ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 5月ー⑧

5月25日(月)

 

一学期中間テストの結果は見事8位で、皆から一目置かれている気がする。

 

そういえば桐条先輩から『良い点数を取れればご褒美がある』という話であったことを思い出し、放課後にでも話しかけてみようと思った。

 

午後の授業でゆかりや友達と点数の見せ合いをしつつ情報を集める。

 

ふむふむ、ゆかりは『ワリと上位』で、順平は『平均より下』のようだ。掲示板で見た限り、桐条先輩は安定の1位で、真田先輩も10位以内だった。順平はテストの答え合わせと解説を聞きもしないで居眠りをしている。私もちょっと眠たかったけれど、しっかりと聞いた。

 

そして放課後、桐条先輩を捜して学校内を歩き回ったが見つからず、代わりに真田先輩に声を掛けられた。でも、女子相手に飯を食いに行くぞってどうなの……。

 

周囲から視線を感じ、その方向を見ると女子生徒が数人私を睨んでいるような気がする。先輩のファンなのだろうか?

 

この視線はちょっと拙いなと察し断ろうと思ったが、真田先輩は私の首根っこを掴んで歩き出した。さすがボクシング部の部長、腕力すごいですねって……引き摺らないで欲しい。結局校舎から出るまで、睨むような視線は続いた。

 

明日、変な噂が立っていないといいけど……。

 

そして、つれて来られたのは巌戸台商店街にある『海牛』という牛肉専門店。真田先輩は私の隣で牛丼大盛りを食べている。私の前にも牛丼並が置かれている。真田先輩の奢りということなので、私も食べることにしたのだが、

 

「シンジから聞いた話なんだが……」

 

丼ぶりを置いた真田先輩がおもむろに話し始め、食べるタイミングを逸してしまう。

 

「鳴上は気をつけた方がいい……らしいぞ」

 

「優ちゃんのことですか?」

 

確かに優ちゃんは病み上がりだ。テスト後のタルタロス探索も結局眠ったままで、起きたのは寮に帰った後だった。どうして起こしてくれなかったのかと、かなり悔しそうにしていたけれど、熟睡していた彼女を起こすことなんて出来なかったし、桐条先輩はどうしたらいいか分からないって顔をしていたので、お仕置きの一環だーって言って誤魔化したけど。

 

「いや、兄の方だ。あいつ、シンジの行きそうな場所を知るために、ゴロツキを数人“狩った”らしい。本当のことかどうかは分からんが」

 

「……あの総司くんがですか?」

 

「俺も眉唾ものだと思うが、シンジが嘘を言うようにも思えなくてな」

 

真田先輩は丼ぶりに残っていた牛丼を食べる。私も視線を前に向けて、箸を取り食べようとした。が、

 

「そういえば、先日の鳴上兄の飯は旨かったな。何故か順平の物より俺の物は野菜が多かった気がするが……」

 

と、真田先輩が再度話しかけてきたのでそちらを向く。

 

彼は総司くんが作った料理というか配膳された内容に不満があるようだが、私は知っている。総司くんが料理にプロテインぶっかけるという邪道を行っている真田先輩を目の敵にしていることを。

 

以前、順平が教えてくれたように丹精込めて作ったものを穢されるのが癪に触ったようで、総司くんは地味な嫌がらせを敢行している。ある意味で真田先輩の自業自得だと思うので黙っているけど。

 

「というか、お店の人が嫌そうにしているので牛丼にプロテインかけるのやめませんか?」

 

「ん、何故だ」

 

心底、不思議そうな表情を浮かべる真田先輩を見て、これは駄目だと諦める私。目の間にはすっかり冷たくなってしまった牛丼が一杯。私は気落ちしながら食べ始めるのだった。

 

寮に帰ると優ちゃんと桐条先輩が何かを話しあっていた。すっかり気が滅入っていた私は台所に直行して、ゆかりが料理する後ろ姿を見ながら一眠りするのであった。

 

 

 

5月26日(火)

 

委員会での仕事を済ませ、寮に帰る途中のポロニアンモールにて、灰色の髪をオールバックにして黒を基調とした喫茶店の制服を着た総司くんを見かけた。

 

着た者のスタイルが一目瞭然となるシュッとした制服を着こなした上に銀色のフレームの伊達眼鏡をかけており、ぱっと見たら絶対に判別が付かなかったと思う。

 

一応私もシャガールでウエイトレスとしてバイトしているけれど、そこの制服とは少し違うデザインなので別の所なのだろうが、総司くんは中学生である。そこらの高校生よりも落ち着いているので、大人っぽく見られるのかもしれないけれど。私は心配になって、彼の後をつける。

 

そしてついたのはポロニアンモールから路地に入って少しした所にある落ち着いた感じの喫茶店。名前は『一期一会』。店内を覗くと初老のマスターがコーヒーを淹れ、その横で総司くんが店内を掃除している。すると総司くんは初老のマスターに何かを言って店内の奥に入って行った。私がどうしようかと迷っていると、

