「グレイちゃん、グレイちゃん!ライネスさんとこのメイドさんと一緒にDVDみない?」
そんなことを魔術協会の総本山である時計塔の教室で拙に話しかけてきたのは拙が師匠の弟子の中で特に苦手とする兄弟子のフラット・エスカルドス氏だ。
師匠曰く「才能だけはあるがただの馬鹿」とのこと。自分もあまり頭のいいほうではないがフラット氏の頭の螺子の抜けっぷりは頭が痛くなることもある。
パッと見た感じの彼は顔立ちも整っており育ちの良さを感じさせる御曹司にしか見えない。
事実、彼の実家は辛気臭い墓守一族の拙の実家とは違い日の当たる地中海の名門出身らしい。
才気に溢れ、容姿も血統も兼ね揃えてる。
だがそれを補って余りあるほど『残念』な人物であるのだ。
別に家柄を鼻にかける高慢な性格をしてるとか陰湿陰険とかそういうことじゃない。
具体的に言うとこの時計塔という最高学府(いまだに拙にはその実感がないが)で惚けた…というより微妙に幼い言動をとる精神性。
かと思えばその卓越した才能で様々なトラブルを引き起こし周囲を引っ掻き回し自分は要領よく立ち回るちぐはぐさ。
師匠であるロード・エルメロイⅡ世がたびたび高血圧で卒倒する原因を作っているのだが本人はその自覚がないようだ。
そんな彼を苦手とする拙が彼の用事に付き合う義理も義務もないのだが会話で彼が少し気になることを言った。
『ライネスさんとこのメイド』である。
ライネス・エルメロイ・アーチゾルテのメイドともなれば彼女の暮らす館に二桁くらいいるのだろうが彼が指す『ライネスのメイド』となれば一人しかいないだろう。
トリムマウ、師匠の師匠が作った魔術礼装をもとに師匠が改良したことにより人型となった自動人形(メイドゴーレム)。
以前彼はとあるハリウッド映画を見せてトリムマウを暴走させたらしい。
彼がどんな映画を見せるのか知らないが…また変な影響を与えないだろうか、それが心配だ。
そしてそれを知ってて放置した拙に類が及ぶのではないかそれが一番大きな問題だが――――
「申し訳ありませんが拙はこれから師匠に頼まれた買い物があるので断らせてもらいます」
「あちゃーそっかー…じゃあ仕方ないね、また今度!」
「…機会があったら」
今度…というよりそんな機会は当面ごめんだが曖昧に濁しておく。
これも倫敦に来てから培ったスキルだ。まぁ事実買い物はあるので嘘は言ってない。
こうして拙の倫敦での日常は過ぎていくのであった。
本のしめらしいことを言えばそれっぽくまとまるだろうか…
フラットのグレイに対する態度は捏造です。
エルメロイⅡ世の事件簿を続刊が出たらわかるかもしれませんが。