ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 5月ー⑤

5月16日(土)

 

「皆さん、ご迷惑おかけしました!」

 

1週間前に倒れて以降、眠り続けていた優ちゃんが巌戸台分寮に戻ってきた直後、そう言って頭を下げる。律儀な優ちゃんにゆかりたちは苦笑いを浮かべ、各々労いの言葉をかける。桐条先輩はナビゲーターとしてサポートをしていて、優ちゃんが攻撃を受けた瞬間のことを見ていることもあって人一倍心配そうにしている。

 

「お前は行かないのか?」

 

優ちゃんを労ってきた真田先輩が傍に来て尋ねてきた。

 

「私は優ちゃんが起きたタイミングで見舞っていたので、いっぱいお話ししましたよ」

 

「……そうか」

 

真田先輩はそう言って背を向ける。一応、高等科のテストが近づいていることや優ちゃんの入院も重なって、タルタロスへの探索は見送ってきた。それに連なって真田先輩の探索メンバー復帰も延期されている。私はふと思い当ることがあり、声を掛けた。

 

「先輩。ひとつ確認しておきたいんですけど、……総司くんって確実に“象徴化”していましたよね?」

 

「ん、ああ。ゴールデンウィークの期間、ここで過ごした3日間は確実に象徴化していた。間違いない。……待て。そういえば岳羽がお前は隠しカメラの件を怒っていると言って」

 

「ゆかりと一緒に待ってて下さいね。それ相応の罰はすでに考えてありますから」

 

「……藪蛇だったか」

 

真田先輩は天を仰ぎ見る様にして立ち尽くす。ゆかりも何かを感じ取ったらしく、私を凝視している。私はにっこりと笑って手を振ると、優ちゃんの傍にいた彼女がダッシュでこちらに駆け寄ってきた。

 

「今の笑みって何?なんなの?」

 

「そんな腹黒いことなんて考えていないよ。ただ、隠しカメラの件でちょっと真田先輩に聞きたいことがあったんだ」

 

「……ああ。私、完全にとばっちりじゃん」

 

ゆかりはがっくりと女の子座りで項垂れた。でもゆかりって、隠しカメラで私を監視していたんでしょ。桐条先輩から根掘り葉掘り聞いているんだよ。

 

「安心して2人とも、罰は桐条先輩が前線に復帰した時にまとめてするから」

 

それぞれの方法で落ち込んでいた2人が私に顔を向けた。

 

「美鶴が前線に復帰?誰か、当てがあるのか、結城」

 

「いえ、特には。ただ2人は巻き込まれただけなのに罰を受け、当事者がナビゲートして罰を受けないっていうのは理不尽なのではないかなって」

 

「「ちょっとまて!タルタロスでやるつもりなのか!!」」

 

真田先輩とゆかりがハモりながら声を上げた。いやだなぁ、そんなに反応することもないでしょ。今の階層だったら弱点や行動パターンも解っていて怖いことないじゃない。私はにんまりとした笑みを2人に向ける。

 

「うわわわ、湊。その笑い方は完全にアウトだよ」

 

「子供が見たら失禁するレベルだ」

 

さてお二人が何か言っているようだが、私の決意は変わらない。

 

ネタ衣装はちゃんと別枠で収拾しているんだよ。見られないようにしてね。ふふふ。

 

「結城先輩、何の話をされているんですか?」

 

と、そんなやりとりをしていたら優ちゃんが寄って来た。私は彼女の頭を撫でながら何か用があるのかを尋ねる。

 

「ううん。ただの世間話。で、どうかしたの?」

 

「はい。ぐっすりと休んできたので、私タルタロス行けます!」

 

優ちゃんはやる気を見せている。それに合わせて順平が調子に乗っているのが見えるが、桐条先輩に睨まれてしょぼんと小さくなった。その桐条先輩ははりきっている優ちゃんに無情の一言を告げた。

 

「鳴上、残念ながら明後日から中間テストだ。それが終わるまでタルタロス行きはない。退院した直後のキミには酷だと思うが」

 

「テ…ス…ト……。明後日から?」

 

わなわなと震える足取りで優ちゃんはラウンジに貼ってあるカレンダーを確認して、その場に崩れ落ちた。小さく、「……終わった」といった声が聞こえてくる。なんとも居た堪れない。どうやら順平よりも深刻のようだ……って、私はその理由を知っている。

 

優ちゃんは表向き総司くんを頼りにしているけれど、心の奥底にあるのは総司くんに頼られたい、勝ちたいって気持ちなのではないかと思う。

 

けどそれは生半可な気持ちじゃどうしようもない。総司くんは天才ではなく、何度も試行錯誤を繰り返し、何度も反復し身につける努力をしてきた秀才。その努力が実を結んで今の総司くんがある。優ちゃんのコンプレックスの解消は中々骨の折れる作業になりそうだ。

 

「こんにちはー。ご飯作りに来ましたー」

 

って、件の当人来ちゃったー!!

