幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
なんやかんやでラステイションに到着して、
ネプテューヌちゃん達はラステイションの女神に、わたし達はクエストの報告にそれぞれ向かうと言うことで結局別れることになった。
「えー! ここはパーティーインする流れじゃないのー!?」
だのとネプテューヌちゃんが騒いでたけど、別にわたし達ラステイションの女神に用事ないしね。
「はふぅー、食べたー♪」
「食べ過ぎじゃないの……?」
「えー、そんなことないよー」
報告と食事を終えて、白い髪を揺らしながら上機嫌な様子のイオン。
見た目を考慮しないならイオンの方が断然年下に見えるのよねぇ。
……プラネテューヌにいたときからやってたから今更だけど、街中でのわたしは変身魔法を使った姿になっている。
大体ネプギアと同じくらいの背丈*1とそれ相応の体つき。……まぁ、大きいとは言えないけど、並程度? ユニちゃんくらいかしら……多分。
変身魔法と言っても、正確な原理としては肉体を成長変化させる、みたいな感じ。イメージするなら……どっかの世界でやってる魔法戦競技のアレよ。大人化? するやつ。
だから身体つきは勝手にこうなったのであって、胸は弄ってないからね。
……でもディーちゃんがこの成長変身魔法使うと、わたしより大きいのよね……むむむ。
グリモワールと次元漂流? 放浪? してた時期でも度々あった事だけど、元の姿だと結構な割合で子供扱いされるのよね。
されるだけならいいけど酷い時はまともに取り合って貰えないこともある訳で、その為に覚えた魔法ってわけ。
詐称? 仕方ないじゃない。悪いのはわたしじゃなくて見た目でばっかり判断する世の中でしょ?
ちなみにプラネテューヌでイオンにこの姿を見せた時の反応はと言うと、
『むむむ。ボクの方がお姉さんだったのにー、これじゃ逆ー』
だった。驚くでも褒めるでもなく変な方向にぶすーっと拗ねていた。
変身する前から子供っぽさはあんたの方が上だった気もするけどね……コホン。
「ふーん……」
次の
どういう原理かはわたしもよくわからないけど、ネプギアがNギアに搭載していた機能で文字通りワールドシェアの確認ができるというもの。ネプギアの技術力って本当すごいよね。
今表示されているのはプラネテューヌ、ラステイション、ルウィーの三国。リーンボックスの個所はなんかうまく拾えてないのかまだ存在してないのか表示がバグっちゃっているけど、まぁ特に問題はないでしょ。
で、肝心のシェア状況だけど……ラステイションがトップ、次点でプラネテューヌ、一番少ないのがルウィー。
……ラステイションの勢いは元の次元でも知ってるけど、別次元とはいえまだ出来て数年そこらの国にルウィーが負けてるってなんか腹立つわね。
「……ルウィー? そっか、ルウィーか」
「んー?」
こっちのルウィーは閉鎖的だからってつい最近まで情報収集を怠ってたせいで気付くのが遅れたんだけど、確か閉鎖が昔より緩くなったとか言う話を聞いたのよね。
何でかは知らな……うーん、ラステイションが良くも悪くも話題に上がる位の勢いだから、国外に出たがる人が増えて不満が高まる前に……とか? 人心なんて移り気なもんだしね。
でもこれはいい機会かもしれない。
「ごめんイオン、お仕事はナシ。ついでに来たばっかだけどラステイションを出るわよ」
「え? どうしたの? 急に」
「ちょっとね……ルウィーに行きたくて」
もしディーちゃんが動ける状態なら、きっとルウィーを目指しているかもしれない。そもそもずっとルウィーにいた可能性だって……
……なんとなくそんな根拠の無い希望だけど、やっぱり別次元でも自分と縁のある国は気になっちゃう。
ラステイションには丁度ネプテューヌちゃんが来てるし、こっちはあの人に任せればいいよね。
「うーん? よくわかんないけど、ボクはエストちゃんについてくよ! っていうか、村を出た時からそんな感じだし!」
「……ありがと」
「お礼を言われるほどじゃ……あ! やっぱりお礼はアメちゃんで!」
「はいはい、わかってるって」
