ミツキ「今回長くね」
僕「長いな。10000字超えてる」
ミツキ「いいのか?前書きで俺らが喋ってて」
僕「いいんじゃないか?みんなシャーッてやってるだろ」
ミツキ「そうだな。じゃあ今度はバスケの話しようぜ」
僕「おう」
ミツキ「青峰と氷室だったらどっちが好き?」
僕「マジかお前。躊躇うことなく名前を出すな」
ミツキ「いいじゃないか。どっちもかっこいいんだから。どちらかといえばどっちのスタイルがいい?」
僕「うーむ…僕は氷室の方が。見てて惚れ惚れするほど綺麗なフォームっていうのは、やっぱり憧れるかな」
ミツキ「確かにな。でも青峰の方も見てて楽しそうじゃないか?」
僕「そうだな…願わくば、あの2人が同じコートで立ってくれるような事があったら最高だよな」
ミツキ「オールスターゲームみたいなことやってくれたらテンション上がるわ」
僕「それは魅力的だな。それは本気で見てみたい」
相川「…君たちが真面目な話をしてるとなんだか違和感がすごいな」
僕ミツ「「出てきて一言目がそれかオイ」」
部室で穂乃果のテスト勉強が進んでいた。いや、進展具合でいえばまだ1問目なのだが。
勉強場所は3人のじゃんけんで決めた。穂乃果が勝ったためにこは希と、凛は真姫と花陽と別の場所に行っている。
「うぅ〜…わっかんないよぉ〜!!」
開始から30分、限界を迎えた穂乃果が叫んだ。まあよく持った方だと思うよ、うん。
九九のやり取りの時点で彼女の実力は大体わかっていたが、とりあえずテスト範囲内で教科書の演習を解かせてみた。2×9に『おいしい』と答えた奴にしては30分もよく耐えたなと褒めてやるべきだろう。
「まだ30分ほどしか経っていませんよ?この程度で根をあげては困ります」
「まあまあ海未、穂乃果は30分持てばいい方だって。どれどれ…ん?これは…」
海未が苦言を呈し、僕はそれをなだめる。穂乃果のノートを見ると、見当はずれではあったがいくつかの解答が進められ、どれも途中で破綻していた。
…言ってから思ったが僕のセリフ、さりげなく穂乃果をバカにしている。
「ユウ先輩、さりげなく穂乃果のことバカにしてない…?」
「…驚いたな。すごいぞ穂乃果」
「え?」
大抵の人は、問題を見て方針が立たなければ次の問題に行くか、解答・解説を見て確認するかだろう。
しかし彼女は、自分の知っている知識を総動員してなんとか答えを出そうとしたことが、ノートからは見て取れたのだ。
テストにおいては、時間を無駄にするためわからない問題は放って次の問題に行く。しかし、テスト勉強あるいは受験勉強中においては穂乃果のようになんとか答えを出そうとする方がいい、と僕は思っている。
別にすぐに答えを見るのが悪いとは言わない。ただ、自分で唸って考えた方が答えを見たときに印象に残りやすいのではというだけである。どちらが合うかは、試して判断するしかないだろう。
「よし、穂乃果。教科書のテスト範囲内の例題を徹底的に解くんだ。1回はやり方を見ながら、2回目からできる限り見ずにやる。1題ずつ、それをひたすら繰り返せ」
「先輩、それでいいのですか?例題だけでは…」
「と思うだろ?でも大丈夫なんだよ。教科書にも応用例題なんてのがあるし、それを繰り返すことでどんな過程で解くのかがわかってくる。そうなると初見の問題でもどの例題が似ているのか一瞬で見抜けて、すぐに解けるんだ」
長い説明セリフが増えてきたよなぁ…。にゅーの品種についてもそうだし、この勉強法もそうだし。もっと短く簡潔に説明できるように鍛えないと。
僕が全く関係ないことを考えている間、海未も同じくなにやら考えていたようだ。腕を組み、顎に手を当てるその姿はなんだか格好いい。だがそう言えば彼女は照れるだろうか。
「にわかには信じられないですね…」
「なら、穂乃果の結果から判断するといいよ。上手くいくと海未よりもいい成績とるぞ?」
「ホントにっ!?穂乃果が海未ちゃんよりも!?」
「頑張り次第だけどな」
穂乃果が顔を輝かせる。そして「よ〜し!頑張るぞ〜!」と再び机に向かい始めた。僕と海未は顔を見合わせ、現金な奴だと笑い合う。
ふと横を見ると、ここまで黙って見守っていたことりが、ニコニコというよりニヤニヤしていた。
「海未ちゃん、なんだか嬉しそう♪」
