ペルソナ!って言いたいけど、資質ゼロなんです。   作:甲斐太郎

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P3Pin女番長 エンプレス&エンペラー戦―①

6月8日(月)

 

教室で授業の準備をしていると桐条先輩からメールが届いた。

 

差出人が桐条先輩であったため見間違いかと思って二度見してしまったけれど、内容は『放課後に兄さんを寮に連れてきて欲しい』ということだった。

 

結城先輩たちの話では山岸さんという女子生徒のことを担任に聞きに行くという話であったけれど、どうしてそこで兄さんが必要になるのかが分からない。一応、『分かりました』と返事はしたけれど私は授業が始まるまで首を傾げるのだった。

 

授業が終わった後の休み時間に私が兄さんのクラスに行ったのだが、肝心の兄さんは見当たらなかった。どこに行ったのかをクラスにいた女子に聞こうとすると教室の後ろ側で歓声が上がった。そこに男子たちが集まって何かをしている。

 

様子を眺めていると称賛する声と慰める声の2つが聞こえてきた。称賛されている人は男子たちが壁になって見えないけれど、男子の数人が肩をがっくりと落としてその集団から抜け出して項垂れている。

 

「ねぇ、彼らは何をしているの?」

 

私は近くにいた女子に声を掛けると、その子は肩をすくめながら答えてくれた。

 

「ただのカードゲームよ。あんなのにお金をかけるなんて、男子ってほんと子供よね」

 

「ふーん」

 

しばらくすると男子たちは解散して、それぞれのクラスや席に帰っていく。

 

まぁ、予想通りというか、予定調和というか、私の目的であった兄さんはその集団の中心にいたようで、ホクホクとした感じでカードデッキを鞄になおしている。

 

私は休み時間の終わりが近付いていることもあるので、急いで近寄り、桐条先輩から来たメールのことを伝える。

 

「今日の放課後に寮に来てって、なんで?」

 

兄さんは心底分からないようで困った表情を浮かべている。

 

兄さんにしては珍しいこともあるものだなと思いつつ、用件は伝えたからと告げ私は駆け足で自分のクラスに戻る。次の授業に遅れると先生に当てられる可能性が高くなるからだ。

 

廊下を走って戻っていたので生徒会の人に注意されたが見逃してもらい、授業に遅れるようなことにはならなかった。

 

 

 

放課後、巌戸台分寮に兄さんを連れて帰ると桐条先輩に迎えられた。

 

そして、兄さんの前で桐条先輩は手を合わせ、懇願する。

 

「鳴上、今日の晩ご飯を作ってくれ!」

 

「はい?」

 

兄さんは目を丸くしその場で立ち止まり、私は状況が飲み込めずラウンジにて様子を見ている先輩たちの所へ行く。

 

「どういうことですか?」

 

「今晩、山岸風花の救出作戦を決行することになったのだが、結城が嫌な予感がするから準備は万端にした方がいいという意見を出してな」

 

「オレっちたちがタルタロスに挑む上で準備万端にするには、道具や武器だけじゃなく、パラメーター上昇効果のある総司の料理は欠かせない訳よ」

 

真田先輩と伊織先輩が言って説明してくれるが、結城先輩の嫌な予感ってなんだろうか。そう思いながら結城先輩に視線を向けると

 

「うん。もしかしたら何だけれど、大型シャドウが現れるかもしれないと思うんだ。4月の時も、5月のモノレールの時も、奴らが来たのは満月の日だったし」

 

今日もだしねと窓の外を眺める結城先輩につられ、私も窓に目を向ける。淡い光を放ちながら上へと昇って行く途中の満月が見える。

 

「もしものことがあった時に後悔したくないからね。それで桐条先輩に頼んだんだけど、山岸さんのこともあってか“肝心の理由を書かずにメールをしてしまった”ってテンパっちゃってさ」

 

「私、ここ最近の桐条先輩の行動を見てて、完全無敵の優等生なイメージがガラガラと崩れてきているんだけど」

 

岳羽先輩はこめかみを指で押さえながら呟く。

 

「確かに。優ちゃんを膝枕した時に焦って艶っぽい声を上げたり、用件を書かずにメールをしてしまって訂正のメールを打てなかったりとかね。今もああやって、総司くんに一生懸命頼み込んでいるけど、肝心の総司くんはうまく状況を呑みこめていないものね」

 

「そろそろ助け舟を出してやらないか?」

 

そう言った真田先輩の合わせる様にして結城先輩が玄関で話をしている2人に近づいて、状況説明を行う。つまり、兄さんには特別課外活動部全員分の晩ご飯を作り、とある事件に関与し憔悴している女子生徒の相手をこの寮でしてもらいたいとのこと。

 

引き合わされたのはガングロの女子生徒。見るからに不良っぽいがもしかすると。

 

