どっちつかずの彼女(かれ)は行く   作:d.c.2隊長

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メリークリスマス! お待たせしました、ようやく更新です。待ってくれていたいい子の皆様にクリスマスプレゼントだよ!←

前回の後書きに次こそ戦うと言ったな、あれは嘘だ(殴

さてさて、FGO が大変盛り上がってますね。私もちょこちょこと柱を折ってますが、皆倒すの早すぎぃ! そしてこれが今年最後の投稿となります。今年もご愛読ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします(*・ω・)

阿賀野型スキーの方は注意をば。


私の前から消え失せろ!!

 その驚愕は、妖精猫吊るしが“妖精猫吊るしとして”生きてきた中でも間違いなく最大級のモノ。

 

 (何っ……!? 何故、何故!? こんなことが、何故有り得る!?)

 

 猫吊るしには世界中に存在する端末である妖精達の視界を見る事が出来る。それがどのように見えているかは本人にしか分からないが、猫吊るしは億、京を越えるであろう視界を正確に、素早く理解し、把握出来る。だが、自身がイレギュラーと呼ぶイブキの周囲に3人の妖精が現れた瞬間から……正確に言うなら現れる数秒前から自分1人の視点でしか見えなくなった。

 

 (電波を遮断? バカな!! この時代の人間達が使うような電波じゃない……私が使うのは今の人間では到底理解出来ない、私と端末の間でのみ扱っている特殊なモノ……それを、たかだか端末風情が遮断しただと!?)

 

 何よりも猫吊るしが驚いているのは、自身が端末と呼ぶ妖精によって事が行われたということだ。猫吊るしは己を妖精だとは言っているものの、言うなれば親機でそれ以外の妖精は全て子機。プレイヤーと操作するゲームキャラのようなモノ。反逆されることなど想定外の出来事だ。

 

 最早先程までの余裕は猫吊るしには無い。電波が遮断されたのが事実である以上、人質を取ったことにはならない。少なくとも、猫吊るしの意思は介入出来なくなったのだから。そして、猫吊るしにとって聴き逃せなかった言葉がもう1つ。

 

 (しかもこいつらは“身代わり”と言った……何故この妖精達はそれを知っている!?)

 

 それが“身代わり”。以前、猫吊るしは空母棲姫曙によって握り潰されたことがある。にも関わらず、彼女は別の場所に現れた上に大淀の中の爆弾、回天を起爆している。何故握り潰されたのに無事だったのか、何故無事だったのに握り潰されたその場ではなく別の場所に現れたのか。その理由の答えこそが、軍刀妖精ズの言う“身代わり”。

 

 猫吊るしは遥か昔、古代の人間だった存在だ。その姿を今の妖精へと変え、現在まで生きてきた……が、何も不老不死という訳ではない。そもそも妖精とは、猫吊るしが持つ技術力を使って造られた高性能な小型ロボットのことだ。人間とはサイズが違うし浮くし食事もするし姿も消せるし自分の意思も存在するが、まごう事なきロボットなのである。猫吊るし自身も妖精である以上、その体に変わりはない。違いがあるとすれば、それは意思。猫吊るし本来のモノか、ロボット用に造られた人工的なモノかの違い。

 

 つまり、猫吊るしという妖精がいるのではなく、猫吊るしの意思が宿っている妖精を“猫吊るし”と呼ぶのだ。身代わりとは“体”が死した時に“意思”が電波を通じて“別の体へと宿る”ことを意味する。大襲撃の時、曙に握り潰された体は間違いなく死んでいた。だが意思は消えることなく別の妖精へと電波を通じて宿り、猫吊るし自体は生き永らえていたということなのだ。

 

 故に、猫吊るしは不死ではないがソレに近い存在である。妖精の数だけ身代わりが出来るのだから。そんな猫吊るしが死ぬとすれば……それは何処にあるのか、そもそも存在するのかも分からない“本体”とでも呼ぶべきモノの破壊。或いは……今のように身代わりを行う為に必要な電波を遮断される、もしくは妖精を殺し尽くすくらいのモノだろう。

