ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。 作:甲斐太郎
どこの学校にも七不思議といった怪談は存在する。
深夜になると増える階段であったり、真夜中に響き渡るピアノの音であったり、走る人体模型など。
私たちが通う月光館学園にもそういった類のものは存在している。それこそ数え切れないくらいに。その数多くあるうちの一つに酷似した怪事件が起これば、瞬く間に校内を駆け巡るのは当然のことかもしれない。
だからとはいえ……
「これは私が図書館に本を借りに行った時の話なんですけれど。壁際の棚に面白そうな小説のコーナーが設けられていたんです。その中でも気になったタイトルの本を手にとって、パラパラ読んでいたら、本を抜き取った隙間から向こう側にいた人と目が合ったんです。私はそこのコーナーで本を3冊、借りて帰ったんですけど、その途中でもう1冊借りておけばよかったって後悔したんですよね」
やれやれと肩をすくめる優ちゃん。周囲の様子を見ると首を傾げている人がちらほらと。その中でも優ちゃんの話した内容の矛盾点に気付かなかった順平が帽子を被りなおして尋ねる。
「優ちゃん、それのどこが怖い訳?」
「順平。壁際のコーナーで、棚の向こう側には何が見えると思う?」
「そりゃあ、壁だな……あ」
「いやぁあああ!!湊も解説しなくていいからー」
絶叫するゆかり。
何気に解説する私。
話のネタになりそうだと頷く順平。
ゆかりの反応を見て眼を輝かせる優ちゃん。
「じゃあ、次はですね。オーソドックスに心霊写真を元に」
「もうそれはいいから!!」
涙目で訴えかけるゆかりを余所に優ちゃんは語り始める。友達と幽霊が出ると噂の墓地に肝試しに行った時のことを。そしてゆかりの眼前に突き出された優ちゃんの携帯電話のディスプレイに移る青白い女性の顔を見て、甲高い悲鳴が寮内に響き渡る。
優ちゃんが持つ携帯電話の画面を見まいと逃げ回るゆかり。それを嬉々として追う優ちゃん。まるで逃げるネズミと追いかけるネコの様。
その光景を見ていた、順平がぼそりと呟く。
「ゆかりっち、優ちゃんにはちょっと厳しく当たっていたからなー。たぶんそれの仕返しだな」
「ゆかりがここまで怪談がダメとはね」
ソファを挟んで対峙する2人を見ながら私も呟く。
というか、なんで私たちは怪談話をすることになったんだっけ?
6月1日(月)
「そう言や、ゆかりっちさ。学生用のネット板とか、見てる?先週、E組の子が校門で倒れてんの見つかったっしょ?あれ、怪談に出てくる“怨霊”の仕業じゃねーかってさ」
ラウンジにて思い思いに過ごしている中、順平が話し始めた。
会話の対象となったゆかりは露骨に嫌そうな表情を浮かべつつ順平に向き直る。それとは対照的に目をキラキラさせながら近づいてくる娘がいるが2人は気付いていない。
「怨霊とか、マジやめてよ……。ウソくさい!」
このやり取りから見てゆかりは怪談話が苦手そうだ。実を言うと私もあまり得意な方ではないけれども、今ここでそういったリアクションを取ってしまうと嫌な予感しかしないので無表情を貫く。
すると、順平たちの会話の内容に引っ掛かったのか桐条先輩が会話に混ざってきた。
「その怪談っていうのは、どんな話だ?」
「ちょっ!?」
ゆかりは桐条先輩が会話に入ってくるとは心底思っていなかったようで、ひどく驚いた表情を見せたがすぐに持ち直す。
「どうせ、作り話に決まっているし……。き、聞かなくてもいいと思いますが!」
だから、ゆかり。そんなあからさまな態度を取るのは拙いよ。
あなた達の後ろで着々とアップしている娘に気付いた方がいいって。私はゆかりを助けるために話題を変えようと声を掛けようとしたのだが、その前に話しに割り込む者がいた。
