幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
#01 "訳あり"の村
ふぅっ、空間の歪みの調査に出たら変な触手に捕まるわ、そのままディーちゃんは拉致されるわ、挙句空中に放り出されて真下にモンスターとか……短時間にいろいろありすぎよね。流石にこんな経験、次元渡りしてた頃にもないっての。
しかもただモンスターがいただけじゃなくって誰か襲われそうになってるし……色々起こりすぎよ、ホントに。
「おっとと……」
なんて、空中制御の為に使った風と雷の複合魔法で倒したモンスターの上で色々考えてたら、モンスターが消滅し始めて危うく転げ落ちそうになって、消滅し切る前に地面に飛び降りる。
「ふぉぉー……!」
で、イオン……だったっけ。この目の前でキラキラした眼差しを向けてくる奴なんだけど。
見た目の印象は長い白髪の先をリボンで結んでいる、お姉ちゃんよりもちょっと背が高い女の子。
キラキラした眼差しから察するに、明るい性格してそう。っていうか何あれ、ギター?
「エストちゃん……本当に天使じゃないの? でも今羽が! バチバチーって!」
「ぐええ……ゆ、揺すらないで、落ち着いて……」
ゆっさゆっさと興奮したイオンが前後に揺すってくる。の、脳が揺れる……
とはいえ、どうしたものかな……なんとなく別次元なのはわかるんだけど、どういう所か把握できてないまま魔法の事を話してもいいものか。
そう考えたら魔法を使った事自体が悪手なんだけど……じゃなきゃわたし死んでたし。
「そ、その前に、ここがどこか教えて欲しいんだけど……」
「んぇ? えーっと、場所、場所……あ、そうだ! ここはプラネテューヌって国が近くにある、どこにも属さない所にある村の近く! かな?」
「プラネテューヌ……?」
プラネテューヌと言えばパープルハートことネプテューヌちゃんが治める国の名前。
つまりゲイムギョウ界なのは間違いないってことね。なら平気か。
「あれ? プラネテューヌ知らない? まぁ、最近できたばっかの国だから仕方ないのかなー」
「ああ、いや……なんて言えばいいのか……ちょっと記憶が飛び飛びなのよ。気がついたら空から落ちてるし」
とりあえず不用意な事言って変なことになってもメンドーだし、適当にぼかしを入れて答える。
名前は知ってても、わたしの知ってる事と違ってる可能性が高いしね、喪失じゃないけど記憶にないってこと。
「記憶が……? 記憶喪失ってこと? ならボクとおんなじだね!」
「いやまぁ、記憶喪失って程でも……同じ?」
「うん! ボクも村の人に助けてもらう前の記憶がないから。覚えてたのは名前とギターの弾き方と……ふーちゃん!」
「ふーちゃん?」
まさか記憶喪失だとは思わなかった。誰かに憧れてって誰よ。……始めた経緯はギリギリ覚えてたけど、ってことか。
それよりも、ふーちゃん? ギターの名前? いや、ギターはギターって言ってたし……
観察しながらそう思っていると、イオンの脇から黒い獣の頭の様なものが一つ(一匹?)飛び出してきた。
「わああ!?」
「うん! こっちはボクのおともだち!」
「な、何それ? え、おばけ……?」
「んー、そう言われることはよくあるね!」
冗談半分で言ったのに肯定された上になんか沢山出てきた!?
……でもあんまり怖くないかも。というかちょっと可愛い……?
「えへへ、良かったらエストちゃんもおともだちになってあげてね!」
「う、うん。……『じゃあ、死んでね!』とかじゃないよね?」
「しないよー!? ……あ、でももしも死んじゃってもおともだちにはできるよ!」
にへらーとイオンが笑う。可愛げのある顔で物騒すぎるってば……
「でも記憶がないってことは行く宛てもないんだよね?」
「それは、まぁ……そうね」
「ならボクがお世話になってるとこに来なよ! この先どうするか決めるにしても、落ち着ける場所があった方がいいでしょ?」
「え? それはまぁ、そうだけど……いいの?」
「だって、エストちゃんはボクの恩人だもん! ねー天使さまー♪」
「だから天使じゃないってば……」
なんというか本当にテンション高いなこの子……ネプテューヌちゃんにも負けてないんじゃない?
