そこにある花   作:待兼山

8 / 21
2015・0216
文を加えました。
聖サイド
蓉子サイド
を入れて、七人の苦しみというかそんなのを。


カクシン

/

江利子は国内外の仕事をある程度こなし、部下や名ばかり重役たちに仕事を笑顔で託し、由乃と食事を楽しんでいた。

誰よりも、妹の令にも劣らない自信があるほど、由乃を気にかけている。

あの時、令を頼り、間接的に自身を頼ってきたことに驚きはあったが。

三人は、社会の縮図のような関係だと昔は思った。

今は、何処かでお互いがお互いに...。

 

「江利子さま、最近何かありました?」

由乃がこの店の中で一番お気に入りの、マルゲリータを手にする。

「そうねぇ、由乃ちゃんに知れたら蓉子に鉄槌を受けるから教えない」

江利子が嬉々と、誰しもが気になるフレーズを口にする。

「はぁ...もう言ってるようなものじゃないですか?」

由乃は昔と違い、自制気味に言う。

「そう?私は何も言ってないわよ?ただ、蓉子と鉄槌というフレーズを入れただけよ」

江利子は由乃との言葉遊びをしようとした。それが、由乃のリハビリになると思って。

そんな時に、妹の令が時間よりも早めに到着した。

「遅れて申し訳ありません。お姉さま、由乃」

由乃は、気になりつつも令に

「令ちゃんにしたら早かったね」

と、辛口意見を優しく言った。社内では、有能だが、厳しいだけの秘書課主任として轟かせている。部下や上司が見たら心配するような

声音だった。

「手厳しいわね、由乃ちゃん」

江利子は、緩く加速の変化をした由乃に苦笑いして言う。

「連絡の時に言った時間は、心持ち大目の時間だから」

妹の、厳しさを分かりながらも令も気にした素振りを見せないように、着席する。

同時にやってきた店員に、飲み物や追加オーダーを言い、令は

「何の話してたんですか?」

と二人の顔を見る。

「令ちゃんには教えない」

「蓉子の幸せ話」

由乃は江利子とのやり取りを隠すが、江利子は由乃には話さなかった内容を言う。

「なっ...!江利子さま!教えないって」

それに由乃は昔のように、声を荒げる。

「あら、言ったかしら?」

江利子は楽しそうに、惚けてみせる。

「くっ...!令ちゃんがタイミング悪いのよ...」

江利子の性格を分かってるからこそ、矛先を姉の令に向ける。

「よ、由乃。それはなんでも...」

昔のような由乃と江利子のやり取りに、驚き上手く言葉が紡げない令。

江利子は、そのやり取りが嬉しくなった。

だからこそ、蓉子には悪いが協力するし、こうして言葉遊びにさせてもらおうと思った。

心から仲間を想う気持ちを、江利子なりにもっと出したくて。

(肝心なとき、いつも言葉が足らないとあの聖に言われた。だから、実行するわけではないけれど。これからも大事にしたいから。帰れる場所なのだ)

 

なお、続く二人のやりとりに、思考から戻り、江利子は加わる。

 

 

/

聖は志摩子を訪ねていた。

(皆、変わったんだ...志摩子は透明度が増して、今では寄付のためにしか人に接しない...悪いかなんて判断できない。でも、あの頃あの時、

私たちは...確かに...!)

「お姉さま、お待たせしました」

聖が思考の海に入ってる時に、志摩子は来客室に来た。聖は、見放された子どものように志摩子を見上げた。

「あぁ...志摩子、急にごめん。」

掠れた声で志摩子に言う。

「お姉さま。過去の亡霊に捕らわれてらっしゃるんですね。」

志摩子は聖を抱きしめた。

聖と志摩子は、痛々しいほどにお互いが不可欠になっている。

志摩子の妹、乃梨子が二人の関係をガラスで出来たオルゴールのようだ、と評し、令・祥子・由乃を黙らせた。

その場に居た、誰もが、蓉子や江利子でさえ、聖と志摩子の関係性は希薄であり、密度が高いと思っている。

社会に出た今、誰もが何とか聖にプライベートを持掛ける。

志摩子は非営利団体広報担当の為、プライベートでも容易に誘えないから。

 

志摩子はいつでも、皆を気にかけているが聖に関してはいつでもアンテナを張っている。

あの時、聖は発狂寸前になりながらも社会に出て行った。

あの時の誰もが、恐々と社会に溶け込めるように苦しんだ。

由乃は心に蓋をして、七人以外と接していると江利子と聖、蓉子は話していたのを志摩子は思い出す。

(主よ、私たちは...己しか考えない私たちは、やはり癒されないのでしょうか...これが、贖罪ではダメなのでしょうか...)

志摩子は聖をただ、抱きしめた。

嵐の夜に、震えている子どもを守るかのように。自身の震えも、誤魔化すように。

 

 

/

蓉子と祥子は、祥子の部屋に居た。

小笠原邸ではなく、柏木と結婚した後にプライベートで購入した部屋。

小笠原グループの何社かは祥子が舵を取っている。

祥子の祖父は柏木に乗っ取られるのを恐れたのか、祥子の能力を買ったのか。

だから、マンション購入に関しての詮索は軽いものだった。

「お姉さま、お口に合いました?最近、瞳子にもあまり会わないもので腕を振るってなかったもので」

祥子らしくもなく、自信のない不安げな笑みを蓉子に向ける。

「祥子が珍しいわね。美味しかったし、また、腕を上げたって関心してたのよ?忙しいのに私とは大違いって」

蓉子は自身を引き合いにだし、祥子を褒める。

「お姉さまはしっかりとご自身の足で歩まれてますわ。私は、お飾りですもの」

そう皮肉げに祥子は自身の現在の立場を話す。

昔のような高慢さは、感じさせない。

ただ、蓉子の前でだけ。

祥子は妹の瞳子の前でも自信溢れる自分でいる。

あの時の七人と蓉子の前でだけが、祥子の仮面を外せる。

「今度、聖が見つけた店で皆で会わない?凄い何かがあるってわけではないんだけれど」

蓉子は、何故かあの向日葵のような笑顔を思い出し、そう切り出した。

(恋ともつかない、どうしても会いたくなるあの子。

口実を毎日探している。

頭、心の片隅ではあの時がインクの染みのように主張しているのに。求めてしまう、救ってくれと...)

 

 

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