「そうですね、穂乃果の赤点の心配をしなくてよくなるのは嬉しいことです」
「そうじゃなくって〜、先輩と話してる時の海未ちゃん嬉しそうって言ったの♪」
「は!?そそそんなわけないじゃないですか!////」
ボンッ、と音が聞こえそうな勢いで海未の顔が紅潮し、ワタワタと腕を振りながら必死で否定する。そんな彼女は、さっきとは違って可愛く思えた。口に出したら多分フリーズするから、言わないけど。
◇◇◇
ところ変わって1年の教室。居たのは真姫、凛、花陽の3人だけだった。
僕に気がつくと、凛は涙目になってこちらに駆け寄り、そのまま背中に隠れた。彼女が座っていた席からは、真姫が凛を睨み、花陽が困った顔をしている。
「助けてにゃ〜!真姫ちゃんが鬼なんだにゃぁ〜!」
「ちょっと!凛が真面目にやらないからじゃないの!」
「お、落ち着いてよふたりとも…」
どうやら真姫はスパルタらしい。凛が僕の制服の裾をしっかりと掴み、上目遣いに助けを求める視線を向けてくる。少しかわいそうだが、僕は凛を背中から剥がしもうひとつ椅子を準備し座る。
「せっかく教えてあげてるんだからちゃんとやりなさい!」
「うぅ〜真姫ちゃんが怖いにゃぁぁ…」
「あはは…まあ真姫、ちょっと僕に任せてくれよ」
いきり立つ真姫を苦笑いしながら落ち着かせ、凛の方へと向き直る。
彼女の前にあるのは、電子辞書、教科書、教科書予習ノート。予習ノートには本文の要約やイディオムの問題、Thatは何を指すかなどのテストに出そうな問題があり、最後には数問英作文もあった。
「凛はどうわからない?」
「まず本文がなかなか読めないんです…凛センスないのかなぁ…」
「そ、そんなことないよ凛ちゃん!」
「単語を覚えてないだけよ」
凛は本文を読むのがどうも上手くいかないらしい。確かに、ズラッと何行にも及んで並ぶ英文を読むのは苦手な人には相当辛いだろう。
しかしコツを掴めばそこは改善することができる。"意味の分かれ目"が見えるよう、工夫をすればいいのだ。
「ん〜、じゃあ凛、こういう風にやったらどうだ?」
僕はシャーペンを取ると、予習ノートの本文を斜線で区切っていく。SだとかVだとか、そんな感じで。
「う〜ん…」
「一気に読まなくていいから、僕の区切ったまとまりをひとつずつ日本語にしてみるんだ」
「ええと…」
僕が区切ったことでゆっくりではあるが意味が取れるようになってきたようだ。しかし、知らない単語が来れば当然躓く。そんな時のための電子辞書である。
「この単語、どんな意味だったっけ…?」
「わからなければ辞書で調べて、その単語の上に書き込む。単語は単語として覚えるんじゃなくて、
言われて凛は辞書で調べて書き込む。そしてまたゆっくり読み進め、躓いてはまた調べて書き込む。
とりあえず、僕が区切ったところまで全て意味を取り終えたところで、一旦手を止める。
「できたにゃ!」
「よくやった。凛も自分にあった方法ならできるんだよ」
「えへへ〜。もっと褒めてくださいにゃ!」
「よしよし、頑張ったぞ〜」
喜ぶ凛の頭を優しく撫でる。少し頬を染めるが、一層嬉しそうに笑った。すると花陽が感心したようで、いつもより少し流暢に話す。
「私も勉強になります。本当に先生みたいですね」
「まあ、バイトとはいえ家庭教師やってるからな。中学生なんかはもっと手がかかるから、凛みたいに素直な子はやりやすくてこっちも楽しいよ」
「んふふ〜。凛また褒められたにゃ〜」
喋ってる間も撫で続けていた凛の顔がゆるゆるに緩みきっている。花陽はそんな彼女をみて嬉しそうに笑った。
本当に仲がいいんだな。羨ましいよ、エリーなんてあんなだし、東條はひとりでできちゃうし。
「……」
「どした?真姫」
そこでふと、真姫がこちらを見ていることに気がついた。ちょっと悔しそうな顔なので、若干睨まれてるように感じる。
「…やるじゃない」
思わず吹き出してしまい、顔を赤くした真姫に睨まれてしまう。素直じゃないんだよな、真姫は。
睨むような顔してたからなんて言われるかと思ったが、出てきたのは嬉しい褒め言葉だった。そのギャップについつい吹き出してしまったのだ。
「ごめんごめん、こっち睨んでるように見えたからちょっと身構えてたんだよ」
「悪かったわね、目つき悪くて」
