幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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2022/4/27:人物名[コーフリ→フーリ]に変更しました。
またディールからの呼び方を[フーちゃん→フーリ]に変更しました。
人物名[エミュ→ミュー]に変更しました。


After.2 異・最終決戦? 〜食べ物の恨み〜

「うふふふ! ほうら、どうしたの、その程度なの?」

 

 

くすくすと、あの時と変わらない様子で笑うフーリ。

 

 

「く……まだよ! 絶対に……絶対に許さないんだから!」

 

 

対するのは、憎しみの眼差しでフーリを見据えて、大剣でフーリに斬りかかるエスト。

 

そんな二人を、わたし達は見守ることしかできない。

 

なんでかって、それは──

 

 

「わたしが取っておいたケーキを勝手に食べるなんて! 絶対に! 許さない!!」

「ふふ、美味しかったのだわ?」

「むがー! ぶちのめすー!!」

 

 

──戦いの理由が、それはそれはありふれた食べ物の恨み(喧嘩)だから。

 

 

 

「あ、あわわ……止めなくていいのかな……(おろおろ)」

「ほっとくのは危なそうだし、ディールちゃんは可哀想だけど、いいんじゃない?」

 

ディールちゃんの中にクロム(元ラスボス)……今はフーリね。がいることにはびっくりしたけど、別に世界が危なくなるくらいの悪さする気はないみたいだし。いや、エストにとっては悪い事してるけど。

っていうか戦う理由が元ラスボス相手なのに、こう、ねぇ? 

 

「……先に帰っちゃダメかなぁ」

「だ、ダメだよラムちゃん……」

「だよねー。いつ終わるんだろ……」

 

え? なんでこんなことになってるのかって? 

簡単にまとめると、なんかディールちゃんの身体でフーリがエストのケーキを食べたんだって。それでエストは激おこ。おやつ取られたって言ってこんな感じ。まぁ上で言ってたので察せるだろうけど。

 

「うおりゃああああ!」

 

フーリが放つ黒い剣をばっきんがっきんと斬って弾くエスト。

凄いとは思うけど……

 

「ケェェェキいぃぃぃ!!」

「理由があれだから、だいなしよね」

「え、えっと、ううん……」

 

たまたま近くにいたわたし達はそんな見るからにあぶない二人をほっとけずにここにいるだけで、争いの内容そのものには呆れていた。

いや、まぁ、わたしもおやつ取られたら怒るけどさ。

 

……というか、ね。

 

「ねぇロムちゃん。わたしの思い違いじゃなかったら……フーリのやつ、おちょくって楽しんでるよね?」

「そう、かも……? お姉ちゃんにイタズラして逃げてる時のラムちゃんみたい、かも」

「えー、そうかなぁ」

 

確かにそう言われてみたらお姉ちゃんにいたずらして逃げる時、わたしもあんな感じだった……かなぁ? 

 

「おーにさんこーちら、てーのなーるほーうへー。なのだわー♪」

「むがー! バカにしてー!!」

 

パンパンと手を叩きながら飛び回り、叩く度にエストに向けて剣が飛ばされる。

うーん、ひどい。ある意味ラスボス戦って言えそうな対戦なのにひどいわ。

 

「……やっぱり帰っちゃダメ?」

「だ、ダメー……!」

 

 


 

 

帰ろうとする度にロムちゃんに引き止められ続けて数時間。

退屈だから持ってきたゲームで遊んでいると、いつの間にか戦闘の音が止んでて見てみれば……

 

「うふふ、楽しかったの♪」

「はーっ、はーっ……きゅぅ……」

 

まさかのエスト敗北。え、どうなったの? (全然見てなかった)

 

「エストちゃん……怒りすぎてどんどん魔法使いすぎて、切れちゃった」

「あー、ガスケツ、ってやつね」

 

挑発に弱いのかしら。ううん、流石に真面目な戦いの時はこうはならないよね。

で、戦いの後の平原はこれまたひどいことに。

……あとでミナちゃんに怒られるわね、ケイカンとかジゴショリがどうとかで。というか今回のお話タイトルの内容終わっちゃったんじゃ。

見てなかったわたしのせいかもしれないけど! 