イオンはこのままわたしに着いてくるとのこと。まぁこんな所で別れたら迷子確定だしね。
そもそもこの子、初対面でも飴とかお菓子貰えたら信用しそうになるくらいには警戒心が食に流されるのよね。ほっといたら変なやつに連れてかれそうで怖いわ。
そんな訳でラステイションを後にしたわたし達は、
国道も何もないダンジョンを抜けて北へと向かっていった。
プラネテューヌとラステイション間のダンジョンと比べるとモンスターも手強くて苦労はしたけど、それ以外は特に問題も起こらず。
そうしてたどり着いたのは見慣れた雪国──ではなく、紅色が目を引く和風な都市だった。
あれ? 間違えた? いや、ちゃんと北に進んできたはず……
「あの、ここってルウィーで合ってますか?」
「うん? お嬢ちゃん達、他所から来たのかい。ああそうさ、ここがルウィーだよ」
自分の知るルウィーと景色も印象も違うものだから思わず近くにいた衛兵に聞いてみれば、ルウィーで間違いないとのこと。
「ここがルウィー……」
「ふおぉー……ここもおっきいねー」
プラネテューヌよりも前からあったという事もあってかかなり広そうな印象。
見た目は和の国だけど肌寒さはあるかな。まぁ北国に変わりはないしね。
「見たところお嬢ちゃん達しかいないように見えるけど」
「ああ、はい、よくそう言って止められますけど、わたし達二人だけで合ってますよ。ギルドのクエストも結構こなしてますし」
女二人(わたしは
いや、相手も心配しての態度なんだろうけどさ。ともかくそんな視線にも慣れていたわたしは手馴れた手つきでギルドカードを提示して見せた。
「ふ、む……確かに本物だ。驚いたな」
「世の中見た目で判断してるようだと、いつか足元を掬われますよ。人でもモンスターでも」
「ははは。気をつけるよ」
自分達の事も言ってるけど、半分は経験からの忠告。
実際見た目が可愛らしかったり弱そうなのに妙に手強いモンスターとかふつーに居るからね。
「さて、見たところこの国には来たばかりの様子だね。宿の案内をした方がいいかな?」
「む。……そうですね。お願いします」
優しく微笑む衛兵の人の言葉に空を見上げてみれば既に夕焼けに染まっていて、
流石に来たばかりの街で夜探索するほど不用心なつもりも無いし、ここはお言葉に甘えておくことにした。
「はぁー、つかれたーっ!」
「宿は普通にメガミホテルなんだ……」
外装こそ和風だったものの施設名はメガミホテルな事に微妙な気持ちになっている横で、イオンはぼふんっ、とベッドに飛び込んでいる。
そう、ベッド。中身はホテルの名の通りだから、和の欠片も無い。いや、小物とかは和風だし欠片はあったけど。
うーん……まぁ和の宿は別にあるんだろう、きっと。たぶん。
「はふぅ……でもなんか思ってたとこと違うねー、ここ」
「ん? どういう事?」
ベッドでうだうだしながら呟いたイオンの言葉に、首を傾げる。
「なんだっけ、サコク? っていうのしてたーって言ってたけど、そんなに嫌な感じしないってみんなが言ってるから」
「ああ。ま、国が閉鎖的だからってそこに住む奴らまでそうだとは限らないし。流石に巡回兵はそれなりにいるみたいだけど」
そう答えながら窓の外を見てみれば、武装した人が巡回しているのがちらほら見えた。
閉鎖は解いたけど警戒してますーって言ってるようなものよね。
あ、ちなみにイオンが言った"みんな"ってのはイオン曰くふーちゃん含めた"彼ら"の事を指しているらしい。戦闘になるとイオンの指示で実体化したりする幽霊のともだち、というやつね。
時々殺気みたいなのを感じるけど襲われた事は一度もない。多分イオンがわたしを傷付ける事を良しとしないからだと思うけど。
「ケーカイしてる、って事は……そのうち戦争とかになるのかな……」
「それは……どうかしらね」
言われてみてふむ、と思案する。
正直女神って守護女神とは言うけど、結構好戦的なところあるからない、とは言いきれない。
というか、こっちのルウィーとかの本にも昔は女神同士戦争してたってあったし。……シェアを横取りに来た女神と決めつけて襲いかかる女神もいたって? ソウダッタカナー。
……過去のやらかしは置いといて!
