音ノ木坂学院ラブライ部!   作:れみんとぅ

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ミツキ「エリーチカ」

ユウ「なぜお前がその呼び名を知っている」

ミツキ「それは俺が超能力sおぶぅ」

ユウ「ふざけてると殴るぞ」

ミツキ「それは殴った後に言うセリフじゃねえと思うんだ」

ユウ「ところでミツキと相川、僕らってどの楽器もできるけど、一番得意なやつはどれなんだ?」

相川「ふむ…私はやはりギターだな。昔からやっていたし」

ミツキ「俺はベースかな。スラップとか楽しくてやりまくったから。ユウは?」

ユウ「僕は特にないな。全部同じくらいにできる自信はある」

ミツ相「「おぉ〜」」

相川「それで、どうして今それを?」

ユウ「いや、特に意味はないよ。話題がないからなんとなく聞いただけ」

ミツキ「オチどうすんのさ」

ユウ「好きなアーティスト!」

ミツキ「ジェフ・ベック!」

相川「ジミ・ヘンドリックス!」

ユウ「ジミー・ペイジ!」


一同「「「古い!!!」」」




海未「教えてください。絢瀬会長のこと」僕「…わかった」

 

 

 

テスト勉強中の穂乃果をことりや悠先輩に任せ、私は弓道部に顔を出していました。

部活を終え、矢筒(やづつ)をもって校門を通ると、左側から聴き覚えのある音楽が聴こえてきました。

 

"START:DASH!!"

 

私たちμ'sのデビュー曲。真姫がピアノ作曲、悠先輩が編曲、そして、私が初めて書いた歌詞。正直今聴くと少し恥ずかしいです…。

 

どうやらイヤホンから音が漏れて聴こえてきているようでした。何気なく、そちらに視線を送ります。

そして、私は釘付けになりました。

 

漏れ出る音に合わせてハミングするその少女の服は、中学校のものでした。確か…穂乃果の妹、雪穂の通う中学校の制服。

 

美しい金色の髪に、鮮やかなライトブルーの瞳。

 

梅雨に入ろうとする今の季節。珍しく吹いている心地よい風にたなびく彼女の髪は、夏へと熱気を増していく太陽の光を受け、より一層美しく輝いていました。

その下で、心地よさげに細められた目と、天使のように優しく微笑む口もと。

 

いつまでも見惚れてしまいそうな光景でしたが、未だ消えることのない私の小さな羞恥心が視線を彼女の手へと移します。

 

青い音楽プレイヤーの半分程を占める液晶画面の中で、あの日の私たちが踊り、歌っていました。

その映像を見て、あることに気がついた私は思わず近付いて、そして呟きました。

 

「サイトに上がっていないところの映像まで…」

 

「ん…?うわぁっ!?」

 

「あっ!ご、ごめんなさい!」

 

お互いに飛び退き、少しの間見つめ合います。沈黙を破ったのは、相手の方でした。

 

「ああ!園田海未さんですよね!μ'sの!」

 

うっ…!?なんとなくいつかこんな場面に出くわすとは思っていましたが、まさかこんなに早いとは…!

確かに、μ'sや私を覚えくれているのはとても嬉しいことです。私たちの努力が報われているということですから。

ですが…なんというか…これは…いざ自分がその場に立つのは恥ずかしいです!

 

「うっ…いや、えっと、ひ、人違いです…」

 

「え…」

 

うぅっ!?彼女の顔が悲しそうに曇りました。途端に凄まじい罪悪感に襲われます。

きっと、このまま誤魔化すこともできたとは思います。ですが…私は罪悪感に耐えられず、訂正します。

 

「…いえ、本当です…」

 

「ですよね!」

 

その瞬間に再び彼女の顔が輝きました。

もしかして、計算してあんな顔をしたのでしょうか…。

 

「そ、それより、その映像は…」

 

「はい!ライブの映像です!お姉ちゃんが撮影してきてくれて」

 

「お姉ちゃん…?」

 

