擬伝 〈Turbid Masquerade〉   作:マッハ真紅朗

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「初期構想案?バカめ、ヤツは死んだわ!」

お待たせしました。第一話Bパートの投稿で御座います。



第一話 開始点(スタート)は門(ゲート)から part.B

 

 

 

「・・・ファン・・・トム?」

 

『そ。もう隠す必要も無いよね?

 なら、一気にちゃっちゃと

 答え合わせの続きと行こーじゃん。』

 

 

 

異形ーデュラハンーは、話を捲くし立てると

顔面を無邪気に歪ませる。

 

歪で醜く、凄惨で無惨なそれは

恐らく微笑み。

 

手始めにとばかりに、パンッと

両掌を打ち合わせ、空間を叩く。

 

すると周囲の風景が、風に煽られる火の如く

揺らめき出し、その下からジワリジワリと

全く別の風景が浸食を始める。

 

 

清潔感漂う白い壁が

油と煤にまみれたコンクリートに

 

清涼感を与える流れる模様が

凹凸にひしゃげ捻じ切れた鉄パイプに

 

風景を映す幕が火に焼かれ、消え落ちていく。

 

今まで病院だった建物が

見知らぬ廃工場へと姿を変えた。

 

 

いや、正確には元の姿を現したのだ。

 

 

 

迂闊だった。

 

隔離されていたのは、病院の人達ではなく

自分自身に他ならない。

 

なら、一体いつの間に?

何処で自分を術中に陥れたのか?

 

しかも、"その力"は間違いなくー!

 

 

覚醒して間もなく、トップギアでの稼働を

余儀なくされ、挙げ句翻弄され続けた脳細胞が

悲鳴を上げる。

 

 

『へぇ~。中々便利じゃん、コレ。』

 

 

"その力"の程を、さも愉快げに

しげしげと観察しながら、デュラハンは嘲笑う。

 

 

そう、其れは本来なら

使い手である深紅の少女の持つ力。

 

しかし、其れは今となっては

使い手である深紅の少女の忌む力。

 

故にこそ、ほむらは確信を抱くに至った。

 

 

佐倉杏子であって、佐倉杏子ではない者。

 

 

紅き魔法少女が、自ら戒めとして封印した

"幻惑の魔法"

 

邂逅から翻弄され続けた力は

正しく彼女の物。

 

だが紅き魔法少女は、その力を使えない。

彼女は、心の内からその力を拒否している。

 

願いの下に授けられた奇跡は

他ならない、願いを祈った少女に

否定されたのだ。

 

 

だからこそ、彼女たる証の魔法は

彼女が彼女である限り、解き放たれる事はない。

 

ならばこそ、今目の前にいる存在は

二律背反の上で成り立つ、歪な魔物。

 

それ以外に、どう結論づけられようかー

 

 

『"アタシが仮面の差し金かどうか?"』

 

 

デュラハンが話を続ける。

暴走状態の思考が、脳神経に突き刺さる。

 

頭痛を伴う眩暈が襲い掛かり

ほむらはその場に、ペタンと座り込んでしまう。

 

 

『多分アンタが言いたいのは

 その仮面が"ムジュラ"か否か、だろ?』

 

 

顔を上げると、眩暈に蹂躙される視界の奥から

デュラハンが近付く影が見える。

 

 

『残念ながら、答えは"NO"。不正解さ。

 ま、"仮面"はあってるからオマケで50点ね。』

 

「・・・なら・・・一体、誰がお前を・・・?」

 

 

眩暈は収まりつつあるも

脳からの不調は首下にまで及びつつある。

息も絶え絶えに、問い返すのがやっとだった。

 

 

『"闇色の魔法使い"。ソイツが仕掛け人さ。』

 

 

地面を踏みしめる音が止む。

それは、デュラハンが手の届く距離に到達し

ほむらが、必殺の圏内に囚われたという事。

 

 

『そして、アタシが何のために出向いたか。』

 

 

眩暈が完全に取り除かれる。

 

ノイズが取り払われたクリアな視界の中。

やや中距離にあって、ほむらを見下ろす敵。

 

その手中に、魔力が形をなすほどに収束し

醜い屑鉄の魔槍を生み出していく。

 

 

『勿論、アンタを絶望させに来たのさー!』

 

 

最上級に愉悦と恍惚に歪んだ表情。

聖人を侮蔑する如く、手に持つ十字の槍は

黒焦げで所々錆び付いている。

 

魔槍を突き付けられて尚

幻惑の力に侵された身体は停止したまま。

 

時間遡行からの直後。

体力を十分に回復できていないほむらには

抗う余力すらなかった。

 

 

