約一年ぶりの投稿となります。
久し振りの投稿なので作風が変わっているやもしれまんせんがご容赦の程をお願い申し上げます。
えっ、えっ。...マジか。
視界に広がるのは白、それだけだった。しかも肌に貼り付いて来るようなこの感触、そして肌に手で触れると濡れているようで濡れていない。これは霧だと推測する。森から抜ける事が出来たは良いが、次は濃霧が行く手を阻んでいる。前すら満足に見えないが、これからどうするべきか。
森の中に戻ろうか?待った、森の中での体験を忘れた訳ではあるまいしそんな事出来る訳がない。次見た時は食べると言っていた。態々逃がして貰ってから食べられに行く謂れは無い。
つまり先に進む以外に道は無い。
「進むしかないかぁ」
さてまた疲労困憊の体に鞭打ち進み始めたのだが、前述した通り本当に視界が悪く、辛うじて足下が見える程度で、朝露の影響もあってか、足から感じる草の感触、これが不安定に浮き沈みして中々歩きにくい。そして耳しか役に立たない為、歩みの1歩1歩が小さくなるのは当然の事だろう。視覚が不十分であると言う事がどれだけ大変か、今思い知った。この状態でさっきの女の子の様な「モノ」に襲われでもしたら即死だ、確実に。そうならないように落ち着ける場所を捜したい訳で...。
この霧が少しでも晴れてくれれば楽なのに。
『.........』
一分程歩いただけだが、心なしか霧が晴れたように感じる。周りも少しずつ見えてきた。
これは、湖だろうか。
池ではない、少し小さめの湖だと思う。勿論霧が水面の上にも漂い、正確な規模も分からず、湖だと言うことしか分からないのだが、まだ空に健在の月の光が湖を照らし、その光を鏡の如く反射して光る水面がなんとも幻想的だった。まだ小さい頃に読んだ童話などに出てくる女神様などは、この様な場所から現れるのではないだろうか。金と銀の斧がうんたらかんたら、と今にも出てきそうだ。
しかし俺はそんな景色に目も暮れずに駆け出す。
「水!水!水!」
その時の幻想的な景色など眼中に無く、水を見つけた事に大喜びしていた。喉がカラカラだったのに歓喜し、声を張り上げて喜んでいる。
...何と言うか、我ながら欲望に忠実という事か。半日程水が無い、だからどうしたと言われてしまえばそれまでではあるが、自分はぬくぬくとした環境で育った生粋の日本人であり、当然日常の中で死にかける事など無かった。しかし今日、命が脅かされる恐怖を、緊張感を味わい、いつも以上に体力も精神も摩耗している今ならこうなっても仕方無いと思う。
ほとりに近づき、体を屈めて直接飲む。命の危機から脱した確信、体が生き返ったような感じがした。
「うっひょおぉぉぉ!旨ぁぁぁい!」
良い年した高校生がおおはしゃぎしているこの光景は、もし人が見れば気を違えているように見えても仕方が無いだろう。サイコな狂気は感じられないがおかしい、怪しい事に代わりは無い。人が見ていないと言う事は逆に幸運でもあったのかもしれない。
あぁ生きてる。俺生きてるわ。
水だけで少しお腹が膨れたと思う程には満足した。安心していた。気を楽に、リラックスしながら湖畔の草の上に大の字に寝転がり湿った空気を満喫していたその時、ピチャリと何かの跳ねる音。
「...ん?」
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パチパチと焚き火の音が心地よく、そして魚の焦げる良い匂いが鼻孔をくすぐり、何だかスゴく心が満たされているように感じられる。先程見つけたのは魚だった。(種類に詳しくはないが、イワナだろうか)人間という物は欲の深いもので、何かを手に入れた後はまた他の何かを欲しくなるものである。湖の中を泳ぐ魚を見つけた時、直前に水を飲んで腹が膨れたにも関わらず、飢えが呼び起こされ、つい魚を食べたくなったから、直ぐ様蜘蛛の足を銛代わりに使い、見事2匹の魚を捕まえた。蜘蛛様々だ(捕ったどー!って正直言いました)。
そのまま生でかぶりつきたい気持ちもあったが、鞄の奥に今更マッチを見つけ、必死に薪を拾い集めて今に至る。薪が湿気っていないか不安に思いながら火を点けようと試み、結果一回で火が点いた。先程体験した災難の分、そのツケを払われているみたいで世の中も捨てた物では無いと、17という人の生の中の極短い年月しか生きていない身で何かを悟ったみたいだった。
朝が近づいていると言うのに少し冷えてきた様なので、焚き火がとても有り難い。もう既に霧は晴れていた。
「まだか」
いやはやお預け喰らうってのは嫌なモノで、ほんのちょっとだけ、さっきの女の子の気持ちが分かったかもしれない。
チラリと焼き加減を見た所もう皮も焦げ目付いてるし逝っちゃって良いだろう。じゃ、いただきまーす。
うん、美味しい。
内臓とる暇も器具も無かったからそのまま焼いてみたけど、それが良かったのか味が染み込んでる。食べられない所が無い。寄生虫は大丈夫か?知らね、今頃焼け死んでる。
背中の方から食べ始め、2分も立たない内に魚は頭と骨だけになった 。でももう1匹あるんだよぉゲハハハハハハハ!
