駆逐艦しかいない鎮守府   作:鼠返し

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 どうも、鼠返しです。……忙しかったんです、申し訳ありません。

 気が付けば二月ももう終わり、この作品も1年が経過し……時間はあっという間に過ぎて
いきますね。そんなに急がなくてもいいのに……

 さてさて、本題に入っていきましょう。

 今回、前半は真面目、中間は一部の人にとっては不快な表現、後半は残酷描写ありです。文字数
も少し多いですので、ある程度まとまった時間があるときに読んでいただければ幸いです。
ちなみに残酷描写とありますが、一部分だけです。もっとも、今までで一番えぐい表現ですが。

 では、以上の点をご了承いただいた上でお読みください。第25話です。


第25話 私情 そして工廠で

 少し息苦しい暑さに、閉じていた目を開ける。

 

 自分が何をしていたのか分からなかったが、体の下にある何かを理解すると同時に思い出した。

 

 暁を部屋に入れて、横にして、しがみつかれて――

 

  ……寝た、か。

 

 どのくらい寝ていたか分からない体を、暁から離れるために起こす。

 

 横から覆いかぶさるように寝ていたせいで、顔から胸にかけてまでが汗をかくほど熱い。

 

「いっつつ、腰が……」

 

 椅子に座り、その椅子と同じ高さのベッドにうつぶせで寝ていたためか、腰にぴりぴりと痛みが

走る。

 

 左手で腰をさすりながら、未だ寝ている暁を見てみる。

 

 自分の右手を両手で握りしめ、体を丸くしてすやすやと眠っている。

 

 微笑ましい気持ちになり頭を撫でそうになるが、気持ちよく眠っているのを邪魔するわけにも

いかず、すんでのところで手を止める。

 

「ん~…………あぁ~」

 

 猫よろしく背中を丸めながら伸びをし、どうしようかと考える。

 

 暁を置いていくわけにはいかないが、かといって連れて行くのに起こしてしまっては気分を悪く

させるだけだ。

 

 何とか手だけでもどうにかできないかと思っていると、部屋の外から三人くらいの足音が

聞こえてきた。

 

 これを逃すまいと、足をぴんと張って肩をつま先でノックする。

 

『何か変な音が聞こえてこなかったかな』

 

『こっちの部屋からじゃないかしら』

 

 壁と扉を挟んで会話が聞こえ、少しして部屋に雷を先頭に響たちが入ってきた。

 

「あれ? 司令官どうした……の?」

 

 不通に話しかけてくる雷に、自分の唇に手を当ててジェスチャーを送る。

 

 不思議に自分を見つめてくるためにベッドの暁を指さすと、納得したのかうんうんと頷いて

くれる。

 

「……それで、何してたんだい?」

 

 後ろから顔を出した響が、声は小さく威圧感は大きく話しかけてきた。

 

「心配するな。 足痛めてたから安静にさせただけだ。 何も変なことはしてない」

 

「それにしては雰囲気は良さげじゃの~」

 

 ひょっこりと雷の肩から顔を出した工廠長にそう言われ、響からの眼光がさらに鋭くなった。

 

 視線の先はもちろんと表現すべきか、掴まれている右手だ。

 

「へぇ……」

 

「……少し悩みを聞いただけだ。 工廠長も変な事言わないで下さい」

 

「ええじゃないか。 わしも暇なんじゃ」

 

  …………

 

 何も反応できずただ時間が去り、なんとか響からの威圧はなくなった。

 

 後で工廠長に一つ言っておこうと思いなおし、固まった空気の中で口を開く。

 

「いま外はどうなってる?」

 

「そろそろ日が暮れそう。 これから何すればいい?」

 

「そんな時間か……何もすることないし、自由行動かな。 私としては睡眠をお勧めするが」

 

 響の質問に提案を返すと、四人は同時に頷いた。

 

「あ~提督さんよ、少しええかの? ちょいとわしらで話せんか?」

 

「……少しお待ちください」

 

 工廠長にそう言って体を暁の方へ向け、自分の腕を掴んでいる手を外しにかかる。

 

 起こさないようにゆっくりと力を込めていくと、素直に手が離れていく。

 

「ふぅ……じゃあ行きましょ――う!?」

 

