ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 5月ー④

辰巳病院の優ちゃんの病室の扉に凭れかかるようにして私は立ち尽くしていた

 

先ほどまで総司くんがお見舞いに来ていたのだ。彼は一般人で影時間のことやシャドウのことは順平からゲームの設定として話を聞いているだけのはずだった。

 

しかし、その前提条件が違うということになると話は根本から変わってくる。彼は眠り続ける優ちゃんに対し、『自分のエゴに巻き込ませてごめん』と謝っていた。

 

それはどういう意味?彼の言うエゴって何のこと?

 

私はふと優ちゃんに出会った時のことを思い出した。

 

確かにあの時、優ちゃんは言った。「兄さんになるのを待っている」って。象徴化していて気づかなかったけれど、あの場所に総司くんはいたのだ。

 

私があの日、あの時間に、巌戸台駅に来ることを総司くんは“知っていた”。背筋に一滴の冷たい汗が流れる。

 

そんなことがありえるはずがない。あの日は人身事故があって、たまたまあの時間につくことになってしまっただけ。本来ならもっと早い時間についているはずだった。

 

「……事故が起こることも知っていたの?私が影時間ぎりぎりに到着するのを解っていた上で、私と優ちゃんを出会わせるためにあそこにいたって言うの?」

 

そんなことありえない。未来予知なんてオカルトある訳がない。

 

何よりシャドウが危険であることが解っているなら、どうして優ちゃんを特別課外活動部に入れる様に動いた?あの優ちゃんのことを思って行動する総司くんが。

 

「そうしなければならない理由があるっていうこと?私たちより先に大型シャドウに優ちゃんと荒垣さんを戦わせた理由が」

 

私はその場で考え続けた。優ちゃんが起きて自力で押したナースコールによって来たお医者さんたちが来るまでの間、ずっと。

 

 

 

 

5月15日(金)

 

ベルベットルームの住人であるテオドアに頼まれていた依頼の品を届けにポロニアンモールの路地裏から青い扉をくぐった先にいたのは、アッシュブロンドの髪を揺らしながら焦点の合わない瞳をただ前に向ける10歳くらいの少女。イゴールの隣にポツンと座り、まるでヨーロッパのお人形さんのようだった。

 

「これは結城様、ようこそいらっしゃいました」

 

エレベーターボーイの格好をしているテオドアが私に気づき話しかけてくる。イゴールも私に気づき一礼をした後、少女に向かってタロットカードを向け浮かべた。すると2枚のタロットカード以外が床に散らばった。

 

「ふむ、塔と愚者のアルカナ。本来、この子のアルカナは塔でありますが、奇跡的に愚者のアルカナも有している。いや、これは本来の持ち主から委託されたものと考える方が自然ですかな」

 

イゴールはそんなことを呟きながらタロットカードを消した。そして少女の瞳をのぞき見る。

 

「本来、この場所はなんらかの契約を結んだもののみが訪れる。そして、ここで起こることは全て必然。この子がいる時にあなた様が訪れたのも何か意味があるのでしょう。私はしばし席を空けることとします。テオドア、あとは任せますよ」

 

そう言ってイゴールは姿を消した。残ったのは無表情で前を見る少女、オロオロ狼狽するテオドア、何が何だか分からない私という3人だけだった。

 

とりあえず少女の隣に座る。テオドアが美少女と美幼女、絵になりますねと言っていたが邪魔なので氷漬けにして少女に話しかけた。

 

「お名前はなんていうのかな?」

 

「……ゆう」

 

まさか、その名前が出るとは思っていなかった。1週間前のあの日、大型シャドウが呼び出したシャドウから不意の一撃を浴びて昏倒した優ちゃん。大型シャドウを倒し、モノレールの暴走を止めた後に駆け寄ったが、意識は回復することなく影時間が終わるのを待って病院へ運んだ。それから1週間、今も眠り続けている。

 

私の目の前にいる少女が優ちゃんの精神だとしたら、この子がここにいる限り彼女は目覚めないと言っても過言ではない。私は少女に語りかける。はじめて会った時のこと、一緒に戦うことになった時のこと、頼りにしていると話した時のこと、そして総司くんの話をした。やはり双子ということで別枠なのだろうか、すぐに反応があった。

