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蓉子は祐巳の話に怒りを感じていた。
十分、祐巳は苦しんできたはずだ。なのに、この老人は自分の為にしか、祐巳を見ていないではないか、と。
心を凍結し続けなければならなかったのは、この老人のせいでもあるのではないか。たしかに、居なければ祐巳はここに、蓉子自身に出会わなかった。
私たちがこうも、何もなくとも集まれるようになったのは祐巳の向日葵のような笑顔が聖、江利子、蓉子の心を温かくしたからではないか。
なら、私は出来る限りの体温で凍った、祐巳の心を解していきたい。そう、考えた。
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由乃にとって、映像と祐巳が語る内容は衝撃的だった。
そして、あの時を思い出させた。
由乃が高校三年の時。
黄薔薇さまとしてやっていく、それがいつしか重荷になっていた。
志摩子とはそれなりにお互いの居場所を作り上げていたが、感情を、弱音を吐きあう間柄ではなかった。
リリアンに残らなかった令は、期待の星として忙しそうだった。寄りかからない関係を作ろうと江利子、蓉子の前で伝え合ったからこれは反故にする
ようで嫌だった。
だから、
気分転換に外出した帰り、いつも通らない道を使った。
令の進学を機に、お揃いの携帯をもったのも気の緩みだったのかもしれない。
うさん臭そうな若い男が、由乃に声をかけてきた。吐く息は、何だか臭いともタバコの臭いともいえない。とにかく変な臭いがした。
気が付いたら_
令に電話して、皆が来てくれて蓉子が全てを指示してくれた。
だから、今回、蓉子が幸せを掴むかもしれないと聞いたときは一番の応援を送りたいと考えてた。
祐巳に何かを感じていたのもある。
衝撃的だが、祐巳もこれからを歩むべきだと感じた。
だから、老人に憤りを。
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祐麒は老人と出会って、言われるまま七人の背景を出来る限り調べた。
こんな時こそ、柏木優の秘書が有効だと感じた。
調べれば調べるほど、祐巳の見落とすぐらいに小さな違和感の正体になっていく。
気が狂いそうだと祐麒は思った。
老人も水野蓉子、自身が高校一年の時に隣のリリアンで生徒会長を務めていた女にも祐巳は渡したくない。と、心は黒く、ただ、黒く染まりながら思
った。
だから、柏木伝いに聞いた祥子が、プライベートで集まる日を老人に言いながら自身も準備をした。
もう、上なんか目指さない。祐巳とひっそりと生きていこう、と。
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祐巳は、言いようのない経験のない何かがせり上がってくるのを感じた。
蓉子の顔を見ると、心があれば...と思う。その次は何がくるの?そう思った瞬間。
見知った顔、いや、お前を幸せにしたいんだ。と訴えてきた、腹違いの弟が暗く光るモノを持って感情と呼ばれるものを言葉にして近づいて来ていた。
その先は長老に向けられていた。
咄嗟に、そして、七人にもそれが向かわないようにした。
声を聞いた長老を含む八人が顔を向けた。
その時、祐巳が衝撃をゆっくりと全身で表した。
「祐巳ちゃん...?」
何かを感じた聖が、聞く。
「なんでもありません。ちょっと、お腹が痛くて...」
祐巳は最後のほうは言いづらそうに。
「くそっ。このボンクラめ。やはり役立たずか」
長老は舌打ちし、祐麒に消音器を付けた銃を向ける。
祐麒に向かうと同時に、祐巳が注射器を長老の首に。
「ユミっ、お前!」
衝撃が長老を襲う。
「親離れです、長老。あなたが望む、『闇の女王』はこれがあってこそ完成されると思いませんか?」
祐巳はそう言うと同時に、崩れ落ちる。
蓉子が祐巳に駆け寄ろうとするが、撃たれながらもなんとか立ち上がり長老から取り上げた銃で祐麒が牽制する。
「来るな!祐巳は俺と共に。そう、決めたんだ。だから、ここまで来れたんだ。そうだろう?なあ、祐巳」
まるで子どものように祐麒は祐巳に訊ねる。
祐巳はただ、笑った。気がふれたように。
「祐麒、あんたは何も変わってないし、わかってないね。仕方ないか、あんたも私も福沢の血、引いちゃってるしね」
そう言い終わると、向日葵のような笑顔を蓉子に向ける。
「なんだよっ!なんでだよっ!俺は、俺はっ、...」
駄々っ子のように祐麒は言う。
「あんたは選ばれた子なんだよ。私は選ばれなかった子、女の子ども。転落人生を、クズとし生き、死んでも泣く人間より嬉しがる人間が多いよう
な社会のゴミと生きた女の娘なんかと歩むなって言いたかったのに。何にもわかってないね」
そう言い、ナイフを引き抜く。
「抜いたらダメだ。せめて、止血を」
令が警察の人間のはしくれとして言い、祐巳の側に。
蓉子も駆け寄り、何とか止血を考え、聖や江利子に視線を送る。
それを見た祐巳が、
「いいんですよ、リセットボタン、押したいんですから」
祐巳は乾いた笑みを浮かべる。
いつも気が付くと口ずさむ童謡を。
「あんた何唄ってんのよっ。蓉子さまの気持ちに答えれるまで一緒に居なさいよ」
由乃が涙を流して言う。
「そんなの俺がゆるさねぇ...!」
もう、切れ切れになりながら祐麒が銃を向けた。
同時に、祐麒が倒れる。
顔には、安堵からか自身の感情の終着からか、少しの笑みがあった。
祐巳と出会い、自身の父親と寝ていようが、会えたことがただ、嬉しかったあの頃のような笑みが。
『俺、祐巳を幸せにする。だから、上に行く。お前の過去なんか消してしまえるぐらいにさ、なら、俺たちは穏やかに暮らせるだろう?』