時間を開けた分、少しの文章力を犠牲にいくらか設定をしっかりさせました。本末転倒? 友人に触発されてオリジナルも書き始めましたので大丈夫です(露骨な宣伝)。
しばらくは船の中です。ちょっと重い話もありますが、基本気楽に読んでいただけるかと思います。
36話、どうぞ。
雑用を命じられて早2時間。今は変なマスクをかぶってだだっ広い冷凍庫の中を掃除している。
気温はマイナス15度と、あまり長居はしたくない場所だ。マスクをかぶっている理由としては、肺の中の水分が凍るからだそうだ。
それでも肺に入ってくる空気は結構冷たいのだが。
「おう、やってんな」
後ろから小田切の声が聞こえた。振り返ってみると、自分と同じくマスクをかぶった寒そうな青年が立っている。
「そろそろ切り上げようぜ。時間も時間だしな」
「はい」
モップや洗剤など掃除道具一式を持ち、小田切と一緒に冷凍庫を後にする。案外邪魔だったマスクを脱いで既定の場所に直し、厨房へと戻っていく。
途中でゼンとも合流し、体の違いをひしひしと隣に感じながら歩いていく。
「なあ小鳥遊」
「はい、なんでしょう」
あまり口を開かないゼンから話しかけられた。会って少ししか経っていないが、自分から話しかけるようなタイプには見えなかったので少々意外だ。
「あんた、提督じゃないだろうな」
「「は?」」
話しかけられてもない小田切も自分と同じ反応を返した。小田切も驚いているようだが、図星を突かれた自分のほうがもっと驚いている。
「提督と艦娘を航路中に拾ったと風のうわさで聞いた。何となくそうなのかと思うのだが」
「いや、そんなの……あるのか?」
二人からそれぞれ違う視線を向けられる。少し困惑するが、とりあえず返事はしないといけない。
「……だとしたらどうです?」
「前々から軍人らしい歩き方だと思っていた。やはりか」
「え、なに? 決定づけるの? そうと決まったわけじゃないだろ?」
ゼンは察したらしいが、小田切は若干混乱しているようだ。ゼンが呆れたようにため息をつき、自分の下半身を指さした。
「見た目は似ているが服が違う。恐らく軍服だろう。なぜ上がないのかはわからないが」
「……マジ?」
「マジ、と言って信じるかどうかはお任せします」
そう言ったきり、二人とも何も話さなくなってしまった。こちらからも何を話しかけていいのかわからないので非常に気まずい。
厨房を通り過ぎるが、自分がどうすればいいのかわからないのでとりあえずついていくことにする。
部屋が並んでいる場所まで来たところで、ようやく小田切が話しかけてきてくれた。
「……とりあえず、俺たちの部屋、まで行きましょう、か?」
話しかけてくれるのはありがたいが、口調も態度もいろいろとおかしくなっていた。
「いきなりどうしたんですか?」
「いやだって……ねえ?」
小田切がゼンに助けを求めるように言うと、腕を組みなおして口を開き始めた。
「立場が違えばそれに伴って態度を変えるのは当然のこと。俺たちは下にいるわけだから、小田切の態度も当然のこと」
「いや、まあ、そうなんでしょうけど……ん……」
「とりあえず入ろう。ここで立ち話をするよりはましだ」
そう仕切られ、ゼンに続いて『小田切』『ゼン』と書かれた部屋へ入る。
中はかなりきれいで、ベッドが部屋の奥の角に二つ、個人用と思われるスペースがある。部屋の中心には市販されているような、大きくもなく小さくもない正方形の折り畳み式の机が置いてある。
「座ってくれ」と促され、絨毯が敷かれた床に座り改めて部屋を見渡す。
ゼンのベッドはかなり物が少なく、本が数冊とトランプらしき玩具のみ。小田切のほうは整ってはいるが物が多く、ちらほら見えるものの中には2次元3次元問わず可愛い女の子の雑誌や写真がある。
その中に中々に見過ごせないものが見えた気がして、降ろしたばかりの腰を上げて近づいてみる。
写真立てに飾られていた一番目立つ写真は、小田切の隣に見慣れた誰かが仁王立ちしていた。
「いや、あのそれは……」
「…………」
写真立てから外して裏面を見ると、『横須賀 金剛』と書かれてあった。やはり見間違いではなかったようだ。
しかし、今回写真を手に取ったのはこれだけが理由ではない。
「……海軍規定、ご存知ですよね?」
艦娘の個人情報を保持してはならない。例えそれが外見のみが写った写真であろうと例外ではない。
