シャーロット・E・イエーガーはトレーラー暮らしのホワイトトラッシュの家に生まれた。
ヒステリックな母親と飲んだくれの父親とは折り合いが悪く、学校にもろくに通わず齢6歳にして生活費を稼ぐために働いていた。仕事の関係で機械関係の知識は得たものの、魔力に目覚めたころ、彼女は自分の名前を書けなかった。
ややあってリベリオン陸軍に入隊したシャーリー。昼間は訓練に明け暮れ、夜は仲間に隠れて小学1年生の教科書でこくごとさんすうの勉強に打ち込む日々。
しかしある日、仲間に勉強中の姿を見られてしまい、散々バカにされ逆上してしまう。幸い数日で謹慎は解けたが、その日を境にシャーリーが机に向かうことはなくなった。
それから数年。
戦場で好成績を修め続けたシャーリーは、501への参加を要請される。エリート揃いの部隊と聞いて一時は尻込みするシャーリーだったが、周囲を見返すために決意を固め欧州へ飛んだ。
彼女が501で出会ったウィッチの中に、わんぱくそうな黒髪褐色の幼い子供が一人。
それがルッキーニとの出合いだった。
二人はすぐに意気投合した。早くに母親の元を離れたルッキーニはシャーリーに母性を求め、シャーリーとしても自分と同じく文字が読めないルッキーニが相手だと、劣等感を感じずに接することが出来た。
そんな折……
これ読んで!
ルッキーニが持ってきたのは十数ページ程度の幼児向け絵本。
ルッキーニからすればシャーリーは大人で、当然頭だって自分よりいいに決まってる。そんなルッキーニの期待を裏切れず、なにより文字が読めないことがバレれば、ルッキーニに失望されてしまうかもしれない。
意を決したシャーリーは、ぱらぱらとページをめくって絵の流れを頭に入れると、ルッキーニを膝に座らせ読み聞かせを始めた。
シャーリーの口から紡がれる物語は、絵本のもともとの内容とはかけ離れたものだが、文字の読めないルッキーニはその事には気づかなかった。
ルッキーニを騙していることにばつの悪さを覚えながらも、なんとか読み終えたシャーリー。ルッキーニは目を輝かせて
ありがとシャーリー! すっごくおもしろかったよ!
その後もルッキーニはたびたび絵本の読み聞かせをせがみ、シャーリーはそのたびに架空のストーリーをでっちあげた。
しばらくして、501に二人の新人が加わった。一人は気弱なブリタニア人のリーネ。もう一人は料理上手な扶桑人の芳佳。
特に胸の大きなリーネはルッキーニのいいおもちゃであり、また芳佳は誰にでも分け隔てなく優しく、ルッキーニの秘密基地に招待された数少ないウィッチのひとりであった。
シャーリーが忙しいときは、二人に遊んでもらうことがしばしばあった。
あるとき、ルッキーニは絵本を読んでとリーネにねだった。それはあの日シャーリーがルッキーニに初めて読んであげた本。ルッキーニはリーネの胸に頭を預け、リーネは困惑しながらも1ページ、また1ページと読み進めていく。
やがて、物語を全て読み終えたリーネ。
どうだったかな? とルッキーニに尋ねると
全然違う!
ルッキーニがぐずった。そんな変な話じゃなかったよとルッキーニが言うと、リーネは芳佳に本を見せ、正しいストーリーであることを確認してもらう。
ルッキーニは少し考えたあと、絵本を持ってシャーリーの元へ向かった。
そうとは知らないシャーリーは、ガレージで趣味のバイクいじり中。
今度ルッキーニと一緒にこいつに乗ってロンドンにでも出掛けてみるか!
ルッキーニのことを考えると自然と心が弾む。そこへ現れたのは他でもないルッキーニ。見ると、胸にはあの絵本を抱えている。
作業も一段落したしちょっと遊んでやるか、と腰をあげたシャーリーにルッキーニは一言。
今ね、この本をリーネに読んでもらったんだ
その言葉を聞いた瞬間、シャーリーの背中に冷たい汗が吹き出る。
ルッキーニに自分の秘密を知られてしまった 今まで嘘をついていたのがバレた どうしよう どうしよう
足はがくがくと震え呼吸が荒くなる。なにか言わなければと頭では思っているのに。喉が詰まって声が出ない。頬を生暖かい水がつたう。
いやだ 嫌われたくない ルッキーニに拒絶されたらあたしは
そんな想いが頭の中をぐるぐると駆け巡る。
すると、うつむいていたルッキーニが不意に顔を上げた。
でもね シャーリーの読んでくれたお話の方が ずーっとおもしろかったよ!
いっつも私と遊んでくれて わがままも聞いてくれて ほんとに大好きだよ シャーリー!
ルッキーニがとびきりの笑顔を見せる。シャーリーはそれを見て声をあげて泣き出し、ルッキーニはいつまでもシャーリーのそばにいた。
その晩、二人はいつもより少しだけ夜更かしをして、いつもと同じように手を繋いで眠った。
いつまでもこの人と一緒にいられるよう、胸の内で祈りながら。