【完結】京‐kyo‐ ~咲の剣~   作:でらべっぴ

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「脅威」

東家美穂子、南家華菜、西家京太郎、北家未春で始まった東一局。

相手は名門風越女子。

京太郎は最初から全開で臨む。

 

 

東一局0本場 親美穂子 ドラ{⑥}

 

 

西家の京太郎配牌。

 

{一四七九①②③④⑥赤5東南白}

 

{⑥}と{赤5}のドラ2がある配牌四シャンテン。

第一ツモは、シャンテン数の上がる{白}だった。

 

(ツイてる。いきなり役牌が重なってドラが2枚。もう他の手役はいらない)

 

このまま手なりで進める事を決め、第一打は{南}。

 

{一四七九①②③④⑥赤5東白白} 打{南}

 

京太郎の風越戦は、第一打{南}でスタートした。

そして手なりで進めた八順目。

 

{六七七②③④⑥⑦赤55東白白} ツモ{中}

 

生牌の{中}をツモる。

 

(まいったな、字牌の絞りが超きつい……)

 

楽な麻雀なんぞ打たせんとばかりに、{白}が出る気配がまるでない。

まあ、京太郎も{東}を延々絞っているのでお互い様ではあるのだが。

 

(下家の吉留未春は守備的な打ち手だし、対面の福路美穂子は読みが普通じゃないしな。こんな展開もあるか)

 

と考えつつ打{七}。

 

{六七②③④⑥⑦赤55東白白中} 打{七}

 

やたらと静かな立ち上がりなので、京太郎も守備的に打ってみた。

その四順後。

 

「ツモ」

 

十二順目の下家から声が上がる。

 

「役牌赤1。1300・2600です」

 

未春の手牌。

 

{三四五①②③赤⑤⑤999発発} ツモ{発}

 

{⑤発}のシャボ待ち。

いいのをツモったというところだろう。

 

(ありゃ、{発}だったかぁ……。なら{中}は上家かな? {東}は序盤から親が持ってた筈だし)

 

自身の読みが少しズレていた京太郎は素早く微調整。

脳内のイメージを再構築し直した。

美穂子の手牌。

 

{⑥⑥⑦⑧111678東東白}

 

華菜の手牌。

 

{一一二二二三四赤五六八中中白}

 

表面上は静かな立ち上がりだったが、裏では二人ともマンガンのイーシャンテン。

京太郎が簡単に{東}や{中}を切っていればあっという間にアガっていたかもしれない。

 

(……初心者にしちゃ防御力が高いな。配牌のドラ2枚と役牌対子に惑わされると思ったが……)

 

後ろで見ていた鬼コーチが少し感心する。

貴子が言うように、初心者は防御がおろそかになりがちだ。

しかし、そこは五年連続守備率一位の大沼師匠。

まず防御。とにかく防御。何が何でも防御を一番最初に叩き込んだのだ。

防御にかぎって言えば、京太郎の力は風越メンバーに引けを取っていなかった。

そして続く東二局。

 

 

東二局0本場 親華菜 ドラ{一}

 

 

親を迎え、最高目麻雀の華菜がエンジンを全開にする。

華菜配牌。

 

{一一一六①②②③⑤269西北}

 

配牌四シャンテンだが初っ端からドラが三つ。テンパイする事ができれば親満確定の手だ。

これが九順後、アホみたいな破壊力になる。

 

{一一一二三①①②②③③29} ツモ{3}

 

{14}待ちテンパイ。

 

(ふおおお! 完璧だし!)

 

高目の{1}だとピンフ純チャン三色イーペーコードラ3で指が十本折れる。

安目{4}でもダマ満、ツモ跳確定という怪物手。

しかし華菜は、『リーチせずにはいられないな』とか言っちゃうくらいリーチが好きなので、

 

「リーチ!」

 

当然、打{9}でリーチ。

 

(初心者のくせに華菜ちゃんを倒すとか意味分かんないし! 一撃でトバしてやる!)

