見習い手品師が幻想を『魅せる』ようです   作:イクシード

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お久し振りです。
一年以上間のある投稿なので作風など変わっているやもしれません、いや変わっているでしょうが、ご容赦の程よろしくお願いします。


第6話 你好、眠り姫

照った太陽。その光を乱反射して煌めく湖。風を受けて葉と枝を踊らせる木々。

 

そして、紅を纏わり付かせた大きな館。

目の前にその館の門がドンと構えられている、ただそれだけなのに物怖じしてしまっている自分が居た。

 

 

 

こうして見ると、やはりこの情景にこの館と言うのは不釣り合いに思えた。最初に思いつくだけの夏を思い浮かばせるような描写を盛り込んではみたものの、それらからは思いっきり浮いてしまっている。自分の今生きる日本に残っているか分からない程に色の調和した自然、その中にこんな屋敷を建てるなんて。これの設計考えた奴は調和とは何であるかが理解出来ていないと思う。

そんな考えを内心で巡らせていたが、つまりその心意は、自然の調和を賛美したことなど今も昔もこれっきりだと言うことを胸の奥に押し込み、まるで自分が評論家にでもなった気分で勝手に人様の住居を批評している、という事。全くもって非常識だ。

 

 

ゆっくりと館を見回す。自分の身長一人分半くらいはある紅のレンガ塀に囲まれたそれは立派な館だ。塀があるとは言ったけど、その塀を越して屋敷の屋根が覗くのだから、相当大きいのだと分かる。広さもかなりのもので、計測などについてはトンチンカンだが、2ヘクタールくらいあるのではないだろうか。

そしてお屋敷にはお決まりの牢屋の鉄格子のような門、まるで外界との繋がりを絶っているかの様だった。しかし門の隙間から見える庭、いや庭と言って良いのだろうか。まぁ庭と言うことにしておく。

その館の広さに相まった大きな庭には色とりどりの花々が植えられ、青々とした芝生に、隙間無く敷き詰められたレンガの道が、その芝生を旧約聖書のモーセの伝説の様に真っ二つに引き裂き、そのまま褐色の木の両扉の本館へ続いていた。

本当に周りには自然もいっぱいだから、こんな屋敷に一度は住んでみたいと思う位には、素晴らしいお屋敷だ。

 

でも、やっぱり色だけは気に入らないのだ。もし住むとしたら最初の作業はペンキ塗りだろう。何日掛かるかな?

 

 

 

 

まぁ住めるなんて事万一にもありはしないけど。

 

 

 

ところで、今自分は何処に居るでしょうか。

タイミングが早いけれどまぁ種明かしをしてしまえば、これだけ詳細に館を全貌を見渡せるのは館の真ん前しか無い訳だ。つまりは館の玄関に居る。

けれど今のところ何の行動も起こしていない。何故館の門を叩いたりして訪ねようともせず、ただ突っ立ってのんびりと館を眺めていたのか気になる事だろう。では何故か?(聞いてない)

 

 

人が居たのだ。門の前には人が居た。レンガ塀に寄り掛かりながら立つ女の人が居た。ここで女の"人"と言ったのは、これまでに会った幼j...少女達と比べて顔立ちに幼さは残るものの、自分とあまり変わらないような身長で何処か大人びた感じに思えたからなのだ。

その女の人はただそこに居たと言うだけなのだか、見ただけでは感じ取れない違和感の様なものがあった。こんな辺鄙な所に建ったお屋敷の前に女の"人"って普通は居ない。いや目の前に居るには居るが、"人"かは分からない。ここに至るまでの経験もあり、簡単に警戒を解けない自分が居た。

他に少し妙だと思ったのは、彼女の服装だった。今の自分も端から見ると奇妙な格好、とは言っても燕尾服にシルクハット(今は被ってないけど)だが、彼女はもっともーっと奇妙だ。

緑と白を基調とした...何と言う服かは分からないが、何だが中華風の衣装。髪を染めているのか赤みがかったストレートヘア、かなり長い。それが彼女の綺麗な顔によく似合う。それは置いておいて、他にはメイドさんみたいなリボンと、変な帽子。どんな感じに変なのかと言うと、帽子のおでこの部分になんか「龍」って書いてある星の装飾が付いてる。ファッション誌を見たりする事は全く無いが、町中でこんな格好をしている人は見たことがない。

 

うーん、似合ってはいるのか...?

