全然秋刀魚が集まりません。毎日出撃しているのに、まだ13匹しか集まってません。はぁ、
四式水中聴音機と艦隊大漁旗は諦めるか……
ではでは、前書きといきましょう。はい、新米提督絶賛迷子中です。工廠長と雷だけですね。
長くもなく短くもないので、ある程度手ごたえもあって読みやすいかと思います。
それでは23話です、どうぞ。
「なぁ、雷」
司令官と暁から別れ、工廠長を工廠まで運んでいると急に話しかけてきた。
「……なに?」
「もっと笑えんのか? ずっと暗い顔のまんまじゃ」
「…………」
工廠長に言われた通り、気が付けば自分はずっと暗い顔をしていた。
自覚はしているが、笑いたい気分じゃない。
何をすれば、何をしていいのかが全く分からない。
慣れない環境、見知らぬ男、初めての状況と頭の中がてんやわんやで、自分が何を考えている
のかさえ分からなくなりそうだ。
そんな状態なのに笑えなんて、言ってほしくない。
「……ごめんなさい」
腹が立っているはずなのに、口から出てきたのは謝罪だった。
怒っても仕方ないからか、怒る相手は工廠長ではないからか――それとも『慣れ』か。
自分が謝った理由を考えていると、工廠長から話しかけられる。
「謝らんでええ。 しかし、せめて提督の前では笑ったらどうじゃ?」
「…………」
『提督』と聞いて、ふと単冠湾の方の司令官が頭によぎった。
まともに顔を見たことはほとんどないが、雰囲気やじゃらじゃらと数多の勲章を見に付けている
姿だけは忘れられない。
あんなもの、人間じゃない。
自分以外の全部をモノとしか見てない奴は、人間なんかじゃない。
『あんなの……人じゃ――っ!?』
口から言葉が漏れた瞬間、強烈な吐き気が襲ってきた。
開いている手で口を押え、なんとか工廠長を落とさずに身を折る。
「お、おい大丈夫か!?」
工廠長の言葉に反応できず、ただ体の奥底から這い上がってくる何かを抑えることしか
できない。
何度か身をよじらせながら耐えていると次第に収まっていき、ほどなくして完全に吐き気は
消えた。
「どうした雷、何かあったのか?」
「なんでもない……別に、なんでも……」
工廠長に話しながら立とうとするが、足に力が入らない。
がくがくと震えるばかりで、片膝を立てたまま先に進めない。
原因はわかっている。
ただ単に、体が司令官の存在に怯えているのだ。
あの人はいない、と何度言い聞かせても、体は脳からの指令を拒否し続ける。
やっぱり私、駄目だ……!
皆が傍にいないと、いつもこうだ。
誰かがすぐそこにいて頼ってくれないと、自分は何もできない。
頼ってくれるなら、自分は何でも頑張れるし、何とでも戦える。
でも誰からも頼ってくれなかったら、漬物石未満に成り下がる。
それがたまらなく辛い、たまらなく悲しい、たまらなく情けない。
一つの存在に震え、助力がないと何もできない自分が嫌いになるほど憎い。
涙すら流さず自分を責めていると、頬に何かが触れる感じがした。
「ほら、何があったか知らんがしゃきっとせんか」
さらにぺちぺちと何度か頬を叩かれ、やっと肩の上に移動した工廠長がしたのだとわかった。
「疲れとるならそう言え。 無理をすると余計な迷惑をかけるぞ」
自分の事情を知らないためか、少々的外れなことを言ってくる。
だがそれで自分の弱さが知られてないとわかり、逆にほっと安心した。
「大丈夫……まだ疲れてないわ」
工廠長のおかげで少しだけ震えがおさまった足で立ち上がり、工廠長を落とさないように
バランスを保ちながら工廠へ向かう。
すぐに治まると思っていたが、しばらく歩いてもなかなか膝が笑いをやめてくれない。
「顔色が悪いが、大丈夫か?」
工廠長が右肩から顔をのぞかせながら、心配そうに聞いてきた。
「足取りもおぼつかんし、休んだほうがええと思うぞ」
「平気よ、これぐらい。 すぐに治るわ」
そう答えたはいいものの、この様子なら1時間あっても治るかどうかわからない。
倒れないように踏ん張って歩き続け、工廠長と会話を続ける。
「提督に診てもらったらどうじゃ? 例えば……抱きしめてもらうとか」
「……え?」
診てもらうというのになぜ「例えば」が出てくるのか、そしてなぜ抱きしめられることになる
のか、と一瞬考えるが、すぐに頭の中ではその再現をし始める。
今朝の時とは逆で、自分が慰められるように抱き締められる。
悩みを全て打ち明けて、弱々しい自分もさらけ出して、でも優しく認めてくれる。
……いや、ちがうちがう! なんで男なんかとこんなこと……
一度否定しては見るが、妄想は止まるところを知らず、次々と情景を思い浮かばせて来る。
今度は自分が泣いてすがって、嫌な顔一つせずに受け入れてくれる。
泣き終わるまでずっと、頭を撫で続けてくれて――
「……わかりやすいなぁ、雷よ」
「ふぇっ!?」
突然話しかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまった。
なんてことを言うんだ、といった意思を含めて睨むが、右肩の小さい生物は「はっはっは!」と
笑うばかりだ。
