駆逐艦しかいない鎮守府   作:鼠返し

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 どうも、7月投稿できた鼠返しです。

 サブタイトル『三日目の朝』とあるのですが、『二日目の朝』というのが10話にあります。
そこから実に1年4か月……1日=1年以上とは自分でもびっくりしました。遅筆すぎるかな……

 今話は駆逐成分多めにいきます。今まで出番が少なかった駆逐が影を濃くしました。いや、
今までが薄すぎたんだな、うん……

 ほんわかと見ていただければ言うことなしです。では第30話、どうぞ。


第30話 三日目の朝

 暗い、ここは暗い。

 

 手足が、体が、顔が、何も動かない。

 

 耳障りな低い機械音の連続が、今の世界の全てだ。

 

『どうだね、調子は』

 

 世界にくぐもった男の声が入ってきた。

 

『内臓等を含め、人体形成は完了しています。 普通の人間と大差ありません』

 

 違う男の声だ。

 

『なら声も聞こえるのかな。 いい子にしてたか~? お父さんだぞ~』

 

 お父さんとは、誰の事だろうか。

 

『産まれる前から親馬鹿全開ですか。 奥さんいるんですよね?』

 

『子供はまだだけどな。 血を分けた子供ってだけでかわいいもんだよ。 プロジェクトの最初

 みたいな反対は今はできないな、はは』

 

 血を分けたとは、誰の事を言っているのだろうか。

 

『予定日はいつだ?』

 

『予定日って……ぷっ、ははっ……!』

 

『いいだろう別に。 半分とはいえ人間だからな』

 

  半分……人間……?

 

『はいはい。 いつ出しても問題ないですが、念のため後一週間はこのままですね』

 

『一週間か……。 じゃ、また来るよ』

 

 そして、何も聞こえなくなる。

 

 それから随分と間が空いた。

 

 多分、言っていた一週間が過ぎたのだろう。

 

 分厚いガラスのようなものが割れた音が、うるさく世界に木霊した。

 

『オギャー! オギャー!』

 

 あぁ、これは自分の声だ。

 

 出してもないのに、喉が震える。

 

 なんて、幼い声なんだろう。

 

「ヤット……アエ、タ……ヤット……!」

 

 聞き覚えのある声だ。

 

 誰だ。

 

 忘れられないはずのこの声は、誰だ。

 

 その人に抱かれる。

 

 暖かくて、とても懐かしい。

 

「お前、その子をどうする気だ!」

 

 また、あの最初の男の声だ。

 

 よく聞けば、こっちもまた知っているはずの声だ。

 

「ワタシ、ノ、コドモ……アナタノ、コドモ」

 

「だからどうした!」

 

「キテ……イッショ、ニ……。 ニンゲン……? オトナ……? ニ、シヨウ」

 

「無理だ。 私の子を置いていけ!」

 

 カチャ。

 

「ダメ……ドウシテモ……?」

 

 しばらく何も聞こえない。

 

 自分を抱いた誰が動き、自分が誰かに渡される。

 

「マモッテ……リッパニ、シテ……。 マタ、クル……ムカエニ、クル、カラ……」

 

「迎えに来る? どういうことだ、おい!」

 

「オネ、ガイ……お父さん」

 

 抱かれた自分が、乱暴に揺れる。

 

 ひたすら赤子のように泣き続ける自分の耳に、爆音が届いた。

 

 何が鳴ったか気にする間もなく、音の響きに意識が埋没していった。

 

 最後に薄くぼやけて見えたものは、何だったのか。

 

 不思議と手を伸ばし求めた、あの人は――

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、夢から目を覚ます。

 

 とても、不思議な夢だった。

 

 昨日は悪夢を見るのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。

 

 雷に慰めてもらった時のように失態を晒さなくて済んだが、後味は今日の方が悪い。

 

 自分の単なる妄想なのか、はたまた実際に起こったものなのか。

 

 出てきた人は誰だ、片言だったのは、勇ましく叫んでいたのは、主観になっていたのは。

 

 何だ、普通の人間とは、半分人間とは、お父さんとは。

 

 そんな疑問を、心に深く、夢は刻んでいった。

 

「うわぁ龍田あぁぁがあっ!?」

 

 いきなり耳を壊さんばかりの大声が部屋中に届き、ついで床が揺れた。

 

 暖かくなった壁と床から背中と腰を上げて見渡す。

 

 全員がベッドから跳ね起きている中、その陰から一人の姿が生えてベッドに吠える。

 