 

ってあれ、フーリはどこに……

 

「ばっ」

「ひぃっ!?」「うひゃぁ!?」

 

消えたフーリを探そうと辺りを見回して、後ろから急に声をかけられてロムちゃんと二人揃って驚く。

振り返ってみれば、くすくすと笑うディールちゃん……の姿のフーリ。

 

「な、なにすんのよー!」

「んー……イタズラ?」

「び、びっくりした……(どきどき)」

「わたしにイタズラとはいい度胸ね! こんにゃろー!」

 

不意打ちのイタズラにむかっとして、フーリの両頬を思いっきりひっぱってやる。うにーっ! 

 

「ふやああ、ひゃめるのはわーっ」

「うっさいこの! そもそもディールちゃんどうなってるのよそれー!」

「あやぁーっ!」

「ら、ラムちゃん……! ひっぱりながらじゃ答えられないよ……!?」

 

ぐにーぐにーとフーリのほっぺを引っ張っていると慌てたロムちゃんからそんな言葉が。

それもそうね、と思ってぱっと手を離すと、フーリは両頬を擦りながらじとーっとした視線を向けてきた。

 

「うぅ、あなた……身体はあの子のままだってこと忘れていない……?」

「え。……ああ、そうだった! ごめんねディールちゃん!」

「ラムちゃん……」

 

言われて気付く、今こいつはディールちゃんの中にいるから、身体はディールちゃんのままだって。

そしたらフーリはともかくロムちゃんまで変な目で見つめてきた。う、うぅ……

 

「そ、それより! ディールちゃんは無事なんでしょうね!」

「それはもちろん。ワタシはあの子であの子はワタシなのだから、無事に決まっているのだわ」

「そ、そう……」

 

いや、本当はこいつに言われるまでもなくディールちゃんにこいつのこと聞いてたから知ってるけど、信用しにくいっていうか、ねぇ? 

 

「うーん。二重人格みたいなものかしら? あの魔本はデザイアソウルと呼んでいたけれど」

「でざいあ、そうる……?」

 

聞きなれない単語にロムちゃんが首を傾げる。

わたしも聞いた事ないし、なんだろその、ナントカソウルって。

 

「ワタシがグリモワールの影響で自我を持ち始めたとかは、前に説明があったと思うけど」

「う、うん……フーリちゃんの事話された時に、言ってた」

「読んでる人的には『闇を切り裂く流星』で似たようなお話してたわね」

「どっちも間違ってないけどメタな方の回答はいらなかったのだわ!?」

 

むぅ、怒られた。だって何の話かわかんなくなったらよくないじゃない。ラムちゃんのすてきな親切心よ! 

 

「それで、ワタシはたまたまそう言う理由でこうして話したりしているけれど、本来デザイアソウルというのはただのその人の持つ欲望……側面の一つ、と言うだけなのよ」

 

よくぼう? そくめん? 

 

「例えばあの子の場合、つまりワタシだけれど、ワタシは『恐怖』のデザイアソウル。怖い思いをするほど強くなるという訳では無いけれど、実際のところあの子の恐怖心を主な力として蓄えていたから、間違ってはないのかしら」

「恐怖……」

「ええ、そうよ。つまりこれはあなたにも言えること」

「わ、わたしも……?」

 

えーと、うーんと……細かいとこはよくわかんないけど、とりあえずディールちゃんとロムちゃんのでざいあそうるは『きょうふ』……ってことでいいのよね? だからどういう訳かって言うのはわかんないけど。

 

「そうそうそんな事にはならないとは思うけれど、仮に貴女のデザイアソウルが暴走するような事があった場合、『怖いものを全部なくさないと』なんて言いながら暴れたりすることになるかもね」

「ロムちゃんがそんな風になるはずないでしょ! わたしが守るもん!」

「そうね、それがいいのだわ」

 

言われなくてもわかってるっての! 

……あ、でも暴走なのよね。それってわたしも『怖いもの』扱いになっちゃうのかしら。

だとしたらちょっぴり悲しいけど……その時は頑張って止めればいいよね! 