もし本当に戦争とかになったら大変そうよね。移動も自由にできなくなりそうだし。
冷たいこと言っちゃうと、ディールちゃんさえ見つかれば戦争しようがしまいがどっちでもいいんだけど。
「シェアの争奪を力でやろうとする女神じゃない事を祈るしかないわね」
「そっか……そう、だよね」
「まぁ流石に女神なんだしそんな短慮でバカな真似はしないでしょ」
いくら怒りっぽいお姉ちゃんでも戦争まではやらない。
やるなら一人で突っ込むわね、多分。
「さて、ま。今日のところはのんびりしましょ。明日は……明日決めましょ」
「はーい!」
何をするにしたってもう日は沈んでいる。
それからその晩は特に目立ったこともなく、わたしとイオンは暫くのんびりとするのだった。
「ふぁ……ねむ……」
「……んゆぅ〜……」
プラネテューヌから強敵を倒しつつラステイションに、そのまま直ぐにルウィーへ。なんて旅路は思いのほか疲れを溜め込んでいたらしく、二人揃ってぐっすり眠っていた。
「あ゙〜……ほら、いおん……しゃきっとして、きがえるわよ……」
「ふみゃ……うー、まだねむい〜……」
二度寝しないよう声をかけつつ、支度を始める。
水で顔洗えば多少は目も覚めてて、残りの着替えと髪の手入れを済ませるべく戻ってきてみれば、半分くらいねながらもゴーストらに着替えを手伝って貰っているイオンがいた。
滅茶苦茶世話焼かれてる……世話焼きなのか過保護なのか……過保護か。
……
「ああ、もう。ほら、髪やってあげるから、貸しなさい」
だからって相変わらず髪を乱暴に梳かしてるのは見てられなかったので、ゴーストから櫛を取り上げてイオンの髪を梳かしてやる。
真っ白な髪は、近くで見ると透き通って見える程に綺麗だった。
「ほんと、わたしも人に言えるほどオシャレに気を使ってる訳じゃないけど、素が良いんだしもうちょっとちゃんとした方がいいわよ?」
言いながらさっさと髪を整えていく。……なんとなく周りのゴーストも同意するように頷いてるような……?
ちなみに、こうやって髪を梳かしてやるのは初めてでもなく、最早一種の日常化している。描写は飛んでるけど数年一緒にいるからね。
「んぇー……めんどくさいー……あとねむいー……」
「あんたほんと寝起きサイアクよね……朝ごはん抜きにするわよ?」
「ごはん!!!」
「うわっ、暴れないでよ!!」
ご飯という言葉に反応してばっと目覚めたように声を上げるイオン。
これもイオンの徳地のひとつ、食欲が凄い。お菓子類とかはさらに。
そういう所が子供っぽいのよね。
言うと大体「エストちゃんの方がホントは子供でしょ! 背とか!」って言われるけど。
で、身だしなみを整えて朝ごはんも終えて、
わたし達は漸く宿の外へと出てきていた。
「さて、じゃあまずは……」
「ギルド! でしょ?」
「そうなるわね」
一応冒険者という体を取っているわたし達だから、やる事と言えばまずギルドに向かう事になる。
クエストやら情報やら、とりあえずそこに行けば集まる事が多いしね。
まぁまずはギルドの場所を聞くことからなんだけど。
──なんて、イオンと一緒にギルドを探そうとしていた時だった。
まだ昼前だと言うのに、空を一条の光が流れて行った。
「わ、なんか今空に!」
「──あれは」
普通なら……イオンからすれば、謎の光が、と言うだけの話になる所。
でもわたしには今のがなんだったのか、何となくだけど……
「……ふぉっ!? エストちゃん!?」
確証は得ていないものの、
イオンを置き去りに、光の飛んで行った先へと駆け出した。
間違いない。あの光は、
つまり、あれは──
「はぁっ……はぁっ……!」
全速力で街を飛び出し、モンスターはガン無視して、走り続けて……
途中でどっちに飛んで行ったかわからなくなりそうになりながらもどうにか走り続けると、運が良かったのか、わたしの想像通りの姿を見つけることができた。
水色の髪に、白いボディスーツのような姿。
間違いない、あの姿は……
「こっちの、おねーちゃん……!」
ノワールさんがいたから、もしかしたらルウィーの女神は……と思っていたけど、
おねーちゃんがいるってことは、ルウィーの女神はやっぱりおねーちゃんなんだろう。
……よく見るとプロセッサユニットのデザインが違うけどね。
息を整えながら、見つからないようにと物陰に身を隠す。
そもそもおねーちゃんはこんな所に一人でなにをしに来たのか。女神化して飛んできたってことは何か急ぎの用事かしら。何かを待ってる?