「なんでお前が一緒に寝てるんだよ!」

 

「ふわぁぁ~……なぁに、天龍ちゃん……?」

 

 答えも欠伸を隠しもせず、龍田はだらしなく古びたシーツに全身を擦り付ける。

 

「寝んな! 答えろ!」

 

「天龍ちゃんうるさい……私、寒いのにらへらの(苦手なの)~……」

 

「んぐぐ……んなもん我慢しろよ……なぁ、お前からも何か言ってくれよ」

 

 急に話を振られて少し困ってしまうが、両手を軽く上げて首を横に振ってどうにもならないと

いった意思を伝える。

 

「マジかよ……まぁいいや。 起こして悪かったなお前ら」

 

 天龍は周りの皆に謝ると、龍田を放ってドアまで歩き、開けて外を確認する。

 

「輸送船、だったか? いつ来るんだ?」

 

「今日としか聞いてません。 今どのくらいですか?」

 

「日が昇ったばかりだな。 昼に来るにしてもまだ時間があるけどどうする?」

 

 どうすると聞かれても、先ほどの質問以上に悩んでしまう。

 

 このまともに機能していない鎮守府では、本当にするべきことはない。

 

 ただひたすらにのんびりとするしか時間を潰せないという結論に行きつくことは、もう必然とも

言えるだろう。

 

「自由行動ですかね。 することなんて何もありませんよ」

 

「だよな。 はぁ……文句じゃねぇけど、つまんねぇ」

 

「まぁ、同感です」

 

 天龍に向けていた顔をベッドに向けて、龍田以外の全員が起きていることを確認して話し

かける。

 

「何かしたいことはあるか?」

 

 そう問いかけてみるが、誰も口を開こうとはしなかった。

 

 頭をガリガリ掻いて昨日のことを思い出し、時間をあまりつぶせない行動に出ることにする。

 

「暁、右足出してみてくれ」

 

「え? うん、いいけど」

 

 ひょこっと暁の右足が出され、その足首に巻かれている包帯代わりのシャツを解く。

 

 かなり腫れは引いてきたようだが、若干踝の少し下の所には残っている。

 

「痛かったら言ってくれよ」

 

 すねの中心から腫れている部分以外の下を触診していくが、暁に反応はない。

 

 肝心の部分だがさすがにまだ痛いらしく、容赦なく「痛い」と言われてしまった。

 

 しかし昨日は工廠まで普通に歩いてきていたことから、歩けないほどではないのだろうと判断

し、少し安心する。

 

「大分腫れは引いてるな。 もうそろそろで治りきると思うけど、完全に痛みがなくなるまで

 無理はしないように。 あと、挫き癖が付きやすいから、歩くときとかは注意してくれ」

 

「……ありがとう」

 

 小さく聞こえた暁の言葉に、少し驚いて顔を上げる。

 

「……何よ、おかしい?」

 

「い、いや、そういう訳じゃなくてだな……」

 

 お礼を言ったことにではなく、ちゃんと気持ちが込もっていたように聞こえたから驚いたのだ。

 

 一言で表すなら、とても女の子らしいお礼の言い方だった。

 

「お礼はちゃんと言えるし……」

 

 むすっとした態度にも、今までの上辺だけの反応とは違い、ちゃんとした人間らしさが出て

いる。

 

「分かってるよ。 どういたしまして」

 

 もう巻く必要がないと判断してシャツの切れ端を机に置き、電にも話しかける。

 

「電は頭がくらくらするとか、体に力が入らないとか喉が痛いとかないか?」

 

「もう大丈夫なのです。 ありがとうなのです」

 

「それはなにより。 でも一応、激しい運動は控えるようにな」

 

 電の小さな礼に手で応えて、続いて響の元へ向かう。

 

「おはよう、司令官」

 

「あぁ、おはよう。 右手の調子はどうだ? 疼いたり痛くなったりしてないか?」

 

「そこまでじゃないけど、多少の違和感はするよ。 それにしても早く治したい。 意外と不便

 なんだ」

 

 そう言いつつ差し出す腕を支え、まともに治療されていない怪我の様子を見る。

 

 膿んでもなく、それほど黒ずんでいないところを見ると、流石艦娘だと言いたくなる。

 

 響自身が『艦娘は風邪を引かない』と言ったように、感染症にもめっぽう強いため、心配

いらないだろう。

 

「まずまずだな。 ちょっと立ってみてくれるか?」

 

