幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
…………え…?
「別次元の…」
「わたし!?」
赤フードの女の子が明かした自分の正体に、ラムちゃん達が驚いた声を上げる。
いや、驚いたのは皆だけじゃなくて、わたし自身もそう。だって、ラムちゃんは、あの時……
「……そ、そう、だよ。ラムちゃんはわたしを逃がして、わたしの身代わりになったはず、だから…!」
「うん。ロムちゃんを逃がして、わたしだけあの場所に残った。それは間違いないわ」
「だ、だったら…っ!」
「でも、わたしは本物よ? ……だってさ、ロムちゃん──」
戸惑うわたしに、ラムちゃんだと名乗った女の子はラムちゃんのように得意げに言う。
「──わたしが死んだ所、見てないでしょ?」
「……ぁ……」
言われて、はっとする。
そうだ……確かに、ラムちゃんに転移させられて…その後ラムちゃんはあの魔剣に…って、それはわたしが勝手に思い込んでいただけ。
実際に死んだ瞬間を見たわけじゃ、ない……
「…わたしは、ロムちゃんの代わりに死ぬ気だったけど、どこかの本がお節介焼いてきたの」
「……グリモワール」
本、と聞いて思い当たるのは一人(一冊?)しかいないと呟くと、こくりと頷くラムちゃん。
「ちょっと待って、それおかしくない? だってグリモワールってアタシ達と一緒にいたアイツでしょ?」
「詳しい事はまだ後であいつに聞いてってとこだけど…簡単に説明すると、あいつ、わたしを助けた辺りから二つに力を分けてたのよ。で、片方がロムちゃん、もう片方がわたしのとこにいたってわけ」
つまり、今までわたしが使っていたグリモワールは、あれでも半分の力しかなかった、って事?
…いいや、それよりも…
「……わたしの事…生きてるって、知ってたんだよね…?」
「んん? まぁ、そうね。生きてて欲しくってあんなことしたから。この次元に流れ着いたりしたのも、グリモワールに教えて貰ってて……」
「………ずるい」
「えっ?」
ラムちゃんは、ラムちゃんの方だけ、わたしのこと、知ってた…?
そんな、そんなの…っ
色んな気持ちが胸の中でぐるぐるとして、気がつくとわたしは目の前のラムちゃんに飛びつくように抱きついていた。
「うわっ、ちょっ、何っ!」
「ずるい、ずるいよ…! わたしは、きおくなくしたり…もどっても、もうしんじゃったっておもってたのに…ラムちゃんだけ、しってたなんて…っ!」
「あ……ろ、ロムちゃん…」
「ずるい、よぉ…っ…ふぎゅ…ぅぇぇぇ…っ!」
抑えきれない涙を流しながら、ぎゅぅ、と強く抱きしめる。
色々言いたい事はあるけれど、今は何より、ラムちゃんが生きていたこと。そして、またこうして巡り会えたこと…それで頭がいっぱいだった。
「……そうだよね。辛い思いさせて、ごめんね…?」
「ぐじゅ……ふぇ、ぇぇぇ…っ」
ぽふ、と頭に暖かい感触。
妹に頭を撫でられるなんて、姉としてどうかと思うかもだけど…泣きついてる時点で今更だよね。
それからほんの少しの間、わたしはラムちゃんに頭を撫でられながら声を抑えることもなく泣き続けた。
「ぐす……ご、ごめんなさい…今、大変な時なのに…」
「ううん。気にしないで、大丈夫だよ」
やっと気持ちも落ち着いてきて、足を止める原因となってしまったことを謝ると、ネプギアちゃんは優しい顔でそう答えた。
…というか、大泣きしてるところ皆に見られたんだ…うぅ、恥ずかしい…
「って、そうよ! 感動の再会ですっかり忘れていたけど、お姉ちゃん達が危ないわ! あの変な装置の事教えないと…」
「ああ、それなら大丈夫。あっちにはディ……グリモワールが向かったから」
「そ、そう。なら良いんだけど…」
どうやらネプテューヌさん達の方にはグリモワールが向かったみたい。
ラムちゃんがここに来たのはグリモワールの差し金みたいだし、それならグリモワールもあの装置の事はもう知ってるんだろう。
「まぁ、そーゆーことで。ここからはわたしも一緒について行くわ。…っていってもこのままだとそっちのわたしとごっちゃでややこしいから…」
さらっと同行すると言いながら、ラムちゃんは腕を組んでむむむ、と唸ってから、なにか思いついたように顔をあげた。
「確か、こっちにいたグリモワールってわたしの姿してたのよね?」
「うん…エストちゃんって、名乗ってた」
「なら、それでいいわ。これからはわたしがエストって事で!」
「え? でも、それだと元々のエストさんとややこしくなるんじゃ…」
「へーきよへーき。今のグリモワールはわたしと違う姿だし、普通にグリモワール、それかグリモとかって呼べばいいから」
なるほど…そもそもグリモワールはラムちゃん……これからはエスト…エスちゃんが生きてるの知ってて、エスちゃんの姿でエストって名乗ってたってこと。
なるほどなるほど………後でじっくり話す必要があるみたい。
「って、いい話みたいにまとめてるけど! ディールちゃんをそんなに心配させといてあんたはどこで何してたのよっ!」
と、そこでラムちゃんがびしっとエスちゃんを指さしてそう言った。