あの時、あの講堂にいたのは私たち3人と、手伝ってくれたクラスメイトの3人、そして悠先輩と、凛と花陽、あとは…まさか…

 

「亜里沙!」

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

聞き覚えがある声でした。生徒総会の時にも、生徒会室で部活申請に行った時にも、理事長室でも。

 

「あなたは…」

 

昇降口から歩いてくる彼女は、私を見ると表情を変えました。

気まずいような、それでいて不機嫌なような、様々な感情が入り混じった表情に。

 

 

 

 

 

「生徒会長…」

 

生徒会長、絢瀬絵里先輩でした。

 

 

◇◇◇

 

 

「うっへー…つっかれたー…。まっさか桜坂があんな鬼畜リフを要求してくるとは…」

 

「す、すいません…どうしてもピアノを基準にして考えてしまうので…」

 

「久しぶりにギター弾いてて"腕が2本欲しい"って思ったわ…たはは…」

 

軽音部帰りである。僕は楽器屋に行き使っているギターの整備を頼もうといつもと違う道を通ることになった。

その道順が偶然、桜坂の帰り道と途中まで一緒だったのでそこまで2人で帰ることにした。

普段部活後は1人で帰っているらしい桜坂も、僕という話し相手がいるからか上機嫌である。

 

「でも荻野先輩、セリフの割に嬉しそうじゃありません?」

 

「そうか?まあ、そうかもな」

 

「???」

 

彼女が不思議そうに首をかしげる。動きに合わせて長い髪の毛がゆらりと揺れ、なんとも言えない魅力を醸し出していた。

 

「難しいことに挑戦してるんだ。楽しくて仕方がないよ」

 

「それはよかったです。では、テンポをもう20上げたいのですけれど…」

 

「うっ!?そ、それはちょっと…今は勘弁して欲しいかな…」

 

「ふふふ、冗談です♪」

 

「目がマジに見えるんだけど…」

 

これ以上早くされたら遠心力で僕の左手がちぎれてしまいそうだ。いや、もちろんギター程度でそんなことにはならないけど。

 

『1人1曲作ろう』と言い出し、その日からじっくりと皆で話し合いながら、それぞれ持ち寄った歌詞に曲をつけていく。

基本的に作詞者が中心だが、ソロなんかは思いついたらそれを合わせてみて考えたり、曲の雰囲気はみんなで決めてからやっていった。地道に続け、僕、ミツキ、相川の曲はほぼ仕上がっていて、あとはパート分けである。

 

正直、大変だ。でも、それ以上に楽しい。

放課後部室に集まって、始めたと思ったらもう下校時刻だった、なんてことはザラにある。それだけ全員熱中しているということなのだろう。

 

「それにしても、桜坂はああいう激しいのが好みなのか?」

 

「いえ、特にそういうわけではありませんよ?ただ、家で浮かんだのが激しかっただけです」

 

「激しいのが浮かぶってのは好みってことなんじゃ」

 

「そうかもしれませんね。確かにテンションが上がりますし」

 

そう言って笑う桜坂はやはり美人だった。伊達にモテるわけではない。

 

…ひょっとして、そんな彼女とこうして並んで歩くこと、そして同じ部活で活動していることは、とても幸運なことなのではないだろうか。

なにせ幼馴染がそんじょそこらのモデルやアイドルなんぞよりもハイスペックなので、僕のそういう感覚のようなものが麻痺してしまっている気がする。

 

「それにしても、桜坂も浅井もあっという間に上手くなったよな〜。教える側も楽しくなってくるわ」

 

「先輩の教え方がお上手なんですよ。私ひとりではあんなに早く上達はしません」

 

桜坂はピアノ、浅井はドラム。

2人はそれぞれ経験のあるパートがあったが、試しにやらせてみせたところすぐに他のパート、つまりギターやらベースやらもできてしまった。

それを受けて「じゃあ曲によって担当楽器変えようぜ!」とミツキが言い出し、今の僕らのバンド形態がある。

 

