曇りがちの空。その雲の切れ間からは大小様々な星が見えてくる。そして一際明るく輝いて見えるのは、前日完全な姿を見せた月だった。
その月を含む夜空を眺めていた美鈴は、しばらく顔を上に向けていたからだろう、首を回しゴキゴキと鳴らせた。
「十六夜…か」
館のメイド長の名の元にもなっている単語を呟く。月の満ち欠けを普段気にする性質ではなかったが、満月の日は吸血鬼サマがやたらハイになるためその翌日のことまでは記憶していた。勿論メイド長の名前であるという理由も存在しているが。
「お疲れ様」
その時、唐突に背後から声が聞こえてきた。件のメイド長、十六夜咲夜である。いつものように時間を止めてやってきたのだろう、特に驚いた様子もなく美鈴は振り返る。
「お疲れ様です、咲夜さん。時間ですか」
「ええ。妖精メイドと交代ね」
「…いつも思うんですが、妖精『メイド』に夜中だけとはいえ門番をやらせていいんですか?」
「あら?そうしたら美鈴が24時間やってくれるの?」
意地悪く笑みを浮かべたサクヤに苦笑しつつ言葉を返す。
「それは無理ですね」
「でしょ?だからいいのよ。門番もメイドの夜勤の仕事の一つ。それに夜なら例え侵入者がいてもお嬢様自身で倒せるだろうし、暇つぶしにもなるんじゃない?」
「まぁ、それもそうですね」
そう言うと咲夜は伸びをして、もう寝るわね、と言った。
「ああ、待ってください」
「? どうしたの」
美鈴は無言で空を指差す。最初は何事かと訝しんでいたが、やがて合点がいった顔をする。
「そういえば、昨日は満月だったわね」
「ええ。……咲夜さん」
「うん?」
不自然なところで言葉を切ったため、咲夜は視線を月から美鈴へと移すが、美鈴は月を見つめたままだった。
「……月が綺麗ですね」
「え?…え、ええ」
「…月が綺麗です」
「…そうね」
「…そ、それだけです」
「そ、そう。それじゃあ」
そう言うと咲夜は一瞬でいなくなる。美鈴はしばらく月を眺めたままだったが、やがて顔が赤くなるとそのまま地面にへたりこんだ。そして体育座りで膝に顔をうずめる。
「ああ…」
胸中の思いの激しさに思わず声が漏れる。
(…ああああ!駄目だった!やっぱ駄目だった!咲夜さん絶対気付いてないしあの反応!……やっぱりハッキリ言わなきゃ駄目なのかなぁ。でも言えたらこんな苦労しないし…。パチュリー様に教えてもらったのはいいけど言葉の意味通じなかったら全く意味不明だし…。あぁ………)
(…美鈴のあの言葉…、偶然…よね?まさか美鈴が知っているわけないし、もし勘違いだったらどうしよう…。あー、熱い。なんか体中熱い…。早く部屋戻らないと……。というかなんも返してあげれなかったし…、『死んでもいいわ』くらい言っておいた方が…、いやでももし勘違いしたうえで、意味バレたら…。…うわぁ)