昼下がりのエイラの自室 いつものように サーニャがベッドで寝息を立てている その隣で サーニャの横顔を眺めつつ 少しずつ夢の世界に入門しようとしているのは 他ならぬエイラ本人 まどろみの中 つかの間の休息に感謝しつつ 自らもまぶたを閉じた その時 誰ががとんとんと ドアを叩いた
エイラは確かにその音を捉えていたが 起き上がることはしない サーニャとこうしていられる時間は エイラにとって何物にも代えがたく つまらないことで邪魔されたくない 大切な用なら 部屋に入って起こしにくるだろうし どちらにしろ ここはスルーだ そう判断したエイラは 睡魔に身を委ねた
がちゃ と ドアが開かれた はあ 何の用だ? エイラが悪い予感を感じとる 訪問者は何を言うでもなく ぺたぺたとベッドに近づき なんとエイラとサーニャの足元 ベッドの空きスペースに 寝転がったのだ うわ! 飛び起きるエイラ 訪問者の正体は 501のぐうたらエース ハルトマンだった
状況を把握できないエイラだったが とりあえず ハルトマンを起こしにかかった しかし ゆさゆさと体を揺すった程度では 目を覚ますはずもない あのバルクホルンが 根負けするほどのねぼすけだ とはいえこのまま放置する訳にもいかず 仕方なく ハルトマンをベッドから 引きずり下ろした
ハルトマンがめんどくさそうに 目を開く なんなんだよ もー と悪態をつくが エイラも負けじと いやお前こそなんなんだよと 言い返す ハルトマンの言うところには 部屋で寝ていただけなのに バルクホルンがやってきて うるさくがなりたてるもんだから ここへ逃げてきた ということらしい
そういうわけだから よろしくね 再びベッドに上がろうとするハルトマンの首根っこを エイラが掴む なんでここなんだよ サーニャが寝てるだろ サーニャの睡眠を妨げないよう ハルトマンに顔を近づけて喋るエイラ ハルトマンは やれやれといった表情を浮かべた
だからだよ いくらトゥルーデでも ここまで来て 騒がしくはしないだろうし でしょ? 一応理屈は通っているが 納得できないのはエイラだ なんでお前をかくまってやらなきゃ ならないんだ はやく出てけよ 無理矢理ハルトマンを連れ出そうとすると 彼女はある提案を繰り出した
じゃあ さーにゃんの秘密を教えたげる だから代わりに ここで寝かせて その言葉に どきりとするエイラ サーニャの秘密だって? ハルトマンだけが知ってて 私の知らない サーニャの秘密が あるのか それを知る見返りが ベッドを提供するだけなら 安いものだ エイラの答えは決まっていた
隣に横たわるのが いつものパートナー でないことも知らず 眠り続けるサーニャ ハルトマンはそんなサーニャを眺めて かわいいとか きれいとか 独り言を呟いている となれば 気が気でないのはエイラだ もはや 惰眠をむさぼっている場合ではない! ハルトマンに目を光らせておかないと!
1ミリでも ハルトマンがサーニャに触れようとすれば 全力の殺気で ハルトマンを威圧する そんなエイラを弄ぶように ハルトマンは サーニャにちょっかいを出し続けた はやく寝ろとエイラが牽制すると さーにゃんって エイラにはもったいないくらい 美人だよねと返され 複雑な心境のエイラ
しかし 悔しいことに ハルトマンの金髪は サーニャの雰囲気と見事な対比を演出しており その見た目は まさにお似合いであった 背丈も近いし 階級も同じだし 私の知らない秘密を 共有してるみたいだし 私って サーニャに本当に信頼されてるのかな 自信を失いかけた 次の瞬間!
かちゃりとドアが音を立てた エイラとハルトマンの視線が 入り口に集中する そこに立っていたのは ハルトマンの上官であり 相棒でもある魔女 ゲルトルート・バルクホルン その姿を確認した瞬間 ハルトマンの顔から笑顔が消え失せ 先程までの様子からは 想像もつかない速さで 起き上がった
しかしバルクホルンは強かった 彼女は ハルトマンが体勢を立て直し何かを言い繕おうとする前に 素早く踏み込み ハルトマンの腹部に 強烈な一撃を叩き込んだ ハルトマンは ぐぇ と小さくうめくと うつ伏せに倒れ伏した どうやら完全にのびているようだ この間わずか 2秒の出来事である
バルクホルンはハルトマンを肩に担ぎ 迷惑をかけたなと言うと 静かに部屋を後にした 突然のことに あっけにとられるエイラ はっと我に返り サーニャの様子を確認する 良かった まだぐっすりだ よくわかんないけど 疲れたんだナ サーニャの隣 いつもの場所に寝転がると すぐ眠りに落ちた
夜 いつものように 哨戒に出たサーニャを見送り 部屋に戻る通路でエイラが出会ったのは ハルトマン 彼女は やべぇ という表情を見せたが 昼間の一撃がまだ回復していないのか 逃げようとはしなかった そういえば サーニャの秘密を教えてくれるって 取引だったよな? 詰め寄るエイラ
そんな怖い顔するなよ な? ハルトマンがエイラをなだめる もちろん さーにゃんの秘密でしょ? 分かってるって エイラ 耳貸して 言われた通り エイラは横を向いて ハルトマンの口元に 耳を近づける するとハルトマンは 思いもよらないことを のたまった あ でもなー どうしよっかなー
は? エイラは指の間接を ポキポキと鳴らして威嚇した ハルトマンは慌てて弁明する 私が秘密を教えてあげるのは簡単だよ でもさ エイラが知らないってことは きっとわざと隠してるんだと思うな それを私から聞いたってさーにゃんが知ったら ショックなんじゃないかな?
ね? よく考えて さーにゃんとエイラの仲だよ? 私なんかより よっぽど信頼しあってるでしょ そのさーにゃんが 心苦しいけど エイラには秘密にしておきたいっていうのに それを他人から知ろうとするのは これ さーにゃんに対する 裏切りじゃないかなあ 私はそう思うけどなあ
一気に毒気を抜かれるエイラ 言われてみればそうかも けど 最初に秘密がどうのこうの とか言い出したのはハルトマンなわけで でもサーニャを裏切るなんて 出来っこないし 悩むエイラに ハルトマンがすかさず だめ押しの一言を投げ掛ける まあ どうしてもっていうなら 教えてあげるけど?
あーもう! わかった わかったよ もういいから 忘れてくれ エイラはサーニャとの信頼を選んだ そっか 懸命な判断だと思うよ じゃね と笑って立ち去るハルトマン はあ とため息をつくエイラ するとハルトマンが 廊下の向こうから 大声で叫んだ
エイラ! 安心して さーにゃんが一番好きなのは エイラだよ! あとは エイラが頑張って 自分の気持ちを伝えるだけだぞ! あんまり さーにゃんを待たせるなよな! にしし おやすみ!
ぴょんぴょんと跳ねて 姿を消したハルトマン 一方のエイラは ぽかんと口を開け ハルトマンに言われたことを 頭の中で反芻していた サーニャが一番好きなのは 私だって? サーニャが 私を待ってるって? もしそれが本当なら 私は…… 嬉しさと恥ずかしさが混ざって 頬がひとりでに熱くなる
こんなとこ サーニャに見られたら 絶対怪しまれる! しかし脳内は早くも ハッピーな妄想で 溢れかえっている 窓ガラスに映った自分の顔を見て 私 こんなだらしない顔してたっけ? 明日の朝 哨戒から帰ってきたサーニャの前で いつもの私でいられるかな と ちょっぴり不安な エイラだった