2匹目の魚にがぶりつく。うん、やっぱり旨い。
「それ、おいしい?」
「うん、美味しい」
内臓の近くはやっぱり苦いけど、大人の味って言うのか、それもまた言葉では言い表しにくいけど、良い味出しててね、美味しいんですこれがね。
「うーん旨い!」
「へぇー」
んんっ?
いやちょっと待て今の誰だ。
至福の時間を過ごしている自身の耳に聞こえる幼い声。今この時間帯にそんな声が聞こえてくるのはおかしい、夜中だぞ。誰かの居る気配など今の今まで微塵も感じなかった。一体全体誰かと声のした方向を見てみると、
「おぉ、なんかこいつおもしろい顔してる」
そう笑いながら自分の食べている魚に興味津々の水色の髪の女の子が横から顔を近づけてきていた。小学生位の顔立ち、そして水色のワンピースを着たその背中にはつららの様な物がふわふわと浮いている(?)。
異常だ。この子も恐らく人間ではないのだろう。先程の少女の事もあるので、内心では目の前の少女に怯えていたが表情には出さない。
「それあたいにもちょーだいよ」
「えっ?」
「あたいにもその魚ちょーだいって言ってんの」
なんて横暴な。しかし逆らったら何をされるか分からないし、「オレ、オマエノアタマ、マルカジリ」じゃなかった分良心的だと思うし。
「じゃあ分かった!まだ魚が残ってたら、捕ってきてあげるよ。分かった?」
「ん、分かった。はやくしてよね」
舌打ちしそう。
そう俺を急かす女の子は焚き火から離れた場所に座ってこちらを見ている。やはり背中の結晶状の物質からして氷に関する妖怪?化け物?妖精?だったりするから火とか暖かいものに弱かったりするのだろうか?
まぁとにかく、この子にならアレを見せても大丈夫だろう。
湖に近づいて蜘蛛の脚を展開、覗き込む。
暫くそうしていたが、視力などが上がっていた今の目を持ってしても、魚の影を見つける事は遂に出来なかった。さっき捕まえた時の騒動で逃げてしまったのかもしれない。
「もしもし?ごめん、魚居ないわ」
「えぇ!?役立たずね!」
は?
歯に衣着せない物言いにムカっ腹が立つ。何だか自分の中で怖いって気持ちよりイラつきの方が勝り始めてきた。ちょっと怒鳴ったろか、なんて思いながらも自分は何者か、再度自覚する。
俺はマジシャンだ、このむくれているかわいい少女を笑顔にするのも一興だろう。いや、冷たかったり色の無いこういった表情を暖かい物に、彩り豊かな笑いに変える事。それこそマジシャンの仕事じゃあないか、と。
丁度良い、ネタを思いついた。
「よし、じゃあ捕まえられなかった魚の代わりに、面白いことをしてあげるよ」
「ホントぉ?」
こちらを怪訝そうな目で見つめてくる彼女。
ホントのホント。それじゃ、見習いマジシャン本領発揮だ。
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「まずスプーンを用意します」(←営業モード発動)
「なに?スプーンって」
スプーンを知らないって今まで何食べてきたんだこの子。
「人間が物を食べる時に使う道具で、これは金属でできているので強い力を掛けない限り、大体形が変わりません。どうぞ試してみてください」
そう言って少女に手渡す。
「ふんー!ふんー!....ホントだ、曲げられない」
必死に踏ん張ってスプーンを曲げようとする彼女。勿論まだ彼女位の見た目そのままの年齢では力任せに曲げられない筈だ。邪な感情無しに愛らしく思える。その無邪気な表情がどこかこちらを安心させる。
「でしょ?では、それをくださいな」
曲げられなかった事が不満だったのか、少し頬を膨らませながらスプーンを手渡される。
「ありがとうございぃぃあっ!?」
「え?どしたの?」
冷たっ!金属だから冷えやすいってのは予想出来るけども...。冷凍庫にでも放り込んであったみたいにキンキンに冷え過ぎだ。この子に持たせたのは間違いだったか。今思えばさっきいきなり周りの空気が冷えてきたのはこの子が現れてからかもしれない。そして彼女の近くに居れば居る程感じる冷気もより冷たく肌に突き刺さる。とんでもなく寒いが、しかしその苦しみは顔に出さず、常時笑顔で対応する。「顔で笑い、心で泣く」。何処かで聞いたその言葉が脳内をぐるぐる回っていた。
「い、いやいや、何でも無いよ。ちょっと待っててくださいね」
少しでも温めようと焚き火に向かいスプーンを蜘蛛の脚で上手く挟み、火に近付けて温めていく。
どうやら甲殻に覆われた蜘蛛の脚では温度を感じる事が出来ないらしく、(また何故か毛に火が引火しない)人間の腕でスプーンの温まり具合を探り、頃合いだと思った時に取り出して準備する。先程から見てもこの蜘蛛の脚に驚いている様子では無いので安心した。やはりこう言った物には見慣れているのだろうか。...いや、今もこの脚を興味津々な様子で見ている、気付かない方が良かっただろうか。
