【部活】
実は僕、部活に入っているのだ。帰宅部が如く生活している僕だが、地味に副部長である。
そして今日、久しぶりに顔を見せようと部室の前に来ているわけでございまして。
「おや、久しぶりだな、荻野」
ドアノブに手をかけたところで、我が軽音部の部長に声をかけられた。
「おう、久しぶり。どうよ皆は」
そんな
「直接確かめたほうが早いだろう。さあ、入れ」
促されノブを捻る。扉の先には『これぞ軽音部』といった感じの景色。
奥中央にはドラムセット、その左にベースアンプとギターアンプ、右には2台目のギターアンプとキーボード用のスピーカー。
軽音楽部の部室は、他のどの部活よりも広い部屋を使わせてもらっている。そのかわり、練習もその中でやることになっているのだが。
「おー、久々の軽音部副部長」
「久しぶりだなのんたん」
「のんたん言うな。東條さんと被るだろ」
被らねえよ。あの人は別にのんたんとは呼ばれてねえよ。
ミツキも軽音部の部員である。3年のメンバーはこれで全員で、他は全員後輩。まあ、全部員が6人というなんとも寂しい部活なのだけれど。
「久しぶりですね!荻野さん」
「うん、久しぶり。相変わらず元気そうでなによりだ」
元気よく挨拶してくれた女の子。
2年生、名前は
初めは3人ほどいたのだが、彼女を除く2人は相川に告白しあえなく撃沈。気まずくなったのかやめていった。
ちなみに、
「荻野先輩、お久しぶりです。寂しかったんですよ?ただでさえ人が少ないんですから…」
「ごめんごめん。最近はまた別の事に気を取られてたからね…」
まさに清楚の一言に尽きる。
1年、名前は
ミツキによれば早くもかなりモテているらしく、既に彼女に『斬られた』男は二桁を超えているのだとか。断る文句は「好きな人がいるので」…まったく羨ましい限りである。
「あれ、ユウさんじゃないですか。珍しいこともあるんですね、明日は槍が降りそうだ」
「そんなに幽霊部員感あるの僕…?」
もう1人の1年、そして最後の部員にして最後の男子。
桜坂と同じく現時点でかなりモテている。既に3学年もかなりの人数が撃沈しているらしい。
「それよりユウよ、例の件はちゃんと進んでいるんだろうな?」
「のんた〜ん、僕を誰だと思っているんだ?3年連続で担任に『一番不真面目そうなのが一番真面目だった』と言わしめた荻野悠だぞ」
ドヤァ。
完璧に決めたつもりだったのだが、ミツキを含め全員苦笑いしている。
「それは胸を張って言えることなのでしょうか…?」
「桜坂…そこは突っ込まないでやってくれ」
相川も桜坂も何やら呆れたように話している。支倉と浅井に至っては完全に自分のことに集中していた。
「ユウよ、ともかく頼んだぞ」
「あー、それがなのんたん、昨日思いついたんだが…」
勿体ぶって言葉を切る。全員の意識が向いたところで僕は続けた。
「1人1曲ずつ作曲する、っていうのはどうだ?」
「「「「「!?」」」」」
いいねえ、この皆の顔。完全に意表を突かれて言葉を失ってる。
もちろん、学祭に向けて6曲では心許ない。その分僕が追加で用意する予定でいるが、まず皆にこの考えを承諾してもらわないと。
「どうだい?やってみてもいいと思うんだけど」
僕が回答を促すと、相川から質問が。
「6曲では心許ないのではないか?」
「安心してくれ。僕が追加で用意する」
お次は桜坂。
「全て1人でやらなければいけないのでしょうか?」
「作曲自体は全員だな。1人でやるのは作詞で、そして作詞者を中心に曲にする」
浅井からも質問が出た。
「パート分けは?」
「作詞者が決めてくれていい」
質問タイム終了。ミツキも支倉も、特に聞くことはないようで既に心を決めたといった顔だ。
「で、どうs」
「「「「「やる!!!!!」」」」」
「お、おう…」
食い気味に返事が来た。これは少し予想外だったが、返事に関しては思った通りだった。
「いいのか〜?結構大変だぞ〜?」
なんと提案者が引き止めるような事を言うが、そんなことで折れる奴らではない。
「「「「「だって、面白そうだし!!!!!」」」」」
そう。こういう奴らなのだ。
まだ出会って間もない1年2人も見事にハマっている。
面白いかどうか。彼らの頭の中に『大変かどうか』はない。
面白いと思えばやる。どれだけ大変でも、やってみなければわからないのだから。
大変であれば、その分達成感も楽しさも増えていく。
単純である。だがそれ故に大抵の事は出来てしまうものだ。
僕はそんなこいつらが大好きである。
「でも、思いついたのが昨日って、随分急なんですね」
「支倉、今まで僕が急でなかったことはあったか?」
「無いですね!」
「よろしい」
再び桜坂がボソッと突っ込み、相川が返事。
「よろしいのでしょうか…?」
「桜坂…全てに突っ込んでいると身がもたないぞ」
その通りだ桜坂。倒れる前にスルースキルを磨くことだな。
【廊下】
次の日。
今度はμ'sがどうなっているか様子を見ようと思いメンバーを探すと、何やら皆が集まっていた。
「あ!ユウ先輩!」
高坂さ…穂乃果の声に皆がこちらを向く。
ちなみに、初ライブの後、園田さ…海未に「いつまでも他人行儀はやめてください」と言われ呼び捨てにすることになった。
その時、つい鏡を見ろと言いそうになったが耐えた。後が怖かったからである。
「お、増えてる」
「野良猫みたいに言わないでほしいにゃ」
そう、人数が増えていた。3人から6人に。
「西木野さんも入ったのな」
「……」
顔を背けられた。
新メンバー3人は、全員1年とのことだった。
まずは西木野さん。きっかけはわからないが、作曲だけでなく正規メンバーとして頑張ってくれるらしい。
「は、初めまして。小泉花陽です…」
次に、
初ライブに来てくれた1人で、大人しい方である。ずっとスクールアイドルに憧れていたが「自分には無理だ」と言い出せなかったらしい。
「星空凛!趣味はスポーツだにゃ!」
最後に
初ライブに来た活発そうな方だ。小泉さんの幼馴染で、彼女が背中を押して小泉さんがμ'sに入る決心をしたそうだ。
スポーツ全般が好きとのことで、そういえばはしゃいでロンダートからのバク転からのバク宙を決めていた。
はしゃいでってレベルじゃねーぞ!しかも室内だぞ!あぶねーぞ!