「山岸をいじめていた4人組の1人だ。自分以外の3人が校門前で倒れていたのを見て、かなり怯えている」

 

キリッとした表情で私に説明をする桐条先輩だが、兄さんに説明するのにテンパって空回りしていた姿が脳裏をよぎり、私は小さく噴出してしまう。すると、桐条先輩は唇を一文字にして唸り、しょんぼりと肩を落とした。岳羽先輩の言うとおり、桐条先輩は意外と可愛いのかもしれない。

 

「私は完全無敵の生徒会長な桐条先輩よりも、今のようにドジをして落ち込んだり、空回りしてテンパったりするような人間性のある桐条先輩の方が好きですよ」

 

「む、……そうか?……いや、待て。褒められた気がしないのは何故だ」

 

「何故でしょうね」

 

私はにっこりと桐条先輩にほほ笑んだ。その桐条先輩は片手で額を押さえ、何かを考える様にああでもない、こうでもないと混乱しているかのようにラウンジを歩き回るのだった。

 

 

 

■■■

 

優ちゃんと桐条先輩が良い雰囲気になっている。

 

優ちゃんは特別課外活動部のメンバーで唯一の中学生で歳が離れているのもあって、私以外のメンバーとはあまり仲が良いとは言い切れない。

 

私の場合は“塔コミュ”が4になっているから相談相手にもなっているし、リーダーだから。

 

こうやって、メンバー同士の関係も築いていけるようにフォローするのも必要なことだと思う。現在のメンバーで一番厄介な関係は、ずばり『ゆかりと桐条先輩』だと思う。

 

『私と順平』の関係も先月の大型シャドウ戦で、優ちゃんが怪我して倒れていなかったら、“リーダーに選ばれペルソナを幾つも使い分けることが出来る私”を順平が目の敵にしていたかもしれないけれど、今の私たちは背中を預けられる仲間のような関係になっている。正に優ちゃん様々だ。怪我をしてくれてよかったという訳にはいかないけれどね。

 

「桐条先輩も目的が料理なら言ってくれればいいのに、冷蔵庫の在庫を考えると野菜炒めくらいしか作れないじゃないか。マンションに取りに行く時間はないし……かといってこれじゃあ手を抜いているようなものだし……」

 

私の横で冷蔵庫の中身を見て項垂れている総司くん。せめて調味料があればと頭を掻いているが、私たちは別に気にしないのだけれど。

 

「仕方ない。非常事態ということで、納得しよう。優、君の部屋に置いてあるキングフロスト人形を持ってきて」

 

「「え?」」

 

ラウンジ内を歩き回る桐条先輩のあとをカルガモの雛のようについて回っていた優ちゃんと私の声が重なった。

 

そして、台所の机の上に置かれたキングフロスト人形と、ハサミを持って対峙する総司くん。

 

何事かと目を丸くする私たちの前で、総司くんはキングフロスト人形の背中側を切り開いた。

 

綿と一緒に出てきたのは真空パックに入れられたお米のようなもの。

 

「使うつもりはなかったけれど、他の材料が乏しい今、これを。『究極黄金米』を使う他に方法はない!」

 

総司くんは両手で高々と持ち上げる。

 

私たちが呆然としていると、桐条先輩が蹈鞴踏みながら後ずさった。何事かと私たちが振り向くとわなわなと震える桐条先輩が声を荒げながら言う。

 

「『究極黄金米』……数年前に一度だけ流通した幻の特A級受賞品種。5kg5000円で売られ、富裕層の人間に『米というものはここまで美味しくなるのか』と衝撃を与えて姿を消した幻の米、それを何故君が持っている!いやそれだけじゃない、以前ここで出された果実もだ。あれは市場にも数十年に1個という割合でしか流通しない幻の品種『宝石メロン』だった。君はいったい何者なんだ!!」

 

背景に雷を降らしていそうなほどの声量で告げる桐条先輩には悪いが、肝心の総司くんは説明を無視して、その凄い米を炊き始めている。

 

「話を聞けー」と大声を上げる桐条先輩を真田先輩がなだめる。

 

「兄さんが家庭菜園で色々作っているのは知っていたけれど、あれって凄いんだ」

 

「今もマンションの屋上で作っているんでしょ?」

 

「その通りです、岳羽先輩。最近は養蜂の真似ごとも始めたようで」

 

「総司くんは将来、牧場主にでもなるつもりなの?」

 

野菜作って、米を作って、養蜂もする。確かに数年後にはもの凄い牧場を経営している姿が思い浮かぶよ。私は晩ご飯を作る総司くんの背中を眺めながら、そう思った。

 

 

 

本日のメニュー

・究極黄金米

・旬野菜の炒め物

・手作り野菜スムージー

 

【メンバー全員の防御力が上昇した】ようだ。

 

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