待たされてるのか、すごくイライラしてるっぽいけど。……変身してるからなおのこと沸点低い状態よね、あれ。
「くそっ! いつまで待たせやがんだよ! お陰で頭が冷えて来ちまったじゃねーか。……勢いできちまったものの、こっからどーすればいいんだか……」
あ、でもなんか微妙にクールダウンし始めてるっぽい。にしても独り言おっきいなぁ。
「まさか本当に力づくでぶっとばすって訳にもいかねーし…………あぁー! なんで私がこんな悩まなきゃなんねーんだ!! それもこれもラステイションの女神が……」
うーん、一人漫才?
いや、誰かに待たされてるのはわかるけど。ラステイションの女神って言ったけどまさかノワールさんでも呼び出したのかしら。カチコミ? タイマン? 体育館裏?
「……はぁ、帰っちまおーかな。会う前ならいくらでも言い訳できるだろーし……」
あ、でもなんか凄いテンション下がってるわね。変身してるのに珍しい。
とか何とか珍しがっていると、向こう側から誰かがやってきたみたい。
ゆらゆらと白いツインテールを揺らして、自信の塊見たいなポーズをした女神。
なんか見た目大分違うけど、あれノワールさんよね。
「お待たせー。来てあげたわよ」
「げっ! 今来やがんのかよ……間のわりー奴だな」
「げっ! って何よ。人の顔を見るなり、失礼ね」
半分くらい帰る気になってたところでやってこられて、おねーちゃんも凄く困ってるみたい。
そこからはホワイトハートとブラックハート(あっちがそう名乗ってたからノワールさん確定ね)がお互いにバチバチ火花を散らして挑発するような言葉を並べていく。
おねーちゃんはまぁ、変わらないなぁって感じだけど、ノワールさんの方はなんていうか……
……わたしと気が合うことは無さそうね、あれは。
ちなみにノワールさんの後ろの方にはネプテューヌさんとあの時のほわーっとした人(プラネテューヌの女神らしい)が隠れて……るつもりなのかしら。滅茶苦茶二人で騒いでおねーちゃんにも気づかれてるけど。
で、どうやらこんなところまで呼び出されたのはあっちの方で、おねーちゃんは流石に交流のない他国の女神だからとこんな所で会ってるらしく。
ノワールさんがおねーちゃんに呼び出した理由を聞くものの、おねーちゃんはどもってばっかり。
だんだんノワールさんがイライラしだしたと思ったところで、
「ブラックハート様ー! 大変です、一大事です!!」
あっちの兵士の人かな、が慌てた様子でやってきて、なんでもラステイションのゲーム工場が襲撃されたと報告。
ノワールさんとネプテューヌさんらはそっちの対処に向かう為に帰って、結局おねーちゃんの目的はわからず終い。
「うあああああ! 本当に何しに来たんだ私はよぉ!!?」
一人取り残されたお姉ちゃんは向ける先のない怒りを爆発させていた。
……あれ? というかわたしも、なんでおねーちゃんを追いかけて来たんだっけ。
おねーちゃんらしき光を見てつい衝動的に? おねーちゃんのこと言えないじゃない!