ちなみに、僕ら3年と支倉は前から各パートそれなりに練習している。学園祭くらいしか発表する機会のない軽音部、夏以降は基本的にヒマだったために色々やった結果こうなった。

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。でも、努力したのは桜坂なんだから、間違いなく桜坂の実力だと思うな」

 

「ありがとうございます。早く先輩と並んで演奏できるようになりたいですね…」

 

「ん?もう並んで演奏してるけど…」

 

「ツインリードって、かっこいいと思いません?」

 

「そういうことか」

 

「はい♪」

 

バンド名は"Mr.(ミスター) Perfect(パーフェクト)"だ。特に野球と関係はない。

今までなかった試みなのでは、と僕らは思っている。

全てのパートを完璧にこなす(・・・・・・・・・・・・・)。誰も皆一度は思い浮かべ、諦めることなんじゃないだろうか。それを、僕らは今やろうとしている。

 

誰にでもできることじゃない。たまたまできる人間が軽音部に集まった。だから挑戦できた。

簡単じゃない。当然だ。でも、やる。

 

"楽しそうだから"

 

挑戦するには、充分だと思う。

 

「それでは、私はこっちなので。一緒に帰ってくださってありがとうございました」

 

「いやいや、こちらこそ。桜坂と並んで歩けたのは男冥利に尽きるよ」

 

「ふふふ。それではまた明日」

 

「ん。また明日な」

 

さ、て。ささっと預けて帰ろう。腹が減ってきた。

 

 

◇◇◇

 

 

楽器屋に預けて、その帰り道。

店の位置的に、我が家に帰るには学院近くの公園を通る。何の気なしに公園の中を見ながら歩いていると、その中に見慣れた制服の女子が2人。ベンチに座り、なにやら話している。

 

「お…珍しい組み合わせだこと…」

 

思わず呟いてしまうくらい、それは珍しい2人だった。

 

当然である。なにせエリーと海未が話しているのだから。いやもうビックリ。

ただし、2人の表情は浮かない。実は私たち打ち解けてましたー的な嬉しい展開は無さそうだ。

 

声をかけに行くべきか、行くならばなんと言って行くべきかを考えていると、目の前をまた見慣れた制服が横切った。

手に持つのは…お、おでん缶?

 

「あ、亜里沙!ストップストップドンストップ!」

 

「うぇっ!?あ、はい!」

 

僕の声に驚いたのか、おでん缶を取り落としそうになりながら振り返り、返事をするとまた走り出した。

 

「って待て待て待て待て!なぜまた走り出す!」

 

「え?だってDon't stop(止まるな)!って…」

 

「言ってないよ!?言い間違えただけだから!」

 

「う、うぇぇ〜?どっちなんですか…」

 

猛烈に困惑させてしまっているが、ひとまず止めることに成功。

 

「亜里沙よ、そのおでん缶を持って行くのなら悪いことは言わん」

 

「はい…?」

 

「箸とセットで持って行け」

 

おでん缶を直接行くのは男でも無理だろう。せめて爪楊枝、願わくば箸が必要だ。

 

「箸…!でも、この辺じゃ箸は手に入らないですよ?」

 

「ならば…止むを得まい、買い直そう」

 

箸が手に入らなければ、おでん缶を食べることはできない。そう考えるとなぜあの自販機におでん缶を置いているのか甚だ疑問だが、まあ言わないでおこう。

 

とりあえず、亜里沙と共に再び自販機の前に立ち、2人分の缶コーヒーを購入。先にそれを持って亜里沙は2人の元へ走って行ってしまった。僕はそれをゆっくりと追う。

そういえば、亜里沙はμ'sの、それも海未のファンだったっけな…。彼女にとっては海未と話す絶好の機会なわけだ。

 

「あの動画があったから、今の私たちがいるんです。だから…」

 

「やめて。別にあなたたちのためにやったんじゃない。むしろ逆」

 

…この嫌〜な空気が無ければ、な。

亜里沙は何も言えずただ話が終わるのを待つことしかできない。僕だって口を挟むことはできない。話を始めから聞いていたわけではないのだから。

 