「出来た、それでは行きます」
はっ、と指に力を込めた瞬間、スプーンは根本からグニャリと曲がった。まあ力入れる所に力入れれば曲がる至極単純なネタだが。
「おぉー!」
「やろうと思えば君にも出来るよ」
「ホント!?おしえて!」
押さえる部位を教え、スプーンを渡す。ちゃんと言われた位置を持った彼女、先程とは変わり、いとも容易くスプーンを曲げることに成功する。拍手で誉める。
「わっ!出来た、出来たわ!」
「すごいすごい。でもこれは本の序の口です。まだまだありますよ」
次はトランプを使ってみよう。
「なにこの紙」
「トランプって言って...まぁ歴史を話すと長いから省略するけど。色々と柄があるんですね」
絵柄を全て見せた後、一枚だけ選ばせてから束を切り、その中に混ぜてまた少女にも切ってもらった。
「みえなくなっちゃったけど」
「見えなくなったね。でも...」
その後に俺がその中一つ取り出すと...。
「貴女が選んだのは、これですね?」
ダイヤの6。
「えぇー!?なんで分かるの!?」
あぶね、成功した(内心ガッツポーズ)。...実はカードの場所を覚えてるだけなんだけど。
こうして時間は直ぐ過ぎていった。
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「あんたおもしろいわ!特別にあたいの子分にしたげる!」
「何と身に余る御言葉、光栄にございます」
子分って何だよ子分ってよ、おい。やっぱこの高飛車な態度がちょー腹立つ。と言うか、どんどん自分の言葉使いが執事とか召し使いっぽくへりくだった言い方になっていっている。何故なのか。
「今度あったらまたその手品?ってやつ、やってよね!」
「あぁ、勿論ですよ。それまでにもっと腕を磨いておきます。どうぞご期待ください」
「わかった!それじゃあまたね!」
そう言って空に飛び立ち、こちらに手を振りながら森の方へ飛んでいった。当たり前の様に空飛ぶし、やっぱり人間じゃなかったわ。...何だかまんま風の子って感じだった。
いやぁ、コインを瞬間移動させる"ように見せる"ネタを披露した時に一瞬で種を見抜かれてしまった。騙す側が驚かされてるようではまだ修行が足りないという事か。彼女には色々気付かされてしまった。そう彼女には...あっ、
名前聞いてない。
まぁ、またねって言ってたし、いつか会えるだろう。その時にでも、また聞けばいい。
最初は高飛車な態度に少し不快感を覚えてはいたが、その裏には何も無い、無垢で無邪気な態度にその感覚も薄れていった。この場所に来る前にも味わった誰かを喜ばせる事による気分の高揚、幸福感を忘れていたかと思っていたが、彼女のお陰で思い出せた。また彼女に会ったなら必ず、今日披露した奴のバージョンアップ版を是非見せたい、そして今度はミスが無いようにしたい。そう思うのだった。
いつの間にか日が出てきて、霧も完全に晴れ、湖の周りが見渡せる様になっていた。森に囲まれた湖の全貌が視界に入る様になり、そして嫌でもその湖畔に佇む紅い屋敷に気づく事になった。
その真紅一色で埋め尽くされた屋敷は森の緑、空と湖の青と比べると何とも異質な存在であり、見ているだけで目が悪くなりそうだ。あの屋敷の主人の趣味はこれから先ずっと自分には理解出来そうにない、断言する。
さておき、その屋敷は外見は廃れた様子が無いし、蔦などが生い茂っているなんて事も無い。全く荒れてはおらず、即ち今も誰かの手で手入れされており、今も尚誰かが住んでいる事が、もしくは住める事が容易に想像できる。あそこに行けば元の場所、いや、『元の世界』への帰り方を教えてくれるかもしれない。
先程の少女達、特に最初の。オブラートに包んで言えば食いしん坊な子が特に不安だったが、今触れ合った氷柱の少女と共に日本語が通じた。しかし、日本にこんな屋敷があるなど聞いたこともないし、まさかあんな人知を越えた存在が居るなんて。それではここはもう元住んでいた世界ではない、何かのパラレルワールドみたいなものなのかもしれないとだんだん思い始めていた。屋敷の住人が真実を知らない可能性もあるだろうが、それでもあそこへ賭けてみる価値はある。
まぁ、正直行きたくないのだけれど。
再び新しい目的を定め、紅き邸宅へと向かって揚々と歩き始めた。
その行動自体、自分に運命付けられた事だとは知らずに。
チルノ「はーつっかえ!」
昭人「すいません許してください何でもしますから」
お久し振りです
また不定期更新となりますがどうかよろしくお願いします