ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 5月ー⑦

5月25日(月)

 

中間テストの結果は32位だった。過去最高の出来であったけれど、兄さんのスパルタによってだからあまり素直に喜べない。肝心の兄さんは安定の15位。私に勉強を教え、寮での晩ご飯を作ってこの順位なのだから、純粋に自分の勉強だけに集中していれば1位も狙えたのではないかと思う。

 

私はそんなことを考えながら午後の授業を受け、久しぶりの部活に勤しむ。

 

身体をちゃんとほぐして、ストレッチをしている私以外の女子部員の黄色い歓声が上がった。

 

歓声が上がったのは私がいる剣道場の反対側。男子剣道部員が練習している場所を見ると、月中男子剣道部の主将である斎藤くんが試合をしていた。

 

竹刀を正眼に構える斎藤くんと、右手に普通の竹刀を持ち左手に短い竹刀を持つ相手。一見、邪道に見える構えだが中々強い。

 

突きでの攻撃を得意とする斎藤くんの攻撃を避けたり、竹刀で凌いだりしている。

 

体重移動がうまく、不利な体勢になることもない。だから、突きでの攻撃をいなされ体勢を崩してしまった斎藤くんの面に相手の竹刀が直撃し、勝負がついた。

 

斎藤くんはすぐに面を脱ぎ、汗を手拭いでふき取った。その後、面を取って観覧していた後輩に防具を渡している相手へと手を伸ばす。

 

「やっぱり、強いな。どうだ、“兄妹”で全国を狙うっていうのは?」

 

「止めとく。今回は『テストでフラストレーションの溜まった主将の相手はしたくないから頼む』っていう友達の依頼で来たんだよ、肇(はじめ)」

 

その相手は試合を脇で見ていた少年たちを見る。見られた少年たちは頭を掻いたり、横を向いたり、口笛を吹いたりしている。斎藤くんは苦笑いして手を引っ込める。

 

「むぅ。残念だな、ここまでの腕があるのに勿体ない」

 

「なんだったら、優に相手してもらったら?ま、動きを先読みして攻撃してくる優に勝てるとは思わないけれど」

 

「最近、強さに磨きが掛ってきていて、部員はおろか先生も試合から逃げている状況なのだが……」

 

兄さんは私をちらっと見て確認すると手を振ってきた。

 

私が小さく頷いて答えると、兄さんはさっさと残っていた防具を外し後輩へ渡すと剣道場から出て行った。斎藤くんも防具を外して伸びをした後、先ほどとは打って変わって後輩たちの指導を始める。

 

「優ちゃんのお兄さんってすごいよね」

 

「うん、何でも出来るからね」

 

友人から話しかけられ、私は当たり前のように返す。そう何でも出来るのだ、兄さんは。家事だって、勉強だって、スポーツだって。

 

私が出来て、兄さんが出来ないのは、ペルソナ能力を使って戦うことだけ。

 

それだけに一昨日の失態は痛い。

 

まさか、前は通れなかった場所が通れるようになっていて、先に進むことが出来たって巌戸台分寮に帰ってから聞かされた時は思わず地団駄踏んでしまった。そりゃあ、テストの疲れで寝てしまったのは自分自身の責任であるが、結城先輩たちも起こしてくれてもいいのに。桐条先輩へのお仕置きの一環って一体なんなのだろう。

 

私は大きくため息をついて、防具をつける。斎藤くんが言っていたように、ここに私の相手となる相手はいない。だから自分1人でってことになるのだが、今日は退屈せずに済みそうだ。斎藤くんと戦う兄さんの動き、模擬戦するのにはちょうどいい材料があるのだから。

 

 

 

部活を終え寮へ帰る途中のポロニアンモールにて真田先輩と一緒にいる結城先輩を発見した。声をかけるのも変かなと思い、物陰に隠れてスニーキングしていると声を掛けられた。

 

「やっほ、優。お疲れ」

 

「兄さん?こんな所で何を……」

 

あれからすぐに家に帰ったのか兄さんは私服であった。

 

青色のジーパンに黒のジャンパー……ふむ、及第点。けど、

 

「兄さん、自分の衣替えはちゃんとしているの?そのジャンパー、……冬物じゃない?」

 

「え……。あ、いや、ははは。じゃあ、用事あるから」

 

そう言って兄さんはそそくさと広場に出て青ひげファーマシーという店に入っていく。

 

私は頭の中で結城先輩と兄さんを天秤にかけた。元々結城先輩の邪魔をするのも悪いかと思っていたこともあり、私は兄さんの後を追って青ひげファーマシーという店へ入った。

 

兄さんはドッグフードと傷薬をレジに置き、店主と何やら親しげに会話している。何の話をしているのだろうと耳を傾けると餌がどうのとか、大きさがどうのと言っている。

 