そう言われればそうだ。今まで何してたんだろう。
「何って…強くなるための修行?」
「し、修行…?」
「そー。ええと、助けられたって言ったけど、それでもわたし、結構な時間眠ってたらしくて。起きた時にはロ……ディーちゃんの方のグリモワールとの連絡が取れなくなったー、とか言って慌ててたの」
「連絡…? …もしかして、わたしがこっちに来たくらいの頃かな…」
わたしがそう言うと、エスちゃんは「多分ね」と言いながら頷いた。
あの時ってエストワールも結構慌ててたし…こっち来たあとはクロムに汚染だかされてたらしいし、きっと間違いはないんだろうけど。
「色々なお話はその内にね。今は先にやる事があるでしょ?」
…と、そうだ。今は再会を喜んでる場合じゃないよね。
「別次元のラム、ねぇ。本当に頼りになるのかしら…? 変なミスとかしないといいけど」
「ちょっと、どーいう意味よ!」
「ゆ、ユニちゃん、それは流石にラムちゃんにも失礼だと思うな…ともかく、よろしく…でいいのかな? エストちゃん」
「えぇ! 最強なわたしが来たからには、安心してくれて構わないのよっ!」
早速メンバーと馴染み(?)始めるエスちゃん。
そんなエスちゃん達を見ながらも、ふと不安を感じてしまう。
──本当にこれは現実なのか。都合の良い夢なんじゃないか…と。
「…(くいくい)」
「…?」
なんて思っていると服の裾を引っ張られた様な感じがして、振り返るとロムちゃんがわたしを見つめていた。
「ゆめじゃ、ないよ?」
「え…?」
どうしたのかとわたしが聞こうとするより先に、ロムちゃんは言う。
「あのラムちゃんも、ディールちゃんも、わたし達も…ちゃんとここにいるよ。だから…あんしん、して?」
ぎゅっ、と、わたしの手を握りながら。
握られた手から、ロムちゃんのあたたかい体温が感じられた。
ああ、そっか。夢じゃないんだ…
「…ね?」
「…うん。ありがとう、ロムちゃん」
そう言いながらぎゅぅ、と手を握り返すと、ロムちゃんは「えへへ…」と嬉しそうに笑う。
…可愛いし、有難いけど、何だろう。少し負けた気がするような…
「おーい、ロムちゃん、ディールちゃんー!」
「早くしなきゃ置いてくわよー!」
「っとと…のんびりしてる場合じゃなかった…行こ? ロムちゃん」
「うん。がんばろっ(ぐっ)」
気がつくとわたしとロムちゃん以外の四人は先に進み始めていて、わたしはロムちゃんと手を繋いで走り出した。
……グリモワールには、今度なにかしてあげるべきかな。
「ネプギア! 左!」
「っ、やぁっ!」
ユニちゃんが援護射撃をしつつ前で戦うネプギアちゃんに声をかけて、ネプギアちゃんは次々に敵を斬り倒していく。
エスちゃんがパーティーインして、行く手を阻む敵を倒しながら再び前進を始めるわたし達。
目的のプラネタワーまであともう少しという所まで来てはいるものの、敵の数も比例するようにして増えていた。
「ああっもう! 弱いクセにうっとーしいのよっ!」
「けど、これだけ敵がいるなら行き先は間違ってないこと、でしょっ!」
ラムちゃんが氷塊を落とし、エスちゃんが大剣で斬り払う。
ちなみにエスちゃんの大剣は杖に魔力を纏わせて形成させてるらしく、登場した時より少し小さかったりする。
「だと…いい、けど…っ!」
「ディールちゃんっ…!」
「ロムちゃん、ありがと!」
複数の敵に集られて防戦だった所にロムちゃんの支援魔法を受けて、反撃の一撃で返り討ちにしていく。
それにしても本当に敵が多い…
「…皆! あともう少し、あの道の先だよ!」
と、ネプギアちゃんが先を指さしながら言う。
やっと大ボスのところまで来たんだ。…当然、その道には敵がぎっしりといる訳だけど。
「ふーん、ならここはわたし達の出番ってとこね」
モンスターを斬り払い、刃を消しながらわたしの隣まで下がってくるエスちゃん。
そしてわたしの方を見てにっと笑みを浮かべた。
「どれだけ離れ離れだったとしても、姉妹の絆は変わらないってとこ、見せてやりましょ!」
「え? ぁ…う、うん…!」
勢いに圧されて頷いてしまった…訳じゃなく、エスちゃんとならできる…そう感じて。
わたしは杖を構えた。
「……でも、どうするの?」
「ふふ、あんなにわらわらいたら、やる事は1つじゃない?」
「…まぁ、そう、だね。そう考えるとは思った」
「さすがロムちゃ…じゃなかった、でぃーる…ディーちゃん!」
ここからどうするのか、何となく察しはしつつも一応聞いたけど、想像通りのことをする気みたい。
…その呼び方はどこかで闇堕ちさせられた時にいた別人っぽいけど…まぁいっか。
「みんな、援護…おねがい!」
「なんか二人で勝手に決めちゃって…ま、いいけど!」
「うん、しっかり援護するよ!」
周りの雑魚はネプギアちゃん達候補生に任せて、わたし達はどちらかの合図とかもなく、同時に走り出す。
走って、跳んで、避けて…杖に魔力を溜めながら、どんどん進む。
「いつでも、行ける…!」
「こっちも! あんた達! 危ないから伏せてなさい!」
確認するように言うと、エスちゃんが後ろのみんなにそう叫ぶ。
わたし達は左右からのモンスターも気にしないで、大きく跳ぶ!
