「…で、今に至る、と」
アイドル研究部の部室内。
μ'sのメンバー7人と僕が、向かい合って座っている。ちなみに、僕は自前のパソコンを開き作業中。
「今回の取材ではっきりしたでしょ?穂乃果はリーダーにまるで向いてないの」
「それはそうね」
にこに真姫が同意する。といっても、半分くらい聞いてないように見えるけれど。
「そうとなったら、早く決めた方がいいわね。PVもあるし」
「PV…」
「リーダーが変われば、必然的にセンターだって変わるでしょ」
「そうね」
真姫が再び同意。髪の毛をくるくるといじりながら、最早半分以上聞いてなさげだ。
「でも、誰が…?」
花陽が疑問を口にした。ほぼ同時ににこが立ち上がり、ホワイトボードを裏返す。
そこには『リーダーとは』と大きく書かれていた。すぐ下になにやら説明のようなものもある。いつの間に書いていたのやら。
「リーダーとは、まず第一に誰よりも熱い情熱を持って、皆を引っ張っていけること」
リーダーシップ、ということだろう。確かに穂乃果にそういったイメージはない。
「次に、精神的支柱になれるだけの懐の大きさを持った人間であること」
言い換えれば器、だろうか。穂乃果がリーダーの器があるかと問われれば、まあ、自信を持ってあるとは言えない。
「そして何より!メンバーから尊敬される存在であること!」
穂乃果の異常な寝つきの良さと行き当たりばったりさとポジティブさは尊敬に値すると思う。
「この条件を全て満たすメンバーとなると…」
「海未先輩かにゃ?」
「なんでやねん!」
見事にあてが外れ、にこは思わず関西弁で突っ込んだ。
そのツッコミすら完全無視で、海未をリーダーにどうかとメンバーの中で話が進む。
「私が?」
「そうだよ海未ちゃん!向いてるかも、リーダー!」
一応現リーダーのはずの穂乃果が同意する。穂乃果よ…お前本当にそれで…
「…それでいいのですか?」
「ほえ?なんで?」
「リーダーの座を奪われようとしているのですよ?」
「…それが?」
…どうやら意識がかなり違っているらしい。海未が呆れながらも言った。
「なにも感じないのですか?」
「だって、みんなでμ'sやっていくのは一緒でしょ?」
「でも!」
ここで意外なことに花陽が身を乗り出した。
「センターじゃなくなるかもですよ!?」
「おお!そうか…う〜ん…」
ここで初めて穂乃果が考え込む。というかお前さん自覚なかったんかい。
「…まあいいか!」
「「「「「「えぇぇっ!?」」」」」」
いいんだ…穂乃果は特にポジションの拘りはないようである。
皆が驚いていると、その穂乃果が話を更に進めようとした。
「じゃあリーダーは海未ちゃんということで…」
「ま、待ってください!無理です…リーダーなんて…」
「…しょうがない「ことり先輩なんてどうかにゃ?」
「え?」
「…副リーダー、って感じだね」
1人遮られた奴がいた気がするが、きっと気のせいだろう。
ことりはどうかと言われるも、やはり副リーダーのようなイメージがあるという話になった。
これで2年は全員ボツということになる。かといって、1年がリーダーというのも本人達が遠慮しそうだ。
誰かを忘れている気がするが、きっと気のせいだろう。
「1年生の私たちがやるのも…」
「しょうがな「じゃあやっぱり穂乃果先輩に…」
そうなれば、元の鞘に収める事になる。しかし今しがた『穂乃果はリーダーっぽくない』という話になった以上、それもどうかと思われる。
やはり誰か発言を遮られたような気がするが、気のせいだろう。
「しょうが「ああ!!」
「いきなり大声を出さないでください!」
穂乃果が声を上げながら勢いよく立ち上がった。海未が注意するが気にしていない。
誰も遮られていない。聞こえるのは幻聴だ。
「ユウ先輩がいるじゃん!」
「「「「「!!!!!」」」」」
「…ん?」
皆が僕を見ている。1名を除き『そうだった!』という顔をして見ている。猛烈に見られている。
「…そんなに見ないで…恥ずかしい…」
「何を言っているのですか…」
すいません。言ってみたかったんです。
つまり、僕をリーダーに据えようという話なんだろう。だがそれには重大な問題がある。
「まず、僕はアイドル研究部員じゃないんだけど」
そう。僕はアイドル研究部の正式な部員ではない。つまりまずそのリーダー云々の話に浮上しないはずだ。
「μ'sのリーダーだし、関係ないと思います♪」
ことりが笑顔で言った。
確かにそうだけど…そうだけど!でもさ!