 

彼女はいつだって自信満々。

 

{一一一二三①①②②③③23} リーチ

 

これで裏ドラが乗れば倍満役満当たり前という、凄まじい火力だった。

風越大将『池田華菜』。

龍門渕の天江衣に嬲られるだけ嬲られ、宮永咲に必殺点数調整『倍満差し込み』をかまされてもすぐ元気になっちゃうポジティブガール。

彼女の心を折れるのは唯一鬼コーチだけであり、また全国でも類をみないほどの火力持ちでもある。

お前一体何回役満テンパりゃ気がすむの? と言わんばかり打撃系女子、それが『池田華菜』だ。

そんな恐ろしいリーチがかかった十順目の京太郎手牌。

 

{五六七赤⑤⑤3赤5555678} 

 

嵌{4}待ちでタンヤオ赤2の5200テンパイ。

貴子相手に運を使い果たしたかに思えたが、どうやら今日は赤が集まるほどツイてるらしい。

しかし、

 

{五六七赤⑤⑤3赤5555678} ツモ{1}

 

高目アタリ牌の{1}を一発で掴んでしまう。

 

「ヤバ……ッ」

 

京太郎はとっさに『鏡』を手の中に生み出すと、全力で突進してきた華菜を左手で受け止めた。

 

{五六七赤⑤⑤13赤555678} 打{5}

 

親リーとかそんな事関係なしに、この{1}はデス牌だと直感。槓子の{5}を一枚切って嵌{2}へと受け変える。

だがなんと、次順に引いてきた牌がまたもアタリ牌。

 

{五六七赤⑤⑤13赤555678} ツモ{4}

 

鏡に防がれても愚直に拳を叩きつけてくる華菜の姿に戦慄してしまう。

 

「クッ、この……ッ」

 

京太郎はさらに右手のひらを重ね合わせて全力防御。

 

{五六七赤⑤⑤134赤55678} 打{5}

 

テンパイを崩す。

次順、十二順目に引いたのは{9}。そしてさらに打{5}。

京太郎は河へ{5}を三枚並べた。

 

「無スジの暗刻落としって、何考えてんだし……」

 

と、親の華菜から呆れの揶揄が飛ぶも、次順。

 

「ツモ!」

「な!?」

 

華菜が驚愕に目を見開く中、京太郎の発声が部屋に響く。

 

{五六七赤⑤⑤134赤56789} ツモ{2}

 

{14}を止めつつ{2}ツモアガリ。

 

「イッツー赤2。2000・4000です」

「ぐっ……」

 

嵌{2}の待ちと{5}暗刻落としでアタリ牌を止められた事を悟り、巨大手を躱された華菜は顔を歪めた。

しかし、根が単純な上に直情なのでへこたれるそぶりなどまるでない。

 

「フン、意外とやるし。というかそうでなきゃつまらないし」

 

腕を組みながら偉そうに鼻を鳴らす。

 

「いやあの……、池田さんは親なんで、4000点もらっていいっすか?」

「ぁ……わ、分かってるし!」

 

ツモられたくせに点棒を払い忘れてふんぞり返っていた華菜は、少々、というか結構うっとうしい性格なのだ。

 

(なんだ今のは? なんで{14}待ちが一点で読めやがった? このガキには池田の待ちを読む材料はなかった筈だ……)

 

京太郎の後ろで見ていた鬼コーチ貴子。

何か見落としたかと頭を捻るも、確かに京太郎に読めたのは索子か萬子の下待ちだろうというところまで。

{25}だって十分に危険牌だった。

 

(まさか直感か……? だが直感を身に付けるにはセンスと時間がいる。つい最近まで初心者だったってのと矛盾する……)

 

その通り。

それが『鏡』の特性。

師の大沼が京太郎に生み出させた『鏡』は、強者ならば当たり前に持っている指運、または直感が形になったものだ。

これこそが二流を突破する為の鍵であり、最低限身に付けていなければならない必須条件。

 

”一流へあがる為には資格を手に入れねばならんが、その条件も方法も、坊主に教えた覚えは俺にはないな”

 

一撃で殺されてしまう牌、または勝負を左右する牌を嗅ぎ分けられなければ話にならない。

故に師は、餞別として分かりやすくその感覚を味わわせたのである。

まあ結局は感覚を掴むだけで終わってしまい、特殊な能力に発展しなかったのでショボイと吹き出したのだが。

 