……ただなんだろう、妙な親近感というか、変な感じがするような……
「それじゃーしゅっぱーつ!」
イオンがそう言うと幽霊達がすーっと消えて、その村に向かってだろうか、歩き始める。
その後ろに続きながら、この世界のことを考えておこう。
まず、プラネテューヌがあるってことは間違いなくゲイムギョウ界のはず。そこは良いわ。
ただイオンはプラネテューヌを「最近できたばっかの国」って言ってたから、元いたゲイムギョウ界よりも過去か、古い時代になるはず。となると不用意に他の国の名前は出さない方が良さそう。
元いた次元との連絡は……多分、グリモがわたし達の反応が消えたのに気付いて探してくれてるはずだから、今はとにかく待ち、かしら。
ディーちゃんに関しては……まだ情報が少なすぎる。同じ次元にいるのかすら分からない。
……もどかしいけど、グリモからの連絡を待つしかないわね。
ひとまずこんなとこかしら。
はぁ、やれやれね……
「でも助けてくれてありがとね! ホントはボクも戦えるんだけど、急に来たからびっくりしちゃって。あ、アメちゃん食べるー?」
「あ、うん。じゃあ貰うわ。……あんた戦えたの?」
「そだよー! 音で攻撃したり、おともだちに手伝ってもらうの! はいっ、どーぞー♪」
飴を受け取りつつ、イオンの話を聞いてあげる。
音とおともだち……? ギター引いてゴーストを操る……と言うよりは、指揮して戦うんだって。不思議な戦い方ね。
……5pb.だっけ? リーンボックスでコンサートだか開いてた奴もギターと音で戦ってたっけ。
一緒に戦ったのまだラムだった時期だからうろ覚えなんだけど。
他愛もない話をしながら歩き続けて暫くして、
着いたのは田舎のような、正しく小さな村。
入口には重武装とは言えないものの武装した人が立っている。
「おにーさんただいま!」
「ああ、イオン。また村を抜け出したのか。……その後ろの子は誰だい?」
「えっとね、エストちゃんって言って、ボクのこと助けてくれたの!」
「助けて……?」
イオンが門番の人と話しながら、わたしの説明をする。
当然門番は「わたしがイオンを助けた」という言葉に、怪訝そうな視線をこっちに向けてくる。
そりゃ、わたしイオンより小さいものね。
「うんっ! エストちゃん凄いんだよ! ぶわーってなってバリバリーってして一瞬でモンスターやっつけちゃうんだよ!」
「そ、そうなのか」
「……えっと、こういう場合って、ここで一番エラい人に会いに行った方がいいのかしら」
興奮するイオンをほっといたら話が進まなそうだから、わたしから門番にそう聞いてみる。
「んー、そうだな。そうして貰えるとこちらとしても助かる」
「わかったわ」
「エラい人? 長さんだね! ボクが案内するー!」
……こいつのユルさ加減、見てて不安になってくるんだけど。
「ははは……じゃあすまないが、イオンに長の所まで案内してもらってくれ。それと……」
「……?」
「イオンを助けてくれて、ありがとうな」
「……いえ」
お礼を述べる門番に一言だけ返して、長とかいう奴の所へと向かう。
それにしてもなんだろう、イオンから感じるものとは違うけど、ここの人達も何かが変に感じる。
……いや、今確実に変なのが居た。獣みたいな耳生やしてる奴とか最早モンスターでしかない奴とか。すごいこっち見てくるし。
向けられる視線から感じられるのは怯えとか、不信。
少しづつどういう場所なのかがわかってきたかもしれない。
「あ。長だ! おーい、長ー」
「む、イオンか。どうした?」
と、長の家に着く前に外出中の所をみつけたらしく、イオンが赤い髪の女に駆け寄っていく。
「む、客か? それにしては随分と小さなお客だが」
「……」
「……ふむ、訳ありか。良いだろう。イオン、お前は少し待ってなさい」
「えーっ! ボクも行く!」
「ほら、お菓子あげるから」
「アメちゃん!!!」
わたしの様子に何を察したか分からないけど、イオンを待たせて着いてくるように言われ、黙って頷く。
っていうかイオン、チョロすぎない?
