幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
ネプテューヌさん達を助け出した後、わたし達はお姉ちゃんの指示で警備が少ない代わりにモンスターが巣食ってる地下洞窟を進んでいく(道中改めてノワールさんと自己紹介を交わしたりもした)
お姉ちゃんは今まともに戦える状態じゃないから、道中のモンスターはわたし、イオン、ネプテューヌちゃん、ノワールさん、プルルートさんの五人で相手をする。
「で、なんだけど。ブランの為にこの国取り返すーってのはいいんだけど、どーやんの?」
ゴーレムみたいな岩のモンスターを撃破したところで、ネプテューヌちゃんがそんなことを言いだした。
「それはぁ、えっと~……ど~するの? ノワールちゃん」
「私に聞くの!?」
「え、何か考えがあるんじゃなかったの?」
まさか何も考えずにとりあえず脱出するだけのつもりだったの……?
「……本当に漫才みたいね、あなた達の会話は」
「そう思うんなら、ツッコミに回ってもらえると助かるんだけど」
「……わたしは観客で満足よ」
「ツッコミ! ボクやってみたい!」
「混ざろうとしなくていいから! あなたどっちかっていうとボケ側でしょ!?」
お姉ちゃんがそういうのも最もだけど、変身したら一部ボケとツッコミが入れ替わってそうだな、なんてさっきの生放送を思い出しながら考えていた。
とりあえずイオンは混ざろうとしないの。
「むぅー」
「ねーねーノワールー」
「ノワールちゃんってば~」
「あー、うるさい! 今考えてるから、少し黙って!」
プラネ女神組に急かされて、ノワールさんは真面目な表情で考え込み始める。
「んー……今更普通に大臣を倒したところで、あんまり意味はないし……」
「そう、ね……そうしても、わたしのシェアは失われたまま……」
「だよねー。全国放送で思いっきりわたし達に負けちゃったんだもんねー」
「……あまり思い出させないでくれねーかしら?」
「ブランちゃん~、喋り方おかしくなってるよ~?」
ネプテューヌちゃん達の漫才は置いといて、その大臣とかいうのを普通にぶっ飛ばしたところで意味が薄いのは確か。
だって倒したところで誰かが見てるわけでもないし。……ん?
「んんー? それならさっきみたいに、悪いおっさんをやっつけるところをなまほーそー? するのはー? そしたらまたみんな見てくれると思う!」
「……それよ! 確かあの大臣、政見放送するとか言ってたわよね」
「政見放送……? 随分と手回しのいいことね……ざけやがって……!」
「また混ざってる混ざってる」
政見放送……ってことはさっきの要領でまた全国放送する予定が既に組まれてるってことか。
ははぁ、なるほどね。
「それならその政見放送しようとしてるとこに乗り込んで、ブランおねーさんをハメたこととかバラしちゃえば……」
「……全て、ひっくりかえるわね」
「おお~、ノワールちゃん頭いい~。イオンちゃんもえら~い♪」
「た、大したことないわよ」
「えへへ~」
プルルートさんがノワールさんを褒めながらイオンの頭を撫でている。
子ども扱いしたら怒るけど撫でられるのは好きみたいなのよね、イオンって。
「まあ、頭脳派かと思ったどこかの国の女神様は、この程度の事も思いつかなかったみたいだけどね」
「え? や、やだなー。頭脳派なんて初めて言われたよ。もー、ノワールってば褒め上手なんだから!」
「うん、あなたのことじゃないから。100%あり得ないから」
「……あんまり調子乗んなよ。わたしは今、本調子じゃねーだけだからな」
「はいはい。分かりやすい負け惜しみだけど、今はそういうことにしといてあげるわ」
「……てめー……っ!」
ただわたしとしてはノワールさんは苦手な部類。ここまで話しててなんとなく分かったけど、こうやっていちいちお姉ちゃんを貶す発言が目立つのよね。
このお姉ちゃんとは他人同士とはいえ、お姉ちゃんとおんなじ顔の人が貶されるのは面白くない。
「もぉ~、ケンカしちゃだめだよぉ」
「ケンカするほどの仲になったつもりはないわよ。プルルートの頼みだから、この件だけは手伝ってあげるけどね」
「……くそっ、こんな奴に借りを作っちまうなんて……」
「ほーんとでっかい貸しよねー。国を奪われた情けない女神様の尻拭いなんてねー」
…………。こいつ斬りたい。斬っちゃだめかな? ちょっとくらいいいよね?