『大分効いてるみたいじゃん。

 アンタら魔法少女ってのは、何かとしぶとい

 仕組みになってるらしいけどさ。』

 

 

無抵抗な獲物を前にして

デュラハンの語り口が、滑らかに声高に

舐り甚振る様に、管を巻く。

 

 

『こうやって直接、"魂に何かすれば"

 案外、脆くて壊れやすいモンだね?』

 

 

ほむらの心臓が、跳ねる。

 

 

"魔法少女"の仕組みを理解した者ならば

誰でも否が応でも、突き付けられる

現実とその末路。

 

恐らく、目の前の魔物は

それらを承知の上で語り嘲るのだ。

 

 

魔法少女の終着点とは、絶望の極点。

絶望の極点とは、新たな呪いの出発点。

 

少女は、絶望に魂を染め上げて初めて

その無垢な卵の殻を脱ぎ捨てる。

 

 

ならもしも卵の中に、雛が2羽いるとしたら?

殻を破る時点で、存在確立の取捨選択が

発生するとしたら、どうなる?

 

そして、その内の1羽が

自らをファントムと呼ぶのならばー

 

 

『いやあ、"コイツ"から出てくる時もさ。

 ちょーっと"魂"ごと揺さぶり掛けたら

 バリッて割れてもう呆気ないのなんのって!』

 

 

自らに与えられた可能性。

その中で、最も信頼の置ける選択肢が

潰えたという事に他ならない。

 

 

「なら・・・本物の"佐倉杏子"は・・・?」

 

『死んださ。とっくになァ!!』

 

 

無慈悲な宣告。

それは同時に、無力な己への

死刑執行を意味していた。

 

魔槍が、突き出される。

悪逆たる魔力を纏った穂先が空を裂き

真紅の断頭台となって襲い来る。

 

 

時間にしてみれば、一瞬の出来事だろう。

 

 

瞬きをする間もなく、自分の頭部は抉られ

想像を絶する激痛に、のたうつ事になる。

 

きっと

 

"あの時、死んじゃってれば楽だったのにー"

 

そう思いながら、無力感からの諦めで

絶望に向かい、歩き出す。

 

 

"こんなワタシは、死んじゃえばー"

 

 

ふと、あの時と同じだなと思った。

 

何も出来ない、何も変われない自分に

嫌気がさして、失望のまま"死"という殻に

未来永劫、自分を閉じ込めようとしたあの時ー

 

 

奇しくも、見知らぬ場所に誘われ。

形は違えど、醜悪な異形に襲われ。

 

 

それでも、ただ一つ違ったのは

 

救いの手が、煌びやかな魔弾となって

降り注いだ事。

 

希望が、華やかな少女となって

駆けつけた事。

 

 

だが今はもう、そんな奇跡は起こり得ない。

 

かつて共に戦った仲間との日々も、絆も。

全ては過去に消えた、遠い未来。

 

 

自分は結局、何一つ成し得ぬまま

何一つ救えぬまま、一人虚しく人知れず

 

ここで、命を散らすのだー

 

 

 

真紅の魔槍は、文字通り眼と鼻の先。

 

ほむらの身体が、ぐらりと後方へ倒れ込む。

思考を手放し、生存の望みすら放棄しようと

全ての力が抜け落ちそうになる。

 

 

穂先の狙いが、喉元に定まる。

 

 

だがそれは、意識でも身体でもない

根底の、魂からの抗いだったのか。

 

 

ほむらが倒れ込んだのは、槍の進行方向。

 

つまりそれは、槍の到達がほんの一瞬

遅れる事を意味した。

 

ただの、ほんの一瞬。

 

だが、その一瞬で十分だった。

 

 

 

"最後の希望"が届くにはー!

 

 

 

突如として魔槍が、デュラハンの肢体が

炸裂音と火花をスパークさせて後ずさる!

 

 

『・・・ッ、グゥッ?!』

 

 

ほむらには見えていた、聞こえていた。

 

潤沢な魔力が爆ぜる、火薬のような発砲音。

それに伴い飛び込んできた、4発の銀の魔弾。

 

紅の輝跡を螺旋状に織り交ぜながら

まるで、ほむらを避けるように変幻自在の軌道で

飛来した弾丸は、一発も過たず異形に命中した。

 

その弾丸に刻印されていたのは、魔法陣。

陣の中央に、宝石のようなマークが据えられた

見たこともない魔法陣。

 

 

「ふぅ、正に間一髪ってトコだな・・・!」

 

 

ほむらは、その見たこともない弾丸と

聞いたこともない声の主に救われたのだ。

 

 

『・・・テメェッ、何モンだ・・・!』

 