 

 「……何なんですかお前達は……お前達みたいな妖精、有り得るハズがない」

 

 「「「有り得ない、なんてことは有り得ないんですよー」」」

 

 3人の妖精から異口同音に告げられた言葉に、猫吊るしは顔を憎々し気に歪める。目の前の妖精達は、猫吊るしにとってイブキ以上のイレギュラー。端末たる妖精の反逆など、画面の向こうのキャラクターが自分の意思を持って画面から飛び出して襲い掛かってくるようなモノ。有り得ない、と声を大にして叫びたくもなるというモノだ。

 

 「く……くくっ……成る程、身代わりか。曙に握り潰された貴様が何故生きていたのかと思えば……別の妖精の体へと乗り換えていたということか。まるで寄生虫だな」

 

 「口を開くな善蔵……お前とそこの深海棲艦2隻の命は私が握っていると言ったハズだぞ」

 

 嘲笑と共に侮蔑の言葉を吐く善蔵に、猫吊るしは今までの丁寧な口調を崩して高圧的に言い捨てる。それは間違いなく、彼女が精神的に余裕が無くなってきているということに他ならない。それが分かっているのだろう、善蔵はくくっ……という嗤いを止めない。

 

 「命を握っている? くくっ……貴様と私は一蓮托生、握っているところで何の意味もないな。それに、先ほども言っただろう……彼女達のことなどどうでもいいと。ましてや間違いに間違いを重ねて罪を上塗りし続けてきたこの命、“約束”を違えることになろうとも……惜しくはない」

 

 

 

 ━ あまり私を……渡部 善蔵を舐めるなよ ━

 

 

 

 覇気……そう呼ぶのが相応しいだろう。改造されて機械の体になったが片腕を失い、鎖によって壁に繋がれた、身動きもロクに出来ない無力な老人……だが、その身から放たれる威圧感が“無力な老人”に見せない。彼こそが50年以上の間海軍の頂点に立ち、英雄と国民に称される男。例え猫吊るしの誘惑に乗り、道を違え、多くの過ちを犯してきた罪深き存在であっても。その人生は決して楽なモノではなく……己の実力で生き抜き、勝ち抜き、頂点に立ち続けた男である。それは決して猫吊るしのお陰等ではないのだ。

 

 「……面白くない……面白くない、面白くない! 面白くないっ!! 途中まで面白かったのに、さっきまで楽しかったのに!! イレギュラー! そこの妖精! 善蔵! お前達のせいでつまらなくなっ……」

 

 「知ったことか」

 

 駄々をこねる子供のように喚き、吊るしていた猫を上下に振り回す猫吊るし。そんな彼女の言葉に耐えきれなくなったのか、遂にイブキの右手の軍刀が無情な言葉と共に閃いた。下から上へと振り上げられた一閃は善蔵の姿をしたロボットの股下から脳天までを猫吊るしごと斬り裂き、数秒の間を置いて左右に別れる。その断面図はやはり人間のモノではなく、機械のモノ。猫吊るしの体と吊るしていた猫もまた、精密な機械が密集しているロボットのモノだった。

 

 例えロボットであろうとも、真っ二つになった以上は死んでいるのと動議だろう。が、イブキ達は先の妖精ズの言葉から油断無く周囲に気を配る。部屋の外へと行けなくとも、部屋の中でなら身代わりを使えるのだから。だが、その身代わり先は特定しやすい。

 

 (っ……私が追い詰められる……そんなバカなことが起きるなんて……しかもどういう訳かあの妖精達に“移ることが出来ない”。厄介な……)

 

 案の定、猫吊るしは身代わりをしていた。その対象は……不知火の艤装の妖精の内の1体。本来の対象はイブキの軍刀妖精ズだったが、どういう訳かその対象に出来なかった。その理由を考えつつ、猫吊るしは現状を打破する為の方法を考える。1度殺されたことで冷静に慣れたことが、猫吊るしにとっては幸運だった。

