駆逐艦しかいない鎮守府   作:鼠返し

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 鼠返しです、どうもです。若干忙しくなりましたが艦娘書きたさに暇さえあればちまちま書いておりました。

 ちょっと短めですが、代わりにさくっと読んでいただけるかと思います。

 37話です、どうぞ。


第37話 垣間見た考え方

 小田切、ゼンと別れて早数分。元の部屋に戻るべく歩いているであろう廊下は、ごうんごうん重い音が鳴り響いている。誰も話さずどうも空気が重苦しいので、前々から思っていた疑問を響に聞いてみる。

 

「一つ聞きたいんだが」

「何だい?」

 

 普段のセリフはそのままに機嫌を悪くしたような口調に言葉が詰まってしまう。初めて話すタイプの人で中々に掴めない。

 

「……なんで響がここに居るんだ?」

 

 少し言葉に詰まりつつも聞いてみると、響は自分のほうを見ずに口を開き始めた。

 

 怒りを買っているように見えて、少し怖い。

 

「それは私が聞きたいことでもあるね。いや、知ってはいるんだけど」

「全ては私の勘違いが生んだことです。申し訳ありません」

 

 響に続いて話し始めたのは、一切歩調を崩さない料理長だ。壁のような背中はそのままに、初めて一緒に歩いた時とは口調と態度ががらりと変わった。

 

 短時間にこれほど変わってしまうと違和感が拭いようもないが、致し方ない。

 

「まあ……よく似てますしね。私と似た格好をしている方も何人か見かけましたし」

「返す言葉もございません」

「思い込みが激しいのは良くないことだと、私は思うな」

「……はい」

 

 響が料理長に追い打ちをかけるような言葉をかける。しかも不満をあまり隠さない、初めて聞くような口調だった。

 

「司令官はどんな風に間違われたんだい?」

 

 しかし普段の感情をあまり見せない話し方で話しかけられ、調子を崩されるような感覚を抱きながら答える。

 

「えっと、外階段で夜風にあたっていたら怒鳴られたな。まあ、間違われるのも仕方ない状況だった」

「私も同じような場所だったんだけど。私を間違えるのはどうなのかな」

 

 響が憤っている理由が何となくわかった気がした。どうやら、何か物事を決めつけがちな考えが気に入らないらしい。

 

 自分が当てはまっているようで心が痛い。これから上手く付き合っていくのが難しくなりそうだ。

 

「何かを決めつけるのは仕事でも良くないと思うな。改善するべきだと私は思う」

「おい響、失礼だぞ」

「いえ、私も自覚はしているのです。善処はしているのですが、どうにも直しづらく。申し訳ありませんでした」

 

 必要以上に責めるような響を咎めはしたが、責められる本人がそう言うのではどうしようもない。

 

 雰囲気が若干悪くなり、静かに淡々と料理長についていく。

 

 段々と見慣れたような場所になり、自分が見つかった場所を過ぎ、ようやく元の部屋に戻ってきた。約10分ぐらいだっただろうが、個人的にはかなり長く感じた。

 

「こちらです。夜も遅いですので、今夜はよくお休みになってください。失礼します」

 

 そう言い、何度見ても同じように歩いて料理長は去っていった。

 

 完全に姿も足音も認識できなくなったところで、何となく響と目が合った。

 

「……こういう船に女性は乗ったりするのかい?」

「乗らない、こともない。私の知っている範囲でだが」

「私みたいな、見た目が子供な人も?」

「……まあ、見間違えることはあるさ」

 

 あまり話に付き合っているといつまでたっても部屋に入れなさそうなので、短めに切って部屋に入ることにする。

 

 ドアノブを捻り、手前側に引いて開ける。そしてまず最初に目に入ってきたのは、女性とは思えないようなだらしない格好で寝ている天龍の姿だった。幸いいびきはかいていないようだが、この姿を彼が見たならどう思うだろうか。

 

「おかえりなさい。遅かったわね~」

 

 そんなに広くもない部屋の奥から、ゆらゆら手を揺らしている龍田の声が聞こえてきた。規則正しい生活を心がけているという龍田がこの時間に起きているというのは少し珍しい。

 

「いろいろありまして。寝付けないんですか?」

「ん~、やっぱりソファーだと寝づらくて。横になるのも落ちそうだから」

 

 とそういった途端、鈍い音と共に「あ”う!」と苦し気な声が聞こえてきた。近づいてみると、暁が床にうずくまって右側頭部を両手で押さえていた。

 

 いくら体が小さいとはいえ、雷と一緒に横になれば落ちるのも無理はないだろう。

 

「ね~?」

「ねー、じゃないですよ。暁、大丈夫か?」

「えう……あ……」

 

 呼びかけに答えるようにこちらを向いた暁は涙目になっていた。自分が居ることに気づくと、少しの間呆然とした後、目じりに溜まった涙を服の裾で拭ってそっぽを向いてしまった。

 

「おいおい……頭痛くないか?」

「い、痛くないわよ!」

 

 何だか小さい子供を相手にしているようで少し頬が緩む。しかし響の視線がこちらに向いている気がしたので、笑みを消して唇を真一文字に結ぶ。寒気がしたのは気のせいか。

 

 どうしようかと悩んでいると、部屋の隅に取っ手らしき物が見えた。近づいて開けてみると、望み通りのものがあった。もしくはそれ以上かもしれない。

 

