ISー(変態)紳士が逝く   作:丸城成年

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鉄拳制裁

 島に到着早々、束と千冬という豪華メンバーの合流で沸き立った面々は、とりあえずコテージで水着に着替えて海で遊ぶことにした。美しい砂浜に集まりし色とりどりの美人、美少女達が戯れる。この世の楽園かと見紛うばかりの光景だったが、実はその裏では欲望にまみれた陰謀が蠢いていた。

 

(ちーちゃん、これは裏切りじゃなく友を新たな境地へ導く為に必要なことなんだよ)

(砂浜は打撃型の千冬さんにとっては不利、ここならば勝機があるはずです)

 

 束と太郎は秘かに闘志を燃やす。代表候補性の少女達には計画を伝えていない。あらかじめ伝えていなくても太郎が言えば従うだろうという信頼、それと計画を知る者が多くなれば千冬にバレる可能性が高くなるという計算である。全員が全員腹芸が得意なわけではない。隠し事が苦手な者が一人ミスするだけで計画は水泡に帰す。

 世界最強を倒すには人数の有利だけでなく、不意打ちとフィールドのアドバンテージが必須なのだ。

 着替えは男の太郎が一番早く済んだので砂浜へも最初に着いた。そして太郎は入念な準備運動を続けている。太郎は男向けの紐パンを着用しており体を動かすたびバナナ型の膨らみが強調される。

 

「やあやあ準備は万端かなぁ」

「私はいつでもイケますよ」

 

 束に声を掛けられ太郎はサムズアップで答える。

 束の恰好は子供っぽい装飾の付いたワンピース型の水着だった。わがままボディで頭の中身もぶっ飛んだ束ならエグい水着を選びそうなところだが、恐らく今回の参加者中一番大人しいデザインである。

 太郎のコンディションを確認した束は、チラりと千冬へ視線を移す。太郎もつられるようにそちらを窺う。

 千冬は腕を組みながら代表候補生達の様子を見守っていて、二匹の獣の視線には気づいていないように見える。千冬の水着はアクアフィットネス用の露出が少ないセパレーツで下はスパッツとショートパンツになっている。上半身側がダークグレーでショートパンツはブラック一色の飾り気のないデザインである。色気を一切気にしない機能性のみを追求したチョイスだが、それでも洗練された千冬の体の魅力を損なうことはない。

 束の野獣のような眼光が千冬に狙いを定める。

 

「どこで仕掛けようか」

「みんなで遊んでいれば必ず隙が出来るはずです。そこを狙いましょう」

 

 千冬の規格外な強さを知っているだけに、太郎達は卑怯な作戦も平気で実行する。それにハナから二人に卑怯な手段を忌避するような倫理観など無い。

 まず太郎が全員を呼び寄せ、みんなで一緒に遊べるような物を用意しているのでそれをやろうと提案した。

 

「束さんに頼んで色々なアクティビティを用意してもらっているんです」

「まあ、この天才にかかれば俗物達のおもちゃを作るくらい簡単なんだよ」

「「おおぉ」」

 

 子供っぽい束の自慢にも千冬以外全員が拍手で応えた。実際世界最高の頭脳でありISの生みの親である束が作ったと聞けば誰もが心惹かれるのも当然だ。

 

「それじゃあ最初は海の定番からだね」

 

 束が手を海の方へ手を掲げれば、何も無い空間から大きなバナナボートが現れる。ISの量子変換システムの応用である。

 

「どう? 束さんのバナナァ、大きくて立派でしょお~」

「気持ち悪い言い方をするな」

 

 千冬が束の頭をはたいても、束は気にした様子もなくニヤニヤしている。

 

「なんとこのバナナボート、ボートで引っ張る必要が無いのです!」

 

 デデンと胸を張る束。しかし量子変換出来るくらいなのだからバナナボート自体に動力が備わっていてもなんの驚きも無い。むしろブルー・ティアーズやヴェスパのビットを大きくしただけのような物なら、ボートで引っ張らなくても動いて当然である。

 

「じゃあ早速乗ってみよっ。ちーちゃんの後ろは私だかんねっ!」

「それは絶対ゆるさん」

「では私が」

「殺す」

 

 千冬は自分の後ろに乗りたがる束と太郎へ殺気を向け牽制する。この二人に背後を取られるなど自殺行為以外の何物でもない。

 束達は諦めが悪く「それならクジで決めよう」と提案したが、この二人の場合クジに何か仕掛けがあってもおかしくない。むしろ仕掛けが無い可能性の方が低いと千冬には思われていた。千冬があまりしつこいようなら自分は乗らないと言いだして、やっと二人は諦めた。

 結局バナナボートにはラウラを先頭に太郎、シャル、セシリア、束、千冬の順番で乗ることになった。ラウラが先頭になったのは本人の希望によるものだ。部隊の先頭と殿(しんがり)は信頼出来る者がやらなければならない、つまり自分だと。他に希望者もいなかった為ラウラの意見がそのまま通り、後はジャンケンで決まった。