 

着弾ダメージが煙となって立ち上る。

 

唸るような声色を怒りに震わせて

デュラハンが、ほむらの後方を睨む。

 

 

「おいおい、ファントムのくせに俺の事を

 知らないのか。さてはお前"モグリ"だな?」

 

 

倒れ込む寸前。

地面に手を着く体勢になったほむらは、自らも

デュラハンの視線の先へ上半身を巡らせる。

 

救いの声の、その姿を確かめるために。

 

 

青年が立っている。

精悍で、涼やかな微笑みを見せる青年が。

 

至極今時なファッションだ。

 

耳に掛かる長さの、程良く整えられた茶髪。

フワリと着こなされた、薄手で黒い革製の上着に

鮮やかな赤のズボンが良く映える。

 

その手に携えるのは

肉厚の刀身を備えた銃剣。

 

その全容は、精巧なアンティーク。

しかし銀の銃身には、少しポップな

ワンポイントのパーツが取り付けられている。

 

黒曜石を金で縁取った"握り拳の手形"

 

円筒形の銃身と木製のグリップ。

その境界に配された真新しいアクセントは

銃剣が、ただのアンティークではない事を

明らかに主張している。

 

そして、青年の下腹部。

ベルトの中央にも、金で縁取られた黒の手形が

据えられている。

 

銃剣と違う、握手を求めるように開かれた

平手状の手形。

 

 

「女の子をこんな場所に連れ込もうなんて

 随分と悪趣味なファントムらしいな!」

 

 

微笑みに戦意を漲らせて

挑発混じりに、青年は歩み寄る。

 

 

『チッ・・・、何だかよく分かんねーケド

 随分ナメた口、利いてくれるじゃん?』

 

 

応えるように、デュラハンの全身から

突き刺すような殺意が迸る。

 

先程の銃撃により後退した身体は

獲物を射程外に残しつつも

魔槍を臨戦態勢で構え直す。

 

 

「好き勝手人を絶望させる奴らに

 マナー守れるほど、紳士じゃないんでね。」

 

 

鋭く尖った殺意を受け止めながらも

青年の口調も歩調も、臆する様子はない。

 

ゆったり毅然とした姿勢のまま

青年は、倒れ込むほむらの下へ辿り着く。

 

 

「遅くなってゴメンな。」

 

 

しゃがみ込んでほむらの顔を覗き込む青年。

間近で顔を付き合わせると、その眼差しの奥に

金剛石の様な、輝き漲る不朽の意志が見えた。

 

だが、ほむらと青年。

双方の視線が交錯した一瞬だけ。

 

青年の表情が、驚きと慈しみに溢れた気がした。

 

 

「・・・アナタは。今度は一体何者なの?」

 

 

今のほむらに、青年の表情を案ずる余裕は無い。

ただひたすらに翻弄された少女は、眼前の相手が

敵か味方かを判別するだけで手一杯だった。

 

するとその容態を察したのか

青年が、先程よりも深い微笑みを見せて言う。

 

 

「指輪の魔法使いさ。」

 

 

微笑みのすぐ横に掲げられた右手の甲。

その中指には、極大振りの指輪があった。

 

ほむらの魂が感じ取る。

円形のリングに納められた、琥珀色の宝石

その内部に秘められている魔力を。

 

そして何よりも、指輪を持つ青年からも

放たれる、強烈な魔力の波動。

 

今まで相対した者達の中でも

雄大で絢爛で、猛り爆ぜるような

強力な力が、ほむらの魂を触発する。

 

 

押し寄せる波動が、まるで宝石の輝きの様に

少女の魂を照らし出す。

 

闇の中に在って、尚も前を照らし続ける

魔法の輝き。

 

一言で言い表すならば

"希望"という言葉が相応しいか。

 

その輝きに魅入られた刹那

ほむらの耳に、遥か遠くから竜の嘶きが届く。

 

 

「悪いけど、ココで待っててくれ。

 ティータイムまでにはケリを着ける。」

 

 

事も無げに宣言すると、青年は立ち上がる。

 

ほむらが、その姿を視線で追い掛ける中で

青年は右手の指輪をベルトの手形に差し出した。

 

 

《Driver on, Please!》

 

 

英語の音声が鳴り渡る。

すると、今まで革製だった青年のベルトが

見事な銀の装飾品へと変化した。

 

銃剣と合わせられた、アンティークなデザイン。

 

緻密にして精巧なバックル部には依然として

平手の形が見えるが、回転式のサークルに

安置された手の左右には、上下互い違いで

備わる抓みも追加されている。

 

 

青年が、一歩踏み出すと同時に抓みを操作する。

 

右の抓みを下に。

左の抓みを上に。

 

その手順に応え、サークル内の手形が

リズミカルな駆動音と共に、左側に傾倒する。

 

 

《Shava Duvi-Touch,HEN-SIN!