「暁。小さいけど布団と毛布があるぞ。使ったらどうだ?」

 

 何も反応を示さずにソファに座りなおしていたが、しばらくして「……うん」と頷いた。

 

 一人が限界の布団を敷き、その上に毛布を置いて暁に目を配る。今度は無言で頷き、布団へ入っていった。

 

 あるだけ敷いていき、雷や電を起こしては布団へ導く。どちらも寝ぼけ眼で返事をし、布団へ入るとすぐさま眠っていった。学校のキャンプや何かの宿泊のようだ。経験したことはないのだが。

 

 天龍も起こそうと努力はするが、一向に起きない。仕方ないので布団の上までごろごろ転がして、その上に毛布を掛けることにした。女性にすることではないとわかっているが、これ以外の方法が思いつかなかった。

 

「龍田さんもどうぞ」

「……ん~? そうね……ふぁ……」

 

 龍田も相当疲れているようで、珍しく口を開いてあくびをしながら布団へ潜っていき、ものの数秒で眠りに入ってしまった。ありがとうございます、と胸中で呟き、島風に勧めてみる。

 

「島風、座ったままじゃ寝にくいだろ?」

「…………」

 

 無言のまま何も反応を示すことなく布団へ潜る。相変わらず何を考えているのかわからない不思議な子だ。

 

 胸中で苦笑いしながら、最後に響に勧めようとしたところで言葉が止まってしまった。

 

「使いなよ、司令官」

 

 残りの布団が一つしかない。確かに人数は多かったが、もう一枚ぐらいあってもいいじゃないかと思うのはおかしくないと思いたい。響に使えと言われはしたが、流石にすんなり受け入れるわけにはいかない。

 

「いや、響が使うといい。私は必要ないよ」

「……私は暁と二人で寝るさ。司令官が体を壊したらだめじゃないか」

 

 言い分はごもっともだが、浴衣一枚などという薄い服の子をそこらへんで寝かせるのは良心が許してくれない。二人で寝ると言っても、いくら体が小さいとはいえ二人同時には少々無理なサイズだ。どちらかがはみ出るか、または両方が半分ずつはみ出るようになるだろう。現に天龍や龍田も若干足がはみ出ており、響もそれはわかってるはずだ。

 

「「…………」」

 

 お互い何も言えずただただ時間が過ぎ去っていく。どうしようかと思っていると、響と同時に大きなあくびをかましてしまう。早く寝かせて自分も寝たいところだ。

 

「……狭いけど一緒に寝るかい?」

「いやいや……しようとしても無理じゃないか?」

 

 なんともキツい一言をいただいた。一緒に寝るなんて着任したての吹雪としかしたことがない。むしろ、だ。

 

「それにその……嫌じゃないか?」

「譲らないならこうするしかないだろう? 嫌だなんて感情は関係ない。もしさせたいなら命令すればいいじゃないか。私は逆らわないさ」

「命令どうこうって話じゃなくてな……」

 

 自分は倫理観だとか、女として男と一緒に寝ることがどうという話を聞いたはずなのだが、予想内ではあったがかなり外れかけた返答をもらった。生粋の軍人ともなるとこういった考えに寄ってしまうのだろうか。

 

「……ふぅ。響、布団で寝ろ。命令だ」

 

 なら今回はその考えに従うとしよう。今後物事の考え方を変えていく必要があるなと強く胸に刻んでおく。

 

「了解」

 

 間髪入れず響が自分の言葉に返し、布団に入りすぐに目を閉じた。こんな軍の上官と部下のような関係は望んでないが、今のところは我慢するとしよう。

 

 部屋の隅に移動して、膝を抱えて横になる。体にかけるものがないと少しつらいことを今身をもって知った。やはり無理やりにでも響を布団で寝かせたのは正解だ。自分は軍服を着てこれなのだから、薄い浴衣ならなおさらだ。

 

「司令官」

「なんだ?」

 

 目を閉じたはずの響から声が聞こえてきた。流石にこの短時間では眠りにつくのは難しいか。

 

「役得、とは思わなかったのかい?」

「……何が言いたいんだ?」

「……やはり私には女としての魅力がないのかな」

 

 普段の生活を送っていたならおかしな人だと思っただろうが。日野の存在を知った今ではその言葉の意味が理解できた。どう言葉を返すべきか最適解は見いだせないが、できるだけの返答はしよう。

 

「そういうことじゃない。ただ……」

「ただ?」

「……。そういう風な関係は、私は望んでない」

「……嘘のように聞こえるけど、司令官のことだ。信じるさ」

「ありがとう」

 

 今の自分にはこれが精一杯だった。うまく響の中で解釈してくれていることを祈って、今日はもう寝るとしよう。

 

 皆に会うのが楽しみだ。




 嫁押しのオンパレードかな? 書き終えた後の私の感想です。

 一区切りがついてしまった37話でした。もうちょっと伸びる予定だったのですが、短くまとまってしまいました。……まとまってる、よね?

 皆さんも小説を書いてみてはいかがでしょうか。私レベルでも何とか形は出来ています(中身は知りません)のでご安心ください。嫁との物語を書いていくのは楽しいものですよ。

 書くことがあまりなく若干意味不明なことを口走り(書き走り)ましたが、今回はこのあたりで。次回の構想は出来上がっていますので、そう遠くない内に出来上がるかと思います。……多分。

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