 

こんな感じの彼女だが、折角目的地である館の真ん前に居るのだから話し掛けてみようとも勿論思った、と言うか話し掛けるべきだったのだが、それは躊躇われた。

 

 

「さっさと話し掛けろやノータリンのクソ野郎」

 

 

現状命が掛かっているのでこう言われても仕方無いが(寧ろ言ってもらって他にも人間が居る事を証明してもらいたい)、理由はある。

 

・自身のコミュ障で話し掛けられなかった。

違う、自分はコミュ障では無い。...その筈だ。

 

・あんな格好してる変人に話し掛けるのは気が引ける

違う。彼女に対して失礼だ。

 

 

全て自分の感性が原因に思えるがどれも違う。寧ろ彼女自体が話し掛けられない要因となっている。

先程彼女は「レンガ塀に寄り掛かりながら立っている」と書いたが、少し訂正する。

 

 

『レンガ塀に寄り掛かりながら寝ている』

 

 

人を見つけて、しかもそれが子供じゃなくて話の通じそうな成人らしい人型であれば当然話し掛けるに決まっている。異変に気付いたのは声を掛けようと近付いた時だ。

 

 

「すいません」

 

そう声を一度掛けたが彼女からは全く返答が無かった。無視されてはいないだろうと不思議に思いながら顔を覗き込んむと、彼女はスゥスゥと気持ち良さそうに寝息を立てていた。何やら良い夢でも見ているのか時々微笑みを浮かべ、同時に見事なまでの大きさを誇る花提灯が顔の前で膨らんでいた。漫画やアニメ以外で花提灯を見たのはこれが初めてだ。

さておき、この眠りようでは無理矢理起こすのも失礼だと思われたから、今こうして彼女が起きるのを待っている。何か本でも持ってきていれば少しは退屈しのぎになっただろうが、そんなものを持ち歩く性分でもない。ここで暇を持て余し、館の説明をする冒頭に戻るという訳だ。

 

太陽も登り切ったが、今座り込んでいる木陰に丁度良い具合に日光が射し、適度に涼しくぽかぽかだ。彼女も昼寝程度だろうし、待つくらいどうと言う事はないだろう。どうせ直ぐ起きる。後一~二時間くらい...。

 

そう思って鞄を腕に抱き木陰に寝転ぶ。その内、どんどん意識がまどろんでいき...。

 

目がしょぼしょぼとし始めて思わず目を見開き、また瞼が沈む。その内睡魔に抵抗する気も無くなった。そのまま無意識に身を任せる。

 

 

 

後々どうなったかは自分で気付ける訳無いけど、恐らくはその睡魔に負けて寝てしまったのだと思う。

 

 

________

______

____

__

 

 

ハッ、と目が覚めた。どれくらい寝た?溢れる木漏れ日は橙、寝過ごしてしまった事を知る。

不味いと思った。あの女性は俺に気づかず屋敷内へ戻ってしまったか。とするとあの門扉は閉ざされてしまった訳で、女性が次いつ出てくるかも分からない。せめて夜になる前に少しでも可能性に賭けてみよう。

そう思って飛び起きた。大声を出してでも誰かを呼ぼうと、助けてもらおうと地に手を付いて仰向けの体を起こした。

 

 

いや、起こそうとしたがそれは果たされなかった。何かが邪魔をして上半身が動かなかった。地に手を着いたと思ったものは数時間前に感じた苔の蒸した土とは違うもので、一心不乱にもがくが、一向にも束縛から解放される兆しは無い。これは一体何だ、と焦りと怒りを露に自分を縛る‘‘それ’’を殴りつける。

 

 

殴り付けた拳は全く痛まない。殴った時感じたクッションの様な、そしてざらっとした、それでいてしっとりとした感触。それがなにか毛が生えた物であることに気づくのは容易かった。何か巨大なものが、俺を縛り付けているのだ。今それを殴ったのだ。

では、その殴ったコイツは、何だ?