「いやいや、そんなこと言ってないだろ。どうしたんだよ、急に不機嫌になって」
「別になんでもないです」
「不機嫌じゃんかよ…」
何かしただろうか。聞いても教えてくれないんだろうなぁ…。
こういう時の女子の考えてることは本当にわからない。身内である姉さんの事すらわからない。ましてや他人である真姫の心情を読めるはずもなく。
「真姫ちゃんは素直に認めたくないだけだよね」
「…うるさい」
僕が困っていると、花陽が笑いながら言う。面白がっているのだろうか、彼女の笑顔は楽しそうだ。
そろそろ時間的ににこのところに行くべきだろうか。希にどこにいるかメールを打つと、近所のファストフード店にいると返ってきた。
「さて、そろそろ3年のとこに行ってくるよ」
「えぇ〜?もう行っちゃうんですか?もう少し教えてほしかったにゃー…」
また真姫が鬼と化すと危惧しているのだろうか…。その心配は恐らくもう要らないと思うのだが。
「真姫」
「なんですか」
僕は席を立つと、真姫に声をかける。彼女はこっちを向いたが、まだ不機嫌そうだった。マジで何したんだ僕。
「頼んだぜ?」
「…任せてください」
一度頷いてから、僕は教室を出た。このままにこのところに行ったら直帰かな。
帰る準備を全て済ませてから、僕は学校を出る。
向かう先は最寄りのファストフード店。何かクーポンはあったかなと考えながら、あまり急がず歩くのだった。
◇◇◇
「よう、やってるかい」
「それがな〜、にこっち、全然ダメなんよ」
「うぅ…し、仕方ないじゃないの…わからないものはわからないのよ…」
ここに来るまでに、穂乃果と凛の様子を見てから来たため開始から1時間と少し経っている。
…その程度にしてはやけににこが憔悴しているように見えるのは、何故だろう。
なんとなく想像はついているのだが、確認のため僕は東條に尋ねた。
「なぁ…にこが随分ゲッソリしてるけど…」
「もう5回くらいはわしわししてるからやね〜」
「やっぱ犯人お前か…」
僕は経験がないのでわからないのだが、東條の"わしわし"攻撃はかなりの破壊力らしい。経験者であるエリーが以前言っていた。
僕はその現場を見ていたのだが、途中で居心地が悪くなったので退出した。
やられてる方がだんだんと喘ぎ出せば、そりゃ居心地がいいはずがないだろう。
…いや、居心地は悪いがその先の展開を見守るのも手だったのか…?いや、それをやっていたら今頃僕は天国か刑務所にいたように思う。退出するのが正解だったのだ。
「…ユウ…助けて…」
「あー、わかった。まずは…」
ここは穂乃果の時と同じ説明なので略。それを聞いた東條との「そんなんでええの?」「いいんだよ。普通は…」なんてやりとりも海未とやったので略。
例題レベルならにこもある程度スラスラと解けるのだろう、彼女の手が軌道に乗ったところで、僕と東條は雑談タイムである。
「…ゆうちゃん、何か忘れてない?」
「なにをだよ」
「ふんだ。いいもん」
「なにがだよ…」
数日前からこの通りである。何か忘れてないかと尋ねるたび、僕が答えると途端に不機嫌になる。
正直とても困っている。今度エリーに僕が何か忘れていないか聞くしかないだろうか。
「ゆうちゃん、ウチにも勉強教えて?」
会話が切れたところで、特に次の話題もなく僕らは黙っていた。するとしばらくして、唐突に東條がそう言ったのだ。
「それは構わないけど、東條は別に赤点とか心配ないだろ?」
「いいから!ウチ物理苦手やもん」
そう言って有無を言わせず物理の問題集を取り出す東條。これはもう断れないパターンである。
仕方なく僕もシャーペンとノートを取り出し、彼女の質問を待った。
「これどうやるん?」
「それはだな、万有引力Gは示されてるから等加速度運動の式を立てて…」
こうして隣で喋る者がいても、にこは全く反応せずに自分の問題に向かっている。集中力はあるらしいが、何故今まで発揮しなかったんだろうか。
東條への説明の傍ら、ちらりとノートを除けばかなりのスピードで進んでいる。それもどの問題も5回以上は解いていた。
僕は、ひょんなことから彼女の家庭事情は知ってしまっているので、彼女が何故成績が悪いかは知っているといえば知っている。しかしそれを言い訳にすることはできないし、にこ自身言い訳にしたことはない。