 自分の言葉に従ってベッドから降りて立ち、癖なのか手のない右手で髪を耳に掛けようとする。

 

 気が付いて左手でする響を見て、言った通り不便なんだなと感じた。

 

「ふらついたりするか?」

 

「いや」

 

「体に力を入れたりしても大丈夫か?」

 

「……少し、眩暈がするかな」

 

「じゃあ無理せず安静にしておくように。 あぁそうだ、これ」

 

 ずっとポケットに入ったままのりんごを差し出して、左手にしっかりと掴ませる。

 

 ポケットが守ってくれたおかげか、汚れも返り血もない。

 

「少しでも栄養を取った方がいい。 といっても、輸送船が来たら何か食べさせてもらえると思う

 けど」

 

「それまでの辛抱ということか。 あむ……」

 

 小さくかじり始めるのを見て、することがなくなってこの現状を打破してくれるかもしれない

期待を込めて工廠長の元に行くが、途中で響に呼び止められる。

 

「一口いかがかな?」

 

「怪我人から食べ物はいただけないよ。 まだ私は耐えられるしな。 それより他に分けてやった

 らどうだ? 例えば、隣にいる島風とか」

 

「…………」

 

 響は静かに横を向いて、同じく顔を上げて横を見た島風と目を合わせる。

 

 そっと島風は目を伏せるが、響はりんごを片手に島風に近づく。

 

「どうだい、一口」

 

 差し出されたりんごに見向きもせず、島風は口を開かない。

 

 そのまま頑なに響が粘っていると、ようやく話し始める。

 

「一晩と朝ぐらい平気。 あなたの方がお腹空いてるでしょ」

 

「島風はよく食べるじゃないか。 私の好意だと思って受け取ってくれ」

 

「殺されかけた相手に好意って、馬鹿じゃないの?」

 

「命令だったんだろ? 今の君はあんなことはしないはずだ。 関係ないさ」

 

「…………」

 

 また口を閉じてだんまりを始めるが、さほど時間もかからず島風はりんごをひったくるように

受け取って齧り、すぐに返した。

 

 無表情に咀嚼する島風を見て、響は満足そうに微笑み、「引き止めて悪かった。 Спасибо(スパスィーバ)」と

言って寝ていたベッドに座って再び食べ始めた。

 

 手を軽く上げて礼の返事をして、机の上で胡坐をかき頭をぼりぼりと弄って欠伸をかましている

妖精さんの所まで歩く。

 

「おはようございます、工廠長」

 

「あ~……んぅ、おはようさん。 朝っぱらから乳でかがうるそうて敵わんわい」

 

「悪かったな性悪じじい」

 

「朝から剣呑な雰囲気にするのはやめてください」

 

 乳でかと性悪じじいが睨み合い始めるのを手で遮って、言い争いを未然に防ぐ。

 

 天龍と龍田は、ベクトルの方向は違うもののどちらも非常に口は達者なのだ。

 

 もうこれ以上龍田の時と同じような居心地の悪い空気は感じたくない。

 

「朝から言い合う気はないわい。 で、どうした?」

 

「何かしておきたいこととかありますか?」

 

「そうじゃのう。 ものの数分で終わることじゃが、工廠の片づけをしたいの。 あと、そこの

 暁らの艤装のチェックじゃな。 まさか捨てていくわけじゃあるまい?」

 

「そうですね。 じゃあ準備にしますか」

 

 工廠長の言葉で方針が決まり、手を二回鳴らして全員を自分に集中させる。

 

「これから工廠に行って、輸送船乗船の準備をしよう。 何か別のことをしたい人はいるか?」

 

「異議なーし」

 

 天龍の軽くおちゃらけた声を合図に、ベッドで寝ている龍田以外の全員がそれぞれ動き始める。

 

「島風は主機と魚雷発射管持って、ちゃんと連装砲ちゃんも連れて行ってくれ。 ほら龍田さん、

 動きますよ」

 

「いやだぁ~、めんどくさ~い……」

 

 もごもごとシーツに顔を押し付ける龍田に、ドアへ歩き始めた響と島風を避けつつ近づく。

 

「いつ迎えが来るかわからないんですから、早めに準備しないと」

 

「ん~……じゃあ抱っこ~……」

 

 龍田はシーツにしがみついたまま腕だけを伸ばして抱っこをせがんできた。

 

 普通の業務の時はしっかりしているのに、休暇やそれに準じた状況だとこうして人一倍だらし

なくなってしまう。

 

 今はもう慣れているが、昔は『こんな上司なんて嫌だ』と本気で思ったこともある。

 