「わ、わかりやすいって何がよ!」
「お主もやっぱり
「っ~! 馬鹿にして、もうっ!」
顔をほかの所へ向けて何も考えないようにするが、なぜかまたここの司令官の顔が浮かんで
くる。
しっかり者で、深海棲艦に怖気づかず響たちを助けるほど心の強い人。
でも、自分の前でだけ見せた、弱々しいあの姿はなんだったのだろう。
強いのか弱いのか、さっぱりわからない。
泣いている司令官を撫でていた間、不覚にも思ってしまったことがある。
頼られたい、この人に尽くしたい、この人のために頑張りたいと、そう思ってしまった。
その時、今と同じように胸が苦しくなった。
できるはずがないとわかっているのに、諦めきれない。
矛盾した事を思うたびに、心が締め付けられる。
痛いのに、心地よい感情が上書きして支配していく。
おかしいと思っても、止められない。
この人といれば、みんな幸せに暮らせるかもしれない。
そんなこと、あるはずないのに――
「ふぅん、ほほぉ、う~む……ほぉ! うむうむ!」
――などと考えていると工廠長の謎の唸り声で色々と中断させられた。
「……いきなりなによ」
「気は楽になったか?」
会話が成り立たず顔をしかめるが、すぐに工廠長の言わんとする事に気づいた。
さっきまで震えていた足が、いつからか普通に自分の体を運んでいる。
工廠長はずっと自分の顔を見つめて微笑んでいる所から、顔色も良くなってきているのだろう。
「考え事一つで気分も変わる。 わかっているようでわかってない心の仕組みじゃ。
よく覚えといたほうがいいぞ」
「そうね……そうよね」
当たり前のことを言われただけなのに、工廠長の言葉はとても重く感じた。
ただ何十年も生きてきただけじゃないんだな、と工廠長を見直してみる。
「いやしかし、想い人がおるのはいいことじゃな、まったく……」
「なっ、なんであのお、男が想い人になるの!?」
見直したばかりだが、やはり口数が多いお爺さんのようだ。
いきなり想い人なんて言われて動揺するが、口数の多いお爺さんの不敵な笑みが自分を冷静に
させた。
「男? やはりお主、提督が――」
「違うわよ! なんであったばかりの人を好きにならなくちゃいけないの!?」
「……『気になっとるのか』と聞こうとしたんじゃが……」
…………え?
言い返した言葉に返ってきたのは、意外な一言だった。
どうやら自分は、罠にはまった挙句さらに墓穴を掘ってしまったらしい。
どうしたら誤解が解けるのか、と頭が沸騰するほど回転させるが、きょとんとした工廠長の表情
を見ていると自分が馬鹿馬鹿しく感じてきた。
一回深呼吸して落ち着き、ゆっくりと口を開く。
「……そう、気になるのよ。 強いのに弱い所もあって、兵器の私たちにも優しくしてくれて。
あんな人初めて見たから、すごく気になるの。 好きとかじゃなくて、ただ気になるだけなの」
「ま、不思議な男ではあるな。 雰囲気が、人間のそれより艦娘に近い。 名前が無いという
のも、戸籍上絶対にあり得ん。 色々と謎の多い奴じゃ」
工廠長の言う通り、司令官にはわからないことが多すぎる。
今まで名前が無いことにあまり違和感がなかったが、戸籍の面で考えると隠しているとしか思え
ない。
「……が、そんなことはどうでもいい。 わからん事があっても、楽しくやっていけばええ。
お主ももっと笑え。 な?」
先ほどの落ち着いた声から一変し、朗らかに問いかけてきた。
正しいことだが、心がまだ沈んだままで笑う気にはなれない。
でも、自分の都合で関係ない人まで気分を悪くさせるのは嫌だ。
そう思うと、勝手に顔が動いて笑顔を形作った。
「……そう、よね。 笑わなくちゃだめよね!」
今まで、誰かの為だけに浮かべる笑顔は嫌いだった。
できれば自分も楽しみたいし、心から笑ってもみたいから、上辺だけの笑いは一番嫌いだ。
それでも、何故か今だけは、いっそ嬉しいほどにこの笑顔が好きになれた。
「似合ってるぞ、笑顔」
「どういたしまして!」
話し合っているうちに工廠にたどり着き、扉を開けて中に入る。
無数の装備や工具が無言で自分たちを出迎え、その中を昨日の場所に向かって歩いていく。
「さて、いろいろ作らんといけんからな。 しっかり手伝ってくれ、雷」
「えぇ、もちろん! どんどん私に頼っていいのよ!」
初めて、自信を持って「頼っていい」と言えた。
頼られて見返りを返せる自信が、初めてできた。
「期待、しとるぞ?」
「――うん!」
自分の口から出た作り物の明るい声は、工廠内に大きく反響した。
全然進みませんでしたが、23話いかがだったでしょうか?
最近、世界観だけが頭の中で固まって本編が一切進まないという悲劇が起こっております。気が
付けば数十話先の話をイメージしていた、なんてのもざらです……
その時の話になれば一気に執筆が進むのですが、そこまでが長いので、あまり期待されないほうがよろしいかと思います。多分その時は一年後とかそこらへんですので。
これ以上書くこともないのでこの辺りで。寒くなってきていますので、風邪をひかないように
学業・仕事に精進していきましょう!