 

絶望の淵にいた優ちゃんが顔を上げ、玄関にいる人影を見て歓喜の声を上げた。

 

「兄さん!」

 

「優、大変だったね。困っていると思って持って来たよ」

 

総司くんは優ちゃんにノートを手渡した。蕾が開いた花のように、ぱぁっと表情を明るくする優ちゃん。ゆかりと桐条先輩が優ちゃんに断って、ノートを確認すると面食らったようにふらついた。

 

教科別にまとめられたソレはどこかの編集社が出版したような完成度であったのだ。

 

「月中の先生たちって普通の学校では考えられない問題を出すことがあるんだよって、これは分かってるか。とりあえず、僕のクラスで聞いた先生毎の雑学は、ノートの上の方に小さくまとめてあるから、それも一回目を通しておくといいよ」

 

総司くんが言うようにノートには所々、その教科と関係ない話が書かれているところがある。そういえば、高等科でもそういった話がちょいちょいあったような気がする。

 

「ねぇ、順平。グッドラックの類義語ってなんだっけ?」

 

「は?えっと、分かんね。先輩たちに聞いた方がはや」

 

「ああ、それなら『ブレイク・ア・レッグ』ですよ。ちなみに類義語じゃなくて『グッドラックの意味にも使われる言葉』ですけど」

 

私以外のメンバーは博識な総司くんの答えに感嘆の声を上げる。順平なんか肘で小突いて茶化しているけど、これは覚えていた方がいいよ。順平。きっとテストで出るんだ、この問題。

 

「どうかしましたか、結城先輩。顔色が悪いですけれど」

 

「ううん。気にしないで、それよりもたくさん買い込んできたんだね」

 

私は話を逸らすために総司くんが玄関脇に置いた大量のビニール袋に目を向けた。

 

「はい。買い物に行っている時間も惜しいので」

 

そう告げた総司くんの笑顔は妙に清々しい。私の後ろの方にいた真田先輩は、気を遠くやったのか蹈鞴踏んでいる。

 

優ちゃんは身体をびくっとさせ、僅かずつであるが徐々に総司くんから離れて行っている。

 

「これは月中の編入試験を受ける以来だよね、優。……スパルタで行くよ」

 

「あわわわわ、岳羽先輩へるぷ『ガシッ!』みぎゃあ!!」

 

ゆかりの足に縋りつこうとした優ちゃんだったが総司くんに首根っこを捕まえられ、奇声を上げる。ジタバタと手足を動かし何とか逃げようとしているようにも見える。

 

「どうせ、今まで通り部活一辺倒でやってきてないんでしょ。大丈夫、50番内は堅いから」

 

「やだぁああ、あの地獄はもうやだぁああ。入院なんかしてなきゃ、ちゃんと出来てたもん」

 

「はいはい、現実見ようね」

 

「うわぁあああああん」

 

総司くんに引き摺られて階段を上がっていく優ちゃん。

 

私たちは彼女の幸福を願い、十字を切った。

 

「……伊織にもああいったことが必要なのか。この中間テストで見極めさせてもらおう」

 

「ええっ!?」

 

桐条先輩の呟きに順平は驚き顔色が青白くなる。彼にも危機が迫っているようだ。

 

 

 

数時間後、ご飯を食べに来た優ちゃんはこの短い期間に何があったのか見る影もないほど煤けていた。話しかけても出てくるのは英単語や年表ばかり。

 

これには私たちもドン引きである。

 

まぁ、総司くんが作るご飯はとてもおいしかったけれど、これは明らかに優ちゃんに精をつけさせようとする狙いが透けて見えて、肝心の優ちゃんは目が死んでいた。

 

その日の夜はタルタロスじゃないのに、若い女の子の猫のような奇声がよく響き渡る夜だった。

 

 

 

5月19日(火)

 

中間テスト2日目、英語のテスト。

 

試験問題が配られ、問題を何気なく上から目を通すと予想通り、あの問題があった。

 

『“グッドラック”の意味にも使われる言葉をチューズしなさい。

ファイヤー、アテンション・プリーズ、キャッチ・ア・コールド、ブレイク・ア・レッグ』

 

私は答えに丸をつけ、問題を最初から解き始めるのだった。

 

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