  Shava Duvi-Touch,HEN-SIN!》

 

 

またも鳴り響く、英語の音声。

しかも先の比ではなく、高らかに歌うように。

 

ジャズのスキャットを連想させる声。

 

それは、七色に輝く魔法陣を手形に宿した

あの銀のベルトから発声されている。

 

高らかに、高揚を刻みながら。

 

奏での中、青年は悠然と

左手に真紅の指輪を装着する。

 

 

「これは・・・!」

 

 

もはや、状況の些末でさえ

呆然と見るしかなかったほむらにも

その"変質"は手に取るように理解できた。

 

スキャットの高揚に応じるように

空気中に漂うエーテルが高鳴り

青年の周囲へと収束していく。

 

 

(まさか、この音声は・・・"詠唱"なの?)

 

 

"詠唱"とは、古くから魔の法を使う者達が

自らの力を行使するため世界に囁いてきた

現法則への異議と、改法則への意義の"言霊"

 

その行程・行為を、あのベルトは在ろう事か

魔の法とは余りにも懸け離れた謳い文句で

執り行おうと"機能"している。

 

魔道具だというのか。

余りにも俗世的で、余りにも現代的な機能を

発する、あの銀の腰飾りが。

 

ベルトを注視するほむらを余所に尚も

"詠唱"は高鳴りを上げていく!

 

そしていよいよ。

高揚が最高潮を刻み、エーテルの高まりが

最高位に到達した、その時ー

 

 

「変身ー!」

 

 

その"言霊"を世界に告げ

青年は、詠唱の完成を体現する!

 

 

 

 

青年の指が、真紅の指輪、そのフレームを弾く。

 

セーフティを解除され、仮面の如き姿となった

指輪は、流れるようにベルトの手形機構

ハンドオーサーに滑り込む。

 

 

《FLAME, Please!》

 

 

指輪が触媒として起動すると、ベルトを介して

青年の魔力が注がれ、満ち満ちていくー

 

大気を翻し、左手が側面に掲げられる。

それを合図に、触媒の指輪が満ちる魔力を

朱く煌めく魔法陣として解き放つ。

 

魔法陣は、空気中の大気や元素を魔力物質に

巻き込みながら、青年の身体に寄り添う。

 

 

《HEAT!HEAT!!》

 

 

青年の身体が、左手の指先から魔法陣に浸され

煌々と燃える炎のエレメントに覆われていく。

 

炎の中、元素がエーテルと溶け合い

組み込まれた魔術式を通して、その結合を

青年を"変身"させるローブへと"改造"するー

 

 

《HEAT! HEAT!!HEAT!!!》

 

 

魔法陣は、青年を覆い尽くすと同時に

内包した元素を燃やし切り、役目を終えて

エーテルへと還っていく。

 

魔法陣が消えた後に残ったのは

大気を焦がす炎のエレメント。

 

そしてその中に佇む、"仮面の戦士"。

 

 

体を包み込むのは、裾長の艶やかな黒のローブ。

 

身を飾り彩るのは、大小様々な煌めく朱の宝石。

 

 

ローブの端々や、力強さを象徴する肩当て。

胸腹部及び、手首足首を守る宝石群。

 

その何れもが、羽や焔をあしらった

銀のフレームで纏められている。

 

 

そして何よりも目を引くのが

竜のシルエットを残す、仮面の頭部。

 

銀のフレームに抱かれた朱い宝石は

左手に携えた指輪と同じ。

 

しかし、眼を形取る銀のライン

額の宝玉を抱き、後ろに向き立つ二本の角

 

青年の頭部をガードし

立体的に造形された仮面は

魔物とは異なる、未知の異形感を映し出す。

 

 

 

目の前に現れた

竜の影を纏う、異形の魔法使い。

 

変身の余波で、大気が巻かれ風を生む。

 

風に吹かれて、魔法使いのローブが靡き

ほむらの黒髪が揺れる。

 

一瞬だけ、魔法使いは案ずるように

少女を視線で一瞥し

 

変身の指輪を、魔物に見せびらかすと

大胆不敵に言い放つ。

 

 

『さぁ、ショータイムだ。』

 

 

 





2パート構成にするつもりが
色々と尺を割きすぎてしまいました。

もっとペース配分を見極めないといけませんね。

ようやく次回で戦闘パートに突入となります。
不定期極まりない更新状況ですが、次回もお付き合い頂けたら幸いです。


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