今回の話は、何故かすらすらと短時間で書けました。文字数は3500ちょっとですけども、
あまりお待たせしなくていいかな、と思って投稿した次第です。
それでは前書きを。約2か月ぶりの新米提督が登場します。久しぶりで新米提督の設定をど忘れ
して慌てたりしてました。主人公のはずなのですけどね……
また、今回もほんの少し残酷な描写が入ります。前回ほどではないので、前回が読めた方は
大丈夫だと思います。ですが、一応心の準備をしておいたほうがいいかと。
では本編に入りましょう。第20話です、どうぞ。
首からボロボロのタオルをかけ、船渠の扉の横で壁に背中を付ける。
そのままずるずると体を滑らせ、片足を立てて座り込み、ため息を吐いた。
何もできてないな、私は……
十分ほど前、電を浴槽内で抱えていると、資材を持ってきた暁と雷が戻ってきた。
その後雷と交代し、暁と一緒に工廠へ艤装を取りに行き、今は雷たちが入っている浴槽を温めて
いる。
結局自分にできたことは、電を運んで最低限の応急処置らしきことをしただけ。
これからは雷がサポートし、自分より頭の良い工廠長に傷が治るまで一任されるだろう。
横須賀で十何年も学んできたが、それは最新技術を使っているところで役に立つ知恵という
だけで、詰まる所は役に立てないただの置物だ。
自分がなりたかったのは、こんな非力で無力な提督じゃない。
「まだ遠いよ、父さん……」
父親代わりの教官に向けて、小さくつぶやいてみる。
こんな所でも、父なら的確な指示を出し、何かしら役に立てるだろう。
意気消沈しながら考えていると、どこからか『ブロロロロ』と聞きなれた音が聞こえてきた。
良く聞くと艦載機の音で、聞こえてくる音の大きさと移動速度から、工廠に帰ってきている
ようだ。
響のこと等を聞きに行くため腰を上げ、小走りで工廠に向かう。
少し息を荒げながら入り口から入ると、予想通り艦載機が戻ってきている所だった。
着陸地点へと足早に移動し、艦載機から降り始めた工廠長に話しかける。
「おかえりなさい。 響が戦闘していたと思うのですが、どうでしたか?」
「うむ、それなんじゃが……見ての通りじゃ」
そう言うと工廠長は遠くを指差し、つられてそちらを向く。
少し遅れて、『ゴツ、ゴツ』とコンクリートを金属で叩いたような鈍い音が聞こえてくる。
下りになっている場所から薄い青色の何かが見え、それが徐々に姿を現していき、響だという
ことがわかる。
帰ってきてくれたことにほっと安心しようとしたが、全身が目に入った時、息を飲まされた。
「全身打撲『中』、左腕裂傷『小』、右手欠損、それに出血『大』。 ほっといたら2~3日
ぐらいで死ぬわい」
冷静にそういいながら、工廠長はヘルメットを脱ぎ、固まっている自分の横を過ぎて響の元へ
駆け寄る。
「艤装を全部外して、すぐにドックに行くぞ。提督、すまんが手伝ってくれ」
「あ、は、はい……」
工廠長の一言で何とか我に返り、少しふらつきながら響に近づく。
服はボロボロで顔は病的に青白く、両腕は真っ赤に染まり右手があるはずの所からは床の
コンクリートが見える。
「司令官か……どうした、んだい……?」
「……かなり深手を負ったな」
「仕方な、いさ……私の、技量不足、だよ……」
響の声は、全く力の入っていない軽い声だった。
工廠長が艤装の解除を行っている最中に、自分の目で響の様子を見る。
左腕は腫れと切り傷がひどく、右手の傷口は見たところ握り潰して止血したようだが、出血は
少量だがまだ続いている。
顔は元々の白さからさらに白くなり、人形のような血の気がほとんどない顔になっている。
目の両端が垂れ下がっているのと唇が小刻みに震えている所から、かなり疲れて血を失っている
のだろう。
「私のこんな、姿見ても、楽しくないだろう……?」
辛いはずなのに、笑顔を浮かべながら話しかけてきた。
声色から相当の力を振り絞っているのが伺え、何故か心が痛む。
「よし……提督、響を運んでやってくれ。 燃料なしじゃもう歩けん」
言い終わると同時に響の背部艤装が落ち、工廠内に大きな音を響かせた。
すると響は気が抜けたのかふらふらし始め、倒れる前に体を持って支える。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、ないかな……面倒、かけたね……っ!」
響は脚部艤装から足を外し、自分の体を使いながらも自力で立とうとする。
だが3歩と行かない内に膝が折れてバランスを崩し、もう一度支える。
「無理するな、治るものも治らなくなるぞ。 私に任せろ」
「
そう言い終えない内に、限界だったのか体重を自分に預けてきた。
響の服にしがみついたままの工廠長を右肩へ誘導し、ゆっくりと体を持ち上げて横向きに
抱える。
「痛くなかったか?」
「体は、あんまり傷がない、からね……大丈夫だよ……」
また辛そうに響が笑みを浮かべ、自分の目を見つめてくる。
その顔を見たくなかったのか、勝手に顔はそっぽを向き、足は工廠の出口の方へと動きだした。
