色々なIF集   作:超人類DX

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概ね平和なIS学園。

そんな彼等とは別の所で闇は生まれていた。


もう一人の後継者

 復讐という憎悪の炎を無限に燃やしていた赤龍帝がその悲願を達成する以前、その青年は転生者によって殺されてしまった。

 

 信じた仲間達に裏切られ、惚れた悪魔の少女が目の前でその男に貪られ、全ての希望を破壊された上で虫けらの様に殺された青年は既に心が折れていたのだ。

 

 だから、青年には最早生きる気力を無くした、目的も無くした、糧も無くした。

 早くに両親を亡くし、幼い弟や妹の生活の為に頑張ろうとしたその強き決意ですら、同年代の同性は邪魔に思っていたその転生者によって壊されたのだから。

 

 そんな青年の魂は本来ならその肉体もろとも消滅を迎える筈だった。

 

 だがしかし――

 青年は生きていた……生き残ってしまった。

 

 自分の知る世界とはまるで異なる世界にて……。

 

 

「…………」

 

 

 本来ならとても明るい少年だった男は青年へと成長していくにつれてその心を閉ざしていった。

 守るべき者も居ない、誰かの為に生きるという糧となるその『誰か』も存在しない。

 故に死した筈の少年が目覚めた時、何故生きているのかを自問する事もなく自らの手で命を絶とうとした。

 

 どうせ生き残ってしまっても、それを知った転生者(ヤツ)に知られたら瞬く間に殺される。

 ならざいっそ自分の手で――そう思って自分の手で自分自身に死を与えようとした青年。

 

 だがそれは叶わなかった、いくら死のうとしても少年の肉体は瞬時に傷が再生するかの如く塞がってしまうのだ。

 それに加えて少年は転生者に一度殺された影響か、利き腕を喪っていたのだ。

 

 こんな惨めな状況に陥り、尚且つ死ねもしないなんて奴による嫌がらせかと思っていた少年だが、不意に少年に声が聞こえた。

 

 

『目覚めたか、我の宿主よ』

 

「!? 声が……! ど、どこだ!?」

 

 

 死ねぬ己に対して半ば半狂乱に陥っていたのもあり、少年は興奮した声色で誰も居ない暗闇の中で声を張り上げた。

 だがいくら辺りを見渡しても姿は見えず、声だけがまるで少年の耳元で囁かれてる様に聞こえる。

 

 

『我に実体はない。

今の我は貴様の意思の中に宿る存在』

 

「! それはまさか俺の――」

 

 

 威厳を感じる低い女性の様な声に対して少年は身に覚えがあるかの様に失ってない側の腕で自分の胸に手に当てる。

 

 

『違う。

確かに貴様の宿す龍と似た様な存在へと今の我は成り下がったが、奴ではない。

奴は貴様が殺された瞬間他の宿主へと転生した』

 

「…………じゃあアンタは一体」

 

『我は全てのホラーの始祖・メシアなり』

 

「あ……あぁ?」

 

 

 少年が本来もっていた五分割されたドラゴンの意思とは別で、自らをメシアを名乗る女性の声に半狂乱になっていた少年はちょっとだけ冷静になった。

 

 

「め、メシア? 何だよそれは? 神器とは違うのかよ?」

 

『我をあの様な低俗なモノと一緒にするな。

………もっとも、我は忌々しい黄金騎士によって復活したばかりの肉体を破壊され、この様な意識のみとなってしまったがな』

 

「黄金……騎士? さっぱりわからねぇ」

 

『貴様の住む世界とは別の世界の存在の事よ。

とにかく、その意識すら完全に消滅する寸前だった所に片腕を失った貴様が死にかけていたのを発見した我は、意識の継続を目的に貴様を宿主として残り少ない力を総動員させて復活させたのだ』

 

「なっ!? じゃあテメーのせいか! さっきから死のうとしてるのに傷が簡単に塞がるのは!?」

 

