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江利子は、親友の蓉子とランチを楽しんでいた。
立場や年齢的にも、そして、江利子自身の性格の割にこうして興味をそそるランチなど久しぶりで気分はすこぶる良い。
なのに、前のクールビューティは物憂げで江利子の気分を二割下げさせた。
「あー、もう。蓉子、なんなの?」
蓉子は、ただ、
「ごめんなさいね、江利子。私の恋愛観を考えていたら...沈んでたみたい」
打ち明けられた江利子は、余りにも衝撃的で、食いつくのが遅れた。
「は...まじですか...今まで、仕事一筋で、家庭的を求める男に振られても...」
その言葉に蓉子は、睨む。
「ごめん、それぐらい吃驚で、祝福したいのよ。馬鹿ばかりに振り回された、あなたには幸せになって欲しいから」
自分を引き戻した江利子の言葉に、苦笑いをし、
「そう...ね。でも、今回ばかりは...躊躇うわ」
「年齢的にも、仕事的にも...怪我が怖いのよね。」
数ある蓉子の苦笑いの中でも、初めて見る、自嘲的な痛ましい苦笑いに江利子は
「蓉子、私は色々とあなたに迷惑をかけてきた。高校、いや、中等部からかもしれないけど。とにかく、興味本位とかでなく、
出来る限りのことはさせて。」
江利子の稀にみる、真剣な瞳、表情に蓉子は面食らう。
「あ...ありがと...何かの取材?実は」
その言葉に、江利子は手を額にやる。
「あのね、私も32よ?親友を食い物にしないわよ。部下だったら散々、からかうけどね」
蓉子は顔を綻ばせる。
「そうね、からかい過ぎたわ。許して頂戴」
たまに見せる、蓉子の茶目っ気に江利子は安堵のため息をつき、
「ねぇ、聖の紹介した店にいた子でしょ?」
核心に触れる。
蓉子は、唖然とし、
「...どうして...」
上手く紡げないまま、江利子に先を促す。
「だって、あなた。祥子の妹にも見せなかった顔や視線だったわよ?聖への接し方も少し違ったし」
「祥子のパーティの時も少し、もの思いです。って、感じで枠から外に向かってたし。らしくなく、ね。」
あぁ、江利子が敏いのを忘れていた。そう思い、蓉子は食後の温くなったベトナムコーヒーを口にした。
ランチに江利子をした帰り、聖からの電話で夜を誘われた。断る理由も、予定もなかった。自身が出しゃばる仕事は、最近あまりない。
役職が上がると、こんなものかが増えて、代わりに小石にも重石にもなる異物を胃に持つことに。
思案と事務処理をこなし、目安にしていた時間になり、後輩たちに声をかけて最寄駅に向かった。
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聖はその日、先日の祥子のパーティで知り合った、会社の重役とのアポで訪問するため午後直帰と部下たちに伝え出ていた。
思いのほか、好感触の状況で少し、素を見せたりした。それも、重役は気に入ったようだ。
だから、蓉子や江利子に会いたかった。
江利子は明日の朝一で海外に弾丸出張。名義だけのような社長たちでは纏まらない仕事がまさかの国内外で重なったらしい。
必然、時差ボケをしてられない状況で美容優先通知を下された。
聖は、江利子ならそんな状況でさえ、だからこそ、溌剌とこなすのかもしれないと考えた。
結果が見えないから、楽しいと評し上り詰めた今の地位を江利子は、何回かしか見たことのない笑顔と爛々とした瞳で語った。
そして、聖の思考は蓉子に移った。
聖や江利子の失恋や泥沼にいつも、ため息を吐きながらも付き合ってくれた親友。
七人のなかで誰よりも幸せになって欲しい。そう願った時に蓉子が改札を抜けてきた。
「あら、今日は佐藤部長なのね」
からかいの声、表情で蓉子は声をかけた。
「あのね、会社訪問に聖さん仕様はないことぐらいわかってますよ」
聖は不満を半分以上露わにした。
「許して頂戴。今日は奢るから、ね?」
蓉子はしくじったかもしれないと、反省し、聖に謝る。
「いいって、気にしてないよん。聖さんは今日の訪問が良かったからね」
打って変わり、子どものような笑顔を蓉子に向ける。
「騙された...どこにする?今はどこも待たないといけないわね」
時計を確認しながら蓉子は聖に問う。
「ん~、祐巳ちゃんとこ」
聖の言葉に、蓉子の心臓はドキンっと一度、大きく鼓動した。
「ぁあ、いいわね。料理も美味しかったし、客層も落ち着いてたし」
少し、早口になりながら同意する。
「ね、蓉子。気になるんでしょ?祐巳ちゃん。」
聖は、歩き出しながら蓉子に温かく優しく笑いかける。
「だって、あんな態度だったし、それからもちょっと違うの知ってた?」
聖は悪戯っ子の顔を蓉子に向けた。
蓉子は、江利子といい、こうも親友たちの自分に対する見方があって嬉しく思った。
「ええ、そう...みたい。違う事を考えたら、恋愛観になるし...」
苦笑い気味に蓉子は答える。
「んふふ、ははっ。蓉子らしい」
無邪気に笑う聖に、
「なによ、悪いのかしら?」
蓉子は少し、少女のように不満を口にする。
「ごめん、ごめん。ほら、着いたよ?おひーさまが居たら吃驚しちゃうからね?」
おどけた聖を蓉子は、
「聖っ。あなたはもうっ」
何も知らなかったあの頃のように、不満と呆れを優しい声音というオブラートに包み、答える。
『ブルームーン』のドアを抜けながら二人は思った。
(私たちは、ほんとに遠くに来てしまった。時間は戻せないけれど...後悔もない。ただ、なんだろう...)
起承転結を意識したりしてますが、難しいですね...
『結』を出来るか不安です。
草稿からの一稿目ですので、修正とか今後入れたりさせて頂きます。
ご容赦くださいませ...