「ラスト──」
「ファイナル──」
杖を振りかぶり、魔力を放出して、目の前の敵の頭上に意識を集中する。
わたし達二人の魔力が渦巻く敵の群れの頭上の空間が歪む程に、魔力を高めて、そして──
──解き放つ!
「エクスプロージョン!!!」
「デトネーション!!!」
爆裂と爆轟。
二つの爆発がモンスター達を呑み込み、吹き飛ばした。
「エクスプロージョン!!!」
「デトネーション!!!」
跳び上がった二人がそう叫ぶと同時に沢山いる敵の真上で大爆発が起きた。
大きな音と衝撃波で思わず怯んじゃうくらい、すごい魔法。
衝撃が止みはじめてどうにか目を開くと、さっきまであんなにたくさんいたモンスターのほとんどが消えてなくなっていた。
「…すごい(びっくり)」
「む、むぐぐ…」
横でロムちゃんも驚いた様子。
わたしだって、急に出てきたくせに、なんて思いながらも、本当はすごいって感じてる。ただ、それがなんだか悔しかった。
「ほらボサッとしてないで走る!
そんな風に考えてると、エストが両脇の敵を氷の壁で邪魔しながら、こっちを見て叫ぶ。
四人とも慌てて走り出すけど、ユニちゃんが言い返すように叫んだ。
「ど、どうしてアタシ達が今女神化できないって知ってるのよ!」
ユニちゃんが言った通り、さっきからどうしてか女神化できなくなっていた。
力が抜けて戦えないとかじゃないけど、まるでウイルスの状態異常にかかったみたいな、そんな感じ。
襲ってくる敵を追い返しながら、エストは当然みたいな顔で言う。
「そんなの、わたしもそうだからに決まってるでしょ!」
…あ、そっか。べつじげんの、とかはいまいちわからないけど、ディールちゃんがロムちゃんでアイツがわたしなら、アイツも女神ってことよね。
「っ、ああもうまた邪魔をする!」
急いで走ったけど、残ったモンスターがまた先に進む道を塞いじゃって、エストが怒ってる。
するとエストは杖を大剣にして構えながら、ディールちゃんの方を見る。
「ディーちゃん、乗って! 突撃よ!」
「え、えぇ…? …わかった」
急にへんな事を言うエストに困った表情を浮かべるディーちゃんだったけど、仕方ない、みたいな感じでエストの大剣に乗った。
……え、乗った?
「ね、ねぇエスちゃん…ちゃんと真っ直ぐ「いっけぇぇえええ!!!」最後まで言わせてえええええっ!!?」
ディールちゃんの言葉も待たずにエストはディールちゃんの乗った大剣をフルスイングして、ディールちゃんをモンスターが塞ぐ道の方に飛ばした。
「ちょ、ちょっと! 何してんの!? ディールちゃーん!!」
「まぁ見てなさいって」
エストはやり切った、みたいな顔してて、ディールちゃんの心配なんてしていない。
も、もー! 早く助けなきゃ……って、あれ。
よく見たら、ディールちゃん…杖構えて…
「…荒れ狂う暴風…!」
杖の刀を抜くような体勢で飛んでったディールちゃんが何かを呟くと、ふっとその姿がブレて消えたように見えて、
そして次の瞬間、しゅばばばばっ! と沢山の斬撃が、モンスター達を倒していった。
「はい、ぼさっとしないでディーちゃんに続けー!」
「あ、う、うん!」
「なんというか…
「あ、あはは…」
むむむ…ディールちゃんはかっこいいけど…むむむむむ…
…いいもん、その内見返してやるんだから…!
先を行く、わたしじゃないわたしの背中を見ながら、そう決めた。