 立ち上がろうとすると急に腕が引っ張られ、もう一度座る羽目になってしまった。

 

 恐る恐る見てみると、外したはずの手が自分の右手の指に絡み、もう片方の手と一緒に胸に

抱かれていた。

 

 引っ張られた時の有無を言わせない力や、動かそうとしても全く動かないところから、燃料を

使ってしまっているのだろう。

 

 そのせいか絡んできた指に力が籠っていき、段々と指が曲がり始める。

 

「ちょ、ちょっと待った暁……っ! 折れ、折れるっ……!」

 

「ん……!」

 

 自分の指を無意識に破壊せんとしている本人は表情を歪め、さらに腕まで巻き込んでいく。

 

 指と腕がみしみしと限界を訴え始め、約二年ぶりの骨折が目の前でちらつく――

 

「暁。 大丈夫、大丈夫……」

 

 ――と、いつの間にかベッドの向こうへ回っていた響が、怪我をした右腕で暁の頭を撫で

始める。

 

 覆いかぶさるようにして体を密着させ、固く結ばれた自分と暁の手に空いていた手で触れ、包み

込む。

 

 すると、不思議と暁の力が抜け、余裕のなかった手に二人のぬくもりが伝わってくる。

 

 そのまま自分の代わりをするように響が自ら手を結び、暁と寄り添うようにベッドの上へ横に

なり、自分の手がやっと解放された。

 

「司令官、大丈夫か?」

 

「まぁ、うん……随分と手馴れてるな。 こういう事はよくするのか?」

 

「意外と傷つきやすいからね。 落ち込んでるときは、こうでもしないと安心できないんだ、

 暁は」

 

「……やっぱり、良い姉してるじゃないか」

 

 風呂に入った時の会話を思い出しながら、半分独り言のように呟いてみる。

 

「そう、かな……感謝するよ」

 

 少し考えるそぶりをみせた後、響は微笑みながらそう答えてくれた。

 

  ……何かあったような……

 

 微かな疑問を感じ、首を傾けながら考える。

 

 頭に引っかかっている何かを探るべく奮闘していると、「おい」という年老いた声がすべて思い

出させてくれた。

 

「あぁ、すみません。 工廠でしたよね?」

 

「仲が良いことで何よりじゃ。 さ、行くぞ」

 

 仲が良い、と言われて少し優しく感じながら、雷の方から自分の左手へ工廠長を移す。

 

「えっと……私暇だし、一緒に……」

 

「雷は疲れたじゃろ。 今日はもう休んどくれ」

 

「……わかったわ」

 

 少し勇気を出して言ったような雷を、言葉の上では優しく、声色は厳しく工廠長は抑えつけた。

 

 大人しく電と一緒にベッドに向かい始めるのを確認して、工廠長と二人で部屋から出る。

 

「さて、工廠に行ってくれんかの。 見せたいものがあるんじゃ」

 

 先ほどのからかうような声から一転して真面目な声色に戻り、その声の通りに工廠へ足を

向ける。

 

 特に話すこともないので、忘れないうちに手の上の小さな生き物に言っておくことにする。

 

「……私をからかうの、やめていただけませんか。 肝が冷えます」

 

「すまんかったの。 もう結婚も近いじゃろう若者にあんなことしてな」

 

「……はい?」

 

 話が突拍子過ぎて、思わず言葉が漏れた。

 

 口調も声色も真面目そのもので、嘘や冗談を言っているようには思えない。

 

「お主もそろそろ結婚できる歳じゃろ? 好きな女子ぐらいおるんじゃないか?」

 

「いませんよ、そんなの。 興味ないですし」

 

「……は?」

 

 再度同じリズムで、今度は工廠長がぽかんと口を開けて固まる。

 

 工廠長も相手の気持ちが読めるのは今までの行動でなんとなく理解できているため、自分の

言ったことが本当だというのが信じられないのだろう。

 

 だが、興味がないのは事実だ。

 

「……独り身の方が楽と思っとるのかもしれんが、嫁の一人ぐらいはおった方がええぞ。

 前ここにおった提督も、嫁がおって助かっとった様子じゃったし」

 

「そうじゃないんです。 今まで、女性に興味を持ったことが無くて……」

 