「次は俺の親ですね。サイコロ回します」

 

それでも師が与えた『目』と『鏡』は、京太郎が強者と闘う為の武器足り得ている事は言うまでもない。

本来なら様々な紆余曲折を経て身に付ける筈の技能。それを最短最速最効率で叩き込まれた京太郎。

師の大沼秋一郎には足を向けて寝られないだろう。

そんなトップに立った京太郎の親。東三局0本場。

 

「ツモ! タンピン三色イーペーコードラドラ! 4000・8000だし!」

 

華菜の発声が十順目に響く。

 

{二三三四四②③④23477} ツモ{二} ドラ{二}

 

前局の鬱憤を晴らすかのような倍満ツモアガリ。

ドラ待ちである為ダマテンだったが、最高目である{二}を軽々と引き上がった。

 

(くっそ、剛腕すぎんぞ……ッ)

 

防御などいらぬとばかりに超攻撃特化の麻雀で、京太郎を唸らせる。

 

「フフン。振らないならツモるだけだし」

 

しかも得意満面の顔が恐ろしく鬱陶しかった。

 

(池田ァァァ! って叫びてぇが、今は対局中だ。耐えろ。っつーか、なんであのガキはすぐ調子に乗るんだ? 馬鹿は治せねえのか?)

 

鬼コーチのボルテージまで上がる始末。

親被りした京太郎は一瞬でトップから三着転落だが、一つ深呼吸して自身を落ち着かせる。

 

(火力だけなら池田華菜は天江衣より上だ。この火力を押さえ込む)

 

これが、風越の『池田華菜』と対戦したかった理由。

龍門渕の『天江衣』も高火力の打ち手だが、華菜の火力はそれを上回る。

おそらく、火力だけなら全国トップクラスだろう。

 

(福路美穂子がおとなしい。きっと東場は俺の打ち筋を観察してるに違いない。池田華菜を黙らせるには次の東四局しかねえな)

 

京太郎は自身がまだまだだという事を理解している。

調子に乗ってボコボコにされたのは五日前。くだらん自惚れだと言った師の、阿呆を見る目が忘れられない。

 

(まずは池田華菜を叩く。次に福路美穂子との読み勝負にも勝つ。これで一段上へ行ける筈だ)

 

だから鍛えるのだ。

実戦の中で強くなりながら勝利するのが、きっともっとも成長するであろうから。

いつか師へ成長した姿を見せる為、京太郎はさらにギアを上げた。

ここからは字牌を絞っての直接的な防御ではなく、攻撃重視の読み防御へと切り替えていく。

 

 

東四局0本場 親未春 ドラ{8}

 

 

京太郎配牌。

 

{一五七九④赤⑤24568西中}

 

配牌四シャンテン。

 

(悪くない。ドラの{8}が孤立せずにすめばスルッとマンガンまでいける)

 

{8}をどう使うか思考錯誤していた京太郎の第一ツモ。

なんと。

 

{一五七九④赤⑤24568西中} ツモ{8}

 

ドラが重なった。

 

(もらった……)

 

僅かに口を歪めながら、打{西}。

両目の碧火が一気に勢いを増し、京太郎は全員の一打一打に注意を払う。

どこに牌を入れ、どこからどんな牌が出てきたのかを正確に記憶していった。

そして九順目。京太郎の手牌。

 

{五六七②③④赤⑤456688}

 

十三面受けの手広いイーシャンテン。

軽く跳満が狙えそうな手格好だ。

 

(下家の吉留未春は{4}切ってカモフラージュしてるけど索子染め。でも、左側五枚の字牌はおそらく対面の福路美穂子が殺してる)

 

中盤を回り、京太郎は相手の手牌を丁寧にイメージしていく。

 

(福路美穂子は上の三色。左三枚は字牌。生きてる字牌は{東}と{発}。どちらかが対子で、片方は自分がテンパイするまで絞るつもりだ)

 

そう読んだ二人の牌姿。

美穂子手牌。

 

{六七八⑥⑦⑦⑧678東東発}

 

未春手牌。

 

{11678999東東発発北}

 

ドンピシャである。

 

(上家の池田華菜はきついな……。右十一枚が萬子。左二枚は索子。萬子待ちだと読み切れねえぞ……)

 

華菜への直撃を狙い筒子と索子に待ちを合わせるつもりなのだが、萬子を引かされたら逆に殺されかねない。

そんな西家華菜の九順目のツモ。

 

{一二二三三四四赤五六七八57} ツモ{一}

 

{一}を引き、{五八}のどちらかを切れば嵌{6}でテンパイ。

 

(ん~、こっちかぁ……。多分みはるん染めてるくさいし。しかも下家の初心者、{2}切ってから索子止めてるっぽい。待ちある?)