『ふん、紛いなりにも我と一体化しているのだ。そんな程度では死なれては困るのでな』

 

「ふざけるなよテメー!? 俺には生きる意味なんて無いんだぞ!?」

 

『知らんな。高々紛い物の力を振るう愚かな人間の陰我に敗北した者の戯言など』

 

「こ、コイツ……! メシアだかなんだか知らねぇが、今すぐ俺の中から消え失せろ!!」

 

『無理だな。我の意識を継続させる為に形振り構わず貴様と一体化してしまったのでな。

一体化した我等を完全に超越する力で殺されぬ限りは離れられん』

 

「な……」

 

 

 別に望んで無いのに、このメシアなる訳のわからん存在のせいで半分不死身にされてしまった少年は絶句してしまう。

 

 

「そもそもホラーってなんだよ!? 始祖って!?」

 

『一々説明するのは面倒だからそこは追々我の知識を貴様に与える形で教えてやる。

それよりもだ元人間の小僧、今の貴様は生前陰我そのものたる人間に殺された時よりも基礎的な力が上がっている。

片腕が消滅しているが、紛いなりにも我とひとつになっている今なら早々遅れはとることもあるまい』

 

「それが迷惑ってんだよ! 俺を死なせろ!」

 

『うるさい小僧だ。

良いか? これは貴様にとっても悪くない話だ。

我とひとつになった事で貴様はホラーの始祖である我と同等の力を持ったのだ、加えて貴様には暗黒の力を与えてやる。

そうなれば貴様は絶対の力を手に入れられる』

 

「知るか! そんなもん今更要らねぇ!」

 

 

 端から見たら一人で怒鳴ってる様にしか見えない構図だが、生憎謎の暗闇空間なので誰にも見られる事はない。

 

 

『吠えた所で我は出ていかぬ。

貴様にはバラゴと同じ様に暗黒騎士となるのだ』

 

 

 そう言ったメシアは少年の目の前に黒い霧と共に姿を現す。

 

 

「!?」

 

『ふむ、ほんの少しの間で実体ではないが、貴様と向かい合える様だ』

 

 

 だがその姿は少年の脳裏に一番刻まれた存在と酷似した姿であり、声は完全に違うものの、その姿は目の前で転生者に貪られた悪魔の少女にとても酷似していた。

 

 

『貴様はこの姿の女に相当入れ込んでいた様だな。

何とも貧相な姿だが、文句は言えまい……』

 

「…………」

 

『気に入らんか? だが仕方あるまい。

今の我は本来の姿になることも叶わんのだから我慢しろ』

 

「……チッ」

 

 

 目付きも怖いし、声も低い、かつて恋した悪魔の少女にそっくりなメシアの姿に舌打ちをする少年。

 

 

『これが貴様に与える新たな力だ。

今より貴様は暗黒騎士・呀となるのだ!』

 

「……………」

 

 

 結局このメシアをどうやっても追い出せそうにないと諦めた少年は、メシアから与えられた禍々しい力を感じるペンダントを受け取り、新たな存在へと昇華する。

 

 

『さぁ行くが良い元士郎! 破邪の道を!』

 

「ヤだ」

 

 

 ホラーの始祖との一体化という誰も成し遂げられなかった最悪の存在へ……。

 

 

 

 そして十数年後……。

 

 

 

「元士郎、この『げぇむ』とやらは中々の退屈凌ぎになるな。

人間の陰我も存外バカに出来ぬものよ」

 

 

 本来の世界では最強最悪の存在として恐れられていた筈のホラーの始祖は、少しだけ力を取り戻す事で制限時間付きとはいえ宿主から離れて自立行動可能になったのだが、少しだけ俗っぽくなってしまった。

 具体的には元士郎の世界でも、メシアの世界でもない、悪魔もホラーも神器も魔戒騎士も存在しない世界で、元士郎が別の意味で吹っ切った悪魔の少女に酷似した姿でポチポチと携帯ゲームをするくらいには。