「またまた冗談を。 初恋ぐらいあるじゃろ? 人間はそういうもんじゃと聞いておる」

 

「……根っからの軍人なんでしょうね、私は。 下心も抱いたこともないって父に言ったら、

 おかしいと言われましたよ。 見合いもさせられたり告白もされたりしましたけど……相手の

 気持ちに応えられるような気持ちが抱けないというか何というか、申し訳なくて全部断り

 ました」

 

 ちょっとした長話をすると工廠長は黙り込んでしまったので、少し物思いにふける。

 

 下心もなければ、恋心もない。

 

 それはカウンセラーの資格を取るために猛勉強していて、初めて人間としてありえないことだと

気づいた。

 

 普通の人間でありたかった自分は、申し訳ないと思いつつも金剛や赤城など周りの女性を意識

しようとしたが、たとえ裸を見てしまってもそういう気持ちは長続きしなかった。

 

「…………そういうもんかのぉ……」

 

「不自由はないし、欲が出て仕事に集中できない、みたいなことがなくてむしろ助かってます」

 

「はっはっは! 仕事熱心じゃのう!」

 

 豪快に笑い飛ばしてくれたおかげで、少しだけ暗い気持ちが晴れた。

 

 工廠長に感謝しながら歩いていると、昔を思い出していた時間が長かったのか、すぐに工廠まで

たどり着く。

 

 重々しい扉を何とかこじ開け、中に入る。

 

「……でかい」

 

 すぐさま目に飛び込んできたのは、優に人が何人も乗れるほどの機体だった。

 

 ただ単にサイズが大きいだけかと外観を眺めてみるが、自分の知っているどの機体にも当て

はまらず、首を傾げながら尋ねてみる。

 

「……何なんですか、この機体」

 

「これは人員輸送機である。 名前はまだない」

 

「真面目にお願いします」

 

「事実じゃししょうがないじゃろ」

 

 むすっと答え、工廠長は行けというように一点を指さす。

 

 釈然としないもやもやした気持ちを抱きながらもそこへ向かい、降ろせと体で表す工廠長を床へ

降ろす。

 

「確かこの辺じゃったような……」と言いながら何かを漁り始め、見つけた様子を見せた工廠長は

一枚の紙を見せてくる。

 

 細い線に数字が山ほど書き込まれているそれは、すぐそばにある機体の設計図だった。

 

 細かいところは専門家ではないためさっぱりだが、大まかな外観ぐらいはわかる。

 

 何度も何度も書き直しをした跡があるが、少しではなく別の物になるほど大幅に変えてある。

 

 そして一番目立つのが大きさだ。

 

 ただでさえ背丈の小さい妖精が一人で作るために書いたであろうこの設計図は、人間の自分でも

こうして普通に見れるほど大きい。

 

「元々普通に戦闘機を作ろうと思っとったがな、暁らが来て気が変わった。 何故じゃと思う?」

 

「…………考えたくはないですが、暁たちが帰投を嫌がっているからですか?」

 

 一つ頷き、続けざまに工廠長は話を進めていく。

 

「何か問題があるんじゃろうが、多分わしらにはどうもできんはず。 なら、お主のおった横須賀

 まで連れて行ったほうがええじゃろう」

 

「……いや、難しいと思いますよ。 仮にできたとしても、その後戻される可能性もありますし、

 教官……提督に迷惑がかかります」

 

 工廠長の言ったことに、落ち着いて反論を述べる。

 

 艦娘の異動には『異動申請及び大本営の許可』が必要で、半日は書き続けなければ終わらない

ほどの膨大な数の書類と、それを大本営がすべて厳正にチェックする時間が必要になる。

 

 それらを無視し正当な理由なく艦娘当人以外が行えば、その者に対して殺人より重い罪が課せ

られてしまう。

 

 これからの生活がある自分が行い捕まる、または教官がその責任を負うことになってしまえば、

社会的に生きていけなくなる。

 

「艦娘側が自分でやったと言えばいいじゃろう。 こっから横須賀まで距離はあるし、強迫観念が

あっても大丈夫じゃと思うが」

 

「本人はいつどこからどう危害が及ぶか怯えているものです。 あまり実用的ではないかと」

 