一歩退いて、僕と亜里沙は話の行方を見守るのだった。もっとも、2人の意識に僕らはいないように感じられたが。

 

「あなたたちのダンスや歌が、どれだけ人を惹き(・・)つけられない(・・・・・・)ものか、活動を続けても意味がないか、知ってもらおうと思って」

 

「………」

 

「だから、今のこの状況は想定外。無くなるどころか、人数が増えるなんて…」

 

エリーは、μ'sに現実を突きつけるために映像をあげた。だが結果的に、それがμ'sの躍進を助長する結果になってしまったわけだ。

 

「でも」

 

それでも、彼女は自分の意見を曲げようとはしない。僕は曲がりなりにも幼馴染。エリーがこういう時、滅多なことでは説得できないことを知っている。

 

「私は認めない」

 

彼女には「認めない」と言えるだけの"経験"がある。トラウマと言っていい、苦い苦い思い出がある。

楽しいから、自分たちがやりたいからと何も考えずに進んで、上手くいく程楽な道ではないことを知っている。

 

恐らく、エリーだから(・・・)認められないんだろう。

多少上手くいったから、多少評判がいいからと、自分が通う学院の名を背負わせる気にはなれない。

喧嘩しながらも隣で、彼女のこれまでを見続けてきた僕には、そう思えた。

 

「人に見せられるようなものになっているとは思えない。そんな状態で、学校の名前を背負って活動してほしくないの」

 

そう言って立ち上がる彼女の顔は、心なしか下を向いていた。

 

「話はそれだけ」

 

「待ってください!」

 

立ち去ろうとするのを、海未が呼び止めた。振り返ることはなく、だが動きを止めたエリーの背中に、彼女は真剣な表情で尋ねる。

 

「じゃあ、もし私たちが上手くいったら…人を惹きつけられるようになったら、認めてくれますか?」

 

エリーの表情に思案の色はない。彼女の中で、答えは出ているようだった。考えているとすれば、どう言おうか、だろう。

 

「…無理よ」

 

長い沈黙の後、結局エリーはストレートに伝えることを選んだらしい。もともとオブラートに包んでとかは苦手な不器用人間なので、当然と言えば当然だけど。

 

「どうしてです?」

 

「私には、スクールアイドル全部が素人にしか見えないの。一番実力があるっていうA-RISEも、素人にしか見えない」

 

海未の顔が険しくなる。直後に僕の身体に何かが触れる感覚。そちらを見ると、亜里沙が制服の裾を掴んでいた。

 

エリーがまた歩き出し、僕らの元へ近づいて来る。歩きながら少し意外そうな顔をしたところを見ると、やはり意識から消えていたようだ。

 

「…聞いてたの」

 

「ご、ごめんお姉ちゃん」

 

「いいわ。話は終わったし」

 

亜里沙に向ける顔とは正反対。彼女は「見たな」と言わんばかりに一瞬僕の方を睨みつけ、何事もなかったかのように亜里沙と帰る方へ身体を向ける。

だが、背後からの足音に再びその動きを止めた。海未がまた何か言いに来たのだろう。

 

「あなたに…あなたに私たちのことを、そんな風に言われたくありません!」

 

ピクリ、と。エリーの表情が引きつった。

恐らく付き合いが長い人間だけがわかる、彼女がマジでキレ出す五秒前(・・・・・・・・・・)の表情。

シリアスな雰囲気とかを考える余裕はない。亜里沙も当然察知し僕に助けを求める視線を送る。

 

(ゆ、ユウさん…)

 

(まず海未とエリーを引き離すぞ。僕が海未と一緒に行く。亜里沙は家までエリーを頼む)

 

(ま、待ってください!ここは逆でしょう!今ユウさんが海未さんの方に行ったらもっと酷いことになります!)

 

(そんなわけあるか!妹が相手側に行った方が悲惨なことになるわ!)