横須賀鎮守府では定期的に一般の人に対して見学会なるものを開いているが、原則写真、動画撮影は禁止だ。もっとも、今回の小田切の写真もそうだろうが、一部の艦娘は自らカメラを持ち写真を撮って現像、配り歩く軍規違反の塊のような者もいるが。他の所は知らないが、横須賀では契約書を書かせた上で条件付きの許可という形で撮らせている。
艦娘は、同じ艦船の魂なら全く同じ姿形をしている。身長、足のサイズからスリーサイズ、髪や瞳の色、指紋にいたるまで全てが同じだ。DNA鑑定をしても、一致率は99%以上と本人だと認識されてしまう。
軍を退役した後のことも踏まえ、艦娘の個人情報の一切は世間一般には隠されている。もっとも最近の鎮守府付近では腐りかけているが、これを暴くことは重罪だと日本では認知されてはいるはずだが。
「ええまあ、知ってはいるんですけどね、でも金剛さん、こちらの艦娘の方から誘ってもらって、決して俺が撮ってもいいかなんて聞いてないですよ」
「ええ、わかってますよ」
え、という顔をして自分を見る二人に、そのまま話を続ける。そんなに驚くことだろうかとも思ったが、気にしないことにした。
「私は横須賀鎮守府で育った者ですので。もしかしたら、あなたと会ったことがあるかもしれませんね」
そう話すと、小田切はぽかんとした顔で呆然とし始める。
その後目を白黒させ、10秒ぐらいしてようやく口を開いた。ゼンは見た目通りの沈黙を貫き自分をじっと見つめている。何を思っているのか全くわからない不思議な人だ。
「……えっと……横鎮の提督って、もうちょっと歳が上だったような……」
「あぁ。多分私の父です。まあ義理のですけど」
今度は「え……?」といったまま固まってしまった。体は固まっても疑問は尽きないようで、「え? え? え?」と機械的に繰り返し始める。それを見かねたのか、次はゼンが話しかけてくる。
「二人いるのか、提督が」
「父兼教官ですね。私はなったばかりです。今回こうして乗船しているのは訳ありです」
「ふむ……」
ゼンはそう呟き、目を閉じて何か考え事を始めた。
小田切が固まりゼンが動かない。誰一人話さない固い空気が部屋を満たす。流石にこのままでは自分が耐えられないので、何とか話題をそらすことにする。
「それにしても、結構艦娘の写真がありますね」
小田切の枕元には、たまに目にする人気アイドルやアニメ調のかわいい女の子の画像を現像したようなものがあるが、群を抜いて艦娘の写真が多い。
「……ちゃ、ちゃうんです」
「別にどこかに突き出そうって訳じゃないですよ。流出さえしなければですが」
「してないしてない! そんなの絶対しないって!」
そう叫ぶ小田切の顔は、どことなく怒っているようにも見えた。この様子なら大丈夫だろう。
再び多くある艦娘の写真に目を落とす。駆逐艦から戦艦、潜水艦や補給艦などの特殊艦まで様々だ。几帳面なのか、裏面には艦娘の名前と撮ったところであろう鎮守府名がほぼ必ず記載されている。
全国各地、中にはラバウルのものまであった。一体小田切は艦娘にどんな思いがあるのだろう。
「小田切さんは、何でこんなに艦娘の写真を?」
聞くと、少し悩んだが、何かを懐かしむような顔をして話し始めてくれた。
「俺がこの仕事をしてる理由でもあるんですけどね。まだ小学校の頃だったかな……単冠湾で起きた事知ってます?」
「えぇ。半壊した話ですよね」
「そうそう。その時俺は島の反対に住んでたんですけど、友達となんか鎮守府見に行こうって話になって。でその時ほんとバカで、中に忍び込んだんですよ。なんか倉庫っぽいところにいた時に襲われて……」
そこからの小田切の話は生々しかった。逃げ場もなく慌ただしくその場所に出入りする人に隠れていると、破壊され、深海棲艦が目の前に現れた。足にしがみついていた艦娘を目の前で踏み殺され、目線が向いて殺されそうになった。
その時、一人の艦娘が深海棲艦に殴りかかった。詳しく覚えてないが、激戦だったことは覚えている。拳が文字通り砕けて血だらけになりながらも救ってくれた艦娘の姿はとても美しかった。
「……その後、普通に高校とか行ったんですけど、何かこう忘れられなくて。憧れっていうんですかね。普通の人がアイドルとかの写真を集めるみたいな感じなんですかね。仕事にしたのは、えっと……恩返しっていったらいいのかな……」
