綻び
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蓉子は思考の海に彷徨っていた。
(私は本当に祐巳を愛してもいいのか。あの時、あの場所に全てを隠すように言い、間違いなく主犯格にあたるだろう...いや、そうなのだ)
聖、江利子、祥子、令、由乃、志摩子と過ごした、高校時代。思い出深きリリアンが映写機のように、蓉子の脳は再生する。
(あの笑顔を、祐巳の笑顔に癒されたいだなんて、傲慢だわ。聖、江利子は後押ししてくれてるけど...でも、抗えない。想うと、温かく
なるこの感情は間違いなく愛情なのだから。)
祐巳に、集まる日にちと一昨日のお礼メールを入れる。祐巳からのメールもなく、蓉子は本当のところ電話で声を聞きたかった。
だが、連絡がないからと控え、メールにした。
午後からの仕事に向けて、ランチを摂りに行く。
大部分に、目を伏せ、逸らして。
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祥子は、自社のサービス業の展開も兼ねて、蓉子が気に入った店を調べていた。
部下より渡された資料、ネット評価_
全てに目を通し終わった時、引退した祖父が言っていたことを思い出す。
(誰かが、私たちの過去に気付いた?あり得ないわ。聖さまも江利子さまも、お姉さまも鍵をかけてらっしゃるもの。志摩子、由乃ちゃん
、令の三人は性格変化があっても社会に出た人間にはよくあることだわ)
祥子は紅茶に口をつけ、江利子の紹介で蓉子と足を運んだギャラリーで購入した、向日葵だけの絵を見つめる。
一本の向日葵は、光と影を上手く遣って描かれていた。
蓉子、祥子はそれに引き込まれた。
購入の際、江利子がやってきて江利子も気に入ったからその無名の駆け出しをギャラリーに紹介したと聞いた。
(これは私たちの心境なのかしら。江利子さまもあの時、お付き合いされていた方と別れた。今は遊びと仕事に忙しいとにこやかに話され
てらしたけど。聖さまだって、元々深く誰かとお付き合いされたりしてこない方だったけれど...お姉さまも結婚を決めそうな方が居てらし
たけれど、のんびりされてた時に別れを切り出されて。)
祥子は姉たちの幸せと恋愛を思い浮かべた。
その時、予定していた会議の知らせを言いにきた秘書により、中断した。
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由乃は重役たちの予定調整と配置する自身の部下や発注内容の見直し作業をしていた。
何事もないように、息をしてきた。
気が付けば、青春を生きれた高校時代は遠くに。感情に蓋をして、激情型の由乃は居ない。
祥子の妹、瞳子がある日呟いた言葉が再生する。
『由乃さま、どうなさったんですの?お姉さまも、志摩子さま、令さまも...乃梨子も心配してましたわ。』
あれはいつだっただろうか、あの時の後だったはず。と由乃は記憶を掘り起こす。
(恐かった、世界は温室ではなく野ざらしなのだと感じた。汚れた感情は強い、だから、私は負けた...)
記憶とともに、由乃の顔はただ、薄く歪んでいく。
泣きたいのに、泣けないかのように。
どうして良いかわからないまま、感情に蓋をしだしてから掛けだした、眼鏡を外す。
そのまま、顔に手を当て俯く。
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警察の道場は、余り好きになれない。そう考えながら、令は道着からシャワーを使うまでの仮のジャージに着替える。
その時に、江利子と由乃からのメールに気が付く。由乃のは、転送に由乃自身の文章を加えた簡潔なもの。
もともと女の子らしさは控えめだが、由乃はあれから変わった。
ストイックさが全面に出て、警察担当の記者たちからも噂に上っている。
令も微妙な違和感を与えるくらいの、ほんの些細な変化はある。
七人以外にしか、心底を見せなくなり、上辺だけになった。
(最近、どこかの刑事だか警官が言ってたな。闇のなんとかって。そのあと、リリアンの話題に移って祥子や蓉子さまの話題で...)
令は適当に会話したことをシャワー中に思い出す。
何故、思い出したのかも分からないまま。
浴び終わり、着替えてる時には忘れ、七人で会う日に何を着れば江利子と由乃に突かれないかに意識は移行する。