 

 「イブキさん。アイツは不知火さんの艤装の妖精に身代わりしてますー」

 

 「艤装の中に籠ってますねー、我々にはお見通しですー」

 

 「プログラムに干渉……成功しましたー。妖精達を艤装から強制退去、迷彩解除、視覚化しますー」

 

 「なっ!?」

 

 が、追い詰められる不幸は続く。猫吊るしは不知火の艤装妖精に移ったことで艤装に宿り、隠れながら対処法を考えるつもりだった。しかしその目論見は軍刀妖精ズによって失敗する。猫吊るしにしか出来ないハズの妖精、艤装へのプログラムに干渉……それによって不知火の艤装妖精は全て艤装から追い出され、見えない様にする為の迷彩を解除され、残らずその姿を現される。その数8体、そして1体だけ、手乗りサイズの猫を吊るしている。

 

 (しまった、他の妖精と見分ける為の猫のせいでバレバレ……)

 

 猫吊るしが思考を終える前に、新たに移った妖精がイブキによって再び縦一閃に斬り裂かれる。そしてその個体を身代わりとして別の妖精に移るが、やはり同時に現れる見分ける為の猫を吊るす形になってしまい、バレた瞬間にまた一閃される。

 

 (マズイマズイマズイ! 思考速度を速めて状況を突破する為の方法を考えないと……終わる。私が終わる!)

 

 新たな個体を犠牲に思考する速度を速め、猫吊るしは状況を打破する方法を考え抜く。最早彼女には一刻の猶予もない。とは言うものの、出来ることはほぼ皆無と言っていい。何か、何かないか……そう考えた瞬間、また1体妖精を身代わりにした。これで半数の身代わりが消えたことになり……同時に、死へのカウントダウンが進む。

 

 (何か、何か何か何か何か……っ! これしかない!!)

 

 猫吊るしが希望を見出だすと同時に、またイブキの軍刀が振るわれる。残り3体、2人以外はまるで動けていない。それほどに猫吊るしの思考速度が、イブキの一閃は速い。正しく一瞬の攻防と呼べるだろう。

 

 そうして猫吊るしが希望へと手を伸ばし……それを掴んだのとイブキが残りの3体を同時に斬り裂いたのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず猫吊るしを元凶と決め付け、色々と真実が発覚して、いつの間にか夕立達を人質に取られて、かと思えば妖精ズがそれを阻止して、後は猫吊るしを斬るだけ……そんな風にトントン拍子に物事が進んだ。何故だか猫吊るしが意識を移した妖精は手乗りサイズの猫を持ってるから移ったかどうかは丸分かりなので判別に時間を食うことはなかった。そうして意識を移す度に斬っていった訳なんだが……残り3体というところで、もう妖精ズ以外の見えてる妖精全部斬ってしまえばいいんじゃね? と思い至り、それを直ぐ様実行して……それで終わりのハズだった。

 

 「っ、不知火!」

 

 「え? きゃうっ!?」

 

 “ソレ”が見えた瞬間、俺は両手を床に着けてしゃがみ、右足を伸ばしてその場で回ることで不知火の踵(かかと)を蹴るように足払いを掛ける。俺が見えた“ソレ”……何かの“手らしきモノ”は一瞬前まで不知火の頭があった場所を通り過ぎ、階段の右隣の壁に突き刺さる。それに僅かに遅れて別の方向からまた“手らしきモノ”が、今度は不知火に足払いを掛けたことでしゃがんだままの俺に向かって伸びてきた。なので直ぐに跳び上がり、避けた後に不知火の側に着地する。

 

 (これは……まさか!?)