「で、賑やかになったと」
「楽しくなっていいよね!」
まあ、こ…穂乃果の言う通りだ。
しかし、よくもまあここまで濃いキャラが集まったな。これも穂乃果のカリスマ性によるものか。
「で、この6人でやる曲を作らにゃならんわけだが」
「そうですね…できるだけ早く詞を作ってお渡しします」
そ…海未が作詞は担当してくれるらしい。意外に感じられたが、怒られそうなので言わないでおく。
「うん、頼んだよ。あ、最初に西木野さんに渡してくれな」
「ちょっと、また私もやらないといけないの?」
当然西木野さんがピアノ音源を作ってくれると思っていたのだが、どうやら彼女の考えは違うらしい。
「え、ダメなの?」
「ダメってわけじゃないけど…別に私がやらなくても、ピアノ抜きでだってできるんじゃないの?」
わかってないなぁ…自分の実力を知らん奴はこれだから困る。
「前にも言った通りだよ」
「そうじゃなくて、ピアノなしの曲なら1人で出来るんじゃないのってことよ」
やけに頑固だ。何やら思うところがあるようなので、探りを入れてみる。
「ほう。何故そう思う」
我ながら露骨にも程がある。
少し考えてから、西木野さんは話す。
「…ピアノの技術はともかく、編曲した音源はしっかりしてたと思ったの」
「確かに、プロの作曲家なのかと思ったにゃ」
星空さんも同意している。そこまで言われると照れるな。
「それはあくまで西木野さんのピアノがあったからだと思うんだが」
「でも…」
「あ、わかった!真姫ちゃんあの曲を聴いて自信なくしちゃったんだにゃ!」
「そ、そんなことないわよ!」
星空さん…いや、凛の言葉に真姫が憤慨する。それだけ自信があるということだ。
「ピアノを使わんでもいいと思ったら1人でやるさ。だから西木野さん…いや、
「…わかったわ。でも、いつでも力は貸すから」
「おう、さんきゅ」
僕が手詰まったら相談すればいい。μ'sのメンバーになった以上、作曲ばかりさせてはいられないからな。
「なんだか…」
「いい感じ?」
「「!?!?」」
僕と真姫の会話が切れた。すると花陽とことりがニコニコしながらすごいことを言っているのが聞こえた。
【屋上】
「うわ…」
「土砂降りだよ…」
今日の天気は雨だった。降水確率60%と予報では言っていたから、まあ降ってもおかしくはないわけだが。
「これでは練習ができませんね…」
「そんなぁ!せっかく人数が増えて初の練習なのに!」
「仕方ないよ穂乃果ちゃん…雨じゃどうしようもないし…」
まあどうしようもないな。こんな土砂降りで練習したら風邪ひくわケガするわで悲惨なことになりそうだ。
「…あ!小降りになったよ!」
「これぐらいなら練習できるにゃ!」
あ、2人飛び出してった。
凛が再びロンダート→バク転→バク宙の3連コンボ。着地するとしばらく滑り、決めポーズ。
そしてその瞬間に再び土砂降りに戻る。
ずぶ濡れになる2人。しかし構わずはしゃいでいた。
「こんな天気じゃ練習は無理でしょ。私は帰るわよ」
「そうだね…練習はまた明日にしよっか」
真姫とことり。しかし雨の中にいる2人は納得いかないらしい。
「えー!それじゃ私たちが馬鹿みたいじゃん!」
「馬鹿なんです…」「馬鹿なんだよ…」
海未と声が重なった。ことりがすげえニコニコしている、いや、ニヤニヤしている。
「とにかく、穂乃果も凛も風邪ひく前に着替えるんだぞ。明日はきっと練習できるさ」
「「はぁ〜い」」
2人の返事を聞いて、僕は階段を降り始める。そういえば、早くも真姫は姿を消していた。
僕も今日は帰るかな…そう考えながら1階へ着くと、右から誰かがやってきた。
「っ!!荻野先輩っ!!」
「桜坂?どうしたんだよそんなに慌てて」
走ってきたのか、息が上がっていた。表情から判断するに、何かあったようだ。
しばらく息を整え、桜坂が言葉を発した。
「…先輩が…支倉先輩が…!!」
課題に追われています。猛烈に。
自分の高校は県下有数の進学校(笑)という名の超ブラック高校でした。課題がない日は無いというなんとも(っ'ヮ'c)<ハラショォォォォオな日常です。