 

「ちーちゃん、遠慮せず束さんのワガママボディに掴まっていいんだよ」

「いらん、前を向け前を」

「えー掴まっておいた方がいいと思うんだけどなあ」

 

 千冬は束を軽くあしらっていたが、束の意味深な言葉に眉をひそめ警戒心を強める。

 

「それじゃあ、イッくよー。束さん特製マーラ君一号はっしんん!!!」

「おい待て今なんて言っ」

 

 バナナボート改めマーラ君一号が急発進する。激しく水飛沫を飛ばしながら海上を縦横無尽に走る。小さな波をジャンプ台に大きく跳ねれば搭乗者達の歓声が上がった。ISの最高速度に比べれば競走馬とロバより差があるのだが、バリアーで守られているISと違い直接風と水飛沫に晒されるので迫力がある。

 スリル満点の疾走。だが天災とまで呼ばれる者の作った物にしては普通である。普通に楽しめている。だからこそ千冬は警戒心を高める。だって名前もおかしいし。そして、その予測は正しい。

 

「みんな楽しんでいるかーい」

「「おおおおう!!!」」

 

 千冬以外全員の歓声を聞いて束は不敵な笑みを浮かべる。

 

「ちーちゃんはまだ足りないみたいだねえ」

「いや楽しんでいるぞ。だから余計な事はするな」

「マーラ君一号には秘められた機能が存在するから、絶対ちーちゃんも満足するはずだよ」

「相変わらず人の話を聞かん奴だ」

「さあ真なる姿を見せてマーラ君」

 

 千冬が束の後頭部をどつこうとしている間に、束が先に仕掛ける。

 束の掛け声と同時にバナナの外観が剥がれ落ち、ご立派様へと姿を変える。血管が浮き出た怒〇が現れた。

 【注意・巨大な男根型のご神体を祭る神社は日本各地にあり、神輿として担いでねり歩いたり、跨ったりするなどの儀式が確認されている。男性器を一種のシンボルとして扱う諸々の行為は決して低俗なものではなく、子宝や豊作を祈願するお目出度いものである】

 

「おまッこれ!?」

「ち、ちーちゃん首絞めないで」

 

 超絶リアルなマーラ君に驚いた千冬は、前に座っている束の首を掴んで激しく揺すった。

 

「なんて物を作っているんだ、お前は」

「バナナは剥けるものって常識だよ♪」

「貴様が常識を語るな。こいつを止めろ!」

「わーわー駄目だって暴れちゃっ、仕方が無いポチっとな」

 

 強い拒否反応を見せる千冬に、束は仕方なく何処からか取り出したスイッチを押す。

 ヴヴヴヴウヴヴヴッヴッヴウヴウヴ。

 マーラ君渾身の振動が搭乗者を襲う。

 

「おっおっおっ落ち着け」

「あああっえtwたww」

「なにッ? なにこれ!!!」

「ほぼイキかけました」

 

 矢継ぎ早に繰り出されるサプライズに喜びの声が上がる。

 みんなの跨っているマーラ君が強烈な振動を始める。これが何をもたらすのか。各々のデリケートゾーンを振動が責め立てることとなるのだ。だが、しかし強靭な精神力で耐えられる者がいた。

 千冬は足の踏ん張りがきかない状態でありながら、腰のひねりと腕力だけで鋭い突きを束の背中にブチ込んだ。

 

「調子にッ乗り過ぎだッッッ!!!」

「げっべえええ」

 

 束は無防備な背中に千冬の攻撃を喰らいマーラ君から落ちて行った。これで一件落着──────とはならなかった。マーラ君をコントロール出来る唯一の人間である束がいなくなった為、束以外の全員を乗せたマーラ君は南の海を三十分間振動しながら彷徨い続けることになった。

 マーラ君は時速五十キロメートルを超える速度で出していて常人ではダイナミック途中下車イコール怪我である。常人ではない千冬は普通に手を放して降りた。結局マーラ君がエネルギー切れで止まるまで三十分ラウラ達少女と太郎は激しい振動にさらされ続けた。ちなみに太郎とラウラは疾走し続けるマーラ君から飛び降りても大丈夫なくらい頑丈だが太郎は気持ち良いから、ラウラは責任感から降りなかった。

 砂浜に戻って来た太郎達は足腰が立たなくなっていた。元気な状態の千冬は束に拳の雨あられを放ち、束は数秒間宙を舞うことになった。本来であれば束と同盟状態の太郎は束を援護すべき所なのだが、残念ながら勃つだけでやっとの状態で戦力にはならなかった。




読んでいただきありがとうございます。

ご立派様は信仰の対象だからいやらしくないのは確定的明らか。

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