音ノ木坂学院ラブライ部!   作:れみんとぅ

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凛「猫だにゃー!」僕「猫だにゃー!」

【講堂 ~放送室~】

 

「さて…どうするよ、μ's(ミューズ)?」

 

誰もいない講堂という、容赦なく突きつけられた現実。

きっと相当なショックを受けたはずだ。実際3人とも立ち尽くしている。

 

少し罪悪感はあるが、これは彼女たち自身が経験し、その上で考えるべきことだ。

 

考えるべきこととはもちろん、『続ける』か『諦める』か。

これで心が折れるようなら、エリーの言う通りだったことになる。

 

「…ま、そうならないと思ったから協力したんだけども」

 

少し揺さぶってみるか。

僕はマイクのスイッチを入れ、ステージに立つ3人へ問いかける。

 

『3人とも…今回ライブは中止にするか?』

 

皆の顔が上がった。目を見開いて、僕の方を見ている。

その目には、色々な感情が込もっていた。

 

『お客さんがいないんじゃ、やる意味がない。屋外ならともかく、講堂じゃ外に音も届かないしな』

 

高坂さんの口が固く引き結ばれた。目元には涙も溜まっている。

隣の2人も黙って彼女の言葉を待っていた。

 

「……」

 

やがて、ゆっくりと口が開く。

言葉が紡がれる、その直前。

 

バンッ!と扉が音を立てて開いた。そこにいたのは、1人の女子生徒。

 

「…はぁ…はぁ…あれ…ライブは…?」

 

絶えず周りを見て、おどおどしている。もう始まっていると思っていたのだろう。

ステージに立つ3人は驚いたようで、ただ彼女を見つめていた。

 

「…やろう!」

 

「「えっ…?」」

 

園田さんも南さんも、思わず高坂さんの方を見る。彼女は2人を見ながら続けた。

 

 

 

「だって、このために今まで頑張って来たんだから!」

 

 

 

表情が変わる。全員の顔に光が戻り、彼女たちの手に力が込もるのがここからでも見えた。

 

「先輩!」

 

高坂さんの声が届く。

その瞳の中には、強い意志が宿っていた。

 

「…OK、そうこなくっちゃな」

 

合図を送る。3人はそれぞれの立ち位置へ。

一度照明をすべて落とし、再生ボタンを押す。

 

静かなピアノの旋律。1人ずつスポットライトが照らし出し、前を向いて顔を上げる。

 

そして、光が溢れ出す。

 

 

I say...Hey, hey, hey, START:DASH!!

 

 

揺れる髪、たなびく衣装、3人に合わせて全てが動く。

 

観に来た女子生徒も既に引き込まれたのか、ただ黙って、しかし目を輝かせている。

 

いや待て、隣にもう1人いる。いつのまにか来ていたようだ。ショートカットで、快活そうな女子生徒。

 

 

うぶ毛の小鳥たちも

いつか空に羽ばたく

 

 

南さんが歌う。にこやかに、とても楽しそうに。

 

 

諦めちゃダメなんだ

その日が絶対来る

 

 

次は園田さんの声に変わる。とてもよく通る、澄んだ声だった。

 

 

明日よ変われ!!

 

希望に変われ!!

 

 

2人でワンフレーズずつ。中央から、左右に分かれると、高坂さんが前へ出た。

 

 

眩しい光に

照らされて変われ‼︎

 

START‼︎

 

 

3人の声が重なる。そしてサビへ。

 

 

悲しみに閉ざされて

泣くだけの君じゃない

 

熱い胸 きっと未来を切り開くはずさ

 

悲しみに閉ざされて

泣くだけじゃつまらない

 

思えば、今の彼女たちにはぴったりの歌詞だよな。

園田さんはこうなることをわかっていたのかってくらいドンピシャ。

 

なんて考えていたら、放送室の扉が開いて、なんとエリーが顔を覗かせた。

 

「…よう。お前も観に来たのか」

 