そうして、長の家にて長と二人きりに。
「……わたしが言うのもあれだけど、見知らぬ相手に不用心が過ぎるんじゃない?」
「ははは。悪意がある者にしては、随分可愛らしいものだな」
「……ふん」
やっぱり舐められてる……いや、今はそんなことはいい、重要な事じゃない。
「それで、何用かな? 小さな刺客さん」
「ただの冗談よ、別にあんたらに何がしようって訳じゃないし。……わたしは、今いる所の情報が欲しいの」
「と言うと、この村に関してか?」
「違うわ。──この世界についてよ」
そこでわたしは、自分の状況を適度にぼかしながら説明した。
空から落ちてくる前のことはわからないこと。
自分の事でわかるのは名前とある程度の
イオンに記憶が、なんて言った手前、大体こんな感じね。
「ふむ」
「……流石に信用ならないわよね、よそ者だし」
「確かにそう言った感情が無いとは言いきれないな。だが村の仲間を助けてくれた恩もある。信頼は既に足りていると思うがな」
「わたしが彼女を騙してるとは思わないのね」
「ははは。騙そうとする奴がわざわざそんな事を暴露するか? それに、あの子は嘘とは縁遠い子だからな。あの子が君に助けられたというのなら、それが真実なんだろう」
素性がわからなさすぎて信じて貰えないけど一応試す、そんな気持ちで言ったことだったから、すんなり信用する気を見せられて少し驚く。
「キミもここに来る途中で見ただろう? ここにいる連中は誰も彼もが”訳あり”でね、警戒こそすれど、拒むことはそうそうないのさ」
「”訳あり”……」
「本来の人間ならば持ち得ない異能力者、理性を持ち、知性を得たモンスター……そして、そういった事で人間の日常から迫害されてきた者達が流れ着いた先……といったところかな」
「ああ、そう。ヒトって自分達と違うモノを嫌う習性があるものね」
物語とか、現実でも割とよくある、ありふれたこと。
……残念なことだけどね。
「まるで自分が人間じゃないような言い方をするんだな」
「……さてね。わたしだって色々"訳あり"なのよ」
「ふっ、そうか。ともかく、我々としてはイオンの事があるから、それなりには信用させてもらうつもりさ。勿論、ここのことを口外したりするつもりならば相応の対応を取らせてもらうがね」
「しないわよ、そんなこと」
「それならばいいさ」
ふーん……大丈夫かな、この村。
ま、いいわ。わたしはディーちゃんを助けて帰れるなら、それでいい。
「さて、それで今の情勢についてだったか。何から話したものか」
「長ーおそいー! ボクもう待ちくたびれたー!」
色々あっていざ状況に関する話……と思いきや、イオンの乱入。
ぐぬぅ、どうせグリモ待ちの間にって事だから急いじゃいないしいいけどさ。
「……気にしないで続けてよ」
「えぇー! まだ話してるの? ボクと遊んでよー!」
「後でね」
むぅーっと膨れるイオンは取り敢えず置いといて話すように促すと、長は一つずつ説明をし始める。
まず、この世界はゲイムギョウ界と呼ばれていること。
プラネテューヌだの女神だの言ってたからそれはまぁ把握してたから飛ばして、
現在この世界にはプラネテューヌとルウィーの二つの国があって、それぞれ女神が一人ずついること。
ラステイションとリーンボックスの名前と女神に関する話が出てこなかったのは少し気になるけど、プラネテューヌはまだ出来たばかりの新国家、ルウィーは結構前からあるものの閉鎖的な国、との事。
閉鎖的ねぇ、内側で何かやってるのかしら。その内調べた方が良さそう。
で、女神に関してはもう一つ。
なんでもこの世界の女神は最初から女神って訳じゃないらしく、『女神メモリー』とかいうアイテムを使うとなれるんだとか。
それじゃ女神まみれになるじゃん。って思ったけど、そもそも女神メモリーがレアアイテムな上、使ったからと言って必ず女神になれる訳でもない。というか大体失敗してモンスターみたいな姿になるんだとか。
……モンスター?