 

しかし華菜の読み通り、この嵌{6}は他家が四枚とも使いきっており純カラである。

 

(ちょっと危ないけど、萬子は場に安いし何引いてもテンパイ……)

 

というより、最高目麻雀の池田華菜がこの手をイーペーコーのみにするわけがなかった。

 

(ここは勝負するしかないし!)

 

未春のスジでありドラ表示牌の{7}を先に強打。

 

{一一二二三三四四赤五六七八5} 打{7}

 

瞬間、京太郎の目が火力を上げた。

 

({7}……? 対面は678の三色。下家は索子の下が対子で、俺と対面の手牌と河から逆算して{9}暗刻の{567}か{678}が濃厚)

 

{7}が出た瞬間索子の枚数を逆算し、華菜の手中に一枚だけある索子牌を絞り込む。

 

(九割方{6}と{8}は純カラ。{7}も表示牌に一枚、下家と対面に一枚ずつ。対子落としもありえない。つまり、{75}の処理ってか?)

 

瞬時に正解へと辿り着いた。

 

(その二枚の索子は雀頭じゃなきゃ駄目だったよ。最高目を作る嗅覚は凄いけど、ちっと防御が甘いぜ。池田華菜)

 

口の端を上げた京太郎は、

 

「チー」

 

即座に華菜の{7}をチー。そして{②}を捨てた。

次順華菜、{四}をツモる。

 

{一一二二三三四四赤五六七八5} ツモ{四}

 

これで{三六九五八}待ちのテンパイ。

{九}引いてきた日には三倍満、いやリーチしようものなら役満まであるまたも強烈な手だ。

 

(さすが華菜ちゃん! 凄いとこ引いたし! こんなの確実に一発ツモだし!)

 

華菜は自身の鬼ヅモを自画自賛しつつ、

 

「リーチ!」

「ロン」

 

振り込む。

 

「なぁ!?」

「タンヤオドラ2赤1で、7700です」

 

京太郎のアガリ形がこれ。

 

{五六七③④赤⑤4688} {横756}

 

華菜の溢れ牌を完全に読みきった嵌{5}である。

 

「お、お前、華菜ちゃんを狙ったなあ!」

「そんなメンチン、アガらせるわけにはいかないですよ」

 

ギリギリと悔しがる華菜へシレッと返すも、三局続けて怪物手をテンパる強運には脱帽するしかない。

 

(それにしても、倍満以上をポコポコ張るってどうなってんだ? 優希もそうだけど、頭悪そうな人ほど運が強いのかなぁ……)

 

と、大変失礼な事を考えていた。

そんな京太郎の背後では、

 

(あの形から{7}鳴いた時は何事かと思ったが、{75}落としの一点読みだったのか……)

(あの十三面受けイーシャンテンで鳴く勇気が凄いなー。そうかもと思っても、きっと私には鳴けないよ。ワハハ)

(やりたい放題っすね。ここまでくると読みも一種の能力っすよ)

(……………………)

 

ゆみ、智美、桃子の三人が感心し、コーチの貴子が難しい顔で考え込んでいる。

師が唯一褒めた『目』。

これは京太郎の攻防の要にして自信の源だ。

 

(これで俺の読みは全国クラスの火力でも押さえられる事が証明できた。あとは福路美穂子に読み勝つだけだ)

 

褒められた後もさらに鍛えに鍛えた『碧火の目』は、京太郎を支える土台として確立している。

同じ右目を持つ美穂子もまた、ゆみ達同様驚いていた。

 