 

ゆっくりと、その縛り付ける物の先を視線で辿った。

 

 

それは蜘蛛だった。自分は蜘蛛に抱き抱えられていた。とても巨大な蜘蛛。その胸(腹?)から生える計8本の全ての足で俺は抱かれていた。蜘蛛と気付いたその瞬間、それの身体中に生える毛に対する激しい悪寒、ざわつく心。ゾクゾクと背筋が寒くなり、心臓がアラートを鳴らし始める。感情の読み取れない、蜘蛛特有の八個の目がこちらを睨んでいる様にも見え、思わず視線を逸らす。今、自分の生殺与奪権は全てコイツにある。

喰うためにこんな事をしているのか、では寝てる間にでも齧りつけば良い話で弄んでいるのかとも思ったが、虫ごときの出来る所業とは思えない。

考えを巡らす今この瞬間も、微動だにせず、ただ俺を抱き締める。

 

何の為に?

 

 

 

突然、脚の一本が動きだし、俺に向けられた。その切っ先は針、いや正に槍の様で、一突きで確実に殺されると思われた。

 

振り下ろされるのは一瞬で。

 

蜘蛛は俺の顔に穴を空け...るでもなく、また胸をかっ捌いて心臓や肺を引きずり出す...そう言った様な事もしなかった。

 

 

蜘蛛はその脚で俺の頭を撫でてきたのだ。母親が子を慈しむ様に。恋人同士で愛を囁き合う時の様に。久しく聴いていない、懐かしい子守り唄が聴こえてきそうだった。

 

 

全く意味がわからない。

でも、不思議と悪い感じはしなかった。感じていた嫌悪感は何処かへ消え去っていた。

 

__

____

______

________

 

 

 

「...ふっ!?.....ぐ」

 

 

二度目を覚ます。

 

夢を見ていたのだろうか。体、服が汗でびしょ濡れだった。悪い方の夢だったか?見ていた時の記憶は残っておらず、内容が思い出せない。

 

しっかりと意識が覚醒し、それと同時に瞼から差し込む光で自分がとんでもない事をしでかした事を知った。

鴉らしき気の抜けるような鳴き声、紅もしくは橙に染まった太陽と空。どう考えても寝過ごしている。自分でどれだけ寝たのか分からないが一時間や二時間どころの騒ぎでは無いだろう。昼寝中の女の子を待つつもりが思い切り爆睡してしまっていた。時間も時間だろうしもう彼女は元居た場所に居る訳が無かった。また日を改めて出直そうと思って、少し億劫だったが上半身を起こし、チラっと正面を向く。

 

 

 

 

 

あの子がまだ寝ている。

 

 

 

いやいやいや、待て待て待て。いくらなんでも寝過ぎじゃないか。俺が寝てしまってから必ず数時間は経っている。寝てしまう前は既に彼女は寝ていたし、そもそも俺がここに訪れる前から寝ていた可能性も否めない。

ずっと寝続けている。...立ったまま。余程疲れているのか?

 

 

「すぅー....すぅー........」

 

 

寝息の具合も全く変わらない、本当に気持ち良さそうに惰眠を貪っている。俺も二度寝してやるぞこのやろ。

それでは埒が明かないのは承知しているので、流石に起きて貰う事にした。

 

 

雑草を踏みしめて彼女へと歩み寄る。おかげか足音も消え、いや消えようと消えまいとどうでも良い事だが、そのまま歩を進め、彼女の正面に立つ。

我ながら初心だと思う、見知らぬ女性に触れる事が最初躊躇われた。一度手を引っ込めるが再び手を伸ばす。ゆっくり、そっと肩を叩いて起こす事にする。

 

その伸ばした手が、

 

 

「あのぉ」

 

 

彼女の肩に、

 

 

「すいませ~ん」

 

 

触れようとした、その時。

 

 

 

「......む!」

 

 

開眼。彼女が目を覚まし、

 

 

ゴオオオオオオオオ

「お訊きしたい事が」

オオオオオオオオオッ!!

 

 

轟音。

 

 

「えっ?」

 

 

俺の顔から少しずらして、右拳を振り抜いていた。

 

 

 

え‘’っ?

 

 

拳の動きが見えなかった。俺の伸ばした右手は彼女の左手に手首をがっちり掴まれ、また彼女が伸ばしきった右腕は今俺の丁度耳の横にある。

 

えっ、何で今俺殴られたの?この至近距離で外す筈も無いし、わざと外してもらったんだろうか。ではこれは威嚇なのか?てか声掛けただけで殴られなきゃいけないの?何、寝起きは機嫌悪いとかそう言う事なの?

