない」

 

「私はあなたの事が心配なんです」

 

うつむいて、黙っている間にもまぶたは重くなり、意識はもうろうとし始めている。それから必死に抗ってはみるものの、見かねたサフィルスが抱えあげるとそこは思いの他暖かくて、負けてしまう。ともすれば落ちてしまいそうになる意識の中アレクはぎゅっと、こぶしを握りしめて、

 

「プラチナ、ごめんね」

 

「・・・またな」

 

それからすぐに沈むように崩れるアレクを抱えて小さくなるサフィルスとは、結局一度も目を合わせなかった。たとえ目を交わした所で友好的な関係が築けるとも思えないが。

 

「私たちも帰りますか」

 

「・・・花火があるのじゃなかったか」

 

「あなたは私に酔っ払いを抱えて帰れというんですか?冗談じゃない」

 

そう言ってさっさと歩いていってしまうものだから追いかけないわけにもいくまい。だが思いのほか回っているらしく、上手く歩けないでいると急に肩が軽くなって、顔を向けると面倒くさそうなジェイドだった。

 

「・・・いけませんよ、あまり気を許しては」

 

ぽつりと、ともすれば聞き逃してしまいそうな呟きは忠告というよりは嫉妬のように思えて。

 

どん、と大きな音と目も眩むような光に振り向くと、丁度空に大輪の華が開いた所だった。それははっとするほどに美しく、けれどあっけないくらいに終わってしまう。そして、物悲しい気持ちを抱いた瞬間にはもう、次が始まって、終わって、繰り返す。

 

アレクはどんな気持ちで待ちわびたのだろう、傍らのジェイドはどんな気持ちで見ているのだろう、部下たちは・・・大輪の華だけは誰の上にも分け隔てなく咲き誇る。プラチナの心にも、姿を刻むために。


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