「ああ、そうだ。ここにいる何人かは女神メモリーが原因で異形の姿になった者もいる」
「危ないアイテムねぇ、リスクが大きすぎてそうそう使う人もいなさそうなのに」
「……ああ、そうだろうな」
ん。今一瞬表情が陰ったわね。なにかあるのかしら。
……自分で使う気はなかったけど、誰かに使われた、または使うことを強制されたとか? なんてね。
まぁいいや。次よ次。
「と言われてもだな、もう話せることは……」
「長ー、あれは? なんだっけ、しち、しち……」
「ああ、七賢人か。そうだったな」
「……シチケンジン?」
ここで聞いたことの無い単語が飛び出てきて首を傾げる。
シチケンジン……七賢人? 七人いる何かかしら。
「七賢人は……まぁ存在自体はそれなりに名の通っている連中だが、詳細は分からない部分が多い。ただ言えるとすれば、女神に依らない世界を目指す集団だ、ということくらいだろう」
「ふぅん。女神の治世反対! ってとこかしら」
そういえばこっちの世界でもグリモに調査頼まれる前に女神反対みたいな奴らがちらほらいた気がするわね、似たようなものかしら。
「そんなところだ。なにか質問は?」
「んーん、十分。どうもありがと」
「そうか。満足したなら何よりだ」
七賢人ねぇ……わたしとディーちゃんを襲ったやつもそいつら関連だったら考える手間が省けて良いんだけどなぁ。
「で、だ。情報の対価に関してだが」
「えー!? ただで教えてあげたんじゃないの!?」
長の言葉に何故かイオンが不満げに声を上げる。
色々聞かせてもらったし、わたし自身は別にいいんだけど。あんまりにも変なことじゃない限りね。
「良いのよ。働かされるのかは知らないけど、それくらいはやるつもりだったもの」
「ほう。そう言って貰えるとこちらとしても嬉しい。何分、人手はあまり多くない場所なものでな」
「ぶー」
いや、だからなんであんたがぶんぶくれるのよ。
「そうだな……暫くこの村に滞在して貰いたい。イオンを助けた腕からして、戦いの心得はあるようだしな」
「滞在? ……永住は無理よ? じゃなくて、良いの? わたしみたいなよそ者を」
「言っただろう、訳ありが集まる場所だと。こうして君と話をして、大丈夫だと思った故の判断でもある」
ふうん……
ま、わたしとしても活動拠点があるのは願ってもないことだけど。
「ただ、居住スペースが新しく用意しないと無いのでな、暫くは私の「あっ、それならボクんとこおいでよ!」……おい、イオン」
長の言葉に割り込んでくるイオン。マイペースな奴ねぇ、ネプテューヌちゃんを思い出すわ。
それはさておき、イオンの所ねぇ……
「わざわざ場所開けてもらうのも悪いし、イオンがいいのならわたしはそれで良いけど」
「……良いのか?」
「わーい!」
おばけ屋敷な部屋になってそうな気もするけど長居し続けるつもりもないし。
それならそっちの方が楽だしね。
「ん。じゃ、暫く厄介になるわね」
「ああ。長として君を歓迎させてもらおう、小さな新人くん」
「はいはい、よろしく」
とはいえ、あんまり心を許さないようにしておこう。なんかきな臭いし。
「えへー、エストちゃんこっちー!」
「うわっ、引っ張らなくってもついていくってば!」
……こいつも今のところ純粋なだけに見えるけど……いや、流石に気にしすぎかしら。
何はともあれ、こうして異世界に流れ着いたわたしは彼女らの村に滞在することになったのだった。
─グリステーション─
「……はい、どうも。『神次元ゲイムネプテューヌV』に倣っての新コーナー、グリステーションの時間です。司会はわたし、一話目早々に拉致され当分出番が無さそうなグリモアシスター、ディールです……」
「ディールちゃん暗い! あ、ゲストのラムよ!」
「だってぇ……」
「だってじゃないのー! ほら、がんばって!」
「うぅ……こちらはなんてことないエスちゃんの周りの状況とか、次話の大まかな予告みたいなことをするコーナー……だそうです。ちなみに不定期」
「ふてーきじゃないとねたが無くなっちゃうものね。さいふくらっしゃーとかくいずはないわよ! 意味ないもん!」
「さて、第一回はエスちゃんこと、エストの現在のステータス……というよりは、持ち物・状態についてです」
「なによ、面白みなさそうね」
「えー、謎の次元に飛ばされたエスちゃんの状態はこちらのようになっております」
エスト:グリモアシスター(変身不能)
武器:なし(素手)
防具:Fi-リング 改
装飾:傷んだ腕輪
服装:ブラックコート桃
飾り:雪結晶ヘアピン
「びみょーに違ってたり傷んでたり改造されてるけどだいたいわたしのしょきそーびよね。……あれ? 杖は?」
「ないよ。わたしが連れてかれた時に落としてるから」
「えっ」
「ついでに
「えぇ……そ、それ、大丈夫なの?」
「……場数はグリモと踏んでそうだから、大丈夫だって信じたいなぁ」
「あいまい!!」
「持ち物何かも整理の為にほとんど持ってない、って感じ。まぁ、よくある二作目にあたっての弱体補正?」
「ネプテューヌちゃんもレベル下がってるもんね……」
「そういうこと。ついでにわたしが攫われて割とテンション低かったり口悪くなってるかもね」
「ふぅん。大変そうね、しゅじんこうって」
「ねー」
「……と、第1回はそろそろ終わりの時間みたい」
「セリフばっかだし短くてもいーんじゃない?」
「だね……それではまた次回」
「次回あるんだ……やるんだ……」
グリステーションはもしかしたら消すかもしれんです