幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
生きてるよ(生存報告)
はい。リアルのゴタゴタとか、ウマ娘とか、NGSとか、スランプとか、原神とかでかーなーりー期間開いちゃいましたが、生きてます。はい。
さて、いきなりだけど実は言ってなかったことがある。いつからだったかこっちに来てから眠ると時々妙な夢? を見るのよね。
そこは、暗くて、昏くて、ここにい続けたらこの暗闇に飲み込まれそうだと錯覚するような空間で、わたしが立っている場所を含めて青い光のようなものが、闇の中で辺りをぼんやりと照らしていた。
そんな光る足場の中央の方を見てみれば、いつも通りそこに"アイツ"は居た。
「……ま、また来た……来ないでって言ってるのに……」
真っ黒な、影が人の形をしたみたいなソイツは恐らくわたしの姿を見てそんな事を言う。ここの住民なのかどうかはわからないけど、この夢を見る時はアイツもセットなのが基本だ。
「そんな事言われてもね、寝たら勝手に来ちゃうんだから」
「じゃあ寝なければいい……」
「無茶言わないでよ……」
とまあ、彼女(姿形や声からして多分)は何かとこちらを敵視というか嫌ってるけれど、自分でも何故眠るとここに来るか分かってないからどうしようもない。
で、そんな感じで話しかけるな関わるなオーラ全開の影の女の子だけど、ここで目覚めるまで何もせず大人しくしてる……なんてことをわたしがする訳もなく、体育座りしている影の女の子の隣に座ってみれば、表情なんてわからない筈なのに物凄く嫌そうな顔でこっちを見てる気がした。
「……どうして横に来るの。戻れるまであっち行っててよ」
「えー、ヤダ」
「な、なんでぇ……」
そんな彼女にそう答えてやれば、ぶつぶつと文句を零し始める。気弱に見えて小声で毒を吐いてる子だけど、なにもできないのかする気がないのかこっちに襲いかかってくるようなことは一度もない。
というか、この場所自体が彼女以外に目立ったものがない。つまり──
「暇!!」
「ひぃ! 急に大きな声出さないでよ……!」
「あ、ごめん」
つい思ったことを叫んだら、怖がりなのか怒られてしまった。
「そんなことより、あんたは暇じゃないの? こんなところにずっといて」
「そんなことって……ボクだって、好きでいるわけじゃないのに……」
「あ、そうなの」
なんかの罰か拷問かなにかなのかしら……。
「……でも、別に外にも出たくない」
「それはどうして?」
「……ぇ。なんで話す前提で進めてるの……?」
「いいじゃんいいじゃん。わたし達の仲でしょ?」
「そっちが勝手に来るだけの関係だよぉ……うぅ……」
いくらこの夢みたいなものから覚めるまで暇だからって、内心自分でも面倒な絡み方をしていく。ただぼけーっとしてるのが嫌だったからっていう相手の事を考慮してない理由なんだけど。
「…………外になんか出れたって、嫌なものばかりに決まってる。だから、出れなくっても別に良いよ……」
「ふうん……?」
嫌なもの、ねぇ……。
「みんなみんな、ボクのことなんて嫌いなんだ。だからボクだって、全部──」
「……んむにゃ」
だんだんと慣れてきたこっちのルウィーのお布団での目覚め。
でもって何かリアルな夢を見ていた気がするけど思い出せない。最近こんなことばかりだ。
「疲れが取れてないのかなぁ」
ぐーっと伸びをしながら、思い出せないものはしょうがないしと気持ちを切り替える。
採掘場での一件の後、ネプテューヌちゃん達はリーンボックスへと向かってお姉ちゃんは採掘場の作業員達にお説教。
わたしは壊れたコピリーエースを運ぶように指示しつつ突然気を失ったイオンを運で帰って、それでルウィーでの七賢人騒動はひと段落ついた。
え? コピリーエースをどうしたのかって? それは後々わかるよ。お姉ちゃんにも(渋々って顔だったけど)許可貰ったし。