 

「結城先輩、入るなら入る。帰るなら帰ってください」

 

「ひゃぁっ!?」

 

背後から声を掛けられた私はびっくりして飛び上がった。振り向くと総司くんは嫌そうな表情を浮かべている。やはり年齢を偽って……。

 

「ここのマスターに美味しいコーヒーの淹れ方を習う代わりに手伝いをしているんです。バイトじゃありませんよ」

 

私が何を考えていたのか分かっていたように総司くんは説明する。金銭が絡まないので問題にはならないということだろうか。

 

ともかく、私はほっと一息ついたのだが、総司くんの目が物語っている。私はなんでここにいるのかと。

 

「え?……ああ、うん。ワカッテタヨ、ソウシクンガソンナコトスルハズナイッテ」

 

「結城先輩、バレバレです。マスターには僕から言っておきますので、コーヒーを一杯いかがですか?シャガールとは違った感じで美味しいですよ」

 

総司くんはそう言って店のドアを開け、私を誘う。開かれたドアの先に見える趣のあるアンティーク雑貨や小物、それに店内に漂う温かな雰囲気に負け、私はドアをくぐった。

 

そして窓側の席に総司くんと向かい合って座る。

 

一期一会のマスターが淹れたコーヒーは柔らかく酸味があって、静かな香りを楽しむものであって美味しい。シャガールのコーヒーは魅力があがるが、一期一会のコーヒーは寛容さが上がりそうだ。

 

「それで、僕に何か用でもあるんですか?昨日は真田先輩と帰っていたみたいですけれど」

 

「あれ?何で知っているの?」

 

「優がスニーキングしていたんで、何かなと思って覗いた先に先輩たちがいたんです。でも、ポロニアンモールから先は知りませんよ。僕と優は長鳴神社にコロマルに会いに行っていましたので」

 

そう言った総司くんはコーヒーに口をつける。そして眉を顰めて悩みだした。

 

総司くんはマスターを見た後、カウンターに置かれたコーヒー豆を凝視している。しばらくして諦めた総司くんを見て、マスターがとあるコーヒー豆が入った瓶を指差した。それを見て総司くんは「まだまだだな…」と呟く。

 

「やるからには徹底的になんだね、総司くんって」

 

私がそういうと総司くんは不思議そうに首を傾げた。

 

「それは当然ですよ。飲むなら美味しいものがいいじゃないですか。料理だって同じです。美味しい物が食べたいなら、材料にこだわる。作り方にこだわる。調理器具にこだわる。当然じゃないですか」

 

「ははは、それもそうだね」

 

総司くんのプロ根性って、こういうところからきているのだろうか。美味しい物が食べたいなら徹底的にこだわる……か。ふむ、なるほどね。

 

私はコーヒーを最後まで飲み干してしまうと、総司くんを見ながら聞こうと思っていたことを切りだした。

 

「ねぇ、総司くん。君って、私やタルタロス、シャドウのことをどこまで知っているの?」

 

総司くんが持つコーヒーカップが揺れる。そして、総司くんは驚いたような表情を浮かべつつ、私を見ている。

 

「私が気になっていることは2つ。私が巌戸台に来ることを知っていたのかと、どうして危険だと分かっていて優ちゃんを巻き込むように動いたのか」

 

総司くんはコーヒーカップを机に置き、俯いた後、勢いよく顔を上げた。

 

そして、口を開く。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■」

 

総司くんの口から出た言葉はひどいノイズに掻き消され私の耳に届かない。

 

総司くんはその後も何かを私に伝えようと口を開くも何も聞こえてこない。

 

それどころか急に視界が暗くなって…き……て………。

 

 

 

 

 

 

気付くと巌戸台分寮のラウンジのソファの上に寝かされていた。

 

周囲を見渡すと台所で何やら奮闘していた優ちゃんが私に気づいて駆け寄ってくる。

 

「結城先輩、大丈夫ですか?」

 

「優ちゃん、私どうしてここに?」

 

学校で桐条先輩から中間テストのご褒美をもらって、委員会で沙織と会話したところまでは覚えているんだけれど、それ以降のことが思い出せない。

 

「結城先輩、辰巳東交番横の裏路地の奥で寝ちゃっていたんですよ。黒沢巡査から連絡を受けた桐条先輩に頼まれて私が迎えに行ったんです。結城先輩、本当に熟睡していたので私1人じゃどうしようもなくてタクシーで帰って来たんです。……結城先輩、本当に大丈夫ですか?」

 

「うん、よく寝て体調はばっちりだよ。ありがとね、優ちゃん」

 

心配するように私を見ていた優ちゃんがほっと一息つくのを見て、本当に心配をかけたんだなぁと思い反省する。けど、どうして私はそんなところで寝てしまっていたのだろう。

 

「……ベルベットルームに入ったんだっけ?」

 

胸に妙なしこりがあるのを感じながらも私は特に気にすることなく立ち上がった。

 

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