窓から夕焼けの赤がうっすらと教室へと差し込んでくる。
その教室では殆ど音らしい音はせず、グラウンドから聞こえてくる部活動の声が僅かに響いていた。
「ねぇ、咲夜さん」
ふと、それまでの沈黙を唐突に破り、目の前に座って雑誌をめくり読みをしている咲夜へと美鈴は問いかけた。
それに対し咲夜は何、と手元の雑誌から目を離さずに短く答える。
「今日の昼休み、隣のクラスの東風谷さんと話してましたよね?何話してたんですか?いや、何も咲夜さんの行動を把握したいとか、そんなんじゃないですよ?ただ、他のクラスの人とわざわざ話してたのが気になっただけで」
そこまで一気に喋ってから、美鈴は目をスウッと細めて再度問うた。
「それで、なに話してたんですか?」
「別に…。早苗が教科書忘れたって言うから貸しただけ」
あくまで美鈴と目を合わせない咲夜に業を煮やしたのか、咲夜の読んでいた雑誌を取り上げ、身を乗り出して無理矢理に美鈴は咲夜と目を合わせた。
「本当ですか?」
「嘘つく必要がないでしょ?」
至近距離で覗かれているにもかかわらず、一切表情を変えることなく言葉を返す咲夜。
「その言葉、信じていいんですね?」
「もちろん」
その言葉に少し安心したのか先程まで座っていた椅子へと戻る美鈴。
「いやいや、良かった。もし咲夜さんが他のクラスの人と仲良くしてたら…っていうか、私以外の人と仲良くしてたら妬いちゃいますからね」
ハハハ、と冗談っぽく笑うが、咲夜は美鈴のそれが100%冗談ではないことを知っていた。
(また…、目は笑ってないのね)
先程の会話や、よく美鈴は『妬いてしまう』と冗談で言っているが、そういう時は必ずと言っていいほど目が笑っておらず不気味な印象を与える。咲夜もそれが得意ではなく、あまり目を合わさないようにしている。
「そろそろ帰りますか?もうすぐ下校時刻ですし」
「そうね」
短く答えると咲夜は雑誌をゴミ箱へと放り投げ、カバンを持った。
「あれ、雑誌いいんですか?」
「いいの。そんな面白くなかったから」
「ふーん。ちょっと気になりますし、貰っていこっと」
そう言うと美鈴は今しがた捨てられた雑誌をゴミ箱から取り出した。
「アンタねぇ…」
いいじゃないですか、と笑う美鈴に呆れつつも、これまでにも美鈴が似たようなことをしてきたことを思い出し、今更どうもこうもないか、と思い直した。
教室から二人は廊下へと出ると、特にこれといった会話もないまま無言で歩いていた。
「……」
「………」
「ねぇ美鈴」
何故か無言で自分の方を見てくる美鈴に対し、意図が掴めないまま問いかける咲夜。
「何ですか?」
「こっちさっきから見て、どうしたの」
「…咲夜さん、抱いてもいいですか?」
「…は?」
あまりに唐突な願いに、流石に目を丸くする咲夜。
「いきなりなんなのよ」
「とくにこれといった理由はないですが…、駄目ですか?」
あまりに無茶苦茶な理由に咲夜は今日何回目になるかわからない溜め息をつく。
「ハァ…。なんなの一体。…まぁ、いいわ」
意外にもあっさりと許可をもらえた美鈴は、その喜びを表すか如く抱きつく、というよりも飛び掛かると形容すべき勢いで咲夜に抱きつく。
「…人に見られたらまずいから、あんまり長くはやらないように」
「えっ?まずいって何がまずいんですか?」
「……そうだったわね」
美鈴の頭を撫でながら、咲夜は淡々と言葉を返す。
(………)
それから少したっても、一切ポーズの変わらない状態で、咲夜は一人思考する。
(いつも、こんなんとはいえ…)
(重い。重いよ?美鈴)
(それを受け止める私も私だけど…)
(がんじがらめで)
(めちゃくちゃに、重い)
「重い愛」の「思い合い」