私は何かヒントはないかと店内を見渡す。

 

「……って、魚拓?」

 

「そうだよ、優。この店主さんが釣り仲間のおじさんなんだ」

 

「おう、嬢ちゃんが坊主の妹さんかい?こりゃまた別嬪さんじゃねぇか」

 

豪快に笑う店主さんのテンションに苦笑いになる私を見て兄さんは笑いながら言う。

 

「そんな取って食おうっていう訳じゃないんだから、怖がることはないよ」

 

「もう、そんなんじゃないのに。……というかドッグフード?」

 

私は頬を膨らませる。話題を変えようと周囲を見回し、レジに置かれたドッグフードに目を付けた。家では犬は飼っていない。

 

私がドッグフードを見ていることに気付いた兄さんは財布を取り出しながら説明してくる。

 

「師匠が出没するスポットのひとつに『長嶋神社』ってのがあってね。そこに『コロマル』っていう柴犬が棲んでいるんだよ。初めて見た時は何も持っていなかったから、あそこに行く時はこうやってここで買ってから行くようにしているんだ」

 

「その口ぶりからすると、もう何度も通っているの?」

 

「優も一回会ったら、夢中になると思うよ」

 

そう言った兄さんに導かれ、件の長嶋神社にやってきた私の前にコロマルと呼ばれる白い柴犬が鎮座している。モフモフでありながらきちんとケアされた毛並み、くりくりっとした赤い瞳、頭を撫でたら気持ちよさそうな声で鳴いた時には私は思わず抱きしめていた。

 

私の腕の中でコロマルは「……きゅーん」と小さく鳴いた。ああんもう、かわいい。

 

「優、ほどほどにね」

 

兄さんはそう言いながらドッグフードを開け、紙皿に移してコロマルの前に置いた。コロマルはじぃっと兄さんの顔を見ていて、兄さんが笑うと同時に食べ始めた。

 

しっかり躾けられている。

 

「コロマルの飼い主さんって?」

 

「この神社の神主さんだった人。数ヶ月前に事故で亡くなっているんだ」

 

「……そうなんだ」

 

私はドッグフードを食べるコロマルの頭を撫でる。コロマルを引き取ろうとした人が何人かいたけれど、コロマルは元の飼い主さんとの思い出の場所である境内を守っていたり、飼い主さんと散歩した道を毎日歩いたりしていることを兄さんから聞き涙腺が崩壊しかけた。

 

「忠犬って、そういう意味だったんだね。偉いね、コロマル」

 

私はまたコロマルの頭を撫でる。

 

成すがままになっているコロマルには悪いけれど、もうちょっとだけ。

 

「けど、その事故ってちょっと奇妙なんだよね。真夜中に暴漢に襲われたっていう話なんだけど、その暴漢の目撃者が誰もいないんだ。『神主さんが犬と一緒にいると思ったら、血だらけで倒れていた』っていう奇妙な目撃証言があったのにね」

 

「よしよし……え?」

 

私はコロマルの頭を撫でるのに夢中で兄さんの話の意図に気付くのが遅れた。

 

「警察も捜査したらしいけど目ぼしい情報は出てこず、今もその暴漢は捕まっていない。事件は迷宮入り仕掛けているっていう訳だ。もしかしたらコロマルは犯人を知っているのかも知れないけれど、しゃべれないからね」

 

兄さんはそう言ってコロマルの頭を一撫ですると立ち上がった。

 

「さて、もうそろそろいい時間だけど、帰らなくて大丈夫かな?高等科の生徒会長がいることだし、門限には厳しいんじゃないの?」

 

「そんなことはないよ。けど、今日岳羽先輩がご飯作ってくれる日だから機嫌を損ねない内に帰るよ。兄さんも気をつけて帰ってよ」

 

「優には劣るけれど、僕もそれなりの腕はあるから大丈夫だよ」

 

兄さんはそう言いながら神社の方へ上がっていく。私は兄さんの背中とコロマルを見た後、後ろ髪を引かれる気持であったけれど、帰路につく。

 

そして、すぐに兄さんから得た情報を口に出して考える。

 

「……真夜中、姿なき暴漢、立っていた神主さんが一瞬の間に血だらけで倒れていた」

 

影時間の間に起こったことは人に知覚されず、矛盾が生じる。桐条先輩が言っていたことだ。

 

私は気絶してしまっていたので事の顛末は聞いた話だけれど、モノレールの件は一時期噂になった。『真夜中の大暴走』って。

 

巌戸台分寮に帰ったら、ちょっと先輩たちに相談してみようかな。私はそう思いながら、神社の方を振り向いた。

 

主亡き後も境内を守る忠犬のことを思いながら。

 

 

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