考えてみれば、たった1人になってもアイドル研究部を守り続け、少々サムいとはいえキャラ作りをしてまでアイドルであろうとしているのだがら、努力家でないはずはなかった。やり始めればこのくらい集中するのも、当然なのかもしれない。
「…ん?どうした東條?」
「ずいぶん長い間にこっちの方見るんやね〜。ウチとは全然目を合わせてくれないのに」
どうやら少し考え事をしてる間、ずっとにこの方に目線をやったままにしていたらしい。東條が何故か不機嫌そうにこちらを見る。
後半のセリフに関しては、隠してもどのみちバレるので正直に言うことにする。
僕は東條以外だったら普通に本音を隠す時は隠す。相手が東條だからこそ、こんな選択ができるのだろう。
「少し、考え事をしてたんだよ。あと、東條とあまり目を合わせないのは油断すると胸に目がいくからだ」
「うっは〜、正直に言うんやね」
「その点にこはありがたいな。見る
「うっさいわよ!!」
お前問題解いてたんじゃないのかよ。突然横から憤慨されるとびっくりするじゃんか。
ともあれ、雑談を終わらせ3人とも再び目の前の問題に集中する。この辺の切り替えはお手の物である。
…まあ、僕は全く切り替わってないけれど。東條の不機嫌そうな目、自分からは言わない理由。彼女に対してわからないと言い続けてきたけれど、これは少し事情があってそうしている。
人間、サプライズには弱いものだろう。そのためだ。
◇◇◇
「…てな感じで、やたらと不機嫌そうな目をされた」
「…私もよ。お互いちょっと大変だったわね…」
誕生日。
文字通り、それはその人が産まれた日を指すもの。
家族に、親戚に、友人に、恋人がいれば恋人に、いろんな人に祝われる日。
プレゼントを貰ったり、好きなところに連れて行ってもらったり、様々な願いが叶う日。
「これはどうかしら?」
「う〜む…。普段つけるにはちょっときらびやか過ぎないか?」
「そうね…言われてみれば、少し派手過ぎたかも…」
誕生日は好きじゃない、って人はあまりいないだろう。
実際私も誕生日は好き。だって、亜里沙やお祖母様、希も、ユウだって祝ってくれる。嬉しくないわけないじゃない?
「こんなのは?」
「ちょっと質素すぎない?行き過ぎて地味に見えちゃうんじゃないかしら」
「ふむ…難しいな。プレゼントを選ぶのは…」
そういうわけで、希の誕生日を祝うことになっている。なにも言わずにおいて、彼女の家に突撃して祝おうという魂胆。
ユウは「学校からの誕生日プレゼントみたいだよな、テストの時期って」なんて言っていた。彼もわかってると思うけど、全く嬉しくないわよね、それ。
本当は当日がよかったのだけど、平日だったので「家への突撃ができない」と一旦スルー。このスルーによって希が猛烈に不機嫌になってしまう。でもここまでくるとこちらもよくわからない意地を張って隠し通してしまった。ごめんなさい、希。
「なんかこう、ピンとくるものがないな…」
「だからって、妥協したくないわよね…せっかくのプレゼントなんだし」
「仕方ない。次の店に行こうか」
お店が開く時間からずっと、彼女へのプレゼントを探し続けている。先週の休みにもこんな感じで探し回り、結局見つからなかった。
お昼ご飯は適当にケバブを食べて、またプレゼント探し。先週回ったところとは、今度は別の場所。
それにしても、見つからない。
東京圏内を全て回るつもりで動いているのに、ピンとくるものがなかった。京王線を使って調布のPARCOなんかも回ったのに…。
「すいませーん。テレビの特集のアンケートにご協力頂きたいのですが、お時間よろしいでしょうか」
「ん?ええと…どうする、エリー?」
彼は私に判断を委ねた。そろそろ時間的に余裕が無くなってきたこのタイミングで、アンケートに答えて欲しいなんて人に捕まってしまった。
正直断りたいけれど、いきなりバッサリっていうのもなんだか気が引けたので、とりあえず会話を繋いでみる。
「どんな質問に答えればいいのでしょうか?」
「あまり長くはありません。えーと、"結婚するための条件"について、カップルの方々に聞いて回っているんですよ」
「カップル…!?」
え?…カップル?カップルって…ええと…CUP?