 

「……兄さん?」

 

まだまだ適いそうにないなぁと苦笑いを浮かべていると、優ちゃん(幼)はぷるぷると震えだした。先ほどまでとは打って変わり、色々な感情が織り交ざったような表情を浮かべている。

 

「……何でも出来る兄さん。……きっと兄さんだったら、もっとうまく出来てた」

 

私はこの時、特大の地雷を踏みつけたのだと遅ればせながら悟った。

 

「どうして、私と兄さんが双子なの!兄さんが1歳でも離れた兄さんだったら、こんなに苦しまなくていいのに!比べられる、大好きな父さんや母さんに。友達から、誰からも何でもできる兄さんと何もできない私は比べられる!苦しいの、私は、私はっ!!」

 

大粒の涙を流し膝を抱え込むようにして蹲る優ちゃん。そしてわんわんと泣きだした。

 

これまでずっとひた隠しにしてきた己のコンプレックスと対峙して、制御が効かなくなっているようだ。

 

「あのお方は……貴女さまと違い精神体。おそらくこのベルベットルームの異常性も加味され、不安定になっているものと思われます」

 

ジャックフロストのブフーラの呪縛から解かれたテオドアが私の近くまで来て告げた。

 

ガクガクと身体を震わせているが、私は無視して優ちゃんを見る。ひっくひっくと嗚咽を上げる彼女を見て、これはどうやって慰めたものかと思っていたらテオドアが「ひぃっ」と何か恐ろしい物を見たかのような悲鳴を上げ後ずさった。

 

扉の方を見るとテオドアと似たような青色の衣服を着た女性が2人立っていた。

 

2人はそれぞれ、テオドアと優ちゃんの前まで来る。

 

テオドアはともかく優ちゃんに何をするつもりなのかと思えば、脇に抱えていた図鑑のような本を、未だに泣き続けている優ちゃんの頭に振り下ろした。

 

「ふぎゃあっ!?」

 

猫が尻尾を踏んずけられたような悲鳴を上げ消える優ちゃんの精神体。

 

「って、ああっ!!消えちゃった。ちょっ、大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫、問題ないわ」

 

「いやいやいや」

 

私が女性に詰め寄ろうとした瞬間、腕を引かれた。視線を背後に向けるとぼろぼろになったテオドアが首を全力で横に振っている。まるでこのまま行かせた方がいいと言っているようで。

 

「賢明ね、テオドア。では、失礼いたしますわ。迷惑をかけたわね、エリザベス」

 

「いいえ、お姉さま。タイムパラドックス、過去への介入それは、いわば禁断の果実。私、この体験を忘れることはないでしょう」

 

そんな会話をしつつ消えゆく2人。

 

残されたのは私とボロボロになったテオドラのみ。

 

「いったい誰なの?」

 

「私の姉たちにございます」

 

「というか、優ちゃんは大丈夫なの?」

 

「恐らくあの少女も現実の世界で目を覚ます頃かと思われます。当然のことですが、ここで起きたことは覚えていらっしゃらないでしょうが」

 

「そっか。あ、テオドアこれ」

 

私はテオドアに目的である依頼の品を渡した後、その足で優ちゃんが入院している辰巳病院へ向かった。そして、その病室に入ろうとして聞いてしまった。

 

『……ごめんな、優。あとは僕の方でどうにかするよ。今後はイロイロと条件が厳しくなるけど、優は先輩たちと一緒に強くなって。僕のエゴにつき合わせて本当にごめんね』

 

 

 

 

優ちゃんは検査が必要ということで退院は明日になるということを桐条先輩に連絡を入れた。そして、私は優ちゃんと話をした後、街をぶらぶらしながら帰路についた。

 

その帰り道の中で私は総司くんの言葉を思い返し、ひとつの結論に至る。

 

「ここは単刀直入に。総司くんに真意を聞こう」

 

私がうだうだ考えてもそれは私が納得したいように考えるだけで無意味なものだと思った。

 

総司くん自身に聞くことで得られる何かがあるかもしれないしね。

 

その機会は思っていたよりもはやく得られたのだけれど。

 

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