(凄い読み……。華菜の溢れ牌を完全に読み切ってたわ。本当に最近まで初心者だったのかしら? 彼の師匠がすごく気になる……)

 

この感想は、ほぼ貴子と同じである。

読みとは地力だ。

地力だからこそ対策を立てる事が困難で、もちろん急激に上げる事も難しい。

本来なら何年も何年も地道に積み重ねるしかないものなのだ。

それを京太郎は一足飛びに身に付けてしまっている。

これは京太郎の才能もあったかもしれないが、大沼秋一郎がいかに凄まじい雀士なのかという証だろう。

 

(初心者のガキを十日かそこらでここまで仕上げるだあ……? いったいどんな化物がどんな指導しやがった……ッ)

 

貴子の中にあったのは嫉妬だ。

名門校のコーチとして、指導には当然自負があった。

しかし、京太郎の姿を見てそんな自負など粉々に砕かれてしまった。

おそらく美穂子と同レベルの読みだと確信し、どうやればそんな指導ができたのかと歯ぎしりするしかない。

 

「クッソー! 絶対トップとり返してみせるし!」

「ふっふっふ。もう池田さんにはアガらせないっすよ」

「ぐあーー! 年下のくせに生意気だし! 必ずトバしてやる!」

 

華菜はかなり低いレベルで歯ぎしりしていた。

京太郎はデリカシーがないので低レベルに煽っていた。

 

(うわー、この子結構強いなぁ)

 

未春はのほほんと思いつつ、若干空気と化していた。

そして南入。

 

 

東四局終了直後の点数状況

 

美穂子 16400

華菜  27000

京太郎 32400

未春  24200

 

 

南一局0本場 親美穂子 ドラ{4}

 

 

(二度目の親。ここは大事にいかないと)

 

現在ラスの美穂子。

京太郎の打ち筋をずっと観察していた彼女は、ここから長野個人戦一位の力を見せる。

美穂子配牌。

 

{二三①①③③12278東北白}

 

かなり窮屈な三シャンテンだ。

 

(チートイ、イーペーコー、三色、チャンタが見える。ツモが乗ってくれるといいのだけれど……)

 

そして瞑っていた右の蒼目を開き、打{北}でスタート。

 

(ようやく右目を開いた。映像と牌譜見た感じだとあれが全力の合図だ。いくぜ、読み勝負!)

 

美穂子が一打目から読みを展開するのに合わせ、京太郎も両目を点火。

前局と同じく全力で他家の手を読み進めた。

そして八順後。

これが長野個人一位の運なのか、美穂子のツモが配牌にうまくマッチした九順目。

 

{一二三①①③③123789} ツモ{②}

 

{①③}待ちのツモのみテンパイから、高目六飜アップの強烈な{②}引き。

{③}を切れば、{①}でピンフ純チャン三色が追加される。

 

(引いた。{①}は二枚とも山、{④}も二枚生きてる。だけど対面の彼の方が早いかもしれない)

 

しかし不利を悟り、とりあえず打{③}でダマテンに受けた。

 

(あそこから{③}……。福路美穂子は下の純チャン三色。{③}切りな以上、筒子四枚は{①}暗刻の形じゃない)

 

京太郎は美穂子の打{③}から待ちを正確に絞り込む。

 

({③}はこれで場に二枚、俺が一枚。{④}は俺が一枚、上家に一枚。十中八九{①①②③}の形、待ちは{①④}。僅かに嵌{②}。勝ったな)

 

脅威的な読みを展開させる京太郎の手牌はこれ。

 

{三三四四五五③④⑤4445}

 

前局のアガリが効いてるのか、なんと八順目には高目タンピン三色イーペーコードラ3の大物手を張っていた。

しかも{365}の三面待ちだ。

勝ちを確信して当然だろう。

 

(純チャンなら掴めばでる。コイツを直撃させて、俺の読みが上だって証明してやるぜ)

 

力の入る京太郎の九順目のツモは字牌。もちろんツモ切りだ。

そして十順目。

美穂子、待ち枚数の差から先に京太郎のアタリ牌を掴まされてしまう。

 

{一二三①①②③123789} ツモ{5}

 

最安目の{5}だが、切ればタンヤオイーペーコードラ3へズドンだ。

 

(駄目。本命は{36}だけど、シャボやドラ暗刻の可能性もある。この{5}は打てない)

 

しかし、右目を開いた美穂子の読みもまた脅威的だった。

 

(けれど{①}切りの{5}単騎じゃ勝ち目がない。ここは同テンを狙うわ)

 

上家取りすら計算に入れ、勝負を五分に引き戻そうとする美穂子。

 

{一二三①①②1235789} 打{③}

 

{①}を雀頭固定の打{③}でテンパイを崩した。

 

(打{③}ッ!? まさかドラ傍引いて回ったのか!?)