いやいやいやいや、冷静になるのよエリーチカ。カップルっていうのは日本で言えば恋人同士のこと。つまり、私とユウはこの人から見たら、恋人同士に見えたということ。
なぜ?なにも恋人らしいことは…いや、友人のプレゼント探しとはいえ、並んで歩いていればそう見えてしまうものなんだろう。
これは答えるべきじゃない。即座にそう判断した。なので私はできるだけ"考えて断る"風を装って口を開く。
「…すみませんが、今回は「わかりました。答えますよ」ち、ちょっとユウ!?なにを言ってるの!?」
せっかく私が断ろうとしたのに、遮って勝手に引き受けてしまった。
いやちょっと本当になにしてるの!?答えなきゃいけないじゃない!嫌よまだ私高校生なのに!成人すらしてないのに!
「ありがとうございます!それではさっそく、彼氏さんは彼女と結婚するならどんな事を求めますか?」
私の声は完全無視で、話が勝手に進んでいる。ユウは「そうですね…」と少し考えていた。
「趣味にある程度お金を使わせてほしいと思います」
「なるほど。ちなみにご趣味はなにを?」
「機械が、特に自動車が好きなんです。1台でいいので自分の本当に好きな車種を持たせて貰えたらなと」
なるほど…ユウは趣味に寛容な方がいいのね…。って、なにを脳内にメモしてるのよ。いらないいらない、削除よこんなの。
「へぇー!いいじゃないですか!実は私もバイクが好きでして、中古ですがYAMAHAの2009年式VMAXに乗っていまして」
「フルモデルチェンジして最初のモデルですね!僕もあのバイクは大好きです。でも、あれは高出力だけどかなりの大食らいなのでは?」
「その通りなんです。お陰で恋人に『手放せ!』って迫られてて…」
「ああ!辛いですよね、どちらも捨てたくないものですもんね…」
長くはならない、と言っていたはずなのに、思いっきり趣味の会話で盛り上がっている。私は「ちょっと…あの…」なんて言ってはみるけれど完全に放置。
なによ、私は蚊帳の外?今日ユウと出掛けたのは私なのに。
「あ!すいませんつい熱くなってしまって。それでは、彼女さんは彼と結婚するのであればなにを求めますか?」
ブツブツと心の中で文句を言っていたら、突然軌道修正して私に質問が飛んできた。お陰でなにも考えていない。
「え…えっと…」と小さな声で漏らしたまま、次の言葉が全然出てこなかった。なんとかひねり出そうとして必死で考えると、やっと出たのは短く、小さな声だった。
「…わ、私の作った夕飯を…食べられる時間に帰ってきてほしい…です…」
自分の顔が真っ赤なのは、百も承知だった。それでもなんとか言い切ったけれど、私は料理が得意ってわけじゃない。ユウの方が美味しく作れるし…ってなんでユウが出てくるのよ!
「おっふ…これは破壊力ありますねぇ…彼氏さん大変じゃないですか?」
「あはは、長い付き合いなので慣れてますよ。ただ、最近ちょっとまた威力が上がってきていますが…」
「頑張ってください。私には耐えられそうにない」
破壊力?威力?なんのことかしら?
