短いです
後悔はしていない。
「こんにちは!伊五十八です。ゴーヤって呼んでもいいよ!苦くなんかないよぉ!」
そんな台詞とともにこの鎮守府に着任してからどれだけの時間が経ったのだろうか。随分前だったようにも思えるし、最近だったようにも思える。初めは提督に褒めてもらえるのが、被弾したときに勞ってくれるのが嬉しかった。
でもいつからだろう。提督が変わってしまったのは。
「おうゴーヤ、今日もよろしくな」
「でち……」
着任当初はいろんな海域に出撃させられた。鎮守府正面海域、バシー島沖、キス島沖、そして……東部オリョール海。今思えば提督が変わってしまったのはこの時かもしれない。ゴーヤがオリョール海から帰ってきた時、提督は怖い顔をしていた。そして次の朝、提督はゴーヤに言った。
「すまないが、今日は一人でオリョール海に行ってみてくれないか?」
本当にすまなそうな顔をしていたのを覚えている。あの頃、ちょうど鎮守府に戦艦が増えてきて燃料が少なくなっていた。だから、ゴーヤが燃料をたくさん抱えて帰ってきたときは提督に何度もありがとうと言われた。一人で潜る海は少し寂しかったけれど、提督さんの喜ぶ顔が何よりのご褒美だった。
それから、ゴーヤの仕事はオリョール海から燃料を取ってくることになった。毎日、毎日、オリョール海。それでも、帰ってくるたびに提督が出迎えてくれて「ありがとう」と言う。それだけで疲れが吹き飛んだ。そんな毎日が楽しかった。
けれど、そんな毎日が事務的なものになるのにそう時間はかからなかった。もちろん、今でも燃料をたくさん持って帰ってこれば提督に褒められるし、被弾すれば労ってくれる。しかし、帰投しても出迎えてくれることは無くなった。初めは感じていた喜びというものは既に感じられなかった。
やがて時間は流れ、妖精さんから改造が可能な練度まで達したと言われた時は嬉しかった。強くなれば昔のような時間を取り戻せると思ったから。しかし、その思いは提督の無情な言葉で切り裂かれた。
「改造?しないよ。だって入渠時間増えるじゃん」
改造をしないまま、時間が流れていく。いつしか最高練度に達して、それでも改造をせず、オリョール海に出撃し続ける。周りの、ゴーヤより後に着任した艦娘達が提督と結婚をしていくのを眺めながら今日もオリョール海に出撃する。
今でも提督はきちんと声をかけてくれる。しかし、その声には感情が込められていない。
最近、トラック泊地というところが深海凄艦に責められていると聞いた。しかし、ゴーヤの日常は全く変化しない。周りは変わっていくのにゴーヤだけが変わっていない。そんな毎日がずっと続くと思っていた。
朝5時、起床して提督指定の水着に着替える。今日もオリョール海に出撃だ。しかし、自分の部屋を出るとそこには提督がいた。こんな早朝に何の用だろうか。
「ゴーヤ、今日はオリョール海はいい。今日一日かけて、改造と近代化改修をしてくれ」
「え……」
「何だ?聞こえなかったのか?俺は改造をしてこいと言っているんだ」
初めは聞き間違いかと思った。けれど、やっぱり聞き間違いじゃ無くて。涙が滲み、視界が歪む。気づいたときには提督に飛びついていた。
「ていとくー!!」
提督と別れて、工廠へ向かった。当然改造と近代化改修のため。工廠へ向かう足も自然と早くなる。
「妖精さん、お願いするでち!」
「おお、ごーやさん。よーやくかいぞーですか」
「うでがなりますなー」
妖精さん達も喜んでくれている。その日は何時もよりよく眠れた。
次の日、提督から第二艦隊の旗艦を任せると言われた。夢のようだと思った。今までオリョール海で独りきりの艦隊だったのに連合艦隊の第二艦隊旗艦を任されるなんて。
メンバーが集まる。北上さん、大井さん、雪風さん、夕立さん、大淀さん。皆、提督と数多の戦場を勝ち抜いてきた歴戦のメンバーだ。だが、歴戦というならば自分も負けていない。オリョールの海に何回出撃したと思っているのだ。今こそ提督に力をみせるときなのだ。
海に出る。こんなに大人数で出ることなんていつ以来だろうか。少しだけ涙が出てくる。こんな弱気じゃ駄目だ。絶対に提督に認められて、昔みたいに褒められるんだ!そう再び決意して海を泳いでいく。
作戦は大成功に終わった。トラック泊地は無事に取り戻すことが出来、一人の轟沈も無く、艦娘全員でお祝いのパーティーが開かれることになった。ゴーヤの元に提督が近づいてくる。
「ゴーヤ、ありがとな。おまえのおかげで勝つことが出来たよ」
そう言って提督は頭を撫でてくる。何時もの事務的な会話じゃない、心のこもった「ありがとう」。ああ、これが聞きたかったんだ。この声を聞くために今までがんばってきたんだ。だから精一杯の笑顔で返す。
「はい、でち!」
改造を果たし、トラック泊地を取り戻した後もゴーヤの日常に変化は無い。今日もオリョール海に出撃し続ける。しかし、そのゴーヤの表情に疲れはない。
「えへへ」
その左手には銀色の指輪が付いていた。
後半に行くにつれて雑になっていくという。
そのうち加筆するかもしれない。