 

 壁に刺さった“手らしきモノ”を見てみると、どうにも見覚えがある。何せ壁に刺さっているのは……巨大な黒い爪。そこまで認識して、俺はその正体を悟る。伸びてきた元を見てみれば……案の定、2つあった機械のガラスが割れていて、その中の影から伸びている。

 

 「つぅ……一体なにが……っ!?」

 

 「何よ……それ……」

 

 不知火と壁に繋がれている善蔵とやらとその前にいる黒髪の艦娘がその影を見て驚いているのが分かる。その気持ちは理解出来る……何しろ、さっきまで微動だにしていなかった深海棲艦が、完全に復元された状態で機械の中に立っているんだからな。オマケに中に入ってた緑の液体が割れたところから溢れて床が水浸し、変な臭いまでするし。

 

 《屈辱だ……私が楽しむ為の玩具に過ぎない奴らに……こんな……こんな手段を取らされるなんてねぇ!!》

 

 ギラギラと紅い瞳を光らせているのは、紛れもなく夕立の恩人であり、俺の恩人でもある深海棲艦の港湾棲姫。そしてその隣の機械のところに居るのは、俺の知らない深海棲艦……恐らくは姫級。それが全く同じ表情で、同時に同じ言葉を、違う声色で喋っていた。その表情も、口調も、俺の知る港湾棲姫とは似ても似つかない……考えられる理由なんて1つしかないが。

 

 「吹雪! 曙! 猫吊るし……貴様、何をしたぁっ!!」

 

 《善蔵ぉ……黙れと何度言えば分かる!! 何をしたかだって? 見て分かるだろう? この体に入り込んだのさ! 曙の方は連動させてるだけだけどなあ! そしてぇ!!》

 

 「っ!」

 

 男の言葉に対してです2人の姫がそう言った後、壁に刺さっていた腕が俺と不知火が居る方へと凪ぎ払われる。咄嗟に不知火を抱き上げて跳び、階段の前へと着地したが……この時、俺は例え恩人の体であろうとも躊躇無く斬り捨てておくべきだったんだろう。凪ぎ払われた手はもう1人の姫へと向かっていき……その腹部にめり込んだ。

 

 何を……と思ったのも束の間、めり込んだ腕を中心に血管みたいなモノが浮かんだかと思えば、2人の体は光に包まれ、1つの光の塊になった。

 

 「眩しっ……」

 

 「これは……ドロップ艦が出てくる時の……」

 

 流石に目を開けていられずに手で遮っていると、抱き上げたままの不知火がそんなことを呟いた。もう俺は艦これのことなんて僅かにしか思い出せないが、言われてみればそんな気がする。だがなぜその光が今ここで発生する? それも恐らくは猫吊るしの意識が宿った港湾棲姫ともう1人の姫の2人同時に……嫌な予感しかしないな。

 

 

 

 そうして光が消え失せ、中から現れたモノに……俺達は言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

 ソレは人に近い姿をしているが、色白ではなく真っ白な素肌は紛れもなく深海棲艦のモノ。額から天を穿つように突き出た黒く鋭い角は、港湾棲姫と良く似ている。真っ白な腰ほどまでの長髪は港湾棲姫、空母棲姫と共通の特長だが、それは2人よりもイブキと良く似ていた。いや、髪だけではない。角があって軍刀が無く、両腕が港湾棲姫の巨大な爪であることを除けば、体つきや服装はイブキと瓜二つと言っていい。明らかにイブキを意識して形作られた姿だった。尚、胸の谷間からはあの手乗りサイズの猫が顔を出している。

 

 ソレは目を開けると爪を開いて閉じてを繰り返す。数回こなした後、ソレは視線をイブキ達へと向けた。今でこそイブキは青い瞳をしているが、ソレはフラグシップ級を彷彿とさせる金色の瞳をしていた。

 

 「視界正常、意識融合問題なし……そして」

 

 「……へ? ぁ……」

 