恥ずかしすぎて全く言葉の中身を理解できない。私は特に物理的な攻撃をした覚えはない。ただ、許されるのならユウに2、3発拳を撃ち込みたい。
「ご協力ありがとうございました。お幸せに!」
そもそも私たちは恋人でもなんでもないので、お幸せになりようがないのだけれど、とにかくとんだアンケートはこれで終わったらしい。
「…ユウ?なんで勝手に引き受けたのかしら?」
「わ、悪かったよ…ただ、ちょっと焦ってきてたから一旦リズムをな?」
「かえって悪くなったのだけど」
顔の熱が落ち着いてきたので、またプレゼント探しに戻る。ユウは懐かしい右斜め後ろを苦笑いでついてきた。
言っておくけど、完全にユウのせいだから。私は許す気さらさらないからね。
「…でも、まあ、なんだ」
珍しく、彼が言い淀む。振り返ると、彼はそっぽを向きながら続けた。
「正直、可愛かったと思うよ」
「そんなこと言っても許さないから」
「へーい」
まったく…おだてたって許さないし、何も出ないわよ。
…少し嬉しいのは内緒。
◇◇◇
どうにかこうにかプレゼントを購入し、東條の家の前に来た時は既に夕方5時になろうかというものだった。とはいえ、ギリギリだったが予定通りである。
突撃のことはちゃんと彼女の親に許可は取ってあるので、完全なアポ無しではない。
『あら、泊まっていってもいいのよ?襲ってもいいのよ?ふふふ』と電話で言われたのだが、いやいやよくねえだろと。
なんというか、蛙の子は蛙というか…このお母さんにして東條ありというか…いや、どちらも東條だったな…ううむ、言いづらい。
「…さて、5時だ。行くぞエリー。主砲構え」
「なによ主砲って…。大丈夫、いつでもいけるわ」
エリーが応えると、僕はインターホンに指をかけ、そのまま押し込んだ。
ピーンポーン…。
ゆっくりとした音が鳴り、扉の向こうで足音が聞こえた。
今ここにいるのは東條…いや、希だけだと希母の情報により判明している。
というより『それなら私はちょっと出掛けてるわね。ごゆっくりどうぞ♪』と言っていたので、気を利かせてくれただけだろう。
「はーい…どなたです…か…」
扉を開けたとうじょ…希の声が尻すぼみに消えていった。特になにも考えていなかったので、とりあえずできるだけ自然に挨拶をする。
「よう。遊びに来たぜ」
「こんにちは、希」
「えりち…ゆうちゃん…」
おぅふ、あからさまに顔が曇った。
「…不自然やで?」
「演技は自信ないからな…特にエリー」
「わ、悪かったわね」
とにかく、突撃のことだけは悟られぬよう振る舞う。エリーとアイコンタクトして、僕はここからの計画をもう一度頭の中で反芻していた。
「いきなりだからお茶くらいしか出せないけど、まあ上がって」
「「お邪魔します」」
彼女のマンションはあまり広くはないが、両親がいつも遅いこともあり、1人なら充分と言えるくらいには広かった。
…さて、そろそろ時間が近付いている。
開始は希がお茶を準備するために台所に行った時。一時的にリビングから視線を逸らすタイミングだ。
その時に合わせ、悟られぬよう後ろから…というわけだ。
「じゃ、座ってて。今お茶淹れるね」
「「ハイハーイ。ゴユックリー」」
お互い演技は下手である。普段は絶対にハモることはないのに、今日に限って返事のタイミングもセリフもぴったり一致していた。しかもどことなく片言である。
「ところで、どしたん急に?別にウチの家に来てもなにもないよ?」
「東條がいるだろ。来る理由としては充分さ」
「よくサラッと言えるわねそんな恥ずかしいセリフ…」
こんな会話の間にも僕とエリーは移動中だ。虎視眈々と彼女の背中を、そして"首"を狙っている。
移動にあたって、僕らは"気配を消す"方法を調べ、多少ではあるが練習してきた。
"ナンバ歩き"
通常人間は、二軸歩行運動…つまりは『左手と右足を出す』といった具合に腕と脚、斜めに交差するように歩く。その方がスピードや安定感が増すからだ。
ナンバ歩きはそれを一軸…つまり『右手と右足を出す』というように歩く。これによって、布擦れや足音を軽減することができる。らしい。
ぶっちゃけ『音の軽減』は眉唾ものである。しかし、まあやってみてもいいかな、と思い実践した。