「私が正しかったことを確認しに来ただけよ」

 

「ふぅん?」

 

正しいと思うなら来ないだろ、普通。

もう少しマシな嘘をつけよ。気になって仕方がなかったクセに。

 

「…なによ」

 

「べっつに〜」

 

軽く睨まれた。いや僕は別に何もしてないだろ。

 

ちなみに、話しながらでもしっかり照明は操作している。高坂さんのクラスメイトが。

なんせこの子、めちゃくちゃ飲み込みが早い。才能あるんじゃないかな、照明の。いらんかそんな才能。

 

生徒会長であるエリーが来て、さっきから落ち着かないみたいだけど、まあ普段のエリーは近寄りがたいオーラを出してるから仕方ない。

 

「「……」」

 

特に会話もなく、僕は照明の操作に戻る。別にやらなくてもいいんだが、やらないと間が持たない。

 

そういえば、実はエリー本人『近寄りがたいオーラ』の事を結構気にしている。自分が人に話しかける時、やたらと緊張しているのがわかって、どことなく悲しいらしい。

 

「ユウはわかっていたんでしょ?」

 

「なにが?」

 

「こうなること」

 

ふとエリーがそんなことを言う。それに驚いたのか、クラスメイトの子が振り向きかけて、慌てて仕事に戻った。

 

あのなエリー、そういうことを関係者の前で言わないでほしいな。僕が知ってて言わなかった嫌な奴みたいになっちゃうだろ。

 

「何を言ってんだ、誰でも最初はこうなることくらい想像できるだろ」

 

「…そうね」

 

言葉とは裏腹に、なおも訝しげな目を向けてくる。だがそれっきり彼女は黙ったので、僕も再び作業に戻る。

 

戻ったはいいが、もう曲は終わっていた。

ほとんど1人で仕事こなしちゃったよこの子…。僕始めからいらなかったなこれは。

 

「さて…っと、エリー?」

 

僕が立ち上がると、エリーが出て行くのが見えた。そのままステージの3人へ。

後について放送室から出ると、彼女はこう言った。

 

「どうするつもり?」

 

もちろん、これからどうするか、という意味だろう。対して高坂さんは真っ直ぐに見返し、即答。

 

「続けます!」

 

「なぜ?これ以上続けても、意味があるようには思えないけど」

 

エリーは冷たく切り捨てる。だが高坂さんも負けず即座に言い返した。

 

「こんな気持ち、初めてなんです。やって良かったって、本気で思えたんです」

 

彼女の言葉には確かな力が込められていた。その場にいた皆が、静かに耳を傾ける。

 

「今は、この気持ちを信じたい。このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない。応援なんてもらえないかもしれない。でも」

 

それは充分にあり得ること。だからこそ、説得力を持ってエリーにも伝わっているように思えた。

 

「一生懸命頑張って、私たちがとにかく頑張って、届けたい。いま、私たちがここにいる、この思いを」

 

そう、とだけ言うと、エリーは踵を返し出て行った。

3人は僕に気付くと会釈。高坂さんは手を振ってる。

 

「…とりあえず、お疲れさん。そこの1年生も、観てくれてありがとう」

 

たった2人のお客さんに声をかけると、1人は驚いたように、もう1人は快活に言った。

 

「ピャッ!?あ、あの、感動、しました…」

 

「すごかったにゃー!」

 

にゃー?…まあいいか。

反応は意外といい。言葉はお世辞ともとれるけれど、彼女たちの表情が嘘をついていなかった。

 

それだけでも、今回のライブは成功だと言ってもいいかもしれないな。

 

 

【帰り道】

 

後片付けを終えて学校を出る時には、すでに6時を回っていた。

今日は姉さんが夕飯を作るので問題はないが、あまり遅くなるのも申し訳ない。早く帰ろう。

 

「お疲れ様」

 

「…後ろから声かけるの好きだなお前」

 

既視感を覚えながら振り向くと、声の主、東條が意味深に笑って立っていた。

 