頭が混乱する。普通に声掛けただけだよな?何も悪いことしてないよな?

 

 

「何奴か、名前とここに来た目的を述べよ。場合によっては暫く寝て貰うことになる。痛い目を見る前に吐くが良い」

 

 

いや待たれい、いきなりそんな事言われても。

いきなりの事で言葉が思うように出せず、口があうあうと言うことを聞かない。今の拳、頭の横を通っただけですごい風圧だった。当っていたら軽傷では済まなかっだろう、もしかすると頭が吹っ飛んでいたかもしれない。やはり彼女も、あの少女達と変わらず人間では無いのだ。怖い。マトモに戦おうなんて到底思えない。抵抗したら間違いなく殺される。

 

 

「あっ...あ」

 

「早く話せ。それともなに、言えない目的でもある?」

 

「え、いや...いっ!?」

 

 

痛、痛いっ!何か答えようとすると同時に右手首を締め上げる力が強められ、その強さと言ったらまるで万力の様で、つい顔が苦しみで歪む。加減を知らないのかコイツ!

腕が上げている悲鳴が聞こえてきそうだ。このまま行くと骨が砕かれてしまうかもしれない。

事の顛末をおおよそ推察する。門の前に居たし、この人は恐らく門番、警備員かで、だからやってきた俺を警戒してこんな行動に.....っていや、おい。だとしたら駄目だ、この人さっき寝てたぞ。

更に力は強くなっていき、我慢の限界が近付く。早くこの痛みから逃れたい。本当に折れてしまう。でも口から出るのは痛みに対する呻きだけ。彼女に言われた通り、名前と目的を言ってもちゃんと信じてくれるかは分からないけど、そもそもそれすら出来ない。

 

 

「答えろ、早く」

 

 

じゃあ答えさせろよバッキャロー!

悶えながら葛藤する。この痛みから逃れるにはあの蜘蛛脚しか無いだろう。でもそんな事をしたら警戒は解いてもらえなくなってしまうだろうし、どんな弁解も意味を成さなくなるだろう。ただ俺は一刻も早くこの痛みから逃れたかった、その一心だった。

 

その為に、俺は、

 

 

「っ!」

 

 

蜘蛛の脚を展開する。背後から八本の脚が広がり、一斉に俺の腕を掴む彼女へ襲い掛かる。

俺の異常に気付いた彼女は一瞬で俺の手を離し、横へ跳んだ。昔読んだ絵本の牛若丸みたいにふわりと着地、5m程離れた距離から彼女が叫ぶ。

 

 

「貴様、人妖の類か。我が主に敵するのならば容赦しない!」

 

 

そう言って何かの拳法の構えをとる彼女。一方痛みから解放された俺は掴まれていた腕の方を庇いながら蜘蛛の脚ごと肩を回し、体中を解す。やはり化け物扱いは逃れられなかった。残念だが当然だ。かなり不味い状況とは分かっているが、なんとか会話を試みる。

 

 

「あ、あのですね。落ち着いて聞いてください。俺は別に化け物なんかじゃなくて、いつの間にか気付いたらこうなってて、あの全然敵とかじゃ、そんなんじゃないんです。ただ道に迷っただけで、ここら一帯の地理とかを教えて欲しいと思っただけで...」

 

 

顔をしかめ、ギロリとこちらを睨みながらも話は聞いてくれているようだった。前半全然説得力無いけど。

 

 

(確かに彼からは妖力が全く感じられない。魍魎では無い...?いやしかし、そうするとあの背中は説明がつかないし...でもその足からも何も感じないし)

 

「...しかし、そんな風体をしてもらっては怪しまれるのも仕方ない事は分かってくれる筈だ。どうしてもまだ、貴方から警戒を解く事は出来ない。

 

もう一度聞く、本当に何か悪意があってやってきた訳じゃないの?」

 

 

よし十分。‘‘貴様’’から‘‘貴方’’になっただけでもポイントだ。

 

 

「この脚もさっき掴まれていた奴が痛かったから仕方無く出してしまっただけで、本当に他意は無いんです。これも直ぐ仕舞いますし、なんなら腕とかを縛っていただいても構いませんから。ここにお邪魔する時何かお手伝いしても、よろしければ雑用とかでも、何でもやりますから。どうか助けて...お願いします」