「う~む……ま、最終手段じゃな」

 

 設計図を持ったまま首をひねり、話の終わりを告げるような声で締めくくった。

 

「ところで」と工廠長が話し始めるので、黙って耳を傾ける。

 

「これ飛ぶかの? 単発は無理そうじゃから四つに増やしてはみたが」

 

「私に聞かないでくださいよ……素人ですけど、四つあれば十分じゃないんですか? 似たような

 飛行機見たことありますし」

 

「ん~……」

 

 自分の素人感満載の返答が気に食わなかったのか、設計図を握りしめ自分の目を見ながら唸って

くる。

 

「てっきりわしより賢いと思ったんじゃが……」

 

「私は新米とはいえ提督です。 整備士じゃないんですよ……」

 

 工廠長の勘違いに呆れつつ、改めて設計図を眺めてみる。

 

 片翼に二つずつエンジンが詰め、艤装としては見たことのない多発機の形をしている。

 

 ジェットとはいえ飛行機がこれぐらいで飛んでいるために大丈夫かなとは思うが、艤装が艤装な

ために心配になってきた。

 

「……ちなみにいつ頃完成しそうですか?」

 

「あと四日ぐらいかの。 プロペラつけて、銃座つけて、テストして完成じゃ」

 

「ま、まだ席増やすんですか……」

 

「雷もお前さんも同じ事を……迎撃装備は重要じゃろ」

 

 やれやれ、といった様子で首を横に振り、「質問はないかの?」という問いに頷くと設計図を

丸めて近くに投げた。

 

 立っているのも疲れてきて、固いコンクリート張りの床へ腰を下ろす。

 

 鼻に空気がすうっと入り、古びた鉄と油の匂いが肺を満たしていく。

 

 決して気持ちの良いものではないが、工廠に入り浸っていた時間の長い自分を落ち着かせて

くれる、そんな匂い。

 

 その懐かしい匂いが、ふと昔を思い出させて来る。

 

 大破しながらも笑いかけてくれた金剛、妖精たちと熱心に話し合っていた赤城と加賀、練習で

『上手くいかない』と泣きそうな吹雪、それを慰める天龍と龍田。

 

 他にもいろんな人との記憶が一気に出てきて、涙が出そうになる。

 

 大丈夫だろうか、心配かけてないだろうか。

 

 そんな思いが、頭の中を段々と支配していく。

 

 と、そんな時。

 

「……ん!?」

 

 工廠長が何かに反応し、壁際まで走っていく。

 

 今までようなふざけるでも気楽にでもない、とても緊張した様子だ。

 

「……どうしました?」

 

 思い出漁りと皆の心配を止め、立ち上がって小走りで近づきながら問いかけてみる。

 

「……何か来るぞ。 もしかすると深海棲艦やもしれん」

 

「でも、もう来ないんじゃ……」

 

「誰も絶対に来んとは言っとらん」

 

 いきなりとんでもない事を言い出した工廠長に驚きつつ、どうすればいいのか頭を巡らせる。

 

 深海棲艦が陸上に上がってきた時の対処の仕方は学んできたが、今はそれができるような状態

ではない。

 

 できるとすれば暁ら艦娘による撃退だが、相手が何級かわからず、最悪返り討ちに合う可能性も

否定できない。

 

 現代兵器で追い返すこともできず、頭に浮かぶものが全て潰えた。

 

  どうする、どうする……!

 

 今までの設備が揃っていることが前提の考え方ができず、焦りばかりが出てくる。

 

 頭を抱えて冷や汗を流し始めていると、壁が突然甲高く鳴り始めた。

 

 映画でしたことのないマシンガンで金属を連射するような音が、鼓膜を盛大に叩く。

 

 ただ心に抱くのは先の展開が気になる好奇心ではなく、殺されるというひたすらに純粋な恐怖心だ。

 

 耳をふさぐことしかできずにいると、左手が除けられ言葉が入ってくる。

 

「大丈夫じゃ。 駆逐軽巡の主砲なら簡単に弾き返る――」

 

 と、ガギィッ、と鈍い音が聞こえ、壁が手前へ5cmほど膨らんだ。

 

「おい動け! もう一発くるぞ!」

 