「あ、いたー!」
とか考えていると、後ろから聞きなれた声が。
振り向いてみれば、大きめのゴーストに乗ったイオンがわたしを指さして、もぉー! と怒った様子で近づいてきた。
「エストちゃん! 急にどっか行かないでよー、びっくりしたんだよ!」
「あ、ああ。悪かったわね。……っていうかそんなの乗って大丈夫なの?」
「ちゃんと街出てから乗ったもん!」
謝りながら人目が気になって聞いてみれば、ちゃんとその辺は気にしてたらしい。
いや、イオンじゃなくて周りのゴーストが気をつけたのかしら。どっちでもいいけど。
「……おい」
で、まぁ。イオンの元気な声は良く通る声なわけで。
いくら物陰にいたとはいえ、そんなに騒いだらこうなる事も必然になるわけで。
別の声がした方を振り返れば、仁王立ちで不審なものを見る視線を向けたホワイトハートこと、おねーちゃんが。
「げっ」
「げっ、とは何だ。……さっきやった気がするな、これ。……まぁいい、お前、何者だ?」
キッ、と鋭い目でこちらを射抜くように見つめるおねーちゃん。
これは、あれね。怒られる時に似た感覚。今は初対面だけど。
「ええと、通りすがりの冒険者……? ライセンスもある……あり、ますし」
「ふぅん……?」
普段通りに喋りそうになったのを直しながらささっとギルドカードを出せば、じろじろと格好を見られる。
ギルドカードは本物なんだから、あとは近くを通ったら声が聞こえたからとでも適当にでっちあげる。
それでも疑いの目は晴れなかったけど、おねーちゃんの視線がイオンを捉えると何かに気づいたような表情に変わった。
「……? お前……」
「? なに? ボクがなにー?」
「…………いや、なんでもねぇ。気のせいだった」
何か知ってるような口ぶりでイオンを見つめていたけど、すぐにそう言って視線をわたしに戻すおねーちゃん。
どういうこと? おねーちゃんはイオンの事を知っている……?
でもイオンはこの数年ずっとわたしと居たはず……そうなるとわたしがイオンと出会う前……?
「ま、素性は把握した。けどな、あんまり妙な事に首突っ込むのはやめた方が身のためだぜ」
「…………」
「おい……聞いてんのか?」
「えっ? あ、はい。なんですか?」
「…………」
まずった。考え事してたせいでぜんっぜん聞いてなかった。
お姉ちゃんがすごい微妙な顔してる……怒らせた?
「……お前、いい度胸してるな。それともまさか私が女神だって知らないわけじゃねぇよな?」
「それは……そんな特徴的な格好してる人なんて、そうそうい……ませんし」
「ハハハッ! そうか、まぁそりゃそうだな」
さっきからついつい普通に話しそうになってるのは、見た目と声だけはおねーちゃんなせいかもしれない。
でもおねーちゃんは何故か笑って、怒ってる訳では無いらしい。
「怒ってるわけでは……?」
「ん? ああ、そんくらいで怒りはしねーよ。それよりなんつーか、アイツら含めて敬語使って敬われないで話す相手ってのが久々でな」
「あぁ……女神様ですしね」
それも今まで一人だけだったのなら尚更。
わたしの知ってるおねーちゃんにはわたし達やロムちゃん、ラムがいたけど、こっちのおねーちゃんにはいないのかしら。
「無理に敬語で話さなくていい、私としてもそっちの方がいいし」
「え? ……後から不敬罪とか言わない?」
「言わねーよ。むしろ敬語で話されると気が抜けねぇっていうか……それにお前はなんか他人の様な気がしないんだよ」
そりゃ、次元は違ってもルウィーの女神だもん。シェアエネルギーそのものは同じようなものだし、わたしが飛んでくおねーちゃんを見てすぐ分かったようにそう感じるのもわからなくはない。
……ま、おねーちゃんがこう言ってるなら、いっか。