で、それから教会の修理も順調に進んで、お姉ちゃんはまたプラネテューヌに遊びに行った。とはいえ遊びにというよりは事後報告というか。各国の七賢人被害に関する情報共有みたいな感じなのかな。たぶん。
問題があるとすると、あれから数日してるにも関わらずイオンが寝たきりだって事くらいね。お医者様曰くただ眠ってるのと変わらないらしいけれど、少し心配だ。
イオンは教会の仕事やらを何かしてたって訳じゃないけど、あの性格だからマスコットみたいな存在だった訳で。いないと凄く静かに感じられる。
最も、それでも騒々しいのが増えたから静かなのは短い間だけだった。
「とりゃーっ!」
「甘いわっ!」
廊下を歩いている所で後ろからそんな声が聞こえてきて何かが突進して来る。それを躱して引っ掛けるように足を出してやれば、「ふぎゃっ!?」と悲鳴を上げながら倒れる襲撃者。すかさずその背に座ってやる。
「はぁ。不意討ちなのになんで掛け声出してくんのよ、あんたは」
「うあー! 乗るなー! 重いー!」
「ラムちゃん……」
下でじたばた暴れる襲撃者ラムを、ロムちゃんが「また失敗……」みたいな顔で見ている。
こんな風に、殺意は無いもののラムは時々こうして奇襲を仕掛けてくるようになった。ちなみにロムちゃんの方はラムの近くにいるくらいで無害……と見せかけてたまに仕掛けてくるから要注意よ。
「……あの。やっぱり、エストちゃん、元気ない……?」
「んぇ?」
とか言ってたらこれだもの。わたしの知ってるロムちゃんも時々こういうことあったし、そういう所までそっくりなのね。
や、そっくりと言うか生き方違うだけで同一人物なんだろうけど。
「んー、気の所為よ、きっと」
「そう……?」
「おーりーなーさーいーよー!!」
ただまぁ別に人に話す程の事でもないし、そこは笑って誤魔化しておいた。
「それで、何か用があって来たんじゃないの?」
「あ、うん……。エストちゃんに、お電話。ブランさまから……」
「お姉ちゃんから?」
下で暴れるラムはスルーしつつ、どうやらプラネテューヌに行ったお姉ちゃんからの連絡が来たらしい。
まだお姉ちゃんがあっちに行ってからそこまで経ってないし、何かあったのかな。なんて考えながらお姉ちゃんからの連絡を繋げる。
「はーい、こちらルウィーのエストちゃんでーす」
『……その様子だと、そっちでは何も起きていないようね』
「んん? なにそれ、何かあったの?」
『まぁ、ね』
連絡に応じればまるで何かがあったような言い方をしてきたから素直に聞いてみる。
すると帰ってきたのは、プラネテューヌの教会預かりのあの子供三人が攫われたらしい。
「って、一大事じゃん!?」
『そうね……これからプルルート達と、誘拐犯を追う事になったから、帰りが遅くなるかもしれないわ』
「それは構わないけど……わたしもそっち行く?」
誘拐なんて穏やかじゃない単語に驚きつつ、なんなら加勢に行くべきかと聞いてみれば、お姉ちゃんは『いいえ』と答えた。
『あの子、まだ目覚めて無いんでしょう? あの子が一番懐いてる貴女が離れる訳にはいかないでしょうに』
「う。それは、そう、だけどー」
お姉ちゃんが言う通り、まだ目覚めてないイオンを置いてくのは心配ではあるけど……。
『こっちは人数も揃っているし、心配無用よ』
「むー……油断だけはしないでよー?」
『ええ……わかってるわ』
すごく、ものすご──ーく不満だけど、イオンをほったらかしにしたまま出るわけにはいかないっていうのも事実なわけで。今回はお留守番ということになった。
……でもなんか、こうやってお姉ちゃんに置いて行かれるこの感覚、懐かしい感じがする。
他には情報共有として他二国であったらしい出来事を話してもらったところ、どれもこれも七賢人絡みだったみたい。
ラステイションでは盗聴騒ぎ。七賢人のアノネデスとかいうのがノワールさんの部屋に盗聴器をしかけてただとか。リーンボックスではなんか生理的嫌悪感のする妙なモンスターがいて、それは例のルウィーで色々やらかしていった七賢人のアクダイジーンって奴が何か関わってただとか。ルウィーではご存じの通り七賢人のコピリーエースが来てたと。あいつは……他の国より悪さをしてたと言い難いし、取り逃がしはせずに撃破、もとい鹵獲? したけども。