 素早く工廠長が体重を乗せて首の周りを移動しつつ叫び、ほぼ同時に右へ走る。

 

 数秒遅れてもう一度鈍い音が耳を劈き、壁が紙の様に破れて何かが工廠に飛び込み近くにある

艦載機を吹き飛ばす。

 

「おいほら、逃げるぞ! 動け提督! おい!」

 

 近くで工廠長が叫ぶが、動かない。

 

 頭では動こうとしているのに、セメントに固められたように足が動かない。

 

 考えが止まって、目が勝手にあいた壁の穴をじっと見つめる。

 

 何かが入ってくるのが怖くて、その先どうなるのかが怖くて。

 

 何もできないでいると、重々しい足音が聞こえてきた。

 

 二人ほどの音が、徐々に近づいてくる。

 

 うるさく響く工廠長の声も聞こえなくなっていって、逃げないといけないのに逃げられない。

 

 やがて姿が見え、誰かがはっきりとする。

 

 深海棲艦――戦艦ル級とタ級。

 

「……ドコ」

 

「……コッチ」

 

 ドスの利いた、しかしどこか美しい声が静かに響き、ゆっくりと自分へ体を向ける。

 

 足が、顔が、砲塔が、意識が、全て自分へ向けられる。

 

 怖くて、すがるように数年前に教官からもらった護身兼自殺用の拳銃へ手を伸ばし、下の軍服を

掴む。

 

 ない、どこかで落とした、今更過ぎる。

 

 無駄だと悟りつつも後ろへ逃げようとするが、足がもつれてその場で仰向けに倒れる。

 

 反射的に受け身をとって頭を守ったが、そのまま気絶するか死んだ方がよかったのかも

しれない。

 

 自分の力が足元にも及ばない相手に見下ろされる恐怖を、今初めて知った。

 

 光の薄い目、芸術品と見紛うほどの白い肌、夜空より鮮やかで底なしに黒い砲塔。

 

 ただただ恐怖の塊が自分を見ている。

 

 なのに逃げられない、何もできない、何も考えられない。

 

 もはや体の震えもなく畏怖の視線を送っていると、何故か――微笑んだ。

 

「……イタ。 ミツケタ」

 

 優しく、子を慰める母のような声が、自分の耳へ届く。

 

 そしてゆっくりと、タ級を前にして二人とも歩み寄ってくる。

 

 時間がかかって心も落ち着いてきたが、動こうとする気は起きず、むしろ自分から近づきたく

なった。

 

 さっきまで怖かったのに、不思議と懐かしかったから。

 

「サア……サア……」

 

 手を伸ばし、誘ってくる。

 

 目の前まで来て膝を折り、体を近づけてくる。

 

 応えるように、自分も手を伸ばす。

 

 体が惹かれるように、自然に。

 

「サア……サア……!」

 

 互いに手が近づき、手を取り合う瞬間。

 

「『イッショニ、キテ……!』」

 

「――――っ!?」

 

 突然言葉に何かが混じり、弾くように手を引く。

 

 また恐怖が生まれ、座ったまま後ずさりする。

 

「……ナン、デ……?」

 

 傷ついたような表情で、不気味な目を向けてくる。

 

 視線から逃げるように、硬い床の上を後ろ向きに這っていく。

 

「ネエ……イッショ、ニ……」

 

「……っ……あっ……」

 

 声を漏らしながら、追ってくるタ級から逃げる。

 

 少し下がると何かにぶつかり、ガチャガチャといろんなものが周りに散らばり、追いつめ

られる。

 

 ある、いる、怖い、逃げたい、逃げられない。

 

 単語しか頭に回らず、心臓は壊れるほどに暴れ、息は過呼吸を通り越す勢いで繰り返す。

 

 それでも体は動き、背後の物にめり込むかのように後退を続ける。

 

 先ほど床に落ちた一つが右手に触れ、冷たさが脳を刺激する――

 

  ……?