「反撃の案に関しては良いとは思うけど、いちいちそーやってブランおねーさんに嫌味言うくらいなら、あんただけ帰ってもいいわよ」
「……なんですって?」
「ちょっ、エストちゃん……?」
我慢できずに思わずそう言うと、ノワールさんから鋭い視線を向けられる。ついでにネプテューヌちゃんからも困惑した視線。
はっ、言っちゃった。まぁいっか、実際思ってた事だし。
「聞こえなかったの? 嫌味女神サマなんていなくたって平気だって言ったの。耳遠いの?」
「……あなた、ネプテューヌの知り合いだからってあんまり調子に乗るんじゃないわよ」
「ハァ? 調子に乗ってるのはあんたの方でしょ? そもそもあんた一人で勝ったならまだしも、三人がかりでボコってそれでも辛勝だった癖に。よくそれでそんな偉そうにできるよね、逆にすごいわ」
「この、いい加減に……!」
我慢の限界だと言わんばかりに睨みつけてくるノワールさんに、冷え切った眼差しを向け続ける。
わたしだって、ユニちゃんの姉でもあるノワールさんに対してはある程度の尊敬とかそういう感情はある。あるけど、この人はダメだ。わたしはこの人とはきっと仲良くなれない。
「えー、ネプテューヌですがパーティー内の空気がこれでもかってくらい最悪です。原作ゲームよりひどいかもしれないねこれ」
「え、エストちゃん言い過ぎ! ケンカはダメだよー!」
「そ~だよ~、ケンカはダ~メ~!」
流石に険悪すぎる空気にまずいと思ったらしいイオンが止めに入ってくる。ノワールさんの方にはプルルートさんが。ネプテューヌちゃんは心なしか目が死んでる。
……確かにこんなところで無駄な時間を使ってる場合じゃないわね、はぁ。頭に血が上ってたみたい。
「ふん。さっさと終わらせるわよ、こんな奴の手伝いなんて」
「……こっちの台詞よ。あなたなんかとは一秒でも一緒にいたくないわ」
結果的にノワールさんとお姉ちゃん&わたしとの間の空気が最悪な状態になったわけだけど、それでもノワールさんは一応ついてくるらしい。というより、プルルートさんが手伝う気だから付いてきてるだけっぽいのかしら。
あーあ。せっかく合法で斬りあえるチャンスだったのに
「……ねぇ」
そんな重っ苦しい空気の中(原因の一人わたしだけど)、お姉ちゃんがわたしに声をかけてきた。
「なに?」
「……どうして、あんなこと言いだしたの? あなたが怒る話じゃなかったと思うけれど」
ああ、わたしがお姉ちゃんを庇うみたいに口挟んだのが気になるんだ、そりゃそっか。こっちじゃ他人だもんね。
「別にー、気に入らなかっただけ。っていうか初めて会った時からなんか上から目線なのが気に食わないのよ、あの人」
「……それは、まぁ、確かにそうね。わたしにもぽっと出の女神のくせに、上から目線で話すし」
「その辺は多分ブランおねーさんの方にも驕りがあるかもだからあんまり口出しできないけど」
「うぐっ」
「ま、とにかく。あの人の場合ねちねちねちねち嫌味が陰湿でしつこいのよ。だからちょっとイラっとしたってだけ。別に、ブランおねーさんを庇うためとかじゃないわよ」
「……そう」
実際、遺跡で出会ったときもわたしの持ってる女神メモリーを何の説明もなくただ寄こせだの、わたしみたいなのが持つべきものじゃないだの、どっから目線でもの言ってるのよ、ってね。
それはそれとして、流石に今回のは自己評価でも褒められたことじゃない。もっと自分の感情を抑え込めるようにしなくっちゃね……
「ありがと」
「……カッとなって言っちゃった事で、お礼言われる程良い事したとは思ってないけど」
「それでも、よ」
「……そ」
「エストちゃん、ほらっ。えっと……ブランさんも、いこー?」
イオンに手を引かれながら、反省と頭を冷やすように努めながら、地下洞窟を進んでいった。
ちぇ、つまんないの
さて、そんなこんなでネプテューヌちゃんが言ったようにパーティー内の空気が最悪なままルウィー城内を進んでいくわたし達。