 そして今の自分は大してためらうことなく、龍田の腕をとって抱き上げた。

 

 慣れとは、非常に恐ろしいものである。

 

「寒い~……」

 

 むにゅむにゅ、と本人自慢の胸が押し付けられる。

 

 当然のように、龍田に恥ずかしがっている様子はない。

 

「いつも思うんですけど、龍田さんに恥じらいってないんですか?」

 

「……? 揉みたいならいつでもいいわよ~」

 

「そんなことしませんよ」

 

「だからよ~。 恥ずかしがってたら人付き合いなんてできないし。 それに、司令官さんの事

 大好きだもん」

 

「女性としての恥じらいは持つべきだと思いますよ」

 

「もぅ、つれないなぁ~……」

 

 お互いに全くドキドキすることなく会話を終え、龍田が全身を密着させてくる。

 

 何回か上下に揺すって落ちないように体制を整え、それから部屋を出て工廠に続く廊下を歩く。

 

「……お前、何やってんだ?」

 

 待ってくれていたらしい天龍は、龍田を抱いて歩く自分を見てそう言った。

 

 言葉通りの意味ではなく、またお前かのようなニュアンスだ。

 

「見ての通り抱っこですよ。 龍田さんが起きようとしなかったので」

 

「かー、こんな妹を持って俺は悲しいぜ――」

 

 ぶんっ、と風がなった。

 

 天龍の言葉に反応した龍田が、首だけをひねって天龍を見たのだ。

 

 あと、振り向きざまに長髪にビンタされて少し痛かった。

 

「それってどういう意味? ()()()()()?」

 

「……い、いや、待てよ」

 

「今度余計なことを言うと、今着てるお気に入りの紫色のフリフリしたブラジャーとパンツ、切り

 刻むわよ」

 

「な、たつ……なぁ!? 違うからな! たまたま、本当にこれしかなくて着てるだけだから

 な! 勘違いすんなよな!」

 

 話し相手が龍田から自分に変わり、妙にモジモジしながら叫ばれた。

 

 これほどでなくとも、龍田にはぜひこの羞恥心を見習ってほしいところだ。

 

「……出撃時に凝った下着を身に付けていると、濡れたりちぎれたり破れたりして大変だって言い

 ましたよね? 帰ってから『ほつれたから直してくれ』なんて言っても直しませんよ」

 

 先ほどの羞恥心の悩みを跳ね除けて、艦娘の世話をする立場から天龍に言った。

 

 ある部分においては龍田より女性らしいかもしれないが、抜けてる点が多いのは天龍の方だ。

 

 日本中の艦娘のトップレベルの実力者として、国民を守る者として、こういうところはしっかり

してほしい。

 

「……ごめん」

 

 先ほどのうるさいまでの元気は失われ、しゅんと落ち込んだ天龍が小さく呟いた。

 

「はいはい。 しょげてないで行きますよ」

 

 あまりこの話を引きずるつもりはないため、軽く流して工廠の方へ歩いていく。

 

 途中、角から一人見ていた響と合流して、肩を並べて一緒に向かう。

 

 横目で見てみれば、響の肩にはしっかりと、忘れていた工廠長が座っていた。

 

「仲いいんだね」

 

「私が三歳の時からずっとだからな。 良くないとやってられないよ」

 

「でも、さすがにそれはいきすぎじゃないかい? 男と女として」

 

「もうこれが普通になっているんだ、軽く見逃してくれ」

 

「……了解」

 

 龍田を抱きかかえている様子に、苦笑いされてしまった。

 

 先を歩いている三人も、振り返って自分たち、特に龍田を珍しい物を見ているとばかりに眺めて

いる。

 

 他からすれば滅多にないことかもしれないが、自分たちにとっては準日常みたいなものだ。

 

「お前さんら……」

 

「なんですか?」

 

 響の肩に乗っている工廠長が、真剣な表情で話しかけてきた。

 

「そんなのが平然とできるなら、早う結婚してしまえ。 じれったい」

 

 抱き着いている龍田の心臓が、一瞬だけ強く跳ねた。

 

「あれじゃ、カッコカリじゃったかの? そこの天龍とまとめてしてしまえ。 結ばれるわ強く

 なるわで一石二鳥じゃろ」

 

「駄目よ、お爺さん」

 

 だんまりを決め込むかと思っていた龍田が、小さくもはっきりと言った。

 

「もちろん、できたら私も天龍ちゃんもいいけど、司令官さんは無理」

 