 

京太郎は驚くも、諦めない。

 

(絶対に逃がさねえ!)

 

己の読みが上だと証明する為に追う事を決意し、両目に碧の火――いやもはや炎を噴き上がらせる。

ここが勝負どころだと更に集中力を高めた十順目のツモ、{②}。

 

{三三四四五五②③④⑤444} 打{5}

 

{5}を切り飛ばし、{②}に狙いを定める。

 

({5}ッ!? 待ちを変えた!? まさかこちらの{②}溢れを読んでいるの!?)

 

今度は美穂子が驚愕する。

そしてツモ{4}。

 

{一二三①②12345789} 打{①}

 

またもテンパイを崩し{①}の対子落としで回る構え。

 

(これも躱すのかよ!? こうなりゃ意地でも直撃してやる!)

 

ツモ{④}。

 

{三三四四五五②③④④444} 打{⑤}

 

{⑤}切り。

 

(また待ちを変えた!? 今度は{①}狙い!?)

 

ツモ{6}。

 

{一二三①123456789} 打{②} 

 

{②}切り。

 

(フリテン単騎だあ!? 読み間違えてる可能性もあるんだからとっとと切れよ!)

 

ツモ{1}。

 

{三三四四五五②③④④444} 打{1}

 

{1}ツモ切り。

 

(駄目……{①④}は絶対に切れない!)

 

ツモ{赤五}。

 

{一二三①123456789} 打{赤五}

 

{赤五}ツモ切り。

 

(嘘だろ!? 無スジの{赤五}強打してまでフリテンの{①}止めるか普通!?)

 

ツモ{東}。

 

{三三四四五五②③④④444} 打{東}

 

{東}ツモ切り。

そして十四順目、美穂子。

 

{一二三①123456789} ツモ{①}

 

{①}ツモ。

 

「ツモ! 3900オール!」

「ッ!?」

 

なんと、フリテンの{①}単騎ツモアガリ。

 

「マ、マジかよ……」

 

京太郎は呆然である。

 

「ええ、ごめんなさい……。フリテン単騎ツモなんて、みっともないアガリを見せてしまって……」

 

最初の純チャン三色テンパイの時点で山にいると予測していたが、こんなアガリになるとは思ってもなかった美穂子は申し訳なさそうだ。

 

「そ、そんな事ないですよキャプテン! どんな形でもアガった方がエライんです!」

「「……………………」」

 

その姿に華菜がフォローを入れるも、愚形のアガリを見詰めたまま声が出ない京太郎。そして押し黙る美穂子。

 

「おいお前! キャプテンに失礼な態度とるな!」

 

キャプテン大好きな華菜は、無言で美穂子を傷付け続ける京太郎に怒鳴るしかない。

 

「……そうじゃないのよ、華菜。このアガリはただの偶然。逃げ回ったあげくの結果なの。須賀君の態度も理解できるわ……」

「違います……そうじゃないっすよ……」

 

しかし違った。

京太郎は非難していたのではなく、感動していたのだ。

 

「……え?」

「凄えアガリだ……。自分の読みに絶対の自信がなきゃ、こんなアガリできるわけねえ……」

 

未だ美穂子の手牌を見詰めたままゴクリと唾を呑みこみ、右手の甲で口元を拭うと、その下から笑みが現れた。

 

「これが長野個人一位の力か……ハハッ、凄すぎ……」

 

笑みというより歓喜だろうか。

 

「凄すぎっすよ! 『福路美穂子』超スゲー!」

 

胸のドキドキが止まらない。

読み切って、全力で追ったのに捕まえられなかった。

つまり向こうの方が上。

けれどまだ南場は始まったばかり。

終局までに捕まえる事ができれば、それは開局前よりも強くなれたという事。

なら、残り四局で倒すまで。

 

「ありがとう、須賀君。あなたの読みも『超スゲー!』だったわ」

 

京太郎の絶賛の笑みは、美穂子の笑顔も呼ぶ。

柔らかく微笑む姿がとてもうれしそうだ。

 

(おい、節操と言う言葉を本当に知らんのか? 私をベタ褒めした事を忘れたんじゃあるまいな?)