 

 撫でる感触が何かに似ている気がして、手をかぶせて形を確認して、驚いた。

 

 拳銃が今、右手にある。

 

「イッショ……カエロ……」

 

 タ級の動きは止まらない、だが自分の頭はそれより早く動き始めた。

 

 上手くいけば逆転もできる、でも今じゃない。

 

 待って、もっと待って、待って――

 

 

「こっちじゃこんの化け物どもがーーー!」

 

 

 それと同時に工廠内に衝撃と、タ級の右腕に変化が起きた。

 

 二の腕が奇妙に曲がって骨らしき物が飛び出し、タ級の右腕は文字通り皮一枚で肩からぶら

下がる肉塊になった。

 

「アアアアアアアアアアアア!」

 

 怒りとも苦しみとも取れる声を上げ、タ級は腕を押さえる事もなく衝撃が伝わってきた方向へと

向く。

 

 注意がそれた――今しかない。

 

「――っ!」

 

 顔にかかるタ級の血などに構わず、拳銃を握りしめて顔に飛びかかる。

 

 深海棲艦や艦娘は、燃料を使って全身の皮膚を装甲として扱うが、例外な部位が二つだけある。

 

 それには人型になったものにしか共通しないが、人型になった故か『眼球』と『脳』は装甲化

できず、眼窩も現代兵器で打ち抜けるほど柔らかい。

 

 そして人間と同じく、脳が損傷すれば簡単に死ぬ。

 

 左眼に銃口を押し付け、思い切り引き金を引く。

 

 眼球、眼窩、脳を一直線に打ち抜くように。

 

 ドンッ、と鈍い音と今まで経験したことのない強烈な衝撃が、耳と右腕に伝わる。

 

 初心者が撃ったように腕が見えない力に弾かれて跳ね上がり、同時にタ級が後ろへ倒れた。

 

「ギャアアア、グゥッ、ガァアアアアアア――」

 

 左手で目を押さえ、全身を痙攣させながら床の上で苦しみ始める。

 

 だが脳が傷ついたせいか長く続かず、数秒もたたない内にただの死体に成り果てた。

 

「ア……アァ……!」

 

 タ級を殺した自分を見つめ、ル級は信じられないといった目で見てくる。

 

 いつか見た、人殺しをした温厚だった息子を見る母のような、長年の信頼を裏切られたような、

そんな目で。

 

 と、そんな時――黒い棒が、ル級の左のこめかみに当てられた。

 

 周りに風が吹くほどの空気の振動と共に、ル級の頭が消し飛ぶ。

 

 司令塔を失った体は3mほど転がり、砂状の骨と脳漿が入り混じった血溜まりの中へ埋もれた。

 

「姉様、もう一隻中に!」

 

「わかってるわ!」

 

 その声と共に、二人が姿を現し、先ほどの黒い棒が自分に向けられる。

 

「…………あなた、は……?」

 

 自分の姿を見て、主砲の砲身である黒い棒を別方向に向けながら唖然と聞いてきた。

 

 ル級の頭を消し飛ばした、白黒の袴のような着物を着た、よく似た二人がそこに立っていた。




 人間だって本気を出せば深海棲艦倒せると思うのは私だけなのだろうか……と、そんな感じで
書いた25話でした。

 今まで駆逐艦駆逐艦と言ってきておりますが、深海棲艦も好きです。ヲ級とか好みどストライク
です。いいですよね、深海棲艦。いいですよね?

 さて、ここからはお暇な方向けの本編関係なしの雑談に入ります。

 イベントが終わったわけですが、一応Zaraちゃんはゲットしました。調子に乗って秋月掘ろうと
E-1行きましたよ。いませんでした。計89回挑んでいませんでした。燃料は1になり、バケツは
10……もうどうすればいいんだこれ。

 メンテが終わり、Android版の先行登録が開始しまして私狂喜乱舞しております。報酬目当てで
恐縮ですが、とても楽しみです。あと友軍艦隊を早く実装してほしい……

 それとそれと、Верныйに大発動艇と中型バルジが積めるようになりましたね。三つバルジを
積んだ時の装甲は優に重巡と張り合うとか……お前のような駆逐艦がいるか(褒め言葉)。不死鳥
の名は伊達じゃないのは本当のようですね。嫁の活躍は見ていて飽きません。

 いろいろと詰め込みましたが、今回はこの辺りで終わろうと思います。次回は……今月中には
何とかいたします。何とか、えぇなんとか。のんびりほんわか待っていただければ幸いです。
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