 

ここまで、全てアイコンタクト。その間わずか2秒。

兄妹のように接してきた僕と亜里沙だからこそなせるワザだ。残りは3秒。

亜里沙の返事を待たず、僕は行動を起こした。

 

「海未、もう遅いし僕が送って行くよ」

 

「えっ?いや、ですが…」

 

「いいからいいから。ほら、行くぞ」

 

「えっ…せ、先輩」

 

海未の肩を軽く掴んで進行方向を変え、そのまま押して歩き出す。

背後からは、突き刺さるような視線が僕の背中を焼く。

その数…2…だと…?エリーもこちらを睨んでいるというのか。

しかし今更切り替えては完全に挙動不審…後が怖いがこのまま行く…!

 

「…行くわよ亜里沙」

 

「…うん」

 

うわぁ…トーンがいつもより数段低いよ…怒ってるよ…僕何もしてないのに…。

 

ともあれなんとか"戦争"を回避し、僕は海未の怪訝な視線に耐えながら隣に並んだ。

 

 

◇◇◇

 

 

なぜ、先輩は私を送るなどと言い出したのでしょう?そう考えると、つい視線が先輩の方を向いてしまいます。

嫌だとか、そういうわけではありません。むしろそう言って気遣ってくれるのは嬉しいです。

 

あ、決して特別な感情はありませんよ?ただ私を"そういう"存在として見てくれるのが嬉しいだけです。

私は弓道や日舞だけでなく、剣道も教わってきました。なので、佇まいや雰囲気が武闘派に見えてしまうのでしょうか。こうして帰りに送ってもらうなんて事はありませんでしたから。

 

「…どうした?僕の顔に何かついてる?」

 

「あ…い、いえ、何でもないです…////」

 

ずっと見つめてしまっていたらしく、先輩が優しく微笑んで話しかけてきました。思わずどきりとしてしまい、慌てて否定します。

 

「…どうして、私の方に?」

 

少し間を空けて、落ち着いてから思っていた事を尋ねました。意外そうな顔をした後、先輩はまた微笑んで答えます。

 

「…いくら剣道を習っていたって、腕力は男には敵わないんだ。夜道をひとりで歩かせるなんてできないよ」

 

「えっ…どうして私が剣道を習っていたと知っているんですか?」

 

「背筋がピンと伸びてて綺麗だし、ダンスでも体幹が強いからバランスがいい。何か武道を習っているのはすぐわかったよ。剣道だと思ったのは、足運びかな」

 

さりげなく「綺麗だ」と褒められ、私は自分の頬が熱を持つのを感じました。サラリとそういう事言うんですから、先輩は油断なりません…。

 

「足運び?」

 

「海未は利き足どっち?」

 

なんの脈絡もないように感じられる質問。不思議に思いましたが、私は応えます。

 

「えっと…右ですが…」

 

「右利きの人は、普通一歩目は左足が出るんだよ」

 

さらに剣道との繋がりがわからなくなりました。今、私の頭の上には疑問符が浮かんでいるでしょう。思わず首を傾げてしまいます。

 

「海未、ちょっと止まってから歩き出してみて」

 

言われるがまま一度立ち止まり、再び歩き出します。最初に踏み出したのは…右足でした。

 

「あっ…」

 

「海未は右から。それは剣道みたいに、常に(・・)利き足を前にして立つ(・・・・・・・・・・)競技をやってるとそういうクセがつくんだって」

 

「なるほど…」

 

…そういえば、なぜこんな話になったのでしょうか。ああ、そうです。先輩になぜ私を送ってくれるのかと尋ねてからでした。そう考えるとかなり話が逸れていますね…。先輩もそう思ったのか、軌道修正を試みます。

 

「…まあ、それはともかく。一緒に来たのは、送るためだけじゃないんだ。ちょっと話したいこともあったし丁度いいかなって」

 

「そうだったのですか…」

 

ちょっとがっかりしました。純粋に私を心配していたわけではないのですね…ん?なぜ私はがっかりしたのでしょう…?