戦闘時もネプテューヌちゃん、ノワールさん、プルルートさんと、お姉ちゃんを守るように立ち回るわたし、イオンの二グループに半ば分かれて戦うような形になっていた。
ネプテューヌちゃん、プルルートさん、イオンからの視線が時々刺さる。でもごめんね、わたしはノワールさんに謝る気は一切ないの。
まぁ、空気が最悪なこと以外は特に問題もなく、城の奥の方まで警備兵とモンスターを蹴散らしてやってきたと。
「……あっ! あそこ!」
「しっ! ……暫く様子を見るわよ」
そして城の中庭にカメラやらが集まってる場所を見つけた。
ノワールさんに従って物陰に身を隠しつつ様子を見てみると、カメラの近くに見覚えのあるネズミと、そして白髪のおじさんが何やら唸っている姿が。
「むう、いかんのう。どうもバランスが……むむう」
「いい加減にするっちゅ! いつまで待たせれば気が済むっちゅか!?」
「そう急かすな。全国民の前に姿を見せる大舞台なんじゃ。髪型くらい、びしっと決めておかんと……」
ふぅん、カメラもあるし、あのおっさんが大臣で間違いなさそうね。
ははぁ、随分と余裕ぶっちゃってまぁ。
「あれが話に聞いてた大臣で間違いない?」
「うん、あのおっさんで間違いないよ!」
「……それに、政見放送にも間に合ったようね」
「おー、それじゃあ突撃っ?」
「ええ、そうね。行きましょ。私達をハメたこと、後悔させてやるんだから」
「お~!」
標的と絶好のシチュエーションな事を確認して、わたし達は大臣達のいる中庭へと乗り込む。
「こうやってぐずぐずしてる間にあのドS女神が牢から抜け出して来たらと思うと……」
「ふふん、無用な心配じゃわい。あの牢は長年女神に仕えたわしが拵えた特製品。いくら女神共が束になろうと、抜け出すことなど断じて──」
「ネズミさん~、やっほ~♪」
「ぢゅ──っ!? や、やっぱりー!!」
にこにこほわほわ笑顔のプルルートさんが声をかけると、ネズミの尻尾がピーンと立って悲鳴が上がる。
どんだけプルルートさん苦手なのよ。……あ、そういえば遺跡で変身したプルルートさんにあいつの事引き渡してたっけ。
「どうやら間に合ったみたいね」
「大臣……!」
「ぬうっ!? 女神共……まさかあの牢を脱出してきたというのか!?」
「そりゃ、いくら牢屋が頑丈だって鍵があればヨユーよ、ヨユー」
「それに牢に閉じ込めたーって時点でゲーム的には脱出フラグが立っちゃってるしね。これは小説だけど」
「むう! 言われてみれば……わしとしたことが、なんと迂闊な……!」
え、そのメタ発言の方で納得すんの?
「だから言わんこっちゃないっちゅ! お、おいらは知らないっちゅよ! 一足先に逃げさせて──」
「そうは問屋が卸さないわ。プルルート!」
「はぁ~い」
「イオン、逃がさないように手伝っちゃいなさい」
「はーいっ! みんなー、あのネズミを捕まえて! 食べちゃダメだよ!」
ノワールさんがプルルートさんに指示をするのと同時に、わたしもイオンに指示を飛ばす。
「……む? あの小娘は……」
「……?」
その時、大臣がイオンの事を見て何か呟いているのを、わたしは見逃さなかった。
わたしの指示を了承したイオンが手にしたギターを鳴らしてゴーストウルフを操ると、ネズミが足元から出てきた狼口に咥えこまれた。
「おわーちゅ!? く、食われるっちゅー!!」
「プルルートさん! 捕まえたよー!」
「ありがと~イオンちゃん~。それぇ~」
そして狼に捕まったネズミにプルルートさんが歩み寄りながら変身して、ネズミを捕獲する。
「はぁい。ネズミさん、つぅかまぁえたぁ……♪」
「ぢゅー! は、離して! 離すっちゅー!」
「暴れちゃだぁめ。大人しくしてれば痛くしないからぁ……」
うぅん、放送の時もちょっと思ったけど見た目も言動も生で見ると大分アレよねプルルートさん。
全国放送されて子供に悪影響とかになってないかしら?