「俺!? 俺もって言ったか!?」

 

「黙ってて。 私たちはただの上司と部下みたいな関係じゃないの。 特定の一人をひいきする

 なんてできないし、複数人同時なんてもってのほか。 でしょ?」

 

「そんなことはないじゃろ。 カッコカリなんじゃし、他の国じゃ一夫多妻制もある。 なんら

 おかしいことはないじゃろ。 な?」

 

 二人して、自分に確認を求めてくる。

 

 龍田に自分が考えるケッコンカッコカリについて何も話したことはないが、ほとんど図星だ。

 

 工廠長の考え方も無い訳ではないが、ここは持論を展開させてもらおう。

 

「龍田さんの言う通りですよ。 会社や何かではなく『軍』ですから。 立場が同じ部下の内

 限られた人だけをひいきするのは不公平ですから」

 

「生真面目じゃのぉ……」

 

「それに……仮だなんて、無責任だと思うんです。 特に私みたいな人は、仮ですら結ばれる資格

 なんて、ありませんから」

 

「…………?」

 

 自分の言葉がどういうことなのかわからなかったのか、工廠長は首を傾げる。

 

 これらを説明するのは時間がかかるし、知る必要なんてどこにもない。

 

 それに、これから共に生活する上で、嫌でも徐々にわかってくるだろう。

 

「……ねぇ、司令官」

 

 顔だけを自分に向け、歩きながら暁が話しかけてきた。

 

「ん? なんだ暁」

 

「そのカッコカリって何なの?」

 

 少しだけ、言葉に詰まってしまう。

 

 別に恥ずかしい訳ではないが、説明するとなるとどうしても艦娘とは何なのかを厳密に伝えなく

てはならない。

 

 そしてそれは艦娘本人に話しにくい内容なだけでなく、『艦娘ニ開示スルベカラズ』と軍機にも

含まれている。

 

 ここは、同じ艦娘でもある龍田に、当たり障りのない説明をお願いするべきだろう。

 

「……龍田さん、説明を」

 

「嫌」

 

 即答で拒否されてしまった。

 

「天龍さんは……」

 

「俺も」

 

「工廠長……」

 

「わしゃんな詳しいことは知らん」

 

 見事に全員に断られてしまった。

 

 そもそも、天龍と龍田は十分に説明できるはずなのだ。

 

 ただ単に個人的な理由で言いたくないのか、自分が説明してあたふたするのを眺めていたいだけ

なのか。

 

 前者の可能性も捨てきれないため、気は乗らないが説明していこう。

 

 もちろん、艦娘の核心には触れずにだ。

 

「……ケッコンカッコカリというのは、提督と艦娘の文字通りの仮の結婚だ。 法的な婚姻関係に

 はならない。 それと、どの艦娘にも練度上昇による基礎能力の向上には上限がある。 その

 上限を引き上げるのがこのケッコンカッコカリ……簡単に言うとこんな感じだ」

 

「それ以外で上限を上げる方法はあるの?」

 

「無いこともない。 提督との……絆と言えばいいかな? そういうのが結婚をする以上に深まれ

 ば、何もせずに上がっていく艦娘もいる。 ただ極稀で、普通はする必要がある」

 

「……なんで、絆なの?」

 

 聞かれると思った、だから話したくなかった。

 

 暁は純粋に本心から知りたいと思っているはずだ。

 

 期待には応えたいが、軍機を破ったとしても今話すわけにはいかない。

 

 ケッコンカッコカリも知らない、まだ艦娘になってさほど経ってないであろう彼女たちの、自我

を奪うことはしてはいけない。

 

「……まだ暁には早い。 もうちょっと時間がたったら教えるよ」

 

「何よもう、子ども扱いしないでよ」

 

 嘘をついた。

 

 暁が聞こうとしたのは軍の艦娘を除く関係者にしか明かされない極秘情報だ。

 

 謝る時は来ないし、教えることもないだろう。

 

「子ども扱いしてるわけじゃない。 ちゃんとしたレディーになったら教えるよ」

 

「私はもうちゃんとしたレディーよ!」

 

「じゃあ……」

 

 横から大人びた落ち着いた声が会話を遮った。

 

 自分が耳を傾けるのを確認して、響はほくそ笑みながら話し始める。

 

「私なら構わないのかな。 暁より大人の女性ではあると思うけど」

 

「ひ、響……?」

 

 暁が戸惑った顔をして響を見るが、さらりと毒を吐いた本人は今か今かと自分の返答を待って

いる。

 