初めて話をした時には少し軽そうな印象を受けたが、中々に真面目な人のようで、小田切の人物像を改めさせられた。
「……いつも『可愛いから』とか言ってなかったか」
「おいバカ!」
やはり小田切は小田切のようだ。がっくりしてしまいそうだが、どことなく安心した気もする。
「でも、先ほどの話は本当なんですよね?」
「えぇまぁ。本当は鎮守府で働きたいんですけどね……」
頭を掻きながら、残念そうに小田切はうつむいた。何か声をかけてあげたいとは思ったが、最初から小田切の目指すところにいる自分がどんな言葉をかけられるだろうか。
どう話すべきかわからないでいると、部屋のドアがコンコンとノックされた。
『私だ』
外からずんぐりした、威厳のある声が聞こえてきた。それを聞いた瞬間、部屋の空気が少し張りつめる。料理長だ。
「はい、今出ます!」
小田切が先ほどまでのうなだれた状態とは一変して、俊敏にドアに向かって開いた。その間に、座っていた自分とゼンは自然と立ち上がる。
ドアを開くと、予想通り見慣れない巨体が現れた。だが、それだけではない。
「……どこで油を売ってるんだい、司令官」
後ろからひょっこりと、いつもより小さく見える響がそこにいた。どことなく不機嫌そうなのは気のせいか。
それはともかく、どう返していいかもわからずただ呆然とするしかない。どうしてここに響がいるのだろうか。
「……どうしたんだい?」
「いや、なんでも。何してるんだ?」
「風に当たったまま何時間も帰ってこない上官を探しに来たんだ」
普段通りに話してはいるが、どこかに苛立ちを感じる。誰かに探すように言われて渋々探していたのか、はたまたここに来るまでの間に何かがあったか。理由はわからないが、ここまでぶっきらぼうに感じるというのは相当不機嫌なように感じる。
「えっと……どちら様で?」
小田切がそうつぶやくと、響は軽く料理長を押しのけて部屋に入ってきた。
「誰に見えるかい?」
「……艦娘」
困惑しながらも小田切が答えると、響は少し頬を緩ませたあと、落胆するように肩を落とした。間違いではないのにどういうことだろうか。
「響だよ。特Ⅲ型駆逐艦二番艦」
「あぁ、暁型の……ヴェールヌイ?」
「中々に物知りだね。私としてはうれしい限りだ」
そう言い切り、ぐっと顔を自分に向けて話し始める。途中から機嫌が良さそうに見えたのに、途端に冷たい顔になった。原因は自分にあるのかと思うと悲しくなる。
「ほら、司令官。座ってないで部屋に戻ろう」
「……そ、そうだな」
急かされるように言われ、少し急いで立ち上がる。その間に、料理長が小田切とゼンに話しかけていた。
「会話で分かっただろうが、小鳥遊は提督だ。お前ら、今までの無礼しっかり謝っとけ」
え、という顔をしたのは小田切。だが、内心自分も同じなもので無理もない。ゼンは深く息を吐いて、反省しているようにも落胆しているようにも見えるように肩を落とした。恐らく後者だとは思うが。
「……どうも、すみませんでした」
「悪かった。多数の無礼、許してほしい」
「いや……いいですよ、お二人とも」
顔を上げた二人と目が合い、珍しくゼンも同時に苦笑いした。お互い、何かと苦労をしそうだ。
「私もすみませんでした。確認も取らずに申し訳ありません」
「いえいえ……」
出会ったときにその意識を持ってほしかったな、などとは口が裂けても言えず。
この空気をどうしようかと思っていると、無言で響が裾を引っ張ってくるので、連れられて部屋の外に出る。状況的に脱却できるのはいいが、流石にこのままでは気まずい。
「小田切さん、ゼンさん」
料理長に睨みを聞かされている二人に声をかけると、笑顔を浮かべて自分を見る。
「お互い、頑張りましょう」
「……はい!」
「うむ」
そう答えた二人の顔を見ると、自分も少し頬が緩んだ。
やっと艦娘を出せました。最近艦これ要素少なかったですけどようやく出せてうれしい限りです。
最近暑すぎて困ります。地球温暖化進みすぎだと感じているのは私だけではないはずです。昼間だけとはいえエアコンつける日があるんですよ? 六月上旬ですよ?
友人とフォートナイトやりすぎて提督業がおろそかになりつつあります。ログインしない日もしばしば……何事もバランスが重要です。仕様を忘れる前に復帰しないと……
次回はもう8割がた出来上がってます。執筆欲も上がってきてますので近々投稿できるかと。待っていただけたら幸いです。