プルルートさんが捕獲したネズミにカメラを回すように脅し……もとい、お願いして、続けてネプテューヌさんも変身する。
「ちい、そういうことか……考えたものですなあ、ブラン様」
「……覚悟しろ。てめーだけはぜってー許さねー」
「おお、怖い怖い。しかし、あれ程忌み嫌っていた女神共に協力を仰ぐとは、節操のない事で」
「う、うるせー! こーなったのもてめーのせいで……」
大臣に挑発されたお姉ちゃんの言葉を遮るように、杖を振るって大臣の足元を軽く爆破させる。
「ひぃっ!?」
「御託は良いのよ、こっちだって端からあんたが素直に従うと思ってないんだから」
「そうね。それに私だって、別にルウィーの女神に協力してるわけじゃないわ。──私自身が、あなたを思いっきりぶっ飛ばしてやりたいだけよ!」
ノワールさんも変身して、戦闘準備万端とばかりに大剣を構える。
これでこっちサイドは完全に戦闘態勢に入ったことになる。え? わたしは変身しないのかって? するまでもないでしょ、これだけ戦力あるんだから。
あとこの状況でわたしが女神っていうのはなんかめんどくさい事になりそうだし、ネプテューヌちゃんにもまだ伏せて置いてって伝えてある。
「こちらは女神四人に実力のある二人も合わせて六人……一応聞いてあげるけれど、降参するなら今の内よ」
「……!」
「ちょっ、ネプテューヌちゃん!」
ネプテューヌちゃんの発言に思わず声が出た。
だって、ネプテューヌちゃんは多分女神のカウントにお姉ちゃんを入れてるんだろうけど、お姉ちゃんは今……
「え? どうし……あ……」
「…………」
「ネズミさん、カメラまだよ」
「りょ、了解っちゅ!」
「ちょっと、ぐずぐずしてないでさっさと変身しなさいよ! こっちはあなたの国の為にやってるのよ!」
「何言ってるのよ! あんたさっき自分達でブランおねーさんをぶっ飛ばした時見てたでしょ! 今のおねーさんには信仰がないのよ!」
分かってないのかお姉ちゃんを急かすノワールさんに叫ぶ。
するとノワールさんも理解したのか、バツが悪そうな顔をした。
「でしょうなあ。先ほどの戦いを見て、なお貴様を信仰する物好きなど一人もおるまいて。いやはや、信仰がなくては変身もままならないとは。不便なものじゃなあ! 女神の力とは!」
「くっ……!」
「だったらなんだって言うのよ。別にルウィーの女神がいなくたって、私達で楽勝なんだけど?」
「……そうした場合、ルウィーの国民達はわたし達三人のいずれかを信仰するようになるでしょうね。結果、ルウィーは自然消滅し、ブランは完全に女神としての力を失う……」
「あ……そっか……」
「ふぅん。ブランちゃん、変身できないんだぁ……」
「ぐふふふふ。それでもいいと言うなら、好きにするがいい! 女神自身の手で、ルウィーに幕を降ろしたいと言うのならばなあ!」
そうだった……結局この作戦は、ホワイトハートがどうにかしないと上手く行かないんだ。
でも、今のお姉ちゃんは信仰がなくて変身できない……このままじゃ、ダメだ。
「くっ……なんなんだよ、この状況……わたしが足を引っ張るなんて……わたしのせいで……」
「ブラン、お姉ちゃん……」
ネプテューヌちゃん達がどうするか話し合っている。お姉ちゃんが悔しそうに拳を握り締めている。
一つだけ、どうにかなるかもしれない方法がある。
でも、これをしたら今までみたいにこそこそと情報を集めたりするのはできなくなる。七賢人にも警戒される。
けど、
それならやるべきことは、一つ。
「──イオン!」
「ふぇい!?」
わたしがイオンの名前を呼ぶと、急に呼ばれてびっくりした様子のイオンが答える。
「わたしの事、信じてくれてるよね!」
「え? う、うん!」
「女神だって言っても、信じてくれるのよね!?」
「……うん! だってエストちゃんは、ボクの友達だから!」
「ありがと! イオン! わたしもあんたのことは友達だって思ってるから!」
イオンとの短いやり取りを経て、わたしは一つの水晶を取り出す。
「エストちゃん、何を……」
「……! それ、女神メモリー……?!」
「……まさか!」
ネプテューヌちゃんとお姉ちゃんがわたしの手にした
そしてわたしは、それを一息に飲み込んだ。
既に女神化ができるわたしにとっては一見無意味に思える行動……けれど、これによってわたしは、この国とシェアの
「……本当なら、この名前はもう名乗るべきじゃないってわかってる。けど、あえて名乗らせてもらうわ」
身体を包む光。それは微かで弱い力だけれど、確かな
イオンからの信頼という信仰の力が、わたしの……
「──ルウィーの
もう名乗ることはきっとないと思っていたその名前を名乗りながら、わたしはこの次元のルウィーの女神候補生として、ここに誕生した。
一応言い訳じみた事を言いますと
・激神ノワール序盤でノワールが秘書官ひとりの信仰で変身してた(うろ覚え)ので、これでもいけるだろうという考え。
・エストは候補生時代に女神であることをやめたため、女神メモリーを使っても候補生としての力しか発現しなかった
…って感じです!