 ソレは後ろへと振り向きながら右手の爪を振るう。その爪は矢矧の頭が合った所を何の抵抗も無いように通り過ぎ……数秒の間を置き、彼女の頭部に2本、首に1本の赤い線が入った後、首から上を三等分に輪切りにされながら彼女の体は崩れ落ちた。

 

 「動作、伝達速度も問題無し……ふふっ、いやはや……備えあれば憂い無しとは良く言ったモノですねえ。データの解析用サンプル兼実験材料程度にしか思って居なかった姫2隻が、まさかこんな形で役立つなんて……」

 

 イブキと良く似たソレの口から聞こえてきたのは、余裕を取り戻した猫吊るしの声。その声と言葉に誰よりも早く反応したのは……善蔵。

 

 「矢矧っ! ……猫、吊るしぃぃぃぃ!! 何だその体は! 2人を……吹雪と曙をどうしたぁっ!?」

 

 「煩いですよ善蔵……大体、貴方にはそんな怒り爆発みたいな形相と声出す資格なんて無いんですよ? それに貴方、さっき2人はどうでもいいって言ってませんでしたっけ? ま、それはさておき……この体と吹雪と曙、でしたっけ? なぁに、見たままそのままありのままのことです。そこの不愉快な妖精達の策略によって私の身代わりは封じられ、あのままでは私は斬殺されていたことでしょう……で、す、が。そこの機械でデータ採集していたお2人の体を見て気づいた訳です……妖精“だけ”に意識を送る必要はない、深海棲艦、艦娘に意識を飛ばせばいいじゃないかと!」

 

 「なっ……妖精以外にも移れると言うのですか!?」

 

 「当っ然! 貴女達艦娘も深海棲艦も元は私が産み出したモノ。その体、その記憶、その感情、その思考! 体に流れる血潮から髪の1本、細胞の1つに至るまで余すところ無く私が造り上げたモノ! 意識を乗っ取り、体を乗っ取ることなんて一瞬あれば充分ですよ!!」

 

 善蔵の怒りの声を流し、嘲笑した後に不知火の驚愕の声に愉しげに言って嗤う猫吊るし。その姿を見て、彼女以外が不愉快かつ腹立たしげに眉を潜める。

 

 猫吊るしの言葉に嘘はない。艦娘も深海棲艦も正しく彼女が産み出したモノだ、誰よりも彼女達を理解しているのは猫吊るしをおいて他にはいない。造り方を知る者は壊し方も理解しているのは当然のこと。流石に産み出した後の事などはどうしようもないであろうが、数多の端末から伝わる情報を正確に的確に余すところ無く処理できる猫吊るしにとって造ったモノの意識を乗っ取ることは児戯に等しい。しかも今回に限っては、港湾棲姫吹雪と空母棲姫曙はシリンダーのような機械の中でデータを取られ、直接猫吊るしに流れていた。つまり、猫吊るし本人と電子的に繋がっていたことになる。意識を送り付ける通り道は出来ていたのだ。

 

 「しかしながら、私も姫2隻の……というか今回造ったモノの融合は初めての試みでしてねえ……この体のスペックを把握しきれていないんですよ。まあ“材料”はあったので、姫級を遥かに凌駕する程度にはなっているハズですが……ね。それに猫を吊るしている訳でもないこの体でいつまでも名前が“猫吊るし”なのは頂けません。そもそも私の名前じゃなくて通称、あだ名みたいなモノですし」

 

 「知ったことか! 吹雪は、曙はどうなったのだ! 答えろ……猫吊るしぃぃぃぃっ!!」

 

 

 

 「そりゃあ意識と体を乗っ取った上に融合までしたんです。意識なんて残っている訳がないですし、融合の解除もする訳がありません。意識も記憶もぜーんぶ“材料”にしましたし、死んだも同然ですね」

 

 

 

 「……き、さ、ま、あ、ああああああああっ!!」

 