何も言わず横に並び、歩き出す。先に沈黙を破ったのは僕。

 

「実は観てたろ?今日のライブ」

 

「バレてた?ゆうちゃんは何でもお見通しやね」

 

「あともう1人、多分西木野さんがいたか?あとゆうちゃんはやめえや」

 

また沈黙。会話は続かないが、不思議と嫌な感じはしないのは、東條だからか。エリーだとこうはいかないしな。

 

「ところで、『μ's』って確かギリシャ神話の文芸の女神だよな?いや、あれはムーサだったか?」

 

「英語では『ミューズ』って読むんよ」

 

「なるほど…神話からすると女神は9人だったよな」

 

「そうやね」

 

「ってことは、あと6人メンバーが増えると東條は思っているわけだ」

 

「さぁ、どうやろ?」

 

また意味深な笑みを浮かべる。

こいつこんな不思議キャラだったかな…3年になってキャラチェンジとかじゃないよな…正直それはないぞ…。

 

「今失礼なこと考えたやろ?」

 

「ソンナ、ゼンゼン」

 

こうやって心読まれるし。迂闊に余計なこと考えたら酷い目にあいそうだ。

 

「それじゃ、ウチこっちやから」

 

「ああ、また明日な」

 

手を振りあって、別々の道へ。

数分歩くと、また知り合いと出くわした。

 

「あ、悠さん」

 

「亜里沙じゃないか。こんな時間までどうしたんだ?」

 

絢瀬 亜里沙(ありさ)。苗字の通り、エリーの妹だ。

本日2度目、女の子との帰り道。

 

「友達の家で勉強です。テスト前なので」

 

ロシアにいた期間がエリーよりも長く、日本の文化にまだ疎いところがある。

 

「テスト前?この時期にか」

 

「受験生なので、月1回ペースだそうです。定期テストの他に、総合テストをやるので」

 

「うへぇ…」

 

具体的にどう疎いか、というと。

 

お汁粉缶やおでん缶、そしてカレーまでもを飲み物と思って(・・・・・・・)いたり。

自販機での飲み物の買い方がわからなかったり。

 

ちなみに、海外に自販機はないそうだ。理由は盗まれる(・・・・)から。どうやってあのデカブツを盗むんだよ。

 

「大変なんだな、受験生」

 

「…?悠さんも受験生でしょう?」

 

「せやった」

 

エリーはお汁粉缶おでん缶あたりのことを8割がた僕のせいだと思っているけれど、断じてそんなことはない。大体6割くらいだ。

 

「それより、今日は姉さんと一緒じゃないのですか?」

 

「まあな。あいつは先に帰ったよ」

 

亜里沙はかなりのお姉ちゃん子だ。まあ2人暮らしだし絆が深いのは当然だけど。僕ら荻野姉弟もそうだし。

 

「喧嘩、ですか?」

 

「なんでそう思うんだ?」

 

喧嘩っていうか、少し、主にμ'sの事で気まずくなってはいるが、普段とそこまで変わってはいない。

 

「日本のカップルは、四六時中一緒にいるものなのでしょう?」

 

「…まず、俺とエリーはカップルではないぞ」

 

結構いるのだ。僕とエリーが付き合っていると思っている人たちが。

学院のエリーファンの皆様に誓って、そういう関係ではない。今のところは。

 

「そうだったんですか!?てっきり付き合っているとばかり…」

 

「うん…その誤解はわりと出くわすからいいんだけど…。あと日本では、四六時中一緒にいるカップルは総じて『バカップル』と呼ばれる。僕らとは違う特殊な人たちだ」

 

「ハラショー!『バカ』な『カップル』って事ですね!」

 

「さらっと毒を吐くね亜里沙…あとそこはハラショーなポイントじゃない気がするよ。どっちかっていうと苦笑いポイントだよ」

 

エリーの口癖でもあるこの『ハラショー』だが、亜里沙の方が発音が本場に近いらしい。

そのせいか、日本人である僕の耳にはしばしば『ハラッセオ』と聞こえる。

 