 

「…まあ、エリーはあんな風に言ったけど」

 

話の内容はなんとなくわかっていましたが、やはり先ほどの生徒会長との会話についてでした。

 

「あいつには、海未たちを素人だって言えるだけの根拠が、あるにはあるんだよ。あんな言い方は無いと思うけどさ」

 

「どういうことですか?」

 

「お、おい、そう怖い顔をするなよ…。エリーは、昔バレエをやっていたんだ」

 

「怖い顔なんてしてませんが?続けてください」

 

「してるって…めっちゃ怖いよ…。小さい頃からかなりの実力があったみたいでな。日本のコンクールは1位総ナメだったらしい」

 

「なのに、どうしてやめたのです?」

 

「小学校に上がっても、ずっと実力は維持してた。でも、小学校5年の後半から、エリーは急激に失速。どんなに練習しても思うように動けなくなったんだ」

 

「…まさか、成長期(・・・)ですか?」

 

「その通り。あいつは小学校で一気に身長が伸びたから、当然それに応じて体重も増える。でも、それを支える筋肉はそうはいかない」

 

「当時の身体能力では、耐えられなかったのですね」

 

「そう。もちろん必死になって練習してたよ?バレエシューズに血がにじむくらいにね。でも、どうしようもなかった。エリーは言い訳にすることはなかったし、いつも『練習不足なだけ』って言ってたけど、そうじゃないことは素人の僕にも明らかだった」

 

「単純に筋力トレーニングをするのではダメなのですか?」

 

「バレエは踊りだけじゃなくて、踊り子のスタイルも重要視されるらしい。単純に鍛えるだけじゃダメなんだって」

 

「そんな…」

 

「落ちぶれたなんて言われても、何も言わずにエリーは努力し続けたよ。でも、その時の表情はとても見ていられなかった。好きだったはずのバレエを、嫌いになりかけていたんだ」

 

「…結局、彼女はそのまま返り咲くことはなかったのですか?」

 

ここまでスラスラと届いていた先輩の声が、詰まったように止まりました。ですが、何も言わず続きを待ちます。

やがて再び先輩は口を開きました。ですが、先ほどとは打って変わって、重そうで、苦しそうな声。

 

「…やめさせた(・・・・・)んだよ。僕が」

 

先輩は悲しそうに苦笑します。それを見るだけで、後悔の念がある事が手に取るようにわかりました。

 

「もうやめろ、ってね。あの時のエリーは誰が見ても潰れかかってた。昔の楽しそうに踊っていた時の彼女を知っている僕からしたら、なおさら」

 

負い目に感じているのでしょうか。先輩は自分の犯した罪を告白するような表情になりました。

…会長は、続けていたかったのでしょうか?むしろ、悠先輩に止められてホッとしたのではないでしょうか…いや、私には知る由もないことですね。

 

「…そんなことが…」

 

私は、結局慰める言葉も何も言えず、ただ相槌をうつだけでした。もっとも、先輩はきっと私の慰めなんて必要としていなかったでしょうね。

 

「あはは」と、まるで力のない笑い声とともに、先輩は少しだけ私から顔を背けました。次に向かい合ったのは、いつも通り、飄々とした先輩。

 

「もしエリーの現役時代の映像が気になるなら、神田明神に行くといい」

 

「?? なぜ神田明神に?」

 

「行けばわかるよ」

 

心中を読めないような、しかし少し眩しい笑顔で先輩は笑います。

…私には、先程の話の後だからか「これ以上は話したくない」と言っているようにも見えました。

 

「…わかりました。では、ここで」

 

「うん、また明日。気を付けてな」

 

互いに違う道を歩き始めます。

私は少し歩いたところで先輩の方を振り返りました。そのまま先輩が角を曲がるまで見つめ続けていたのに気がついたのは、塀の上を歩く猫の鳴き声に驚いてから。ついでに頰が熱を持つのを感じ、私は慌てて神田明神への道を早足で歩き出します。

 

 




地の文を魅力的に書ける人こそが小説家だと言えるのではなかろうか。
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