 般若の如き形相を浮かべ、咆哮を上げる善蔵は鎖で繋がれていることも忘れたかのように猫吊るしに突っ込もうと体を動かす。が、機械の体はその意思に反して動きを見せず、猫吊るしは両手の爪を振るって善蔵に残されていた四肢……左腕と両足を斬り飛ばした。支えを無くした善蔵は顔から床に倒れ、それでも首から上だけは猫吊るしへと向けて睨み付けている。

 

 「おお、怖い怖い。ですがまあ、それでもう動けないでしょう。貴方はまだ私の娯楽の為に必要なのですから、あまり私を怒らせないで下さいよ? ですがイレギュラー……貴女は別だ」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべて善蔵を嘲笑った後、猫吊るしは振り返ってイブキへと視線を向ける。その憎悪の宿った目を見た不知火は思わず体を硬直させた。その目は、別に凄まじい憎悪や怒りを宿した訳ではない。暗殺やスパイをこなしていた不知火の記憶には、もっと強い怒りを、もっと深い憎悪を宿した目をしている者達が居た。それでも不知火が体を硬直させた理由は目ではなく……。

 

 「お前達は……私の前から消え失せろ!!」

 

 イブキを彷彿とさせる速度で目の前に移動し、右手を振るおうとしている姿を見たからだった。

 

 「っ!」

 

 「はぁっ!!」

 

 「あいっ!?」

 

 イブキは咄嗟に後ろへと不知火を投げ、不知火は階段に背中を打った痛みで声を上げる。攻撃を受けるのとは違う地味な痛みに涙目になりつつ前へと視線を向ければ、そこにあったのは左手に握った軍刀で猫吊るしの右の爪を受けているところだった。

 

 「よく受け止めましたねえ……流石はイレギュラーと言ったところですか。ですが……軍刀の刃ではなく腹で受けたのは失敗でした、ねっ!!」

 

 「っ!?」

 

 猫吊るしが力を込める。彼女の言うように、イブキは不知火を直前まで抱えていたせいか巨大な爪を刃ではなく腹で受けてしまっていた。つまりは刀身の側面な訳だが、刀身は側面に攻撃を受けると脆い。そしてイブキが持っている軍刀はふーちゃん軍刀……絶大な切れ味を誇る反面、イブキの持つ5本の軍刀の中では最も強度が低い。故に。

 

 「な……!?」

 

 ガシャンッという甲高い音と共にふーちゃん軍刀の刀身が粉々に砕け……鋭く巨大な爪がイブキに迫った。

 

 

 

 

 

 

 「……少数精鋭による潜入、かしらね」

 

 夕立が天津風を殺してから数十分、新たな侵入者が入ってきたことをモニター越しに確認して戦艦棲姫山城は呟いた。モニターには5つある拠点と地上を繋ぐ出入り口である縦穴のモデリングが映し出されており、その全てに侵入者を表す赤い光の玉が1つの縦穴につき1つ、計5個出ている。

 

 「姉様、時雨、雷、レコン、それぞれの場所に移動して。夕立から聞いているとは思うけれど、相手は体内に爆弾を持っている可能性が高いそうよ。気を付けて」

 

 【了解!】

 

 簡単に指示を出し、通信越しの返答を聞いてから、山城は溜め息を吐く。正直に言って、山城は質ではこちらが圧倒的に有利だと考えている。何しろ山城を筆頭に主戦力である者達は皆、イブキという規格外の存在と演習を繰り返していたのだから。性能こそ劇的に上がることはないが、経験と勘、戦闘技術を磨き上げるには充分に過ぎる。今なら砲弾を見てから避けられるだろうし、並み以上の艦娘、深海棲艦を相手にしても一対一ならばまず負けないと断言できる。海上では戦力差で押し潰される可能性があるが、拠点内で少数との戦いを繰り返すなら勝てるだろう。

 