「僕ろくに練習とか顔出さないよ!?」
「と言いつつほぼ毎日部室に来てるじゃないの」
「練習メニューを考えるにも色々協力していただいてますし」
「さりげなく的確なアドバイスくれるにゃ!」
苦し紛れの返事だった。それすらも真姫、海未、凛に完膚なきまでに粉砕される。僕が何か言えば言う程断れなくなっていった。
「先輩…」
ことりが困ったような表情で見つめてくる。
まずい。何か来る。具体的にはあの頑固な海未を陥落させるアレが。
僕はサッと顔を背けパソコンに向かった。
だが甘かった。この部室に、もはや僕の味方はいなかったのだ。
穂乃果が即座に僕の後ろに回り、顔をことりに向けさせた。腕で振り払おうとするが、その腕が縛り付けられたかのように動かない。
海未が、僕の両腕を押さえつけていた。
「き、貴様らァ…!!」
「今だよことりちゃん!」
「…まだだァ!!」
僕は思い切り目を閉じた。穂乃果は顔を押さえ、海未は腕を押さえている。これで瞼をこじ開ける者はいない。
「失礼します♪」
はずだった。目に何かが触れる。
そして、こじ開けられた僕の目の前に、ことりの顔があった。
「ことり…だと…!?」
「先輩…」
万事休す。僕に回避する術はなくなった。
近い故に、ことりが息を吸うのがわかった。つまり、発射寸前。
「やめろ…手を離せ!!目が…コンタクトが乾くゥゥゥゥゥ!!」
「おねがぁい!」
今日、僕はμ'sのリーダーになった。
◇
「どんな茶番よ」
「つまんなかった?」
「…まあ、少しは面白かったけど」
「ならよかった」
所変わってカラオケである。
散々無視され遮られを繰り返して業を煮やしたにこが、これまでの話の流れをぶった斬って「歌とダンスで決めるわよ!!」と言ったのがきっかけだ。
女の子7人の中に男が1人。当然僕は皆と歌って踊るわけではないので辞退したが、にこを除く全員から来てくれと強く言われ諦めた。ちなみに真姫は黙っていたけど。
また、それ以上頑なに固辞するとまたことりのアレが来そうだったというのもある。
「得点を競うつもりかにゃ?」
「その通り!1番歌と踊りが上手い人がセンター!どう?これなら文句ないでしょ?」
カラオケの高得点と人が聴いた時の上手さは一概に言えるものではないのだけれど、今言うと面倒なことになりそうなのでやめておく。
にこの事だ、ちゃっかり高得点が出やすい曲をリサーチしてあり、それで勝とうというのだろう。
だが甘い。
真姫と僕のボイトレを舐めるなよ。そんな小細工に負けるようなヤワな練習はしていない。
「じゃあ行くわよ!先手必勝!」
カラオケスコアマッチが開始された。
最初に歌ったのはにこである。予想通り、難しいメロディーやハイトーンの少ない曲をチョイスしていた。
得点は91点。トップバッターとしてはなかなかいい点数だろう。
「にこ先輩すごーい!」
「ふふん!私にかかればこのくらい楽勝よ!」
肩で息して何が楽勝だよ。
次は凛が曲を入れる。マイクを持って立ち上がり、イントロが流れ始めた。
歌い出すと、皆が声をあげる。
凛は下手だったわけではないが、リズムに弱いところがあった。
なので、メトロノームを鳴らしながら練習するようにさせた。
歌いながらメトロノームに合わせるというマルチタスクも、最初は難しそうだったがすぐにこなして見せた。
やれば出来る子、星空凛である。
凛が歌い終え、得点発表。
弾き出した数字は、92点。にこより1点上だ。
「なっ…!?」
「おおっ!やったにゃ!」
初っ端から抜かれるとは思っていなかったのだろう。悔しそうに顔を歪めている。
「じゃあ次は私が!」
穂乃果は立ち上がると、マイクを受け取り曲を入れた。
彼女は歌に関しては音感、声量ともに問題はなかった。だが、何故か息を吸うタイミングがおかしかった。
なので、曲によってそのタイミングを意識して歌うようにさせた。