(ワッハハー。須賀少年は誰でもすぐ口説くなー……あれ? 私は口説かれてないぞ? ま、まさか、む、胸……)

(どこまでハレンチなんすか、この男は。……ステルス全開なら、私だって福路美穂子に負けないっすよ)

(見ごたえはあったが正直自信をなくす。十日の指導で初心者が福路とタメかよ……)

 

背後のギャラリーはあまりうれしそうじゃなかったが。

 

「福路さん」

「なにかしら?」

 

まあ、卓外の思惑など知ったこっちゃないので、ニコニコ顔の京太郎はニコニコ顔の美穂子へ挑戦状を叩きつけた。

 

「俺、この半荘で必ずあなたから直撃してみせます」

「あら、これでも読みには自信があるの。そう簡単には振り込まないわ」

「お前なんかにキャプテンが振り込むわけないし」

 

美穂子も笑顔で受けて立つ。

 

「嫌です。絶対に、絶対にあなたの読みの上をいってみせる。覚悟してください」

「あらあら。それは楽しみね。本当はさっきのもとてもドキドキしたの。次も私が勝たせてもらうわ」

「キャプテンの上をいくとかちょーし乗んなし。覚悟するのはお前の方だし」

 

二歳も年上の上級生に恐ろしく生意気な言葉だが、美穂子は凄く心が綺麗なのでまるで気にしない。

 

「あ、そうだ。その右目、隠すのやめてください」

「え!?」

 

しかしこのお願いには参った。

右が青色のオッドアイはコンプレックスなのだ。

できれば読みの時だけで勘弁してもらえないだろうか。

 

「多分、その目が全力のスイッチになってるんですよね?」

「え、ええ、そうね……」

 

だが、

 

「なんでそんな綺麗な目を隠すのか知らないっすけど――」

「……ぇ」

 

押す。

京太郎はグイグイ押す。

 

「出し惜しみはなしでお願いします。全力の『福路美穂子』とやらせてください」

「……………………」

 

母性的な性格同様、一部とても母性的な部分を持つ少女を一生懸命口説く。

 

「……………………」

「……? 駄目なんすか?」

「……わ、分かったわ」

「? ええ、お願いします」

 

おもちの大きな女の子を口説くのは、もはや京太郎の本能なのだろう。

 

「コラー! 何キャプテン口説いてんだしー!」

「ええっ!? 全力で麻雀打ってくれって言っただけっすよ!?」

「キャプテンと喋るなし!」

「さっきから何なのこの人!?」

                     

華菜が鬱陶しいのもまた本能に違いないので、みんなもそこだけは目を瞑ってあげよう。

美穂子が全力を約束しつつ、次は南一局1本場。

美穂子の親連荘でスタートする。

持ち点は全員20000点台。京太郎が美穂子と400点差の微差トップ。

しかし、長野一位の実力はここからが本番だった。

京太郎が勝つには師の教えを昇華しなければならない。

 

 

華菜ちゃんはウザカワイイ編 カン

 

 

 

 

 

「…………」ボグッ

「痛っ!?」

「…………」

「な、なんすか、加治木さん? 今対局中なんすけど?」

「…………」ボグッ

「痛っ!?」

「…………」

「ちょっ、今殴ったのお前かモモ!? なんで殴った!?」

「…………」ボグッ

「痛っ!? どうして蒲原さんにまで殴られんの!?」

「…………」ボグッ

「痛い!? なんで!? 俺が何したんすかコーチさん!?」

「……三人が殴るからついつられた。いいから早く再開しろ」

「理不尽すぎる!?」

 

 

もいっこ カン

 

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