 

 

そう言って蜘蛛の脚を仕舞い、頭を下げる。全て本心だ。今は彼女の信用を勝ち取る為にならなんだって差し出す。

 

 

「しかし...うーん」

 

(目、顔、仕草、心音、そして気。どれを調べても彼が嘘を言ってる様には思えない。信用しても、良いんじゃないか。服装も奇抜だし、全くここの事知らなそうだ。外から来た人の可能性もあるけど、あれはどう見ても人の業では無いし...まぁここまで頼まれたら屋敷に入れて、皆を説得するくらいは、寝起きで力を入れすぎた事のお詫びも兼ねて)

 

 

揺れてくれてはいるのだろうか。悩ましげに、お互い合わせていた目を向こうから逸らした。

 

 

ダメもとだけど、あと一押しだ。

 

 

「...居眠りしてた事、ご主人に言いつけますよ」

 

「...へぇっ!?」

 

 

うお、食いついた。余程主人とかが怖い人なのだろうか。

 

 

 

「あぁぁぁぁぁ!止めてください!お願いします!どうかそれだけはあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

そう叫びながら走ってきて、俺の前まで来ると両手を合わせて頭を下げる彼女。こちらを威圧するような言葉使いが敬語に変わるなんて相当だ。

 

 

「いやいや冗談です!本気にしないで下さい、言ったりしませんって!」

 

「ホントですかぁ!?良かったー、ありがとうございます!」

 

 

どうどう。静と動の差が激しすぎる。

 

 

「...それで、お願いできますか?」

 

「うーん......分かりました。時間も丁度良いですし、主人もお話くらいなら聞いてくださるかもしれません。ただ気難しい方ですので、中に従者が控えていますから、そちらに従ってください」

 

頷く。無論了解の意だ。

 

 

「あっ、申し遅れました。私、‘‘紅 美鈴(ホン メイリン)’’と申します。そちらは?」

 

 

結構中華風の響きだな、と思いながら自らの名前を名乗る。こう面と向かい合わせて自己紹介するのって、久し振りだ。

 

 

「成る程、横井様ですね。では横井様、私に着いてきてください。あ、最後にもう一つ」

 

 

ん?何か注意でもあるのだろうか。

...よくよく考えれば彼女があそこまで人間離れしているのだから、彼女の主人もまた然るべき異常な力を持っているだろう。気難しいっていうのもそういった事が関係しているかもしれないし。少し身構える。

 

 

「...居眠りの件、本当にお願いしますね?」

 

 

 

...ちょっと思わず笑った。面白い人(?)だと思った。表面上ニコニコしながら「勿論言いませんよ」と言っておいた。すると彼女もニコりと笑った。

 

彼女はあの大きな格子の門を片手で開けて、入れと促す。なんて怪力だろう。取り敢えず言われた通り背後を着いていくことにする。門を越えた先に広がるのは、さっき外から見たまま、本当に綺麗で良く手入れされた庭。思わず見惚れてしまう。

 

 

「お庭、綺麗ですよね。さっき言った主人...やーめた。お嬢様の従者、メイド長の方なんですけどね?その人がほとんどぜーんぶ手入れしてるんです」

 

 

はぇ~それはすごい。これ全部一人ってどのくらい時間掛かるのかと、素直に驚いた。

今の会話でこの屋敷の当主が女性、しかも若い年齢であることが予想出来た。そんな子が当主などとは、少し複雑な事情があるのだろうか。

そんな風に色々と他愛の無い話をしながら本館へと進む。

 

ガチャリと、さっき入ってきた正門が閉まる。昭人は気付かない。一人でに鍵が閉まったこと。昭人は気付かない。昨日体験した夜よりも、陽の沈みかけている今の夜の闇がより暗いこと。昭人は気付かない。紅の屋敷が暗闇の中で尚、昼時より紅く輝き始めていること。

 

 

 

彼は気付かない。行く先に何が待ち受けているかさえも。それが幸か不幸かなんて、誰にだって知る由は無いのだ。

 

 

 

何かを刻む大きな大きな時計が、歯車を噛み合わせ、針を動かし、ゆっくりと、確実に動き始めた。




前話からどうやって話進めていくつもりだったのかなぁー覚えてないなあ。

いつものように、不定期更新でまたやっていきます。
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