響の顔を見ずに歩いていると、工廠長から小さく話しかけられる。
「……提督、戻れ。 今は燃料で体がもっとるようなもんじゃ。 先に補給させてからの方がいい
かもしれん」
「資源なら、島の探索中に見つけてある程度持ってきたので大丈夫です」
「なるほど。 あと、右手の修復は明日以降にしたほうがいいじゃろう。 血が足りなくなって
しまうからな」
「えぇ、わかっています」
響の傷口から落ちる血で床に血の点線を作りながら工廠を出るが、工廠長の口は止まらない。
「忘れておったが、電はどうした?」
「30分ほど前に被弾し戦闘不能。 現在は雷の介助付きで入渠しています」
「そんなにも前にか……遠くまで行っとったのが仇になったわい……」
肩の上で工廠長は頭をかかえ、後悔のせいか唸り始める。
少しの間そのままだったが、何かを思い出したような声を小さく上げて話しかけてくる。
「後で詳しく話すが、大体ここら辺の地形が分かった。 ちなみにお前さんらにとってはかなり
有益な情報付きじゃ」
「それって、まさか……?」
「お楽しみはもっと後じゃ。 ほれ、もうすぐ着くぞ」
今すぐ有益な情報とやらを聞きたいが、工廠長の言う通り船渠がほとんど目の前だったため、
頭を切り替えて聞き出すのをやめる。
一度立ち止まって響を座らせ、息を吸って軽く叫ぶ。
「暁、ちょっと来てくれ!」
『わかったわ!』
すぐに遠くから暁の声が聞こえ、船渠近くの外へ繋がる出入口から姿を現した。
「司令官、どうしたの?」
「響が帰ってきたんだが、傷が深いんだ。 入渠を手伝ってほしい」
自分の言葉を聞き、暁は不安そうな顔をした。
艦娘が一人で入渠できないということは、かなり大きな怪我をしているのと同意義であると暁も
理解しているからだろう。
「そ、そんなにひどいの……? 響はどこ?」
暁は自分が指さす前に響を見つけて駆け寄ろうとするが、それを手を上げて制止する。
「な、何……?」
「暁。 響のことなんだが……戦闘中に右手が無くなった。 血が足りないからあまり無茶は
させないようにしてくれ」
暁を止めたのは、このことを説明して理解してもらうためだ。
いきなり今の響の状態を見てパニックにならないとも限らないため、あらかじめ頭に入れて
もらう必要があった。
「手が、無い……?」
「あぁ。 血が足りていないのも頭に入れておいてくれ」
そういって手を降ろすと、ゆっくりと響に近づきお互いに目を合わせる。
「やぁ、暁……食べ物は、見つかった……?」
「まだ、だけど……手が無いってほんと……?」
「うん。 ちょっと、ドジ踏んじゃって……」
響は話しながら、燃料を使ったのか軽々しく右腕を上げて暁に見せる。
傷口を見た暁は、口を押えて横を向く。
吐きそうといった様子ではないが、何かをこらえているような表情を浮かべる。
「ごめん……暁は、血が苦手、だったね……」
響は謝りながら右腕を降ろし、暁がそっぽを向いたまま口を開く。
「……司令官。 入渠させていい?」
「もちろんだが、燃料の補給が先だ。 資源は?」
「……脱衣所」
暁に資源の場所を聞いて脱衣所に行き、緑色のバケツから缶コーヒーサイズの燃料の缶を5個
ほど持って廊下に出る。
暁の横を通って響に近づいてしゃがみ、缶のふたを開けて口元へ持っていく。
「飲めるか?」
「手伝って、くれるかい……?」
響の問いに頷き、缶のふちに口をつけて少しずつ流していく。
ある程度飲ませては缶を口から離して息をさせて、を時間をかけながらも繰り返し、数分後には
5個の缶が全て空になった。
「どうだ?」
「少し、楽にはなった……けど、血が足りない、かな……」
「そうか。 暁、響の入渠を手伝ってくれ。 工廠長もお願いします」
「うむ、任せろ」
無言で暁は響を抱え、工廠長は軍服を伝って降り、船渠の扉を開けて二人と入れる。
「すぐ戻るから、少し待っとってくれ」
一言だけ言って工廠長は扉を閉め、自分だけが廊下に残された。
「…………」
扉の向こうで衣服がこすれる音以外、何も耳に届いてこない。
やっぱり、何もできてないな……
自分の不甲斐なさや無力さに、目頭が熱くなり悔しくなる。
手助けをしても、肝心のところは他の誰かが行う。
やはり人間には――自分にはこの程度が限界なのだろうか。
「強く、ならないと……」
固く拳を作りながら、自分自身に言い聞かせる。
他人の力になれるように強くなる――そう心に刻んだ。
……いつの間にか新米提督が暗いキャラになってるな。
というわけで(?)、第20話でした。
私は、長い間同じキャラを書いていないと『あれ、このキャラどんな性格だっけ……?』みたい
な感じに頭の中でパニック状態になってしまいます。今回で新米提督のキャラがぶれていたな、と
感じた方は感想等へ報告いただけるとありがたいです。
書くこともないのでそろそろ後書きを締めようと思います。次回はできたら9月以内に
上げます。次回、楽しみに待ってていただけると嬉しいです!