 

「ちなみに貴女のデザイアソウルは……ええと、『自己顕示』かしら?」

「じこけんじ?」

 

なにそれ、さいばんの時にいるやつ? 

 

「ハッキリと言いきれる訳では無いけど、周りに自分の力を認めて欲しいとか、そういった承認欲求の事ね。心当たりがあるんじゃないの?」

「むっ……」

 

それは、まぁ……わたしは強いのにお姉ちゃんもみんなもわたしやロムちゃんを心配しすぎとは思ったりしたかもだけど……

 

「デザイアソウルというのは、その人物が内に秘めた『欲望』なの。だから気を付けないと──」

「──そぉーれっ!!」

 

そうやってフーリが自分のこと、デザイアソウルの事を話してた、そんな時だった。

フーリの後ろから突然誰かが斬りかかってきて、フーリは咄嗟に黒い剣でそれを防いだ

 

「な、何よ!?」

「エスト、ちゃん……?」

 

フーリに斬りかかってきたのは──エストだった。

ただ何となく雰囲気がいつもと違うような……

 

「いいねいいね、そうでなきゃ面白くない!」

「っ……あなたもしかして……」

 

ガキン、ガキンと金属音を響かせてエスト? の攻撃を防ぐフーリ。

……あ、もしかして。

 

「フーリみたいな、エストの中のデザイアソウル?」

「ふっ……! っとぉ、ぴんぽーん! せいかーい。さっすが、ある意味自分のことだから鋭いねー」

 

杖をいつもみたいな大剣型じゃなくて、ふつうの剣みたいにしながら答えるエスト……のデザイアソウル。

つまり、あれが、えっと……『じこけんじ』のデザイア? 

 

「ワタシはミュー! 折角だし、二人も名前だけじゃなくってワタシの強さも覚えていってねッ!!」

「攻撃相手はワタシ固定なのね!?」

 

ミューと名乗ったそいつはフーリとは違うニヤッとした笑みを浮かべながら、物凄い速さでフーリへと攻撃していく。

すごく速い……! 

 

「……(じーっ)」

「ロムちゃん? どうかしたの?」

「あ、うん……」

 

ミューはこっちにまで襲いかかってくる訳じゃないみたいで、巻き込まれないようにロムちゃんと少し離れながら戦いを見ていると、ロムちゃんがじーっと戦い……と言うよりミューの方かしら、みつめていた。

 

「……もしかしたら、ミューちゃん……前に見た事ある、かも」

「え、そうなの?」

 

ロムちゃんはそう言って、前にギョウカイ墓場でエストがこんな感じのテンションになったことがあったと話してくれた。

その時は魔力の使いすぎによる魔力ハイかと思ってたらしいけど、今の戦いを見るとその時もミューが出てきてたのかも、だって。

 

「自分の力を認めて欲しい……から、すごく強い事を見せたがってる、のかしら?」

「多分……」

 

フーリの説明と合わせて「あははははは!」なんて笑いながら攻撃し続けるミューの事をロムちゃんと考えてみる。

ほんとのほんとに強いから、あんな事するのかな? 

 

「……なんか当分終わらなさそうだし、先に帰ろっか」

「あ、う、うん……もう夕方、だもんね……」

「えっ」

 

まぁ考えるのはどこでもできるし、そろそろ帰らないとミナちゃんに怒られそうだもんね。

そう、気がつけばもう夕方なのよ。

 

「という訳だからわたし達先に帰るよ? あんまり遅くなるんじゃないわよー」

「ええっ!? ちょ、止めようとかはしないのかしら!?」

「だって怖いし……ね?」

「(こくこく)」

 

そもそもあんなすごい攻撃を後衛のわたし達で相手出来るわけないし。

 

「うーん、見て貰えないのは残念だけど、強いことは分かって貰えたみたいだしいっか。ほらほら、まだまだ行くよ()()()()()ッ!!」

「嫌なのだわぁぁ! 来ないでぇぇ!」

「む。……鬼ごっこね! 負けないわ!!」

「ひいいいい!!」

 

後ろからフーリの悲鳴が聞こえるけど、わたし知らない。

 

あ、でもフーリはミューに弱いってことは覚えておこう。

 


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