歌い終えた穂乃果。
点数は94点。文句無しの高得点である。
「穂乃果ちゃんすごい!」
「まさかこんなに高得点とは…私って実はすごい!?」
穂乃果が調子に乗り始める前に次に行こう。次にマイクを受け取ったのはことりだ。
「行きまーす♪」
楽しそうに歌う。
ことりに関しては特に問題はなかった。強いて言えば声量を上げられるようにしたくらいである。
得点は…93点。これも高得点と言えよう。
「すごいですね、ことり」
「ありがと海未ちゃん♪」
「つ、次は私が行きます…!」
静かに意気込んで立ち上がる花陽。
彼女は恥ずかしさや緊張からか声量が出なかった。まず自信を持って歌えるようにと、彼女の歌声を真姫と一緒に褒めまくった。その時の照れる花陽はなんだか可愛かった。
それで自信を持って歌えた時の花陽はびっくりするくらい上手かった。
「…ふう…緊張したぁ…」
花陽の得点はなんと96点だった。真っ先に凛が彼女に飛びつく。
「かよちんすっごいにゃー!」
「えへへ、ありがとう凛ちゃん」
さて、残りは海未、真姫である。
「真姫、お先にどうぞ」
「私は別に歌わなくていいわ。リーダーになる気もないし。海未先輩こそお先にどうぞ」
「で、ですが…」
真姫はまったく興味がなく、海未は恥ずかしいためにできるだけ歌いたくないらしい。
「ここはじゃんけんの出番だよな」
「だから私は歌わないって…」
まだ渋る真姫。しかしボイトレ担当として実力を示さないのはどうかと思うので、説得にかかる。
「しかし真姫よ。ここで実力を示しておかないと後々舐められるかもだぞ」
「それは…」
「自信がないと?」
「はぁ!?そんなわけないでしょ!?いいわよやってやるわよ!!マイク貸して!!」
ちょっろいな〜この子。
歌おうとした真姫を、「恥ずかしいのでやっぱり先に歌わせてください」と海未が止め、結局海未→真姫の順ということになった。
「う、うぅ…」
「海未ちゃんリラックスリラックス〜」
マイクを持って前に出た海未はガッチガチに緊張していた。
彼女は普通に歌えば全く問題ないのだが、少しでも人の目を意識してしまうと途端に声が細くなるのが欠点だった。
なので「大丈夫だって!絶対歌えるから!」とか「もっと自信を持って!音痴でもいいから思いっきり行け!」とか「観客なんて皆喋るじゃがいもなんだよ!野菜なんて気にすんな!」とか言っていたらある程度改善された。
真姫に「暑苦しいわよ」と言われたが、かの元テニスプレーヤーほどじゃないので我慢してほしい。
「…はぁ…恥ずかしかった…」
歌い終え、海未は画面に向き直る。
表示された点数は…95点だった。現在2位の成績である。
「海未ちゃんすごい!」
「ありがとうございます。これも日頃の練習のおかげですね」
「次は私」
真姫の実力は、僕は曲作りの時や音楽室で歌っていた時など、何度か聴いたことがある。
その歌声は、非の打ち所がない完璧なものだ。おそらくこのメンバーの中で歌は1番上手いだろう。
「……」
曲のイントロが流れる。ゆっくりとした旋律だ。
真姫がゆっくりと息を吸い、歌い出す。
There you are
in the darkest night
Nowhere to run just sitting there lonely...
「え、英語…」
穂乃果だけでなく、僕以外は皆驚愕している。発音もしっかりとしているし、それでいてビブラートやスラーなんていう歌唱技法まで上手いこと組み込んでいく。
Don't give up
don't give in
There's always an answer to everything life
Once you fall, you will rise
Just listen to your heart
and say it out
いや、もっと簡単に言おう。めちゃくちゃうめぇ!!