んで、今回プラネテューヌでの子供拉致事件。これも七賢人の仕業だとか。急に活発に動き始めたわね、あいつら。
ふーん……一応こっちも気を付けておくべきかな、元刺客二人にダウン中のが一人いるし。
「わかった。一応こっちもまたコピリーエースみたいなのが来たりしないか気を付けておくわ。だから安心して誘拐犯をボコボコにしてきてよね!」
『言われるまでも無いわ……。そっちこそ、気を抜かないように』
「はぁーい」
そんなわけでネプテューヌちゃん達との合流は無しに、実質お留守番となったエストちゃんなのでした。
実際ここんところキナ臭い事ばっかりだから別にいいんだけどね。なんかルウィーって乗っ取られやすいイメージがあるというか、そんな感じするし。なんとなく。
「そんなわけだから二人も気をつけなさいよね」
「どんなわけよ。っていうかわたし達が寝返るとか思わない訳?」
お姉ちゃんに言われたからじゃないけど、イオンの様子を見に向かう途中、一応一緒について来た見た目は子供な二人にも注意をしておく。そもそも寝返り組だけども。
「んー? 別にいいけど、戻ったっていい事無いと思うわよ。あっちは都市破壊に盗聴に誘拐までするような連中だし、何されるかわかったもんじゃない」
「む……わたしはともかくロムちゃんに何かされるのは嫌ね」
「ラムちゃんにも、だめだよ?」
でもラムの場合、ロムちゃんが絡むと大体こうなる。
……わたしもディールちゃん絡みだと人の事言えないのかもしれないけど、そこはまぁ、ほら、今は置いといて、ね?
「ま、流石にそう立て続けに来ることは無いと……」
「……ん? 何よ、急に黙って」
イオンが寝てる部屋の近くまで来て、ふと部屋の中から何か異様な気配を感じた。
声を出さずにラムに黙るように伝えて、こっそりと襖の隙間から中の様子を伺う。するとイオンが寝ている布団の横に、見慣れない何者かが立っていた。
あんな変な仮面をつけた人、ルウィーにいるなんて聞いてないし、侵入者?
怪しさ7割だし、この場合は……先手必勝!
スパンッ! と襖を開け放ち、すぐさま不審者へと肉薄。レムが近くにいないから、左手に魔力を纏わせ手刀で不審者へと斬りかかる!
けれど仮面の不審者は虚空から大きな太刀を出してきて、わたしの不意打ちはそれによって防がれてしまった。
「チッ」
「何者かは、捕まえてから──」
仕切り直すように少し距離を取って改めて相手を見据えた所で、気付いた。
──大分前になるんだけど、ラステイションで七賢人の一人と戦った時、ディールちゃんっぽい女の子がいたんだ
いつかネプテューヌちゃんが言っていた言葉が思い起こされる。
変な仮面をつけているし、背丈もこっちでの
こいつは──
「ディー、ちゃん……?」
絞り出すような声で名を呼ぶけれど、仮面の不審者はそれに応える事無くわたしに背を向けると、窓をぶち破って外へと飛び出して行ってしまう。
「ま、待っ……」
動揺を抑えつつ窓へと駆け寄り、外を見まわす。
けれどもう、あの仮面の不審者はどこにもいなかった。
「ちょ、ちょっと! いきなりなんなのよ! すっごい音もしたし……って、聞いてる?!」
「……エスト、ちゃん?」
後からラム達も部屋に入ってきて声をかけてくるけど、わたしはそれどころじゃなかった。ネプテューヌさんにそれらしいのがいるって聞いてたけど、実際目の前にしてわかった。
あれはディーちゃんだ。直感がそう告げている。
でも、だとしたらなんでわたしを見て逃げ出したのか? そもそもあの格好はなんなのか?
……本当に七賢人側についてるのか?
「わかんない……わかんないわよ……」
「ん、んんぅー……ふわ……あれ、エストちゃん達、なにしてるのぉ……?」
呆然として、イオンが目を覚ましたことにも気づかずに、わたしはしばらく立ち尽くしていた。