 しかしながら、今回はそう簡単な話ではない。何せ相手は体内に爆弾を持っている可能性が高いという。そして、山城は“体内に爆弾を持っていた艦娘”と出会っている……その艦娘、那智曰く“忌むべき最悪の特攻兵器の名を付けられた、対深海棲艦爆弾。沈んだ時、死んだ時、中にあるそれは爆発する。艦娘が使う酸素魚雷のおよそ200倍の破壊力”……結局のところ、その威力を体感できた訳ではないのでハッタリであった可能性もある。が、それは同時に真実である可能性もあるのだ。

 

 つまり、侵入者を殺すことは出来ない。“自決用”と銘打っていたこともあるので自決にまで追い込んでもいけない。勿論こちらがやられてもダメ。今更拠点から退去することなど出来ないし、心情としてもやりたくはない。最悪、今来ている侵入者を地上へと追い出した後に撃って出ることになるかもしれない。

 

 「私はこの拠点の主だし、モニターから目を離す訳にはいかないから動けない……頼んだわよ、皆」

 

 そう呟きながら山城が見たモニターには、それぞれの場所に辿り着いた4人の姿。そして、夕立を含めた5人の前に現れた、新たな侵入者の姿。

 

 

 

 「僕の相手は……君か」

 

 「先ほど私達に向けて炎を放っていた方ですか……駆逐艦が重巡に勝てると思っているなら、バカめと言って差し上げますわ」

 

 時雨の前に現れたのは、高雄。

 

 

 

 「例え貴女が同じ艦娘だとしても……善蔵様の為に死んでいただきます」

 

 「イブキさんが帰って来るまで、ここは落とさせない……私も、死なないんだから!」

 

 雷の前に現れたのは、神通。

 

 

 

 「『ユーはマイシスター霧島デスネ? 初めましてデース! ソンデモッテサヨナラッテナ。キヒヒヒヒッ!!』」

 

 「金剛姉様の姿をした深海棲艦……善蔵様の為、私の個人的な感情の為……沈めええええっ!!」

 

 レコンの前に現れたのは、霧島。

 

 

 

 「……善蔵様の為って言いたいのだけれど、流石にこれはお姉さんにも厳しい、カナ?」

 

 「あら、逃げ帰るなら追わないわよ? ……向かってくるなら、容赦しないけれど」

 

 戦艦水鬼扶桑の前に現れたのは、陸奥。

 

 

 

 「……天津風は、どうした?」

 

 「私が此処にいるのが答えっぽい」

 

 「そうか……ところで、お前が第2の軍刀棲姫か?」

 

 「イブキさんから艤装を預かってるだけ。第2のとかは、そっちが勝手に言ってるだけでしょ」

 

 「確かに、その通りだ……さて」

 

 夕立の前に現れたのは……日向。

 

 それぞれの場所で、それぞれが向き合う。片方は命令の為に。もう片方は仲間の為に。それぞれが艤装を構え、戦意と敵意を相手にぶつける。事実上、この戦いこそが連合艦隊と深海棲艦側の勝敗を決する決戦。

 

 「日向……推して参る!!」

 

 「ここは絶対、通さないっぽい!!」

 

 その火蓋が今、切って落とされた。




火蓋が切って落とされた(今回で戦うとは言ってない)。新猫吊るしですが、イブキに角生えて港湾さんの爪持ってると想像して頂ければ。イブキの容姿については二話目にて。http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=52109365 ←以前海鷹様より描いて頂きましたイブキの絵です。何度見てもカッコいい(恍惚)初めて描いて頂いた時の感動は今でも忘れない。

さて……ふーちゃん軍刀が折れました。大総統も何度か折られてるからね、仕方ないね。日向は多分丈夫な腹筋枠(死亡フラグ

オマケで、クリスマスなので以前書いたイブキのもしものクリスマスボイスをば。

イブキ「いつも頑張っている良い子の提督にクリスマスプレゼントだ。俺に出来ることなら、常識の範囲内で何でもしてあげるよ」



今回のおさらい

俺達のバトルは、これからだ!

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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