曲はBメロを通過、サビに入る。真姫は感情を込め、全てを吐き出すように歌った。
I know I can make it
I'll stand up again even
through the rain
through the night
I'll be much stronger
Cause I'm gonna make it
And nothing can stop me from
holding tight to my faith
I'm anbreakable......
歌い終えた後も、皆一言も発さず硬直していた。得点発表前のドラムロールだけが響く。
表示された得点に、再び皆息を呑んだ。
「「「「「「き…きゅうじゅうはち!?」」」」」」
98点。花陽に2点差をつけての堂々の1位である。
「ふふん。当然よね」
「ま…真姫ちゃんすごい…」
「流石ボイトレ担当ですね…」
口々に賞賛の声が上がり、真姫は鼻高々といった様子である。
「本気だったな」
「手加減できないだけよ」
彼女は澄まし顔で席に戻った。これで全員の得点が出揃い、トップ3は真姫、花陽、海未。
勝つ予定だったであろうにこは可哀想なことにビリである。
「こ、こいつら…バケモノか…」
「小手先で勝てる程ヌルい練習はしてないよ」
「ぐっ…うぅ…」
悔しそう悔しそう。まあダンスで頑張りたまえ。多分、ダンスでも勝てないけど。
「これで全員歌ったよな。さて次はダンスに…」
「まだよ」
カラオケを出る準備を始めようとするが、真姫に止められた。
「まだユウ先輩、歌ってないですよね?」
「いや、別に僕歌う必要ないんじゃ」
「私、先輩の歌も聴いてみたいです♪」
「こ、ことり…」
ええい、期待するような目で見るな!僕は別に歌わなくたっていいだろう!
「先輩、おねがい!」
「ワカリマシタ。ウタイマショウ」
人類は、ことりのこれには敵わないのかもしれない。諦めて僕は曲を入れ、マイクを持って前に出る。
「はぁ〜…あー、あー」
「緊張しているのですか?」
「あー…あ?いや裏声ちゃんと出るか確かめただけ」
「そうですか…」
ごめん海未、期待裏切ったりして。そんな悲しそうな顔しないで。
本当はウォーミングアップをしてから歌いたいところだが、今回は歌う予定じゃなかったのでどうしようもない。
本当は声出しをしてからじゃないと喉を痛めるので、皆さんカラオケに行く時は必ずウォーミングアップを!
イントロはピアノのみのワンフレーズから、一気に全楽器が鳴らされる。
歌の始まりを示すカウントダウンが1になったところで、僕は息を大きく吸った。
「I miss youを通過してどれくらいだろう?意地を張ってなんとかやってるつもりだよ」
僕が歌っている間、真姫以外の皆唖然としていた。歌い終えてから少し間をおいて、凛が声を上げる。
「…わぁ…」
これだけ聞くとド下手だったように思えるけれど、決してそうではない。そうではないはず。
「音域が広いですね…」
僕が歌ったのは全体的に男性としてはハイトーンが中心の曲だった。
僕の地声がかなり低いから、驚いてもおかしくはない。ちょっとした発声技術を駆使して歌ったので、地声の限界より遥か上まで出るのである。
「…点が出るわよ」
真姫の声に、全員が画面に注目する。表示された得点は…彼女と同じ98点だった。
「ま、また98…」
「ミドルボイスを使うなんて、先輩も本気だったじゃない」
勝てなかったからか、どこか不服そうに真姫が言う。
ミドルボイスとは、言葉で表すなら『裏声に地声を混ぜた声』となる。つまり文字だと意味がわからない。
「あはは、なんというか対抗心がな?負けず嫌いなもので」
「まあ、このくらいやってくれなきゃボイトレ担当としては失格よね」
「せやな」
今度こそ、皆が支度を始める。次はおそらくゲームセンターでダンスの勝負になる。
またにこは周りが初見の奴を選んで、自分だけ練習してあるんだろうな…狡猾というか、したたかというか…。
それでも、これまでの練習の成果を発揮できれば負ける事はないだろう。海未も僕も、それなりに考えて練習メニューを作っているのだから。
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