「それじゃ、私はこっちなのでこれで」

 

「おう。勉強頑張れよ〜」

 

「それは悠さんもでしょう?」

 

「せやな」

 

再び手を振り合って別れ、自宅への残り数十メートルを歩く。

すると我が家の方向から犬の鳴き声が聞こえた。聞きなれた声だ。

 

ここ最近帰りが遅かったので僕が世話することはなかったが、うちは犬を飼っている。それも『サモエド』と呼ばれる大型犬を。

 

名前はレフティ。

なぜ『左利き』かというと、前の飼い主が教えたのかお手をする時必ず左足を上げるのでそう名付けた。

 

迷い犬として保健所にいたのを、姉さんがある日突然引き取ってきた。

初めはびっくりしたものだ。いきなりその巨体で飛びつかれたのだから。だがすぐにモフった。

 

「お〜、よ〜しよしよし」

 

こいつは僕が帰ってくると必ず玄関の前で出迎えてくれる。姉さんの時はなぜかしない。彼女自身どうにか出迎えてくれるようにならないか工夫してるみたいだが、今のところ効果はない。

 

そして、出迎える時に脱走しないようにと設置した柵を自分で開けて(・・・・・・)出てくるのは早急に対策が必要である。

 

「ほ〜れとってこ〜い」

 

誰にでも人懐っこく飛び付こうとする我が愛犬だが、エリーに対しては随分と大人しい。

僕は勝手にエリーに惚れて照れているのだと思っている。レフティはメスだけど。

 

「う〜しいいこだぞ〜。よし待ってろ今ご褒美を」

 

「ちょっと!帰ってきたなら言ってよユウ。こっちはお腹ぺこぺこなのよ」

 

窓から顔を出した姉さんに怒られた。レフティは構わず僕の顔を舐めようと立ち上がる。

あっ、おいバカ、僕今制服なんだぞ!汚れたらどうする!

 

「いや…先に食べててくれても構わんのだが…」

 

「ダーメ!一緒に食べるの!ほら早く!」

 

「はいよ〜。んじゃレフティ、また夜な」

 

愛犬に一旦の別れを告げ、家の中へ。するとすぐにいい匂いが食欲をくすぐった。

 

手洗いとうがいを済ませ、食卓へ行くと、既に姉さんは箸を構え臨戦態勢だった。何やってんだよ。

 

「…ん?なんか姉さん今日ちょっと違う?」

 

「え?そう?」

 

なんか、目元がどことなくはっきりしてるような…。そうか、わかったぞ。

 

「少し本気出して化粧したろ?」

 

「よくわかるわね…。今日は大事な打ち合わせだったのよ。気合いを入れる意味でもと思って」

 

「なるほど」

 

いつもは殆ど化粧をしない、しなくても全く問題ない顔立ちだが、時々こうして気合いを入れて仕事に臨むのだ。いつもは化粧しないからこそ気付けるのである。

 

かといって、普段気合いが入ってないかというとそうでもない。普段のデスクワークはある程度リラックスしていた方が効率がいいからだそうだ。

 

もっとも、これは姉さん、そしてエリーくらいにしかできないスイッチの切り替え方だよな。

 

「というわけでいただきまーす」

 

「ああ!それ私が狙ってた1番大きい肉!」

 

「ふははははは。早い者勝ちさ」

 

「くっ、油断した…」

 

今日も荻野家の食卓は賑やかである。

 




アニメ版ラブライブを一期、二期ともに視聴し終えました。しんみりエンドではなくて意外でした。映画化と聞いて歓喜しました。

現実世界でも卒業式シーズン真っ只中ですね。僕の高校は既に終わり、もう3年生はいません。
しかしμ'sほど部活内の絆が深いわけではなく、どの先輩とも話すことはなく即座に帰宅、この小説を書いていました。

別にぼっちじゃないですよ!友達はちゃんといます。

では、次回もよろしくお願いします。
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