「なら、普通に話すけど」
「おう。お前ら、名前は?」
するとおねーちゃんがわたし達の名前を聞いてきた。
さっきより大分警戒薄れてる気がするし、ルウィーシェアのおかげかしら。
「わたしはエスト。こっちは」
「イオンだよ」
「で、あなたは女神ホワイトハート……様。で、あってるのよね?」
「ああ。私がルウィーの女神、ホワイトハートだ。様もつけなくていいからな?」
そう言って微笑むおねーちゃんは、身にまとう物こそ違うものの、わたしの知っているおねーちゃんと同じで。
わたしの方までなんだか気が抜けてしまっていた。
「あー、まぁ自己紹介はいいんだけど。そろそろ戻らなくて大丈夫?」
「っと、そういや結構空けちまってるから、そろそろ心配されそうだな」
わたしがそう指摘すれば、プロセッサユニットを展開してふわりと宙に浮かぶおねーちゃん。
「ほんの少しでもタメで話せて良かったぜ。またどこかでな!」
「あ、ああ、うん。またがあるかわからないけど」
そしてそのまま飛翔して、ルウィーの方角へと帰って行った。
……うーん、おねーちゃん、女神業で鬱屈してたりするのかな、別にわたし達何もしてないのに。
「……そういえばイオン、やけに静かだったわね」
で、もう一つ気になってた事。
さっきからイオンがすごく大人しい事に対して突っ込みを入れてみる。
飛んでいくおねーちゃんをぼぉっと見つめていたイオンに声をかけてやれば「ふぇっ?」と驚いてこちらを見てきた。
「あ、えっと、んーっと……ふーちゃん達が、女神なんかとはあんまり話すなって」
「ふぅん? 女神苦手なんだっけ、イオン達って」
「うん……」
いつもの元気がなく、しゅんとした様子で頷くイオン。
イオンとイオンを取り巻く幽霊達は、女神に対して良い感情を持ってないらしい。
理由はイオン自身はなんか苦手らしいけど、幽霊達まで嫌ってる理由は流石にわたしにはわからない。声聞こえないし。
「でも、わたしも女神よ?」
「エストちゃんは良い女神だってわかってるからへーきだもん!」
「女神って大体良いものじゃないの?」
「それは……うーん……悪い女神もいるよ! 多分!」
イオン自身記憶が曖昧なのか、それともないのかふわふわした答えを返してくる。
というかその言い回しは昔を思い出して胸がズキリとするから勘弁してほしい。……知らないイオンに言うのはお門違いだけど。
「ふぅん……さて、ま。ちょっと色々あったけどわたし達もお仕事しましょうか」
「急に走って行ったのはエストちゃんでしょー」
「あはは、ごめんごめん」
そんなわけで、到着して初日からドタバタとした朝を迎えながら、
わたし達はルウィーに滞在し始めたのだった。
時間は少し遡り、七賢人のアジトにて。
「ええええ!? そ、それでルウィーの女神ラステイションに!?」
「ああ、向かってしまったのう。まだ着くには時間がかかるじゃろうが」
ルウィーに潜伏していたアクダイジーンと呼ばれる男とアブネスと呼ばれる少女が、ルウィーの女神がラステイションへ向けて飛び出した事を報告していた。
「たた、大変じゃないですか! どど、どうしましょうどうしましょうー!」
「慌てなくてもいいじゃない。これで女神同士潰し合ってくれればこっちにとっては有益になるんだから」
「そんな簡単な事じゃないですよぉ! どっちの女神が負けてもその国に住む人たちは大変なことになっちゃうし、それ以前に戦争になっちゃうかもしれないんですよ!?」
そんな報告を受けてわたわたと慌てる女性──キセイジョウ・レイ。
彼女こそが、この七賢人のトップである。
「戦争? 良い響きだ……武者震いがするなあ!」
「願ってもない展開じゃないか。人間同士が醜く潰し合う……最高だ!」