背後まで迫る。エリーもすぐ横で待機している。希は気がついていない。
ここで、僕は黒く細長い布を取り出した。そう、ちょうど
行動開始。
「はい目隠ししまーす」
「うぇっちょっゆうちゃ」
「はい両手縛りまーす」
「うわっちょっえりちっえっ」
「「はい連行しまーす」」
そのままベッドに連行。座らせると僕は正面に、エリーは彼女の後ろに回った。
「え?え?なに?えりち?ゆうちゃん?なに?なにが起こってるの?え?え?私何かした?ちょっと待って私なにされるの?これからなにされるの?暗殺されるの?」
突然のこと過ぎて完全に標準語になっている希は放置し、エリーが彼女の首に手を回す。
「ひっ…え、えりち…?えりち!?」
…僕としてはもう少しこの焦りまくる希を見ていたいと思うのだが、そんなことをしたらエリーから後で鉄拳制裁を食らうことになるので黙っておく。
僕はそっと肩に手を置き、耳許で囁く。
「誕生日おめでとう、希」
…我ながらめちゃくちゃ恥ずかしい。こういうのはガラじゃないのだが、エリーが「希が喜ぶからやれ」と言って譲らなかった。喜ぶって何喜ぶって。
言うと同時に目隠しも両手の紐も外し、彼女は自由の身。首元には、散々考えて選んだプレゼントが下がっている。
…が。希は微動だにせず、呆然と僕の方を見つめている。
マズッたか。僕とエリーは目を合わせる。2人ともかなり焦った顔。
次の瞬間、さらなる
希の目にみるみる涙が溜まり、頬を伝い流れ落ちた。
「…な、泣くかー!?」
「ちょっ、の、希、泣かないで!」
予想だにしていない事態に、僕ら2人はオロオロするしかない。
これはマズイ!!どうする!?どうしたらいい!?何故泣かせてしまった!?頭の中がごっちゃになってしまい、思考がまとまらない。
だが、さらに、もっと凄まじい事態になってしまった。
希が、突然僕を抱きしめたのだ。なんと
「んむぅっ!?」
「ちょっとユウ何やってるの!?」
僕じゃねえだろうがよ!!希だよ希!!希がやってるんだろ!!
反論しようにも口が開けないし息もできないしどうしようもない。
…ああ、柔らかい…違う!!落ち着け!!
パシパシと肩を叩き、"ギブアップ"の意を示す。少し拘束が緩んだのでなんとか顔を出すことができたが、離す気は無いらしい。よって未だ押し付けられたまま。理性がマッハで削れていく。
「…希?」
「…ありがとぉぉぉぉぉ…」
離してほしい、と言おうとしたが、やめた。
疑う余地の無い、マジ泣きだった。姉さんとエリー以外のマジ泣きを見るのは初めてである。
「誕生日…なにもなかったから…忘れられてるのかなって…思ってて…でも言えなくて…ずっと寂しくって…」
その点は本当にごめんなさい。
本当はもう一週前にやる予定だったんです。でも見つからなかったんです。プレゼントが。
「…これは、何も計画せずに渡した方が良かったなぁ…」
「…そうね…」
ちょっと後悔。結果的に喜んでくれたものの、やはりスルーはダメだった。
「…あの、希?」
「ぐすっ…なに?」
「そろそろ、離してほしい」
「やだ」
さらに抱きしめられた。なんでだよ。
マッハで削られる僕の理性も、長くは持たない。当然だろう、達観していようと僕は10代。充分異性を意識する年頃なのだから。
エリーからの視線がイタイ。僕のせいじゃないのに。なぜ僕が睨まれなければならん。
「…でもな?ゆうちゃん。ケーキとかもやっぱり欲しいかったかな…」
やっと僕を解放すると、少し泣きはらした顔で笑いながら希は言う。その表情は、ここまで削られ消耗した僕の理性をさらに揺さぶるには充分、輝いていた。
首元のネックレス。僕とエリーが四苦八苦して選んだプレゼント。
銀色に輝く小さな器の中に、希の瞳と同じエメラルドグリーンの宝石が光る。
シンプルなネックレスだが、パッと見るだけでもちょっとしたアクセントになるよう、キラキラしているものを選んだのだ。
それが彼女の笑顔と本当に似合っていて、だが僕には言葉にできなかった。少しだけ、自分の語彙力を呪った。
「…安心してくれていい」
「え?」
「誕生日ケーキは、今から僕が作るから」
本当はもう一週早く、ちゃんと誕生日中に上げたかったんです。本当です。
誤字脱字などあったらすみません。見つけ次第修正していく所存です。