 

 

「ぬ!? 小癪な、ミル○ラースだか何だか知らぬが、このメシアの育てた人間共に勝てると思うなっ!!」

 

「声がデカい。

取り上げんぞコラ」

 

「む? すまんな、やってみると中々面白くてついな」

 

 

 多分魔戒騎士辺りがこんなホラーの始祖のなれの果てを見たら顎が外れるくらい驚愕するのではないかと思うが、生憎宿主の元士郎にはメシアの価値がほぼわからないし、人間を食い物にしてる割りには人間の文化を教えたら普通に填まるアホっぽい奴としか思えなかった。

 

 

「ふはははは!! ゴルガ ニムゴマーツ! ロル ヨ ヂチョルチカコソモゲ ソオボマーオチトゲラムネチラオラチノコイノロンパウヤ!(どうだミル○ラース! 王を自称した所で、このホラーの始祖たるメシアの足下にも及ばぬわ!)」

 

 

 しかもゲーム画面の魔王相手に興奮して魔戒語なる言語で勝ち誇る辺りが、本当にそんなヤバイ存在なのかと、元士郎を疑わせる訳で……。

 

 

「うるせぇ!! もうゲームは取り上げだ!」

 

「あっ!? ま、待て元士郎! 今やっとミル○ラースを倒したのだぞ!?」

 

「やかましい!」

 

 

 少なくともゲーム機を取り上げられて元士郎にマジで掴みかかって取り返そうとしてる辺り、結構気は合う仲ではあるらしい。

 

 

「お、おのれ……! この後『こうりゃくさいと』なるものから仕入れた情報で『うらぼす』なる者を倒す予定だったのに……」

 

「一々エンカウントで勝つ度にデカい声で勝ち誇ってるからだこのバカ」

 

「ば、バカだと!? こ、このホラーの始祖のメシアである我に向かって……! 宿主だからと調子に乗るなよ……!」

 

「じゃあドラ○エ6は買わなくて良いんだな?」

 

「!? ……お、おほん、ま、まぁ我の宿主だからそれくらいの気位はないとな!」

 

 

 半分は割りきったせいか、本来なら即座に食い殺されてしまう程の差があるメシア相手にも物怖じせず、寧ろ主導権を取る元士郎。

 そんな二人(?)が今ひっそりと生きてる世界は転生者も居なければ、悪魔や堕天使や天使やホラーや魔戒騎士が存在しない、ちょっと科学の進んだ世界だ。

 

 何でもISなる兵器が世界の覇権を少し握ってるらしく、メシア曰く、アレを作った人間やそれに群がる人間共には多くの陰我があるらしい。

 もっとも、あまり元士郎には興味のない話だが。

 

 

「それよりあの小娘はどうした? 元士郎が拾ってから常に後ろを付いてきてるのに今日は見ないぞ?」

 

「アイツなら職場の定例会議とやらで出払って――」

 

「今戻ったよ元士郎!」

 

 

 そんな元士郎は奇しくもどっかの誰かみたいなグータラ男に俗っぽくなりだしてるメシアと共になっており、今も結構な家賃のするマンションの部屋に半分引きこもりながら、時間制限つきで実体化できる程度には力を取り戻した、ソーナ・シトリーと酷似した姿のメシアと共にもう一人の同居人が帰ってきた所を出迎えていた。

 

 

「会議が長引いてしまって遅くなってしまった。

今からご飯を作る―――む、お前、また実体化して元士郎に変な事をしようとしたのかメシア?」

 

 

 帰りにスーパーで買ってきたのか、料理の材料が入った買い物袋片手に帰ってきた小柄な少女。

 その容姿は世界でも有名なブリュンヒルデと呼ばれる女性に非常に似ていて、少女は実体化してるメシアの事も知っているかつ、ちょっと敵意の籠った視線を向けていた。

 

 