取り乱すレイに反して逆に喜びを露わにする、大きなロボットのコピリーエースと、
以前遺跡で女神達と相対したマジェコンヌ。
そんな二人を見て、レイはさらに顔を青くしていく。
「……ボクも、ロボットさんとオバサンと同じ気持ちだよ。人間も女神も、みんな死んじゃえばいいんだ」
そして、陰鬱な表情、ぼそぼそとした声で気性の荒い二人に同意する少女がいた。
「だぁれがオバサンだ! クソガキ、言葉は選ぶんだな」
「……どうでもいい」
「コイツ……!」
「あーあーあー! 今それどころじゃないんですからケンカなんてしないでくださいよぅ!」
少女の言葉にマジェコンヌは怒りと殺気を向けるが、少女は興味ないとでも言いたげにそっぽを向く。
そんな二人をみて珍しく気弱なレイが声を荒げるものの、マジェコンヌがキッと睨みつけると「ひぃっ!」と委縮してしまった。
「黙れ! そもそもなんでこんなガキがこんなところにいるんだ? いつからここは託児所になったんだ!」
「ちょっと! 幼女への暴言はアブネスちゃんが許さ──」
そして子供がアジトにいることに関して不満を漏らし始めるマジェコンヌに、幼女への暴言に反応したアブネスが口を挟もうとした所で、
「おい」
その場に低く、冷え切った声が響き、マジェコンヌに向けて薄紫の刃を向ける人物がいた。
「それ以上言って見ろ、その時はワタシがこの場でキサマを八つ裂きにしてやる」
「ほう……貴様、いい度胸じゃないか」
漆黒の如く昏い髪の目元だけを隠すような仮面をつけた、陰鬱そうな少女よりは背丈の高い少女は、少女をかばう様に前に立ち、身の丈程の抜き身の大太刀を向けながらマジェコンヌへ殺気を放っている。
それに対してマジェコンヌも手に杖を喚び出し、一触即発の空気となった。
「はいはい、二人ともそこまでよ。こんなところで喧嘩なんてやめて頂戴」
そんな空気を破ったのは、男性声で女性口調で喋る、ピンク色のパワードスーツに身を包んだアノネデスと呼ばれる人物だった。
「……チッ」
「……フン」
横槍を入れられてか、マジェコンヌと仮面の少女は面白く無さげに武器をしまった。
「……あんなの、ほっとけばいいのに」
「ワタシはお前が心配なだけだ」
「相変わらずの子煩悩ねぇ……ま、いいわ。それよりちょっーっとやっつけな作戦だけど、この状況を利用する手を一つ思いついたのよ」
やれやれといった様子で仮面の少女を一瞥しながら、アノネデスは話を本題に戻しつつ、コピリエースへと視線を向ける。
「コピリーちゃん、あなたそろそろ暴れたいってこぼしてたわよね?」
「ああ。……ではついに俺様の出番か!?」
「……なんで女神なんか、人間なんか生かそうとするんだろう。早くみんな殺しちゃえばいいのに……」
アノネデスがコピリーエースに作戦を伝え始めた辺りから、少女は興味を失くしたようにその場から離れながら呟いた。
「女神は純粋に強く、人間は狡知に長ける。そう簡単に事が進むものでもないのだろう」
「でも、あの人達は新しいシハイシャになりたがってるんじゃないの……? ボク、そんなの興味ないよ……」
「その時は、奴等をも殺すだけだ」
少女の後に続きながら、仮面の少女は七賢人への忠誠など皆無な発言をした。
「……そう、だね」
「いずれ、
「うん……」
仮面の少女の言葉に頷く少女。
その瞳には光などなく、全てに絶望したかのような闇を湛えていた。
「……みんなボクを悲しませる……だから、みんなにも悲しくなってもらうんだ。……ね、
「……ああ」
……ちょっと出てくるの早すぎたかな?
でも神次元編は何となく短く終わりそうな気がしてたりするんですよね。時間すっ飛ぶしまずネプパーティにいませんし。