「確かに暁よりは大人びてはいるかもだが、まだ駄目だ。 それに、こんなところで話すような

 ことでもない」

 

「ひぅ……」

 

「そうか、それは残念だ。 気長に待つとしよう」

 

 潔く諦めてくれた響は、頬を赤くした半泣き状態の姉に何をするでもなく歩き続ける。

 

 小さく「かわいいな」と言ったのが聞こえたのは、工廠長と自分だけだろう。

 

 この表情を見るためだけに自分に問いたのかと勘繰るが、そんな訳はなく偶然だという結論に

至った。

 

 しかし、無表情の裏に底知れない喜びが垣間見えたのは気のせいだろうか。

 

「…………!」

 

 気が付くと、目尻に涙を浮かべた暁が睨んできていた。

 

 先ほどの発言を思い返して、思いっきり失礼なことを言ってしまったことに気付いた。

 

 妹に劣っていると言われて悔しかったのかもしれない。

 

 思ったことを偽らずに言ってしまう、自分の仕込まれた良くも悪い癖だ。

 

「……冗談さ。 すまないね、レディーな私のお姉さん」

 

「……ふん!」

 

 響が追い打ちをかけ、恨みがこもった視線を自分と響へ刺した後、そっぽを向いてしまった。

 

 おいおいと無慈悲に姉を怒らせた妹を見てみると、わずかにはにかんで気分上々だ。

 

 確信犯とは何とも恐ろしい。

 

 真面目な性格の裏には、いたずら好きな顔が隠れているのだろう。

 

 それか、少し変わった響なりの愛情表現かもしれない。

 

 どちらにせよ、良い意味でも悪い意味でも愉快な性格をしているらしい。

 

『お主、実は腹黒いな?』

 

『可愛くて愛おしい私の姉だ。 少しちょっかいを出したくなるのは最早必然と言うべきじゃない

 かな?』

 

『お、おぅ……』

 

 そんな二人のやり取りと雷と電が暁をなだめる姿を見聞きしながら、ほんの少し残った工廠への

道を歩く。

 

 たどり着いて前にいた雷が扉を開けて、艤装をまとめて置いてある場所へ向かう。

 

「龍田さん、工廠着きましたよ。 いい加減歩いてください」

 

「ん~もぅ、冷たいなぁ……」

 

 自分にしがみついて楽をしていた龍田を降ろし、凝り固まった体をほぐしながら歩くと、目的の

場所にたどり着いた。

 

「さて、提督よ。 こいつはどう運べばええかのう?」

 

 と、当たり前のように言ってくる工廠長は、この工廠で一番大きなものを指さした。

 

 即ち、名称もない人員輸送機を。

 

「運べませんよ。 置いていきます」

 

 こちらも負けじと、そう当たり前のように言ってやる。

 

「…………は?」

 

 常識が非常識になったような顔を、数秒遅れで工廠長は浮かべた。

 

 運べないのは、火を見るよりも明らかだ。

 

 人間用ならともかく、これは七座もありプロペラを四つも載せた『艤装』なのだから。




 もっと駆逐成分増やすんだよ、あくしろよ(心の声)

 少々軸がブレブレだった感が否めない30話でしたが楽しめましたでしょうか。

 書きたいことが多くて、執筆中に戸惑うんですよね。今しか出せないのか、後で出しても問題
ないのかなど、戸惑いまくりです。また、忙しくたまに執筆にスパンが空くと書きたいと思って
いたことを忘れることも多々ありです。

 余計な話を少々。

 夏イベが間近に迫っておりますが、提督の皆様方は準備の方よろしいでしょうか。私はバケツ
910、燃料45k、弾薬29k、鋼材188k、ボーキ41kです。あれ、鋼材の桁数バグっ
てる……? そして前回よりバケツが少ない、と……。秋月と照月を88レベまで上げてたら減り
ました。始まるまでにバケツ遠征ぶんまわしますよえぇ。

 ボスがどうなるかが気がかりなんですよね。前回がオールダイソンで、今度はどうなるのかと
戦々恐々の思いです。お願いしますから深海棲艦側に連合艦隊なんて作らないでください島風が
何でもしますから!
                                      「おぅ!?」

 要約すると、『資材溜めましょう』『ボスが怖い』ということです。満足のいくイベントになる
よう祈るばかりです。次はイベント終了後に投稿予定です。まだ早いですが、提督の皆さんの武運
長久をお祈りしております。では……
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