「興味ある。話してみろ」
真田先輩である。彼の場合、本当に気になっているのか甚だ疑問だが、そういった流れになってしまっては仕方がない。
覚悟を決めるとしよう。
なにせ、準備万端な優ちゃんがチャンスは今か今かと待ち構えているのだから。
先輩達に促される形で身を乗り出した順平による怪談話。
準備周到で懐中電灯の光を顔の下から当てて演出しているが、あまり怖くはない。
訂正しよう。私は順平の後ろでにんまりと笑っている優ちゃんの方が怖い。皆は気付いていないようだが。
ちなみに順平の話を要約すると、『死んだ生徒』に、『校門前で倒れていた女子生徒』が、『食われていた』。しかも、話のオチは順平の推測という何にもならない話でゆかりが憤慨するのも分かる。
だが、先輩たちは違ったようで桐条先輩と真田先輩は2人で確認するように話しあっている。順平は自分の熱演がスル―されて、ちょっとショックを受けているようで両手で顔を覆って……
「って、順平!懐中電灯は?」
「今までしゃべんなかった湊っち、オレっちの熱演どうだった?結構イケてたっしょ」
「懐中電灯なら、さっき順平がテーブルの上に置いt」
ふっとラウンジの電灯が消え、ラウンジは暗黒の世界となる。窓から外の光が入るものの薄暗い。
突然の事態にラウンジにいたメンバーの顔が強張ったが、テレビ付近で懐中電灯の光が灯る。自然と皆の視線がそこに集中する。そこにいたのは……
「どうもこんばんは。鳴上優アワーのお時間です♪」
順平が怪談話をゆかりに持ちかけた時から着々と準備を進めていた優ちゃんの姿があった。
その後、怪談話を話し終えた優ちゃんは満足したのか、懐中電灯を順平に返しソファに座ってまったりとしている。対してゆかりは息も絶え絶えに肩を激しく動かしている。
そんな姿を見た順平が一言余計なことを言ってしまう。
「結局のところ、ゆかりっちさ。お化けがニガテとはちょい情けないよな」
「な!?情けないって言った!?」
確かに優ちゃんの怪談話や心霊写真から逃げ回っていたので、そのような印象を持たれても仕方がないこととは思うが、言い方っていうのもあると思う。
からかわれていると認識したゆかりは順平に食ってかかるが、そこを桐条先輩たちに利用され、あれよあれよという内にその噂の元凶を調べることになってしまった。
勿論、私や順平も協力はするけれど。
優ちゃん、君はしなくていいから。そんな「ネタを仕入れて来なきゃ」なんて物騒なことは言わないでお願い。
6月5日(金)
「それじゃ、報告会を始めます」
優ちゃんと一緒に中等科からそのまま巌戸台分寮に来た総司くんが作った晩ご飯を食べた後、私たちはゆかりにラウンジに集められた。ちなみに集められたメンバーは3年生の2人を覗く私、順平、ゆかり、優ちゃん、総司くんの5人だ。
総司くんはオブサーバーとして参加だが、何故だろう。
ここにいる誰よりも情報を持っていそうな気がする。その総司くんは優ちゃんに何の報告会なのかを尋ねている。
「例の怪談騒ぎなんだけど、やっぱりあれは怨霊の仕業なんかじゃないよ」
「あ、そこ重要なんだ」
「そもそもこんな騒ぎになったのは似たような事件が3回も続いて起きたからなんだけど……被害者の3人はクラスも違えば部活も違う。でも1つだけ共通点があったのよね。なんだがわかる?」
順平のツッコミを華麗にスル―するゆかりは私たちに問いかける。
「うん。3人ともよく出家していた」
「結城先輩、“家出”ですよ。ちなみに出家は何度もできません」
私が適当にボケた答えはあろうことか総司くんにツッコまれた。ゆかりは頭が痛いと言いたそうな表情を浮かべているが、総司くんを見てその表情が心なしか安らいでいる。