「小娘ごときに睨まれる様な事はしてないのだがな。第一我は元士郎と一体化してるのだぞ? コイツに何をしようが貴様に関係あるまい?」

 

「あるね。

私は元士郎のお世話を一生する為に生きてるのであって、お前の世話をするつもりはないし、変な事を吹き込んだり誘惑するのは許さない」

 

「だから餓鬼なんだ貴様は。我と元士郎はそんな小さな関係ではないのだ。

まさに異体同心……貴様程度の小娘にどうこうできるものではないのだ」

 

「……………」

 

 

 バチバチと何故か火花を散らす少女とメシア。

 この少女は少々『特殊』な出生であり、当時手っ取り早くメシアと縁を切りたかった元士郎が、メシアの言う陰我を食わせる為に、軟禁されていた妙な施設を襲撃した際に出会し、そのまま拾って連れ帰った。

 

 当初は人間らしい感情が無く、まさに造られたかの様な無機質さをもってた少女なのだが、俗っぽくなっていくメシアや、自分をどうであれ牢獄の様な場所から救ってくれた元士郎との奇妙な生活が、今ではすっかりまだ子供なのにしっかり者さんへと成長させたのだ。

 

 

「まあ、こんな古くさいしゃべり方をする年齢不詳なババァは放っておいて、ご飯にしよう元士郎。

今日は元士郎の大好物を作るから楽しみにしててくれ」

 

「あ、うん……」

 

「わ、我をババァだと……」

 

 

 特に元士郎に対する想いはかなり強く、容姿は巷の高校生くらいの若々しさだが、実は一回り以上も年が離れてる彼に対しては恩を越えて完全に母性愛を抱いていた。

 

 それもこれも私生活がだらしなくなってしまってる元士郎のせいなのだが、そんな彼に対して幻滅する事すら無く、寧ろますます想いを大きくさせてしまってる辺りが、少女の将来が心配になる。

 

 

「それとも先に一緒にお風呂に入ろうか? ふふん、胸も少しまた大きくなって大人に近づいたから、間違いなくもう子供も産める筈だ」

 

「それは他の好きになった男に言ってやりなさい」

 

「それはあり得ないな元士郎。

元士郎以上の男がこの世に存在するとは思えないし、こんな台詞を言える相手は元士郎しかいないよ」

 

「……………。感情が皆無だった小娘がこうまでなるとはな」

 

「眠れないなら子守唄だって唄うし、喜んで添い寝だってしてやる。

元士郎が喜んでくれるなら私は何でもするし、辛い仕事だって耐えられるさ!」

 

 

 仕事先じゃまず見せないニコニコとした笑顔を浮かべながら、ソファに座ってた元士郎を抱き締める少女は今日もおのれの暗い過去を払拭して前向きだった。

 

 

「あ、所で仕事先からIS学園の学園祭の入場チケットを貰ったんだ。

私も仕事の上で潜入するのだけど、それ以外は元士郎と遊ぶつもりだから一緒に行こう?」

 

「わかったから取り敢えず離れてくれないか? その……胸が顔に当たってるんだけど」

 

「? 当たってるならそのまま好きにしても良いよ? 寧ろメシアにとられる心配が消えて安心するし」

 

「……我を何だと思ってるのだコイツは。

こんな小娘が元士郎の後継者候補だなんて我は納得出来ぬぞ……」

 

 

終わり




補足
――と、大袈裟な前フリだけどこんなオチでした。


その2
正当な二代目呀が今の彼。

そしてそんな彼に救われた少女は――だれなんだろね?(棒)

その3
メシア様、めっちゃ俗っぽくなるの巻。

当初元士郎を利用して完全復活を企ててたつもりが、気付いたらドラ○エにハマるし、人間の食べ物の旨さにハマったり。

最近のマイブームは元士郎に懐いた少女とス○2で対戦して勝ってドヤる事らしい。

ちなみに現在の姿は、ソーナ・シトリーが眼鏡掛けてなくて、かなり目付きが悪くなった姿と想像してください。

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