「総司くんの言うとおり、3人ともよく家出まがいのことをしていたの。不良の溜まり場みたいなところで路上オールとかしてたみたい」
「はあ、家出ねぇ……。でもそれがなんで学校前で倒れることになるんだ?さすがに酔いつぶれたって訳じゃないだろ」
興味なさそうな顔で疑問点を告げる順平だったが、
「岳羽先輩、話しの途中で恐縮なんですけれど、倒れていた3人の人たちを街中で見たことがあるんですけれど、その人たちは“4人組のグループ”で“1人の女の人”を“いじめ”ていたんですけど、これは何か関係ないですか?」
総司くんの以外な一言でその場は硬直した。ゆかりは何かを考え込むように俯いた後、私たちに向かって目配せをしてくる。
「……湊、順平。今、総司くんが言ったこと関係の情報は何かない?」
「えっと、確かE組の子が『クラスの子が1人、病欠で休み始めて一週間になるね』って言っていたような」
「E組って、真田さんが調べていたアレか!」
確かに真田先輩が検査入院の際にE組の名簿を持ってくるように言っていた。そして、真田先輩はそれを元に何かを調べていた。その何かが分かれば……。
「ゆかり、真田先輩を呼ぼう」
「……そうだね。順平、呼んできて」
「ええっ!?なんでオレっちが……」
順平はそうぼやきながらも階段を上がっていく。さて、問題は総司くんである。たぶん、ここから先はペルソナや影時間、タルタロスのことが関係してくるはず。
「……タルタロス」
「ん、湊?」
ゆかりが顔を覗き込んでくるが、私の頭の中は得た情報を整理するので手いっぱいで構えない。
まず、4人組のグループがいじめをしていた人が、真田先輩が調べていた影時間に適正を持つ人物と仮定する。
そして4人組のグループの内の3人が学校前で倒れていた。よく家出まがいのことをして路上オールをしていた彼女らが、何故学校に来ていたのか。それは、いじめの対象者を学校のどこかに閉じ込めていたから。様子を見に行ったのではないか。
いじめの対象者は影時間に適正を持っているが、いじめをしていた彼女らは一般人。今も意識不明なのはシャドウに襲われ、無気力症になっているからではないか。
「どうしよう、ゆかり。これって、かなり拙い状況かもしれない」
「え、何が?」
「私の考えだけど、恐らくいじめられていた女の子、今もタルタロスに囚われているんだよ」
「あの……タルタロスって、ゲームの話じゃないんですか?」
「「あ」」
不思議そうな表情で私たちを見る総司くん。
やばい、彼がここにいることをすっかり忘れていた。
「いじめられていた人が囚われているって、それじゃあ本当にタルタロスってダンジョンが現実に存在しているって言っていr「兄さん、ごめん」え?」
空気を斬るような鋭利な角度で振るわれた手刀は総司くんの首筋に綺麗に決まり、彼はそのままソファに倒れ込んだ。下手人は青くなっているが、ここは褒めなければならない。
「ありがとう、優ちゃん。ゆかり、総司くんは2階の奥の部屋に運ぼう。って、丁度いいところに」
「順平、真田先輩。総司くんを運ぶので手伝ってください!」
「一体何が起こっているんだ?」
真田先輩は目を白黒させながらも私たちの提案を聞き入れ、総司くんを抱える。
「こいつ結構身体を鍛えているな。俺ひとりじゃ階段を上がれん、順平手伝え」
「了解っす」
私たちは3人を見送り、桐条先輩にも連絡を入れる。私の考えが間違っているなら、それで構わない。だけど、もしも考えが当たっている場合、時間を悠長に掛けている場合であはない。
順平と優ちゃんの怪談話から始まった事件は佳境を迎えていた。